3

Ⅰ.肺癌の診断

病理・細胞診断

樹形図

全体 細胞診断 組織診断 外科治療時の検体の取り扱い

3-1.細胞診断

樹形図

細胞診断
  • 細胞診断には,喀痰細胞診,擦過細胞診,洗浄細胞診,胸水細胞診,穿刺吸引細胞診,およびセルブロックが含まれる。
  • 擦過細胞診,洗浄細胞診,胸水細胞診,穿刺吸引細胞診,セルブロックの診断結果は確定診断となり得る。
  • 細胞診断で用いたアルコール固定標本では,免疫組織化学染色や遺伝子診断を行うことが可能である。ただし,保存状態や保存期間,細胞量によっては染色されない場合や遺伝子の検出ができない場合もある。セルブロックの検体から免疫染色ができるが,健康保険上は組織診ではなく細胞診扱いとなることがある。
  • 細胞診検体は,腫瘍のごく一部しか採取されていないので,腫瘍の全体像を反映していないことも多い。したがって,診断に疑問がある場合はカンファレンスなどで臨床医と病理医は話し合いをもつことが望ましい。細胞診断に際しては,臨床データや画像データ,組織所見なども,考慮することが必要なこともある。
  • 細胞診検体では,目的の組織が必ずしも採取されているとは限らない。
    “No evidence of malignancy”の診断が必ずしも腫瘍性疾患を否定するものではなく,目的の組織が採取されていない可能性がある。
  • 遺伝子変異検査(EGFR,KRAS,ALKなど)を行う場合は,細胞診検体に腫瘍細胞が十分含まれていることを確認する。方法については,
    EGFR変異検査(http://www.haigan.gr.jp/uploads/photos/148.pdf)の解説およびALK遺伝子検査
    http://www.haigan.gr.jp/uploads/photos/148.pdf
    http://www.haigan.gr.jp/uploads/photos/641.pdf)の手引きを参照する。

3-2.組織診断

樹形図

組織診断 腫瘍様病変 非上皮性成分を含む病変 上皮性腫瘍:良性 転移性肺腫瘍 原発性肺癌
  • 組織診断には,気管支鏡下生検,経皮穿刺生検,EBUSを含む気管支鏡下穿刺生検,外科治療による切除検体が含まれる。
  • 組織診断で用いたホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)標本では,免疫組織化学染色や遺伝子診断を行うことも可能である。
  • 生検組織は,腫瘍のごく一部しか採取されていないので,腫瘍の全体像を反映していないことも多い。したがって,診断に疑問がある場合はカンファレンスなどで臨床医と病理医は話し合いをもつことが望ましい。臨床データや画像データ,細胞診所見なども組織診断に加味することが必要なこともある。
  • 生検組織では,目的の病変に到達していない可能性もあるので,“No evidence of malignancy”の病理診断が必ずしも腫瘍性疾患を否定するものではなく,目的の組織が採取されていない可能性がある。
  • 遺伝子変異検査(EGFR,KRAS,ALKなど)を行う場合は病理検査標本内に十分に腫瘍細胞が含まれていることを確認する。方法については,
    EGFR変異検査(http://www.haigan.gr.jp/uploads/photos/148.pdf)の解説およびALK遺伝子検査
    http://www.haigan.gr.jp/uploads/photos/148.pdf
    http://www.haigan.gr.jp/uploads/photos/641.pdf)の手引きの参照を勧める。

3-3.外科治療時の検体の取り扱い

1.肺葉切除以上

  • 迅速検体,手術検体とも必ず伸展固定(コンパウンド,PBSなど),またはホルマリン注入固定処理を術後速やかに行って標本作製することが,強く勧められる。
  • 腫瘍摘出後に割を入れた場合は正しいstagingが困難になる場合があるので,十分な配慮が望まれる。ただし迅速診断・新鮮検体採取・画像との対比などの目的で,切除材料に固定前に割を入れる必要がある場合は,固定後の検体で行われる胸膜浸潤の程度の判定・癌の浸潤性/非浸潤性の判定・大きさの評価が不可能とならないよう,十分に注意して実施する必要がある。一般に大きな腫瘍の場合は,胸膜付近・最大割面を避けて割を入れ,小さな病変の場合,その部分で最終病理診断を行うことを前提に最大割面に割を入れ,迅速診断用などの検体を採取するのがよい。
  • 切除検体で遺伝子検査をする可能性を念頭に入れ,過固定を避けるため,12時間から48時間のホルマリン固定後,切り出すことが望ましい。

