肺がんが胸腔(胸壁と肺の間のスペース,図参照)にひろがった結果,胸水がたまった状態を「がん性胸膜炎」といいます。
両方の肺に同時に起こることはまれで,通常,左右どちらかの肺に生じます。胸水の量が増えると肺を圧迫してしまい息苦しさの原因となります。さらに大量になると心臓を圧迫してしまい,心不全の原因になりかねません。
胸水は胸部X線やCTで確認します。胸水に対する治療はたまっている量と症状の有無で決まります。量が少なく,症状が比較的軽ければ,そのまま薬物療法を行う場合もあります。ある程度の量がたまっていて,薬物療法の妨げになる場合には,薬物療法前に注射針などを用いて体の外へ胸水を排出させます。量が多く,症状が強い場合は,胸腔ドレナージといって,胸腔に管を入れ,胸水を排出する治療を行います。胸水の治療後ただちに薬物療法を行うこともありますが,管を抜き去る前に,今後胸水がたまらないようにする胸膜癒着術が行われることもあります。
入院して行う治療です。胸水を体の外へ排出するための管を挿入し,容器(ドレーンバッグ)につなぎ,持続的に排出します。管を留置している期間は胸水の量や排液の状況によって,数日から数週間になることがあります。チューブを入れている期間は入浴できませんが,トイレに行ったり,病院内を歩いたりすることはできます。胸水がなくなり肺がひろがった後に管を抜きますが,その前に胸膜癒着術を行うことがあります。
胸腔ドレナージを行っても,肺が十分にひろがらない場合があります。頻回に胸水を抜くと,体力を消耗するだけではなく,細菌が胸の中に入る危険性も高くなります。この場合,チューブを体内に埋め込み,胸水をお腹などに逃がす方法がとられることもあります。
胸水が再貯留しないように,管から薬剤を注入して行うのが胸膜癒着術です。薬剤を用いて胸膜を癒着させます。薬剤には,以前はOK-432という細菌を無毒化したものや,塩酸ミノサイクリンが広く使われてきました。最近は,タルクがこれに代わってきています。薬剤を入れた後に痛みや熱が出ることがありますが,解熱剤や鎮痛剤で症状が改善します。癒着がうまくいかない場合は,再度,治療が必要になることもあります。