シンポジウム13
免疫療法の基礎を学ぶ~従来型免疫療法と免疫チェックポイント阻害薬~
座長:鈴木 弘行1, 竹之山光広2(福島県立医科大学医学部臓器再生外科学講座1, 国立病院機構九州がんセンター呼吸器腫瘍科2
S13-2.肺がんに対するがんワクチン療法の現状と展望
鈴木 弘行・大和田有紀・井上 卓哉・渡邊  譲・福原 光朗・山浦  匠・武藤 哲史・松村 勇輝・長谷川剛生・大杉  純・星野 実加・樋口 光徳
福島県立医科大学呼吸器外科

 がん免疫療法は1891年にColeyが行った細菌毒素を用いた治療,Coley's toxinがその始まりとされ,その後腫瘍免疫領域における分子生物学的理解の進歩に伴い,近代的ながん免疫療法の開発が始まった.がん免疫の歴史において最も重要なイベントとして樹状細胞の発見と腫瘍関連抗原の抽出同定があるが,この2つの発見によって,腫瘍抗原パルス樹状細胞療法と,がんペプチドワクチン療法が開発され,広く行われるようになった.これらの治療は腫瘍特異的T細胞の刺激によって,抗腫瘍効果を期待するもので,腫瘍特異的で,より副作用の少ない合理的な手法として期待されてきた.こういった中,FDAは初めて,Sipuleucel Tという前立腺がん治療用のがんワクチンを2010年に承認した.その後に多くの臨床試験が重ねられてきたが,これまで肺がんを含めとした固形がんで明らかな有用性を示したがんワクチンは存在しない.これらのがんワクチンが十分な効果を発揮しない理由にがん患者における免疫抑制機構の存在が指摘され,免疫のブレーキを解除することが重要と考えられるようになった.こうして開発されたのが免疫チェックポイント阻害剤(ICI)であり,その効果については周知のとおりである.ただし多くの指摘のとおり,ICIの効果は20%前後と決して高くはないため,今後さらなる治療効果の改善の余地がある.近年の研究では樹状細胞ワクチンはT細胞の腫瘍特異的TCRの多様性を促進することも知られるようになり,今後これらの併用療法を考えることが必要で,期待できるところである.報告ではこれまでの肺がんワクチンの開発の経緯とその成績を総括し,今後の展開について議論したい.
第57回日本肺癌学会学術集会 2016年12月開催

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