第4章 治療の概要 4-3 薬物療法
Q45
免疫チェックポイント阻害薬の副作用や注意したほうがよいことにはどのようなものがあるでしょうか
1.免疫関連有害事象(irAE)とは?

 免疫チェックポイント阻害薬は,がん細胞によって抑えられていた免疫細胞を再び活性化させるため,免疫が働きすぎることによる副作用が現れる可能性があります。この免疫に関与した副作用は「免疫めんえき関連かんれん有害ゆうがい事象じしょうirAEアイアールエーイー)」と呼ばれています。irAEは,皮膚,消化管,肝臓,肺,ホルモン産生臓器に比較的多く生じることが知られていますが,腎臓や神経,筋,眼にも生じ得ることが報告されており,全身のどこにでも副作用が生じる可能性があります。一般的には,かん質性しつせい肺炎はいえん,大腸炎,1型糖尿病,甲状腺機能障害などのホルモン分泌障害,肝・腎機能障害,皮膚障害,重症筋じゅうしょうきん無力症むりょくしょう,筋炎・心筋炎,ぶどう膜炎などの副作用が報告されています。症状の現れ方には個人差がありますが,あらかじめirAEの種類や症状を知っておくことは,irAEの早期発見と対処につながります。また,irAEは今までの抗がん剤(細胞傷害性抗がん薬)による副作用とは異なり,ステロイドと呼ばれる免疫めんえき抑制よくせいやくで対処することがあります。重症度に応じて速やかに適切な治療を行うことで,多くのirAEをコントロールすることが可能ですが,重症例や死亡例も報告されているため,医師,薬剤師,看護師の指導を受けながら,患者さん自身による注意深い観察も必要となります。

2.症状と対処法について

 たとえば,「間質性肺炎」では,初期症状として,息切れ,空咳からせきたんの出ない咳),発熱などが知られており,普段と比べてこのような症状が悪化してきた場合は,担当医に連絡しましょう。「大腸炎」では,下痢や血便(黒い便を含む),腹痛がみられることがあります。普段より排便回数が4回以上増加したり,ネバネバした便や血便を伴う下痢があった場合は,担当医に連絡しましょう。なお,市販の下痢止めなどを自己判断で飲むことによって,実際の症状より軽くみえてしまうことがありますので,自己判断で下痢止めを飲むことは避け,必ず医師の指示にしたがいましょう。「1型糖尿病」では,急激に血糖値が上昇する場合もあり,普段より,口が渇かわく,水分を多くとる,尿量が増えるといった症状を認めた場合は担当医に連絡しましょう。「重症筋無力症」では,筋力が低下することによって,まぶたが下がったまま戻らない,手足に力が入らない,食べ物がうまく飲み込めない,呼吸が苦しいといった症状を認めることがあります。なお,症状は朝と夕方で異なることもあります。これらの症状を認めた場合も担当医に連絡しましょう。「筋炎・心筋炎」は,心筋を含む筋肉に炎症が起こる病気です。急性の場合,命にかかわる場合がありますので,疲れやすい,だるい,筋肉が痛む,発熱,咳,胸の痛みといった症状を認めた場合は担当医に連絡しましょう。

 比較的多くみられる副作用としては,「皮膚障害」や「ホルモン分泌障害」があります。「皮膚障害」には,発疹,かゆみなどの症状があります。「ホルモン分泌障害」は,定期的な血液検査で発見されることが多く,自覚症状がない場合もあります。これらの症状は軽く済む場合が多いとされていますが,いつもと違う症状に気がついた場合は担当医に報告しましょう。

3.発現時期について

 irAEの多くは治療開始後約2カ月以内の比較的早い時期に起こりやすい傾向があります。しかし,投与後すぐに起こるとも限らず,投与終了後,数週間から数カ月経過してから起こることもあるため,投与終了後にもirAEの発現に注意が必要となります。治療薬が変わった後でも,いつもと違う症状に気がついた際は,早めに医師,薬剤師,看護師に相談しましょう。

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