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ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺癌診断のためのVentana社高感度免疫染色法の早期承認に関する要望

【投稿日時: 2015-06-17】

日本肺癌学会会員各位

2015年6月5日に、厚生労働大臣、医薬品医療機器総合機構理事長宛に下記要望書を提出致しましたことを、ここにご報告いたします。

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平成2765

       ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺癌診断のための
       Ventana社高感度免疫染色法の早期承認に関する要望書

厚生労働大臣 塩崎恭久 殿
医薬品医療機器総合機構理事長 近藤達也 殿 

特定非営利活動法人日本肺癌学会理事長 光冨徹哉
同バイオマーカー委員会委員長 秋田弘俊
同保険委員会委員長 高橋
和久
 

謹啓
 向夏の候、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

 さて、わが国で見出されたALK融合遺伝子陽性非小細胞肺癌に対して、その特異的阻害薬であるクリゾチニブ(ザーコリ®)やアレクチニブ(アレセンサ®)による分子標的治療は今や標準治療として大きな成果をあげております。しかしALK融合遺伝子陽性肺癌の頻度は低く(35)、かつ遺伝子転座を直接には検出できないために、間接的にFISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)あるいは高感度免疫染色(IHC)法で検出する必要があり、このことに起因する潜在的な感度特異度の問題があります。このため日本肺癌学会では「肺癌患者におけるALK遺伝子検査の手引き」(2011112日)を作成し、その当時までの知見に基づき高感度IHC法によるスクリーニング後、陽性例をFISH法によって確認した上でALK阻害薬を投与することを推奨して参りました1。また、ALK陽性肺癌の頻度が低く、高感度IHC法やFISH法の経験が一般病院まで十分には浸透していなかったことから、「ALK検査の実施を二年間は原則として、検査センターで行う」ことも提言してまいりました1。しかし、その後3年半が経過し、上述の「手引き」は最近の医学の進歩に十分対応しているとは言い難くなっており、現在鋭意改訂中であります。

最近の知見によると、高感度IHC法で明らかに陽性の場合のFISH法の陽性率は極めて高い一方2、標本の状態や検査法が原因とは言えない不一致例も存在することがわかっています3。不一致例にはFISH法における陽性細胞数が少ない、あるいは高感度IHC法での染色パターンが不均一である等、一定の傾向がありますが、それでは説明のつかない症例もあります。また、不一致例においてもALK阻害薬の奏効例があることも知られています4

ALK阻害薬の投与を検討されている患者さんは進行肺癌患者であり、ALK阻害薬が奏効するかどうかはその予後に天と地ほどの大きな差があります。したがって不一致であるためにALK阻害薬適応なしと判断し、実は奏効するはずであった症例を取りこぼすことは最も避けたいことであります。しばしばALK陽性肺癌患者は初診時から気管支周囲のリンパ節が累々と腫れており気道狭窄を呈するなど重篤な状況であったり、非常に進行が速いケースも多く、時を移さずに最適の治療を開始できなければそのまま不幸な転帰をとる者が含まれております。このような場合、常にIHC法とFISH法の二つの検査を行って、その一致をみることが必要かは疑問であります。

以上の経験から、高感度IHC法で典型的な陽性パターンを示す場合、患者に対するリスクベネフィットの説明の上で、FISH法による診断を経ずにALK阻害薬を投与することも実臨床上の選択肢となると考えます。この場合、臨床的特徴がこれまでに報告されたALK陽性患者のプロファイルに合致する場合、即ち若年非喫煙腺癌、あるいは病理組織像が典型的な篩状構造や印環細胞を認める場合等にはさらに精度は高いと考えられます。

現在わが国で保険診療上利用可能な高感度IHC法にはNichirei社「ヒストファインALK iAEPキット」のみしかなく、しかもこれはアレクチニブのコンパニオン診断薬としてのみ製造販売承認を受けています。一方、米国においては、クリゾチニブの新たなコンパニオン診断薬としてVentana社の高感度IHC法(D5F3抗体使用)が開発されています。同法はFISH法で診断されたALK肺癌患者に対するクリゾチニブの第III相試験の検体を用いて同等性試験を行い、その結果を根拠にFDAに申請されており、近い将来承認される見込みと伺っています。わが国のみで承認されているNichirei社キットに比べ、Ventana社キットはすでに中国で承認され、EU加盟国あるいはヨーロッパでもCE-markを取得していることから、今後世界標準となることが予測されます。わが国においてVentana社キットが承認されれば、競争原理によるキット価格の低下が期待されます。さらに、「手引き」の推奨にも拘らずクリゾチニブのコンパニオン診断薬としてのIHC法がないことから、あまり普及していない高感度IHC法によるスクリーニング検査を相対的に増加させることによる医療費の削減なども併せて期待できることになります(FISH6520点、Nichirei キットは2700点)。

以上より、日本肺癌学会はVentana社キットをわが国の臨床現場でつかえるよう早期の製造販売承認をお願いいたしたく、ここに本要望書を提出するものであります。また、開発の経緯からはNichiei-アレセンサ、Ventana-クリゾチニブという1:1対応になるかとは存じますが、もとより、コンパニオン診断としてペアであるべきは検査試薬と治療薬ではなく、検査試薬と分子異常であります。従いまして、治療薬にこだわらずにALK肺癌の診断に両者のキットが使用できるようにして頂くことも併せて強くお願いする次第であります。

謹白

 

参考文献

1.  日本肺癌学会バイオマーカー委員会. 肺癌患者におけるALK遺伝子検査の手引き. 2011;http://www.haigan.gr.jp/uploads/photos/366.pdf.

2.  Takamochi K, Takeuchi K, Hayashi T, Oh S, Suzuki K. A rational diagnostic algorithm for the identification of ALK rearrangement in lung cancer: a comprehensive study of surgically treated Japanese patients. PLoS One 2013;8:e69794.

3.  Yatabe Y. ALK FISH and IHC: You Cannot Have One without the Other. J Thorac Oncol 2015;10:548-50.

4.  日本肺癌学会 ALK遺伝子検査におけるFISH法と高感度IHC法の不一致についてのお知らせと対応(第2報). 2013. at http://www.haigan.gr.jp/uploads/photos/589.pdf.

 


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