第6章 非小細胞肺がんの治療 6-1 外科治療(手術)が中心となる治療
Q58
手術後に追加治療が必要となるのはどのような場合ですか

 臨床病期(ステージ)Ⅰ期から一部のⅢ期までの患者さんは,手術を中心とした治療が最も治療効果が期待できますが,たとえ手術を行っても残念ながら再発することがあります。手術で目に見える範囲では取り切れても,顕微鏡けんびきょうレベルでがん細胞が一部,からだの中に残ってしまったり,すでに肺以外の離れた場所(遠隔)にわずかに転移が始まっているときがあるからです。一度,再発すると完全に治すことが難しくなるため,再発予防のため,手術後にこうがんざい細胞さいぼう傷害性抗しょうがいせいこうがんやく)による治療(化学療法)を追加することが必要になることがあります。

 術後の病期(病理病期)がⅠA期,ⅠB期,ⅡA期のせんがんの患者さんがユーエフティという抗がん剤を2年間内服すると,内服しない場合に比べてがんの大きさが3cm超の腺がんでは約10%の5年生存率の上乗せ効果があったというわが国の研究があります。複数の研究による解析においても, がんの大きさが2cmより大きい腺がんにおいては, 約5%の5年生存率の改善が得られる事が明らかとなり, がんの大きさが2 cmより大きい腺がん(ⅠA3,ⅠB,ⅡA期)の術後にはユーエフティを服用することが勧められています。腺がん以外の組織型の場合はその有効性が少し弱く,したがって選択肢のひとつとして提案することとなっています。ユーエフティは通常2年間毎日内服します。点滴の抗がん剤に比較して,副作用は軽いことが多いですが,食欲不振・吐き気・下痢・口内炎・色素沈着・血液検査の異常が認められることがあります。また,抗凝固剤のワルファリンなど注意が必要な飲み合わせがあるので,服用中の薬は医師や薬剤師に報告してください。

 病理病期Ⅱ・ⅢA期の患者さんでは,手術を行った後に補助ほじょ化学かがく療法りょうほう(点滴での化学療法)を行うと,再発を防止して,肺がんで死亡する危険性が低くなることが証明されています。シスプラチンともうひとつの抗がん剤(とくにビノレルビン)との併用で行う点滴治療が勧められており,手術単独治療に比べて5年生存率はⅡ期で12%,Ⅲ期で15%程度の改善を認めます。一方,欧米からの報告ではこれらの追加治療が原因で起こる死亡のリスクは約1〜2%程度とされています。加えて, この病理病期ⅡB・ⅢA期の患者さんのうち,PピーDディー-Lエル1ワンタンパクの発現が陽性の方においては,シスプラチン併用化学療法による術後補助化学療法を行った後に,アテゾリズマブという免疫めんえきチェックポイント阻害そがいやくを1年間追加投与することで,約30%再発が抑えられるという研究結果が2021年に報告されました。この研究結果から,完全切除された病理病期ⅡB・ⅢA期で腫瘍細胞におけるPD-L1タンパクの発現がある方,特に高発現の方に対して,シスプラチン併用化学療法後にアテゾリズマブ単独療法を行うことが勧められます。また,病理病期Ⅱ~ⅢAの患者さんのうち,EイーGジーFエフRアール遺伝子変異陽性の方に対して,シスプラチンを主体とする術後補助化学療法施行後にチロシンキナーゼ阻害薬(オシメルチニブ)を3年間内服することで,再発のない生存期間を延長させることができたという研究結果も報告され,これらの患者さんでは化学療法施行後にオシメルチニブ投与が勧められることもあります。

 手術後の追加治療は期待される治療効果と起こり得る副作用,治療費,治療期間などを考慮したうえで,担当医とよく相談して決めましょう。

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