2016年版 序

 わが国の肺癌診療ガイドラインは,厚生科学研究費の助成による「EBMの手法による肺癌の診療ガイドライン策定に関する研究」班によって,2003年に初めて出版されました。翌年著作権が日本肺癌学会に委譲され,2005年に改訂第2版を発行しました。その後,刻々と公表される重要なエビデンスへの対応を迅速に行う必要が生じてきたため,2011年以降は毎年Web上で公開してまいりました。2014年にはガイドラインの整備が一段落したため冊子体が発刊されましたが,21世紀にはいってからの肺癌診療,とくに薬物治療の進歩は怒濤のごとくであり多くの有望な新薬の承認があいついでおり,ガイドラインの頻回の改訂を余儀なくされております。しかし,2年に一度は冊子体として公表していくことは重要なことであると考えております。

 この激動の時代にあって冊子体をあえて出版するにあたって,この2016年版においては従来の方針である既定の期間に発表されたエビデンス重視の立場を幾分柔軟化し,既定期間以後であっても重要なエビデンスは積極的に取り入れ,エキスパートが行う治療と本ガイドラインの内容に齟齬がないように致しました。その結果,現時点では保険承認がされていない治療に高い推奨度を与えた事例もあります。例えば,PD-L1高発現腫瘍に対するペムブロリズマブの一次治療,ROS1転座肺癌に対するクリゾチニブ等がそれにあたります。また,本ガイドラインでは初めて第2部として悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン,第3部として胸腺腫瘍診療ガイドラインを加えたことも特筆すべきことです。

 わが国で厚生労働省委託事業として日本医療機能評価機構が提供している医療情報サービスMinds(マインズ)では,診療ガイドライン作成マニュアルを発行しており,わが国でのガイドラインの規準となっています。これに照らすと本肺癌診療ガイドラインはクリニカルクエスチョンの設定がない,推奨度分類,外部評価等々の点でその規準には沿っていない点も多く,次回改訂以降の課題となっています。

 ともあれ,新薬開発,臨床試験が非常にactiveであり日進月歩の肺癌の世界で短期間に最新の情報を盛り込んで作成された本ガイドラインはわが国の肺癌患者さんのため,あるいは教育研究ツールとして最上級のものとなっていることは間違いないと思います。日々の診療にご活用くださることを心より願ってやみません。

 末筆となりましたが,本ガイドラインの作成に忙しい業務のかたわらご尽力頂いた各小委員会の委員長初め多くの委員,ご評価頂いた多くの会員の皆様に深甚なる感謝の意を表明し,序文としたいと思います。

2016年11月

特定非営利活動法人日本肺癌学会
理事長 光冨 徹哉
ガイドライン検討委員会
委員長 山本 信之
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