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Ⅰ.診 断

病期診断

文献検索と採択

病期診断
4-1.病期診断
推 奨
胸腺上皮性腫瘍が疑われる場合には,病期診断のために上腹部を含めた胸部造影CTを行うよう勧められる。(グレードB)

*胸部MRIは,ヨードアレルギーなどのためCTで造影剤が使用できない場合には行うことを考慮してもよい。

*FDG-PETまたはPET/CTは,予期せぬ転移の発見の可能性はあるが,術前のリンパ節転移,遠隔転移の評価に用いるよう勧められるだけの科学的根拠が明確ではない。

エビデンス
 胸腺上皮性腫瘍の臨床病期分類法としては,IASLC/ITMIGによる大規模な統計学的解析から,新たなTNM病期分類法が提案されている1)~3)が,この病期診断における画像診断の役割についての明確なエビデンスはまだない。
 これまで一般的に用いられている正岡4)または正岡-古賀5)病期分類においては,胸部造影CT所見のうち辺縁が不整,内部性状が不均一,リンパ節腫大,血管浸潤を認める場合は有意に癌の可能性が高く,Ⅲ期以上の浸潤性腫瘍が多いという報告6),大きさが7 cm以上,辺縁が分葉状を呈する,周囲脂肪層への浸潤所見が認められる場合は有意にⅢ-Ⅳ期の頻度が高いという報告7),短径が小さい,形態が三角形を呈する,脂肪層浸潤の欠如がⅠ-Ⅱ期を推測し得る所見という報告8),加えて正岡-古賀病期分類とCTによる病期分類とが良好に相関していたという報告9)10)など,造影CTの有用性は一定の見解が得られている。また,術前CT所見で隣接血管との接触度が高い,あるいは胸膜結節を認める場合は浸潤性腫瘍であり非完全切除の可能性が高くなる11)など,造影CT所見を治療前に評価する有用性も報告されている。
 さらに,治療前に胸部造影CTを行うことはNCCNガイドラインにも明記されており12),また,ESTSメンバーを対象としたサイーベイランスにおいては,全施設で術前に胸部造影CTを行っていると回答している13)。一方,胸部以外の領域をどこまで撮像するかに関しては一定の見解はないが,先のサイーベイランスでは,多くの施設が胸腹部ないし上腹部を含む胸部撮影であった13)。胸腺腫の播種は横隔膜の裂孔を介して腹腔内へも進展することが知られており14),造影を用いた胸部CTは少なくとも上腹部まで含めることに関してはエキスパートのコンセンサスは得られていると考えられるため,病期診断のために上腹部を含めた胸部造影CTを行うよう勧められるとした(グレードB)。

〈MRIに関して〉

 胸腺上皮性腫瘍を対象としてCTとMRIの各所見の描出能を比較した報告6)によると,MRIで腫瘍を分割する線維性の隔壁や腫瘍を取り囲む被膜が描出された場合には,低悪性度の胸腺腫を示唆し,浸潤性が低い(Ⅰ-Ⅱ期)とされる。なお,胸腺上皮性腫瘍の大血管浸潤の評価に関しては,CTとMRIは同程度6)であることから,ヨードアレルギーなどのためCTで造影剤が使用できない場合に,MRIを用いた評価が可能なことがある。また,ダイナミックMRIを用いてⅢ期の胸腺腫が鑑別可能という報告がある15)。その他,胸腺上皮性腫瘍の拡散強調像の検討16)では,高リスク胸腺腫や胸腺癌は低リスク胸腺腫よりも見かけ上の拡散係数(apparent diffusion coefficient;ADC)の値が低く,進行したⅢ-Ⅳ期の腫瘍はⅠ-Ⅱ期のものよりもADC値が低いと報告されている。非造影で縦隔腫瘍の内部性状に関して付加的な情報が得られる可能性がある。さらに少数例の検討ではあるが,cine MRIは心大血管浸潤の術前判定に有用であったという報告もある17)。胸腺上皮性腫瘍におけるMRIの役割は多数例による検討が行われているとは言い難いことから限定的ではあるが,上記のようにCT診断に付加的情報を得られることがあり,MRIを行うことを考慮してもよいと考えられる。

〈FDG-PETまたはPET/CTに関して〉

 PETを用いた胸腺上皮性腫瘍の検討では,FDGのmaximum standardized uptake value(SUVmax)は組織型や病期と相関する18)19)が,FDG集積の測定値はSUVmaxのみでは不十分で,縦隔との集積比(SUV T/M ratio)も重要とされる20)~22)。SUVmaxおよびT/M ratioは胸腺腫に比して胸腺癌で高く18)~22),次いで高リスク,低リスク胸腺腫の順に低い18)~21)とされ,胸腺癌と胸腺腫の鑑別には有用とする報告は多い18)~22)。その他,Ⅳ期の腫瘍はⅠ-Ⅱ期に比して有意にFDG集積は高い22)と報告されている。FDG-PET/CTの検討では,予期せぬ遠隔転移の発見の可能性について述べられている18)21)が,術前のリンパ節転移や遠隔転移の評価にPETを勧められるだけの科学的根拠が明確ではない。
引用文献
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