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予防的全脳照射(PCI)
文献検索と採択
予防的全脳照射(PCI)
本文中に用いた略語および用語の解説
CR complete remission 完全寛解
ED extensive disease 進展型
LD limited disease 限局型
3-1.予防的全脳照射(PCI)
推 奨
a.LDで,初期治療でCRが得られた症例では,PCIを標準治療として行うよう勧められる。(グレードA)
b.EDでは,化学療法後のPCIは行わないよう勧められる。(グレードD)
c.良好な初期効果が確認され次第,できるだけ早期(治療開始6ヵ月以内)にPCIを行うよう勧められる。(グレードB)
d.PCIの線量分割法は25Gy/10回相当を用いることが勧められる。(グレードB)
エビデンス
  • a.Auperinら1)は1977年から1995年までの7つの臨床試験登録例のうちCR症例987例のメタアナリシスを行い,予防的全脳照射(PCI)はCR例(CRの判定には胸部単純X線撮影によるものも含まれていた)に限れば3年脳転移再発率を58.6%から33.3%へと有意に低下させ,3年生存率を15.3%から20.7%へと有意に向上させることを報告した。この試験の大多数をLD例が占めており,LD例では小細胞癌の初期治療でCRが得られた症例には,PCIを行うことが標準治療として推奨される。
     Arriagadaら2)はPCIの脳に対する毒性の評価を加えたランダム化比較試験を行い,PCIによる精神症状や脳萎縮の発現などの有意な増強は認められなかったと報告し,Gregorら3)もランダム化比較試験により,PCIによる明らかな脳への毒性の増強は認められなかったと報告している。いずれの試験においてもPCIの開始前にすでに40〜60%の症例で精神神経症状が認められている。原因として喫煙,paraneoplastic syndromeあるいは化学療法の影響などを挙げ,PCIによる毒性の増強に否定的な見解が示されているが,観察期間も1〜2年と短く,長期生存例における晩期の神経毒性については明らかとなっていない。
  • b.Slotmanら4)はEDで初期治療に反応したもの(PR症例が87%)に対するランダム化比較試験を行い,PCIにより生存期間中央値が約1カ月延長すること(6.7カ月 vs 5.4カ月,P=0.003)を報告しているが,登録前に脳転移の有無が画像診断により確認されていたものが29%にとどまっているなど,試験デザインの問題が指摘されていた。
     2014年に,本邦で行われた第Ⅲ相試験の結果が報告された。プラチナ併用初回化学療法後に奏効した脳転移のないEDに対するPCI施行群とPCI未施行群との比較試験である5)。12カ月時点で脳転移の出現頻度は,PCI施行により有意に減少したが(32.4% vs 58.0%),主要評価項目であるOSは中間解析の結果,10.1カ月と15.1カ月(P=0.091)であり,早期無効中止となった。今回の試験結果を踏まえ,本邦においては,EDにPCIを追加する意義はなく,推奨グレードをDとした。
  • c.PCIの施行時期を比較した臨床試験の報告はないが,化学放射線療法終了後に良好な初期効果が確認され次第,早期に施行したほうが脳転移再発率が低い傾向があると報告されている1)。厳密な比較試験はないもののAuperinら1)のメタアナリシスでは,6カ月以上経ってからのPCIは有意に脳転移を抑制しないことが示されており,良好な治療効果が確認され次第,できるだけ早期(治療開始から6カ月以内)に行うことが勧められる。
  • d.PCIの線量についてはこれまで24〜36Gy/8〜18回が用いられ,線量が多いほど効果が高い傾向が示唆されていたが5)6),Le Péchouxら7)は25Gy/10回と36Gy/18回あるいは36Gy/24回(1日2回)のランダム化比較試験を行い,主要評価項目である2年での脳転移の発生率に有意差を認めないだけでなく,高線量群の2年生存率が標準線量群の生存率よりも悪いことを報告した〔HR 1.20(95%CI : 1.00-1.44),P=0.05〕。また,3年以上の経過観察の結果では,遅発性有害反応の出現が線量によって差がないとの報告8)がある一方で,他の評価法では,認知機能障害が高線量群に多いとの報告9)もある。軽度の会話能力の低下や下肢の筋力低下,知的障害や記銘力の低下は両群ともに報告されている8)。以上の結果よりPCIの線量分割法は25Gy/10回相当を用いることが勧められる。また,1回線量については,遅発性有害反応軽減のため,1回2.5Gyを超えないことが望ましい9)
レジメン:予防的全脳照射(PCI)
25Gy/10回(2週),30Gy/15回(3週)
引用文献
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