第3章 肺がんと診断されたら,まず知って欲しいこと
Q22
禁煙はしたほうがよいでしょうか

 さっそく禁煙に踏み切りましょう。タバコは自分自身だけでなく,周囲の人にも影響します。喫煙を継続した場合に肺がんに対する薬物療法の効果が落ちることが知られており,喫煙者では全身化学療法中や肺癌手術後の合併症が多くなります。

A
1.タバコの害

 タバコから発生する煙は,喫煙者が吸入する「しゅりゅうえん」,呼気こきとして吐き出される「しゅつえん」,タバコの先端から発生する「ふくりゅうえん」の3種類からなります。主流煙のごく一部は体内に入りますが,ほとんどが呼出煙として周囲の空気を汚染します。喫煙後45分くらいは喫煙者の呼気に有害物質が含まれます。喫煙者の周囲にいる人たちは,この呼出煙と副流煙を「受動喫煙」することになります。タバコ煙の有害物質には,約5,300種類の化学物質,約70種類の発がん物質が含まれています。世界保健機関(WHO)はタバコが原因で1年間に800万人以上が死亡すると報告しています。700万人は自身の喫煙で,120万人は受動じゅどう喫煙きつえんが原因で命を落としているのです。喫煙は自分自身のみならず,周りの人々を傷つけてしまうのです。

 現在がんは死因の第1位で,約30%を占めます。肺がんはがん死亡の第1位で約20%です。20世紀前半からタバコの消費量が増えるにつれ,20~30年遅れて肺がんで亡くなる方が増加してきました。肺がんの原因はタバコだけではありませんが,喫煙者だけでなく,受動喫煙によっても肺がんになる可能性が高くなることが明らかとなっています。

2.喫煙と肺がんの治療

 肺がんの治療においては,多くの呼吸器外科医はタバコをやめない患者さんの手術はしません。肺炎など手術後の合併症が増えるからです。化学療法や免疫療法においても喫煙を続けた場合は効果があがりにくくなります。放射線療法を行う場合も喫煙患者さんは命に関わる肺障害の危険性が増えてきます。禁煙をしない患者さんは,再発やほかのがんの発生も増加してしまいます。

3.禁煙にむけて

 あなたは,なぜタバコを吸っているのでしょうか? 実は,喫煙きつえんという行為自体が,「ニコチンぞんしょう」という病気なのです。脳の中のニコチン受容体がニコチンを求めて喫煙をしています。ニコチン依存症は保険診療で治療が可能ですので,ご自身で禁煙が難しい場合は,「禁煙外来」を受診しましょう。

 なお,新型タバコとも言われる電気加熱式タバコにはニコチンが含まれており,使用者はニコチン依存症となります。紙巻きタバコに比べるとニコチン以外の有害物質の量が減る可能性はありますが,実際にどのような健康被害が生じるかはわかっておらず,肺がんになる可能性や手術後の合併症を減らせるかは不明です。

 喫煙の最大の問題は,人生を楽しめなくなることです。早期死亡や経済的な困窮のみならず,喫煙のせつ的(一時的)快楽が人生の貴重な喜びを上回ってしまうのです。勇気を出して禁煙に踏み切りましょう。

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