第10章 生活上のアドバイス
Q89
免疫力を上げたほうがよいと聞いたのですが,そのような方法はありますか

 がん治療において患者さん自身の「免疫力」が重要であることは,最近の免疫チェックポイント阻害薬の有効性の研究成果からも明らかになりました。これまでの疫学(集団を対象に,病気の発生原因や予防などを研究する学問)研究やがん予防に関する臨床試験の結果から明らかになった,免疫力を上げる方法と,がんになりにくい生活習慣について考えてみましょう。

 まず,がん発生に最も影響するのは喫煙きつえんです。受動喫煙じゅどうきつえんを含めてタバコ煙を避けるようにしましょう。

 肥満もがんの発生の危険性を高めます。肥満によって脂肪細胞から分泌されるある種の因子が免疫力を低下させるとの報告がありますので,適切な体重を維持しましょう。適度な運動はがんの予防に有効であることが示されています。がんからからだを守る免疫のサイクルにおいても,がん抗原を認識したリンパ球が血流をとおして,がんが発生した場所に移動することが必要だと考えられています。したがって,運動によって血流を良くすることが,がんに対する免疫力の向上に重要だと考えられます。

 バランスのとれた食事,とくに野菜や果物の摂取が重要です。1日5品以上,400g以上食べることが勧められています。植物細胞は細胞壁がありますので,野菜は生で食べるよりも加熱したほうが野菜の栄養分を効率よく摂取できます。野菜に含まれるビタミンなどは(ビタミンCも含めてほかの物質と結合しているため),熱に強く,加熱しても問題ありません。疫学研究で野菜の摂取が重要であることがわかり,βカロチンなど野菜に含まれる特定の成分を摂取するグループとプラセボ(偽薬ぎやく)を比較する臨床試験がいくつも行われていますが,これらの成分の有効性を示したものはほとんどありません。喫煙者男性を対象に行われたβカロチン有無の試験では,プラセボ(偽薬)に比べてβカロチン群の肺がん発症が多いという結果でした。有効な成分も薬として服用するとかえって逆の結果にもなり得るのです。これは塩分を例に考えるとわかりやすいでしょう。塩分はからだに必要なものですが,多くとりすぎると寿命を縮めてしまいます。禁煙と適正な体型の維持,適度な運動とバランスのとれた食事と,これまでいわれているような健康的な生活が「免疫力」を高めることにつながると考えてよいでしょう。人間はリスク分散のために長い歴史の間でさまざまな食事をとるようになったと考えられます。サプリメントなどは,その成分が足りない場合以外はなるべく避けるほうがよいでしょう。

 ストレスなど精神的な面については,ストレスを「悪いもの」と考えている人は,ストレスを受けると悪影響を受けやすいですが,そうは考えず,ストレスを人生からの挑戦(チャレンジ)と前向きに考える人たちは良い影響を受けるとの報告があります。

 また,「笑い」の研究では,達成感やほっとして笑う感動の「笑い」(eudaemonicユーダモーニック,幸福感)が免疫力を高めるとされています。

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