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ALK遺伝子検査におけるFISH法と高感度IHC法の不一致についてのお知らせと対応 (第2報)

【投稿日時: 2013-05-27】

NPO法人肺癌学会会員各位
(各種ガイドラインの頁でもご案内しております)
 

経緯

2012.10.19(10.31改訂)付けで、ALK遺伝子検査におけるFISH法と高感度IHC法による検査結果の不一致について、肺癌学会HP上で下記のようにお知らせをしておりました。

  • クリゾチニブ(ザーコリカプセル)の製造販売承認から薬価基準収載までの期間(2012.4.4-5.28)、ファイザー社よりALK融合遺伝子検査結果が提供された。この内FISHと高感度IHC法が両方行われた2337検体中、両者の不一致が48検体存在した。
    表 高感度IHCとFISH法との相関
      高感度IHC
    陽性 陰性
    FISH 陽性 213 36
    陰性 12 2076
  • 肺癌学会ALK遺伝子検査の手引き(2011.11)では免疫染色でスクリーニングし、FISHで確認することを基本に推奨していたが、その運用に当たっては双方の検査に偽陽性、偽陰性がでる可能性も念頭において、最終的には臨床的に判断をされたい。
  • 不一致の原因を解明すべく、検体の追加提出の依頼、クリゾチニブ投与症例では奏効との関連の検討などを含めた追加解析を至急行いたい。

その後、この不一致例48例中37例について検体を集積し(38例についての承諾が得られたが、1例は検体がなかった)愛知県がんセンター中央病院谷田部恭部長により再解析を行った。今回、その結果を会員の皆様にお知らせするとともに、その結果をふまえてALK遺伝子検査を以下のように推奨します。基本的には従来からの推奨に変更はありません。

推奨

  • ALK遺伝子検査は高感度IHC法によるスクリーニング、FISH法によって確認し、両方とも陽性の症例が最もよいクリゾチニブの適応症例である。
  • 片方のみが陽性という症例は存在するが、一般にクリゾチニブの奏効率は低い。投与の適応は検査の限界を理解した上で、臨床的な功罪を考慮の上判断する。

再解析結果

当初の検査会社による結果と今回の再解析の結果の関係は以下の表のようでした。

再解析結果 当初の結果
IHC(-), FISH(+) IHC(+), FISH(-)
IHC(-), FISH(+) 21 0 21
IHC(-), FISH(-) 1 3 4
IHC(+), FISH(+) 3 1 4
IHC(+), FISH(?) 1 3 4
IHC(-), FISH(?) 2 0 2
IHC(?), FISH(?) 0 1 1
IHC(?), FISH(+) 1 0 1
Total 29 8 37
  1. IHC(-), FISH(+)の症例の多く(21/29=72%)は再解析しても同じ結果であった。
  2. IHC(+), FISH(-)の症例の全ては、再解析では異なる結果を示した。その多く(4/8=50%)が再解析FISH評価不能であった。残りの多くはIHC(-), FISH(-)を示した(3/8=38%)。
  3. 再解析と乖離を示した症例に小生検組織が多いというわけではなかった。
  4. 再解析でもIHC陽性とされた症例の多く(n=5/7)は明瞭な陽性像(Score 7 or 8)であった。
  5. IHC(-)が再解析でIHC(+)となった4症例では、2例にIHC検出方法によってシグナル強度の有意な差が認められた。このようなシグナル強度の有意な差が観察された症例はこの2例のみである。
  6. 再解析FISHで評価不能とされた症例が多かった(7/37=19%)。
  7. 腫瘍細胞がないのに評価されている症例(n=2)があった(IHCもFISHも)

クリゾチニブ応答性

  1. クリゾチニブの効果判定がなされた症例が15例あった。全体でのResponse rate=3/15(20%), Disease control rate=6/15(40%)であり、これまでの報告より低い傾向である。
  2. 検査会社による当初の結果では、以下の分布を示した。
    Response IHC(-), FISH(+) IHC(+), FISH(-) Total
    PR 2 1 3
    SD 3 0 3
    PD 7 2 9
    Total 12 3 15
    ALK FISH単独陽性での奏効率=2/12(17%)
    ALK IHC単独陽性での奏効率=1/3(33%)
     
