第6章 非小細胞肺がんの治療 6-1.外科治療(手術)が中心となる治療
Q59
手術の前に放射線療法や薬物療法を行うことはありますか

 臨床病期(ステージ)Ⅰ期から一部のⅢ期の患者さんでは外科治療(手術)が中心になりますが,手術だけではがんを抑えることが難しいことがあります。とくに病期が進んだ一部のⅡ期,Ⅲ期の患者さんでは,手術単独では治療の効果が必ずしも高くないので,手術の前後に薬物療法や放射線療法を加えて,治療効果を高めることが検討されています。現在,この病期の患者さんに対しては,手術後の補助化学療法ほじょかがくりょうほうの有効性が証明されていますが,逆に手術前に抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)による治療(化学療法),あるいは化学療法と放射線療法の両方を行う「導入療法(ネオアジュバント療法)」も検討されています。この術前導入療法は,まだその有効性と安全性が十分に証明されているとは言い切れませんが,多くの研究を総合すると,術前と術後の治療効果はほぼ同等と考えられています。

 導入療法を行うのは,一部の臨床病期(ⅠB,ⅡA,ⅡB,ⅢA,ⅢB期)の患者さんです。手術前に抗がん剤を加えることで,完全切除率(完全に切除できる確率)の向上や顕微鏡的けんびきょうてきなわずかな転移(微小遠隔転移びしょうえんかくてんい)の制御などが期待される一方で,導入療法が効かない場合は手術のタイミングを逃してしまったり,治療による副作用により手術の延期や中止を余儀なくされるおそれもあります。また,導入療法として抗がん剤のみ(化学療法単独)がよいのか,化学療法と放射線療法の双方を組み合わせた治療(化学放射線療法)がよいのかの結論は出ていません。放射線療法も,同時に加えた化学放射線療法のほうが局所の治療効果は高いのですが,手術のリスクを増す可能性もあり長期的な有効性と安全性については,まだはっきりとした結論はありません。

 したがって,手術前に導入療法を行うべきか否かは,担当医とよく相談して決めるのがよいでしょう。さらに最近は分子標的治療薬ぶんしひょうてきちりょうやく免疫めんえきチェックポイント阻害薬そがいやくを導入療法として用いる研究も世界中で行われています。

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