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米国PLCO研究における胸部X線による肺がん検診の死亡減少効果の解釈に関する見解

 2011年10月、JAMA(The Journal of American Medical Association)に米国PLCO研究(肺がん検診を含む4つのがん検診の死亡率減少効果評価を目的とする研究)での胸部X線写真による肺がん検診の死亡率減少効果に関する無作為化比較試験の結果が掲載されました。http://www.haigan.gr.jp/uploads/files/photos/383.pdf

このPLCO研究の肺がん検診部分の研究方法は以下のようなものです。

  •  55-74歳の男女(喫煙問わず)約154000人、死亡率10%低下を証明するための症例数算出
  •  1993-2001年に全米10カ所で登録、年齢・性別で無作為化
  •  研究群には、登録時と3回(年1回)、計4回の単純X線撮影を行い、対照群には行わず
  •  研究群の非喫煙者には1995年から最後の検診は提供しなくなり、計3回となった
  •  検診期間の後は、両群ともに追跡のみ行った(観察相)
  •  診断過程については、主治医にゆだねた
  •  追跡は毎年手紙と電話、死因は死亡診断書とNational Death   Indexで把握
  •  肺がん死亡は、肺がん死亡および治療関連死とした 

 


その結果は、13年間の追跡で両群の死亡率には統計学的に有意な差がなかったというものでした。この報告は「肺がん検診には効果がないかのような印象」を与えかねないものですが、論文の解釈は慎重に行う必要があります。日本肺癌学会は、集団検診委員会を中心にして慎重に検討を行った結果、この研究の結果に関して以下のような考えであることをお知らせすることにしました。

 

PLCO研究が計画された1993年以前には肺癌の自然史はあまり詳しく判明しておらず、その結果、検診がどの程度の期間効果を及ぼし得るかは不明でした。そのため、PLCO研究では上記のような計画での実施になったわけですが、PLCO研究の実施中に、日本からの肺がん検診の症例対照研究や、その他の国からの自然史研究の結果が報告されてきました。日本からの症例対照研究の結果では、胸部X線を中心とした肺がん検診の死亡率減少効果は、統計学的に有意なのは1年限りであり、そう長く効果が続くものではないことが明らかとなっています。一方、米国とアジアからの自然史研究の数編の論文(PLCO論文にも引用されています)においても、肺癌のsojourn time(asymptomatic detectable period:発見可能だが症状出現前の期間、検診が効果を発揮する可能性があるのはこの期間のみ)は平均で1-4年と計算されると報告されました。このようなことから、検診する期間の後に観察相の期間(両群に検診をせずに単に追跡のみを行う期間)をあまりに長くとれば、その間に新たに両群に発生する肺癌により、検診の有無による差がどんどん薄まっていくことが推定されます。このような肺癌の自然史に対する事実がPLCO研究の計画時には判明していませんでした。もしこれが判明していれば研究の計画はもっと違ったものになっていた可能性が大きいと考えられます。なぜならば、3-4年検診をしてその後10-11年追跡するという計画は、肺がん検診の効果を検出しやすい計画とは言えないことが明らかになったからです。事実、PLCO研究における両群の累積死亡率を計算しますと、3-4年の検診を行った後に、5-8年目ごろに死亡率の差がもっとも大きくなり、最大で11%も検診群の死亡率が減少していることがわかります。しかも、検診群のうち約15%の人は、指定された胸部X線を1回目から受けなかったことが判明していますので、X線検診の効果が若干過小に評価されている可能性が高い条件での結果と言えます。そのような差が、時間が経つにつれて小さくなり13年後には消失してしまった、というのが今回のPLCO研究の結果と解釈できます。

専門的なことになりますが、この研究デザインを記述した初期の論文内のサンプルサイズ計算では、死亡減少効果が観察期間にかかわらず一定と仮定されていましたが、検診を一定期間で中止する研究計画ではこの仮定は成り立たず、観察期間を延ばせば延ばすだけ死亡減少効果が小さくなってしまうことになります。従って、観察期間は長ければいいということではなく、死亡率減少効果をみるための最適な年数が存在するはずであると考えられます。ただし、これは事前には不明であり、実施してみなければ最適な年数はわからないと言えます。

したがって、研究開始時点で最適な観察相の期間が確定できないわけですから、事前に定められた期間による解析が唯一絶対のものではないことになります。すなわち、今回のPLCO研究の場合、13年目の1%ではなく、5年目の11%の方が真の効果の大きさに近いという考えも十分にあり得るものです。参加者の15%が検診を受けなかったにもかかわらず11%の死亡減少効果があったとすれば、それはがん対策の視点から意味のある大きさであり、また、11%という数字は、本来PLCO研究が検出しようとしていた10%という死亡減少効果を上回るものですから、その点からも無視することはできないという考えも成り立つと言えます。

 

以上より、日本肺癌学会は、今回のPLCO研究の結果については、X線による肺がん検診に肺がん死亡減少効果がないと単純に解釈するのではなく、今後の更なる詳細な結果の報告や検討の結果を待つべきであろうと考えるものです。

 

特定非営利活動法人
日本肺癌学会



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