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Ⅱ.治 療

治療後の経過観察

文献検索と採択

治療後の経過観察
4-1.治療後の経過観察
推 奨
胸腺上皮性腫瘍に対し根治的治療が行われた場合,

a.胸腺腫の場合10年以上,胸腺癌の場合5年以上の経過観察を行うよう勧められる。(グレードB)

b.経過観察は,胸腹部CTを含めた画像診断法を用いて,組織型に応じて6カ月ないし12カ月毎に行うことを考慮してもよい。(グレードC1)

*胸腺腫では抗アセチルコリン受容体抗体の測定が勧められる。

*胸腺腫では多重癌の発生に留意した経過観察が勧められる。

エビデンス
a.
胸腺上皮性腫瘍に対する根治治療後の経過観察を,どの程度の期間,どのような方法で,どのような間隔で行うべきかを検討した研究は行われていない。しかし,これまでの外科治療成績や再発腫瘍に関する報告から,根治治療後の再発は組織型や病期に関連して頻度が増加し,再発までの期間が20年以上に及ぶ例も知られている1)~4)。組織型では胸腺腫が61カ月(2~242カ月),胸腺癌が10カ月(2~54カ月),胸腺カルチノイドが54カ月(5~97カ月)と異なっていたとの報告もあり,胸腺癌に比し胸腺腫では再発までの期間が長期にわたることが知られている2)。また,進行期例であるほど再発の頻度は高いものの,Ⅰ期例での再発も経験されている1)~4)「再発胸腺上皮性腫瘍の治療」の項でも述べられているが,再発に対しても積極的に治療を行うことで生存期間の延長が可能となることから,再発の早期発見は意義あるものと考えられる1)~5)。以上より,胸腺腫と胸腺癌に分け,根治治療後の経過観察することを推奨した(グレードB)。
b.
経過観察の方法については一定の見解はないものの,再発巣の多くが胸部に限局していることから5),通常の外来診療とともに,CT(胸部~上腹部)を含めた画像診断法を用いて行うのが一般化している4)。術前に無症状の胸腺腫患者においても,術後重症筋無力症(post-thymectomy myasthenia gravis)を発症する可能性がある。術前無症状の患者に術後重症筋無力症が発症する場合,多くは術前の抗アセチルコリン受容体抗体が陽性であるが,術前に抗体が陰性の症例でも重症筋無力症が発症することがある6)。また,経過観察が終了した胸腺腫術後の患者に重症筋無力症が発症したことで精査され,胸腺腫の再発が発見されるという報告もある7)。以上より,根治治療後に抗アセチルコリン受容体抗体を測定することは妥当であると考えられる。一方,胸腺腫例では二次癌(多重癌)の発生頻度が非胸腺腫例より高いことが報告されており8)9),これらを早期発見することも胸腺腫例の経過観察では念頭におく必要がある。しかし,経過観察を行う適切な間隔は明らかにされておらず,少なくとも6カ月ないし12カ月毎には行うことを考慮してもよいとした(グレードC1)。
引用文献
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