2.部分切除,区域切除

「1.肺葉切除以上」の項目に加えて,以下の項目を追加する。

  • 部分切除検体や区域切除検体では,断端評価のために迅速擦過細胞診を行って,腫瘍細胞の有無を確認する方法もある。

3-4.鑑別すべき疾患

1.腫瘍様病変

  • テューモレット
  • 微小髄膜細胞様結節
  • 炎症性偽腫瘍*
  • 限局性基質化肺炎
  • アミロイド症(アミロイド小結節)
  • 硝子化肉芽腫
  • リンパ脈管平滑筋腫症
  • 多巣性小結節性肺胞上皮過形成
  • 感染症(抗酸菌症,真菌症,寄生虫症)
  • 子宮内膜症
  • 気管支炎症性ポリープ
  • 肺分画症
  • 肺動静脈瘻
  • 外傷
  • その他

2.非上皮性成分を含む病変

リンパ組織増殖性疾患

  • リンパ組織性間質性肺炎
  • 濾胞性細気管支炎
  • 結節性リンパ組織過形成
  • 節外性濾胞辺縁帯粘膜関連リンパ組織型リンパ腫(MALTリンパ腫)
  • びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
  • リンパ腫様肉芽腫症
  • 血管内大細胞型B細胞リンパ腫
  • 肺ランゲルハンス細胞組織球症
  • エルドハイム・チェスター病
  • IgG4関連疾患

間葉系腫瘍(上皮性非上皮性混合型腫瘍を含む)

  • 肺過誤腫
  • 孤在性性線維性腫瘍
  • 軟骨腫
  • 血管周囲類上皮細胞腫瘍
  • リンパ脈管平滑筋腫症
  • 良性血管周囲類上皮細胞腫
  • 淡明細胞腫
  • 顆粒細胞腫
  • 悪性血管周囲類上皮細胞腫
  • びまん性肺リンパ管腫症
  • 炎症性筋線維芽細胞腫
  • 類上皮性血管内皮腫
  • 線維形成性円形細胞腫瘍
  • 胸膜肺芽腫
  • 胸膜石灰化線維性腫瘍(胸膜石灰化線維性偽腫瘍)
  • 先天性気管支周囲筋線維芽細胞腫
  • 滑膜肉腫
  • 肺動脈内膜肉腫
  • EWSR1-CREB1転座肺粘液腫様肉腫
  • 筋上皮性腫瘍
    • 筋上皮腫
    • 筋上皮癌
  • 多形腺腫

異所性起源の腫瘍

  • 胚細胞腫瘍
  • 成熟奇形腫
  • 未熟奇形腫
  • 肺内胸腺腫
  • 悪性黒色腫
  • 髄膜腫NOS

炎症性偽腫瘍と炎症性筋線維芽細胞腫の鑑別は完全には確立していないが,現在は,ALK遺伝子再構成がないか,ALKの免疫染色で陰性であり,腫瘍性でないと推定される場合に炎症性偽腫瘍と,再構成があるかALK免染陽性の場合に炎症性筋線維芽腫と,それぞれ診断がなされる傾向がある。

3.上皮性腫瘍:良性

  • 扁平上皮乳頭腫(外向性,内反性)
  • 腺上皮乳頭腫
  • 扁平上皮腺上皮混合型乳頭腫
  • 硬化性肺胞上皮腫
  • 肺胞腺腫
  • 乳頭腺腫
  • 粘液腺腺腫
  • 粘液囊胞腺腫

