一般演題(ポスター)162
胸膜中皮腫 4
座長:安藤 陽夫(国立病院機構岡山医療センター呼吸器外科)
P-3-318.Hippo伝達経路不活化悪性中皮腫細胞においてスタチンがYAP-CD44カスケード抑制を介して増殖を阻害する
田中 広祐1,2・長田 啓隆1・村上 優子1・堀尾 芳嗣2・樋田 豊明2・関戸 好孝1
愛知県がんセンター研究所分子腫瘍学部1;愛知県がんセンター中央病院呼吸器内科2

【背景】悪性中皮腫においてNF2,LATS2欠失変異によるHippo伝達経路の不活化が高頻度に認められることが最近分かってきており,その結果として下流の転写共役因子であるYAPの活性化が促進され,癌の浸潤や転移に関わるとされる.これまで多くの癌種を対象とした臨床試験,疫学研究でスタチン製剤の有効性が報告されているが,その作用機序についてははっきりしていない.【目的】NF2欠失変異陽性悪性中皮腫細胞株NCI-H290を使用しスタチンの抗腫瘍効果,作用機序をin vitroで解明する.【結果】我々はまずスタチンがメバロン酸経路を介してYAPを不活化することをHippo伝達経路不活化悪性中皮腫細胞において示した.NCI-H290においてスタチンは細胞増殖,遊走を抑制し,YAPの下流因子の発現を低下させた.またスタチンによってYAPの不活化とともにCD44の発現も低下した.重要なことにCD44のプロモーター領域はTEAD結合部位を有しており,YAP/TEADが転写レベルでCD44の発現を制御していることが明らかになった.一方でCD44はMerlinを介してYAPを制御することが報告されており,Hippo伝達経路を不活化する上流の因子としてだけではなくHippo伝達経路により発現調節を受ける下流因子としての役割を同時に担うことが示唆された.さらにこのYAP-CD44カスケードは悪性中皮細胞においてがん幹細胞様変化に寄与し,それはスタチンによって阻害された.【結語】悪性中皮腫細胞においてYAPはCD44の発現を転写レベルで制御し,がん幹細胞化にも関わる.スタチンはYAPを不活化することで特にHippo伝達経路不活化悪性中皮腫の治療選択となりうる.
第57回日本肺癌学会学術集会 2016年12月開催

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