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Ⅰ.診 断

臨床症状と血液検査

文献検索と採択

臨床症状と血液検査
1-1.臨床症状と血液検査
推 奨

a.胸腺上皮性腫瘍が疑われ,重症筋無力症の症状が認められる場合には,血清抗アセチルコリン受容体抗体を測定するよう勧められる。(グレードB)

b.胸腺上皮性腫瘍が疑われ,貧血症状が認められる場合には,血球算定を行うよう勧められる。(グレードB)

c.胸腺上皮性腫瘍が疑われ,易感染性兆候が認められる場合には,血清γグロブリンを測定するよう勧められる。(グレードB)

d.胸腺上皮性腫瘍が疑われる場合には,重症筋無力症の症状がなくても,血清抗アセチルコリン受容体抗体を測定することを考慮してもよい。(グレードC1)

エビデンス
a.
本邦の大規模な調査では胸腺腫症例の約23~25%に重症筋無力症が合併すると報告されている1)2)。胸腺腫に合併した重症筋無力症ではほとんどが抗アセチルコリン受容体抗体が陽性である2)。胸腺癌においても重症筋無力症の合併を少数に認めた報告がある3)。胸腺上皮性腫瘍を疑う前縦隔腫瘍患者に重症筋無力症を疑う症状があれば抗アセチルコリン受容体抗体価を測定を行うことが推奨される。
b.
赤芽球癆は胸腺上皮性腫瘍例の2~3%に,さらに低γグロブリン血症は0.4~0.7%程度に合併すると報告されている1)2)。胸腺上皮性腫瘍を疑う前縦隔腫瘍患者に貧血症状や易感染性が認められる場合,それぞれ血球数検査4)5),γグロブリン6)の測定を行うことが推奨される。
c.
無症状の胸腺腫患者においても術後重症筋無力症が0.9~20%に発症することが報告されている(Postthymectomy myasthenia gravis)。術前無症状の患者に術後重症筋無力症が発症する場合,多くは術前の抗アセチルコリン受容体抗体が陽性である7)。胸腺上皮性腫瘍を疑う前縦隔腫瘍の患者に筋無力症症状がなくても抗アセチルコリン受容体抗体価を測定しておくことは妥当である。
d.
前縦隔腫瘍,特に胸腺上皮性腫瘍の自己免疫疾患以外の腫瘍の占拠に伴う症候についてのエビデンスは乏しい。胸腺上皮性腫瘍の腫瘍径と腫瘍占拠に伴う症状に関する研究は皆無であるので今回の検討からは除外した。また前縦隔腫瘍には胸腺上皮性腫瘍以外に悪性胚細胞性腫瘍や悪性リンパ腫などが認められる。悪性胚細胞性腫瘍や悪性リンパ腫においては化学療法や放射線療法の有用性が高く治療前に鑑別しておく必要があり,AFP,β-hCG,可溶性IL2受容体等の測定が有用である。
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