4.転移性肺腫瘍

  • 転移性腫瘍と原発性肺癌の鑑別を要する場合には,臨床所見,形態学的・免疫組織化学的・分子生物学的な所見をもとに,総合的に考えることが必要である。
  • 既往歴の確認:浸潤癌の既往があり,かつその転移が否定できない場合は,原発巣と考えられる既往の組織標本との比較検討が望ましい。
  • 多発性である場合には,臨床所見の確認,画像(PET,CTなど)での原発巣の検索が必要である。また,原発性肺癌であっても,(1)肺内転移の場合,(2)重複癌の場合も考えられる。
  • 免疫組織化学染色が,鑑別に有用である(表1)。
  • 肺腺癌の肺内転移か多発肺癌かを鑑別するのに,EGFR変異やALK転座などの遺伝子変異,p53変異などの遺伝子検索が有用な場合があるが,組織所見,細胞形態,病期なども加味し,総合的に判断する必要がある。
  • 転移性肺腫瘍の特徴として,(1)多発のことも少なくない,(2)腫瘍の周囲に肺胞置換性増殖(lepidic growth)をすることが少ない,(3)CTでは充実性陰影を呈し,境界明瞭,壊死を伴うことが多い,などが挙げられる。
表1.免疫染色および遺伝子検査による判断
肺腺癌 大腸癌 乳癌 甲状腺癌 腎癌
CK7
CK20
TTF-1
Napsin A
CDX2
GCDFP-15
Thyroglobulin
PAX8
EGFR mutation
ALK fusion
あくまで,大まかな傾向であることに注意。転移か否かは免疫組織染色のみでは決めることができない場合も多い。
また胃癌,膵癌,胆道癌などの転移では免疫組織染色での鑑別は難しい。

5.原発性肺癌

原発性肺癌

a.腺癌,扁平上皮癌,大細胞癌について

表2.免疫染色と組織型
腺癌 扁平上皮癌 大細胞癌
PAS +(粘液) +(グリコーゲン)
Alcian-blue
TTF-1
SP-A
Napsin A
p40
CK5/6
  • あくまで,大まかな傾向であることに留意。特に生検などの小検体では,扁平上皮癌と他の低分化癌の鑑別が難しいことがある。
  • CK5/6およびp40の免染のみから扁平上皮癌を過剰に診断して,治療の機会を失わせることのないよう,注意が必要である。他の組織・細胞診所見,部位や腫瘍マーカーなどの臨床病理学的情報もあわせ,総合的な判断をすることが強く勧められる。
  • 弾性線維染色を行い,浸潤の有無,血管侵襲,胸膜浸潤の評価を行うことが強く勧められる。リンパ管侵襲の評価にはD2-40を用いることが勧められる。

b.神経内分泌癌,カルチノイドについて

  • 高悪性度神経内分泌腫瘍(=神経内分泌癌):小細胞癌,大細胞神経内分泌癌
  • 低悪性度神経内分泌腫瘍:定型カルチノイド,異型カルチノイド
表3.神経内分泌腫瘍の鑑別
定型カルチノイド 異型カルチノイド 小細胞癌 大細胞神経内分泌癌
核分裂像 0~1個/10 HPF 2~10個/10 HPF 11個以上/10 HPF 11個以上/10 HPF
壊死 なし 部分的 広範 広範
神経内分泌マーカー

chromogranin A synaptophysin CD56

必須ではない 必須ではない 必須ではない 1種類以上陽性になることが必要

HPF:high-power filed。顕微鏡の対物レンズを40×にした場合の視野。

カルチノイド,小細胞癌は基本的に組織,細胞形態で診断される。通常カルチノイドでは神経内分泌マーカーは3種類とも陽性になることが多い。小細胞癌の診断には,神経内分泌マーカーおよびKi-67の染色が勧められる。

c.肉腫様癌,唾液腺型の癌,分類不能癌について

(規約の記載に基づいて,適切な免疫染色などを施行して診断することが求められる)

  • 肉腫様癌
    • 多形癌
    • 紡錘細胞癌
    • 巨細胞癌
    • 癌肉腫
    • 肺芽腫
  • 唾液腺型腫瘍
    • 粘表皮癌
    • 腺様囊胞癌
    • 上皮筋上皮癌
    • その他
  • 分類不能癌
    • リンパ上皮腫様癌
    • NUT転座癌
参考文献
このページの先頭へ