第1章 肺がんについて
Q1
「肺がん」とはどのような病気ですか

 私たちのからだは,「細胞」という小さな単位が約60兆個集まってできています。細胞には,からだを構成するさまざまな臓器や組織を作り出すもととなる遺伝子があります。細胞はもともと精子と卵子が合体した1個の受精卵(細胞)だったのですが,やがて分裂や増殖,分化してからだを構成する臓器を形作ります。細胞は一生を通じて,腸管の細胞,血液細胞や毛髪など,からだのさまざまな部分で,徐々に新しい細胞に入れ替わるように調節されています。この一連の仕組みは,遺伝子によって制御されています。

 遺伝子には,車のブレーキのような働きをするものや,アクセルのような働きをするものなどがあります。遺伝子に,タバコなど発がん性のある物質や何らかの原因によって傷がつくと,無制限に増えたり,ほかの場所に移動してその場所で増える(転移てんいがん細胞は,周りの正常な細胞を押しのけるように増殖します。がん細胞はバラバラになり,血管やリンパ管の中に入って,全身に回り,あちこちの部分に移り,その場所で新たながん細胞のかたまりを作って,さらに増殖します。これを「転移」といいます。肺がんの場合,リンパ節,脳,肝臓,副腎,骨などに転移を起こしやすいことがわかっています。)などの性質をもつ細胞が発生します。一方で,からだには遺伝子の傷を修復したり,免疫のシステムによって異常な細胞を排除する仕組みが存在します。無制限に増える細胞が,さらに遺伝子の変化を起こすことで,からだの監視の仕組みをかいくぐって何年もかけてさらに数を増やし,からだに害を与える細胞のかたまり(腫瘍しゅよう)を形成します。これが「がん」です。

 細胞の由来によって,「がん」は肺,消化管,乳腺などの上皮細胞から発生する悪性腫瘍を指し,筋肉や骨,血液の細胞に由来する悪性腫瘍は「肉腫」,「白血病」,「リンパ腫」などと呼ばれ,区別されています。

 肺は,からだに酸素を取り入れ,からだ中から血液を介して運ばれた二酸化炭素を排出する重要な役割を担っています。肺がんとは,肺を構成する空気の通り道である「気管支」やガス交換の場である「肺胞」の細胞が何らかの原因でがん化したものです。

がんの発生要因

 肺がんは喫煙との関連が大きく,タバコを吸う人の肺がんになるリスクはタバコを吸わない人に比べて男性で4.4倍,女性で2.8倍と高くなります。また,タバコを吸わない人でも,周囲のタバコの煙を吸うこと(受動喫煙)によって発症するリスクが高くなることもわかっています。タバコ以外の要因として,職業や環境による要因〔石綿(アスベスト),ラドン,ヒ素,クロム,PM2.5など〕や慢性閉塞性肺疾患まんせいへいそくせいはいしっかん(COPD),間質性肺炎かんしつせいはいえん,肺がんの家族歴や既往歴などがリスクを高めると考えられています。

 がんの原因になる遺伝子の傷は,さまざまな外的な要因や,もともとのひとりひとりのなりやすさによって起こると考えられています。しかし,いきなりがんになるのではなく,何段階かの遺伝子変化を経て,がん化するとされています。正常な細胞が,前がん病変からしだいに悪性化してがんに変わり,転移のしやすさも遺伝子変化によって影響を受けます。遺伝性腫瘍のように生まれつき遺伝子変化がある場合は,もともと遺伝子変化をもっているため,より早い段階でがんになりやすく,肺以外の臓器でもがんが起こりやすくなります。

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