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癌性胸膜炎・癌性心膜炎・副腎転移
文献検索と採択

(癌性胸膜炎)

癌性胸膜炎
本文中に用いた略語および用語の解説
BLM ブレオマイシン
CDDP シスプラチン
DOXY ドキシサイクリン
ETP エトポシド
MINO ミノサイクリン
OK-432 ピシバニール
Talc タルク
TC テトラサイクリン
樹形図
癌性胸膜炎・悪性胸水
2-1.癌性胸膜炎の治療
推 奨
a.胸水貯留を認め,症状を伴う癌性胸膜炎に対しては胸腔持続ドレナージを行うよう勧められる。(グレードA)
b.胸腔ドレナージ後に胸膜癒着術を行うよう勧められる。(グレードA)
エビデンス
  • a. 癌性胸膜炎による胸水貯留に対して,経過観察群と胸水ドレナージ群,胸腔穿刺間欠的ドレナージと胸腔持続ドレナージを比較した試験は存在しないが,症状を有する癌性胸膜炎には一般的に胸腔持続ドレナージが行われるため,推奨グレードをAとした。
  • b. 胸水ドレナージ後の胸膜癒着術と胸水ドレナージ単独を比較する試験が報告され,胸膜癒着術施行群(使用薬剤:Talc1),TC2))のほうが胸水コントロールが優れていた3)
     胸膜癒着術の使用薬剤としては抗菌薬(TC,DOXY,MINOなど),抗癌剤(BLM,CDDPなど),鉱物(Talc)および溶連菌製剤(OK-432)などを比較した臨床試験が報告されている。各薬剤の比較では抗菌薬(TC)よりも抗癌剤(BLM)のほうが優れていた3)4)。また,比較試験においてBLMよりTalcのほうが胸水コントロールは良好であると報告されている3)5)
     Talc噴霧法とTalc懸濁法を比較した第Ⅲ相試験では,両投与法の間に胸膜癒着効果の有意な差はみられなかった(懸濁法71% vs 噴霧法78%)6)。副作用として急性呼吸促迫症候群が挙げられるが,粒子径の大きいもの(平均24.5μm)では低頻度であった7)。Talc懸濁法による呼吸困難緩和効果は,カテーテル挿入によるドレナージと同等である8)
     本邦ではBLM,OK-432,CDDP+ETP(PE)胸腔内投与のランダム化第Ⅱ相試験が行われ,4週間後の胸水コントロール率は,BLM(68.6%),OK-432(75.8%)およびPE(70.6%)で,3群間に有意差は認めなかったものの,OK-432が最も胸水コントロール率が高かった9)。本邦でもこれまでのOK-432に加えて,2013年9月にTalcが承認され,使用可能となった。
     以上の結果より,胸水ドレナージ後に胸膜癒着術を行うことの推奨グレードをAとした。その際の使用薬剤に関しては,OK-432,Talcが使用可能である。
引用文献
文献検索と採択

(癌性心膜炎)

癌性心膜炎
本文中に用いた略語および用語の解説
BLM ブレオマイシン
CBDCA カルボプラチン
MMC マイトマイシンC
樹形図
癌性心膜炎・心嚢液貯留
2-2.癌性心膜炎・心嚢液貯留
推 奨
a.心嚢液貯留を認め,症状を伴う癌性心膜炎に対しては心嚢ドレナージを行うよう勧められる。(グレードA)
b.心嚢ドレナージ後には心膜癒着術が考慮されるが,行うよう勧められる明確な根拠はない。(グレードB)
エビデンス
  • a.癌性心膜炎に対する臨床試験として,症状を有する癌性心膜炎に対して心嚢ドレナージを行うか否かについての比較試験はないが,心タンポナーデはoncologic emergencyであり,心嚢ドレナージを行うことが勧められる。
     心嚢ドレナージの方法を検討する比較試験が行われたが,外科的処置(開窓術)もしくは非外科的処置(経皮的ドレナージ,心嚢穿刺のみ)を行うべきかの明確なエビデンスは存在しない1)
  • b.心嚢ドレナージ後に心膜癒着術を行う意義について検討した臨床試験では,BLMを使用した比較試験(JCOG9811)が存在する。心膜癒着術の有用性は症例数の問題から有意さは認めなかったと結論されたが,BLMを用いて心膜癒着術を施行することにより癌性心膜炎発症後の生存期間の延長効果(ドレナージ単独群 30日,BLM使用群57日)が示唆された2)ため,推奨グレードをBとした。
     心膜癒着術に使用する薬剤としては各種薬剤について検討されている。癌性心膜炎発症後の生存期間はBLM(125.3日),MMC(80日),CBDCA(69日)と報告されている3)〜5)
文献検索と採択

(副腎転移)

副腎転移
2-3.特殊な局所的治療
推 奨
a.肺癌の副腎単発転移に対する外科的治療および放射線治療は行うように勧めるだけのエビデンスは明確でない。(グレードC2)
b.肺癌の副腎単発転移に対しても臨床病期Ⅳb期としての治療を行うよう勧められる。(グレードA)
エビデンス
  • a.副腎転移に対する外科的切除の検討として,非小細胞肺癌を含む固形癌の30症例を対象とした報告があり,副腎単発症例において,外科的切除により予後良好な傾向がみられた。ただし,この検討においては結腸・直腸癌および腎細胞癌においては予後良好な傾向がみられたが,非小細胞肺癌および悪性黒色腫は予後不良とされた1)
     肺癌の副腎単発転移に対しては外科的治療(摘出術)および放射線治療(定位照射)を行うことにより,長期生存が得られたとの報告は散見されるが1)〜3),計画された比較試験は存在せず,行うように勧められるだけの十分なエビデンスは存在しないため,推奨グレードはC2とした。
  • b.副腎転移が単発であっても,臨床病期Ⅳb期の進行肺癌であるため,切除などが行われた場合でも進行期肺癌として治療されるべきなので,推奨グレードはAとした。
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