第10章 生活上のアドバイス
Q91
髪の毛が抜けたり,肌の荒れや爪の変形が気になります。何かできることはあるでしょうか
1. 脱毛のケア

 抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)による脱毛の程度は,抗がん剤の種類や投与量,投与スケジュールによって変わります。抗がん剤で必ずしも脱毛が起こるわけではありませんので,一度担当医や看護師へ相談してみましょう。また,通常抗がん剤による脱毛は一過性で,治療終了後に再び発毛することが知られています。

 脱毛の予防の方法として,抗がん剤投与中の頭部冷却があります。しかし,日本人を対象とした研究は限られており,その効果はまだ研究段階です。そのため,わが国での実施可能な施設はきわめて限られています。そのほかの予防法として,ミノキシジル外用薬の使用を検討した研究がありますが,現在のところ脱毛の予防効果を示したものは限られています。

 また,ミノキシジル外用薬の再発毛の効果を調べた研究があります。再発毛の効果についても,現在研究が進められている段階であり,明確な効果は確立していません。そのため,抗がん剤による脱毛症へのミノキシジル外用薬は保険適用となっていません。ミノキシジル外用薬は一般医薬品として購入可能ですが,もし使用を考える場合には,担当医や看護師,薬剤師に相談し,その費用と効果を十分に検討したうえで使用しましょう。

 脱毛に備えてのウィッグ(医療用のかつら)を急いで用意しなければいけないと不安に感じる方がいるかもしれませんが,抗がん剤による治療を開始してから実際に脱毛が起こるまでしばらく時間がありますので慌てずに,脱毛の様子や程度を確認しながら用意することも可能です。また,実際にウィッグを購入する際には「自分に合った価格」や「自分に合う使用感」「自分に合うスタイル」などを考えて購入するとよいでしょう。必ずしも高額なものが良いとは限りません。

 日頃行うことができるケアとしては,洗髪があります。方法としては髪や頭皮を十分に濡らした後に,シャンプーを手のひらで十分に泡立ててから使用します。シャンプー剤は特別に新しいものを用意するよりも,これまで使用していたものを使用したほうが,皮膚トラブルのリスクを小さく抑えられます。

2. 皮膚や爪のケア

 使用する抗がん剤の種類によっては,皮膚の乾燥が現れる可能性があります。特に高齢者やアトピーのある方に多く発生する傾向があります。皮膚乾燥では容易に湿疹しっしんやひび割れを起こし,かゆみによりいてしまい皮膚炎を悪化させる可能性があります。症状によってはステロイドの軟膏なんこうにより効果がみられる場合がありますので,症状が出現したときには担当医に相談しましょう。保湿剤ほしつざいの使用が効果がある場合もありますが,アルコールを多く含む製品については使用を避けたほうがよいという調査もあります。

 スキンケアとして使用する洗浄剤については,必ずしもこれでなければならないというものはありません。これまで使用していたものを続けて使うほうが皮膚トラブルのリスクは小さく抑えられます。また,強くこすり洗いをすることは避けましょう。軟膏などが洗い切れていないと感じる場合には二度洗いするとよいです。

 入浴方法については,高温の入浴は皮膚の乾燥やかゆみを強くする場合がありますので避けたほうがよいです。

 爪の変形や周囲の炎症の発生を抑える方法として,抗がん剤投与中に手足を冷却する方法が研究されています。しかし,その効果は研究段階であり,十分に効果が示されているとは言い切れません。また,人によっては冷却により寒気や不快感を訴えられる方もいます。わが国では保険適用となっておらず,実施可能な施設も限られているため,使用に関しては担当医または看護師に相談しましょう。

 爪の変形をカモフラージュする方法として,ネイルチップを両面接着テープで爪甲に接着する方法があります。ただし,取り外しの際に無理に剥がそうとすると爪を傷つけるおそれがあるので,注意が必要です。場合によっては,お湯につけるなどしてテープを剥がしやすくすることも一案です。一方で,アクリルネイルやジェルネイルといわれる硬化性の樹脂を用いた方法は,爪が薄くなったりもろくなる可能性があるため,お勧めできません。

 爪の変色をカモフラージュする方法として,市販のネイルカラーを使用する方法があります。とくに黒褐色に変色したものについては,使用するネイルカラーをレンガ色のような赤褐色を使用するとカモフラージュしやすいです。

 日頃の爪のケアでは,爪を切るときにはネイルファイル(爪やすり)を使用することをお勧めします。爪切りを使用すると場合によっては爪が割れたり欠けたりするおそれがあります。

 一度にまとめてケアを行うのではなく,少しずつ医療者と相談しながらからだの状態に合わせてケアの方法を検討していきましょう。

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