  3. 再解析のデータでは、以下の分布を示した(1例は、再解析の承諾が得られたが検査会社の残余検体のみに対してであり、検査会社に検体は残っていなかった。そのため、再解析では14例での結果となった)。
      Group1 Group2 Group3 Group4  
    Response IHC(-),
    FISH(+)
    IHC(+),
    FISH(+)
    IHC(+),
    FISH(?)
    IHC(-),
    FISH(-)
    Total
    PR 1 1 1 0 3
    SD 3 0 0 0 3
    PD 5 1 1 1 8
    Total 8 2 2 1 14
    ALK-陽性(いずれか一方, Group 1+2+3)での奏効率=3/12(25%)
    ALK FISH陽性で(Group1+2)の奏効率=2/10(20%)
    ALK IHC陽性(Group 2+3)での奏効率=2/4(50%)

結論と提言

ALK診断については以下を推奨する(基本的には今回の検討の結果によっても2011.12肺がん患者におけるALK遺伝子検査の手引き、2012.10の注記の変更はしない)

検査の解釈について

  1. 高感度IHCでスクリーニングし、陽性であった場合。
    (ア)FISH(+)多くはこのパターンであり、ALK融合遺伝子陽性と判断。
    (イ)FISH(-)今回の再解析ではこのグループは存在しなかった。RT-PCRが可能であれば参考にする。奏効例の報告もあるので投与の可否は臨床的な功罪のバランスで判断する。
  2. 高感度IHCでスクリーニングしたが、陰性であった場合。
    (ア)臨床病理学的背景(若年、非喫煙者、組織像(篩状構造、印環細胞など)、EGFR変異陰性、KRAS変異陰性)やクリゾチニブ治療の緊急性、他の治療の可能性の有無などの臨床的判断でさらにFISHまで行うことを検討する。
    (イ)FISH(-)多くはこのパターンであり、ALK融合遺伝子陰性と判断
    (ウ)IHC(-)FISH(+)の場合このような症例は存在するが、奏効率は2/12(あるいは再解析では1/8)と低い。クリゾチニブ投与の可否は臨床的な功罪のバランスで判断する。
  3. IHCを施行せず、初回検査としてFISHを行った場合
    (ア)陽性であった場合、多くはALK融合遺伝子陽性であろうが偽陽性の可能性はあるので、やはりIHC法などによる確認が望ましい。以下は上記を参照。
    (イ)陰性であった場合。高感度IHCの陽性の可能性は低いが、陽性の報告もあり、またその場合奏効例の報告もあるので投与の可否は臨床的な功罪のバランスで判断する。

検査の留意点

  1. 質のよい検体の確保
    (ア)検査会社に送付する際には、腫瘍細胞が確認できる検体を送付すべる。
    (イ)FISH解析は暗視野で行うため、腫瘍細胞の同定が難しい。特に生検組織では組織変性が加わることが多く、十分に保たれた腫瘍細胞が観察される標本を用いる。
  2. 検査の限界についての理解
    (ア)再解析においてもIHC(-), FISH(+)という集団がEGFR変異を除外した肺がん症例の2%程に存在することが示された。これらの症例は現在の診断の手引きでは見逃されることになる。しかし、このグループにおけるクリゾチニブの奏効率は、これまで報告されているものより下回る傾向があり、その使用にあたっては十分に注意する必要がある。

今後の課題

両検査ともに陽性あるいは陰性で一致した症例のデータが現時点では不明なため、どのような症例が不一致となりやすいのか(例:固定法の差、生検vs. 切除検体、IHCスコア、FISH陽性率との関係等)は不明である。検体提出時にそのような解析を行う旨の同意を得ておらず、すぐには解析できない。しかし、非常に貴重な情報が得られる可能性があり、将来的にはこの部分の解析を行い臨床現場へ還元することが望まれる。

2013年5月27日
NPO法人日本肺癌学会
バイオマーカー委員会委員長 光冨 徹哉
NPO法人日本肺癌学会
理事長 中西 洋一


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