特別講演1
座長:池田 徳彦(東京医科大学呼吸器甲状腺外科)
SP1.がんのウイルス療法の臨床開発
*藤堂 具紀
東京大学医科学研究所先端がん治療分野

 ウイルス療法は,がん細胞のみで増えることができるウイルスを感染させ,ウイルスの直接的な殺細胞作用によりがん細胞を破壊してがんの治癒を図る.実用的ながん治療用ウイルスを得るには,遺伝子工学的にウイルスゲノムを「設計」して,がん細胞ではよく増えても正常細胞では全く増えないウイルスを人工的に造ることが重要である.我々は,単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)を用い,がんの治療に安全に応用できる遺伝子組換えHSV-1の臨床開発を進めている.特に,三重変異を有する第三世代のがん治療用HSV-1(G47Δ)は,がん細胞に限ってウイルスがよく増えるように改良され,抗腫瘍免疫をより強く惹起することから,既存のがん治療用HSV-1に比べて安全性と治療効果が格段に向上した.G47Δはまた,がん幹細胞を効率良く殺す.FIM臨床試験は,再発膠芽腫を対象とし,平成21年より5年間実施された.G47Δに起因する大きな有害事象は見られず,効果を示唆する所見が複数例で観察された.特に長期的効果は,ウイルス複製による直接的な腫瘍細胞破壊よりも特異的抗腫瘍免疫の寄与が大きいことが示唆された.第2相試験は医師主導治験として平成27年に開始された.平成25年からはまた,前立腺癌や嗅神経芽細胞腫を対象とした臨床試験も開始され,平成30年からは東京医大とともに悪性胸膜中皮腫も開始した.我々はさらに,G47Δのゲノムに任意の遺伝子を組み込んで,さまざまな機能付加型のがん治療用HSV-1を開発している.IL-12発現型がん治療用HSV-1は抗腫瘍免疫を強力に惹起する期待され,悪性黒色腫を対象として医師主導治験を開始する.第二世代HSV-1の認可は欧米に先行されたが,日本でもG47Δの製造販売承認が目前に迫る.ウイルス療法ががんの治療選択肢となる時代が到来した.
第59回日本肺癌学会学術集会 2018年11月開催

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