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Ⅲ.病理診断

病理診断

文献検索と採択

病理診断
1-1.病理診断
推 奨
病理診断には細胞診,生検,外科治療による切除検体が含まれる。細胞診の有用性については報告が少なく不明である。

a.切除検体の処理:外科医が胸腺腫瘍と周囲臓器との位置関係を明確にするために印を付けたのち,台板上で伸展し,速やかに十分量の固定液で固定する。腫瘍にCT断最大面で割を入れ,それに平行して厚さ3~5 mm間隔で割を加える。肉眼所見が異なる部位は必ず標本にし,浸潤部位は周囲組織との関係が分かるように標本にする。最低5切片を作成し,最大径5 cm以上の腫瘍では1 cmあたり1切片を標本とする。

b.病理組織分類:世界的に使用されているWHO分類を用いて組織分類を行う。鑑別診断には免疫染色も有用である。

c.病理診断報告:最終的な病理報告書には,術式,肉眼所見,腫瘍の大きさ,組織分類,浸潤の程度,切除断端,病期分類,術前治療が行われた場合の治療効果の程度を記載する。

d.生検による病理診断:術前診断が必要な場合や完全切除が不可能な場合,生検で病理診断を行うことができる。ただし,検体採取や病理学的評価にはある程度の熟練を要することから慎重に取り扱う。

e.術中迅速診断:縦隔腫瘍の術中迅速診断は非常に難しく,その有用性は限られている。

エビデンス
a.
縦隔腫瘍の切除材料は周囲組織との位置関係が不明瞭なことが多く,正確な病理診断のためにオリエンテーションを明確にすることが大切である。特に周囲組織への浸潤が疑われて合併切除された組織は必ず標本にして組織学的検索をする必要がある。切除断端への腫瘍の浸潤の確認のために組織用カラーインクを使用し,切離面を明らかにしておくことも有用である1)。胸腺腫は多様な組織所見を示すことも多く,できるだけ多数の切片を作成し,検討することが必要である2)
b.
WHO分類3)では,胸腺上皮性腫瘍は核異型,組織構造,形質発現により胸腺腫,胸腺癌,胸腺内分泌腫瘍に分類される。胸腺腫は腫瘍細胞の形態と随伴する未熟Tリンパ球の多寡によりA,AB,B1,B2,B3型胸腺腫およびそれ以外の稀な組織型に分類される4)。組織型と予後の関連性については一定の見解は得られていない5)~9)。胸腺癌は明らかな核異型を示す腫瘍で,多くの組織型に分類されるが,扁平上皮癌が最も多い10)11)。胸腺腫あるいは他臓器からの転移性腫瘍との鑑別には免疫染色も非常に有用で,胸腺の扁平上皮癌で陽性となるCD5やCD117は胸腺腫や肺の扁平上皮癌では陰性のことが多い12)13)。胸腺腫ではTdTやCD1a,CD99陽性の未熟Tリンパ球を認める。胸腺神経内分泌腫瘍は肺腫瘍と同様に,定型的カルチノイド,非定型的カルチノイド,大細胞神経内分泌腫瘍,小細胞癌に分類される。神経内分泌マーカーが広い範囲で陽性となる。胸腺原発のカルチノイドは多くが非定型的カルチノイドに分類され,予後も不良である14)~16)
c.
現行のUICCのTNM分類には胸腺上皮性腫瘍は含まれていないため,臨床病期分類としては正岡-古賀分類が最も使用されている17)18)。最近,ITMIGより,浸潤の定義がより明確となった病期分類が提唱された19)。臨床病期と完全切除が予後に最も関係しているので,病理診断においてこれらを決定するのは非常に重要である。切除断端までの距離が3 mm以内の場合は記載することが望ましい。
d.
縦隔腫瘍は臨床像や画像所見,血清腫瘍マーカーなどである程度は診断可能であるが,診断が不可能な場合や完全切除ができない場合には治療方針決定のためコア針生検や切開生検の適応となる20)。針生検の病理診断の感度と特異度は93.3%と100%であり,WHO組織分類との一致率は79.4%で,術前診断に有用であるという報告がある21)。ただし,生検組織は腫瘍のごく一部しか採取されず,その病理学的評価にはある程度の熟練を要する。また,目的の組織が採取されていない場合もあることを理解しておく必要がある。
e.
術中迅速診断は確定診断が未定の場合に,十分な組織量が採取されているか確認する場合や胸部手術中に偶然発見された縦隔腫瘍の確認のために行う場合は適応があるが,リンパ芽球性リンパ腫とリンパ球の豊富な胸腺腫との鑑別やB3型胸腺腫と胸腺癌,A型胸腺腫と間葉系腫瘍の鑑別は非常に困難であり,有用性は限られる1)
引用文献
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