第5章 症状がある場合,転移がある場合の治療
Q55
胸水がたまっているといわれました。どのような症状が出てくるのですか。治療法はありますか〜がん性胸膜炎〜

 肺がんが胸腔きょうくう(胸壁と肺の間のスペース,参照)にひろがった結果,きょうすいがたまった状態を「がんせい胸膜炎きょうまくえん」といいます。

 両方の肺に同時に起こることはまれで,通常,左右どちらかの肺に生じます。胸水の量が増えると肺を圧迫してしまい息苦しさの原因となります。さらに大量になると心臓を圧迫してしまい,心不全の原因になりかねません。

 胸水は胸部X線やCTで確認します。胸水に対する治療はたまっている量と症状の有無で決まります。量が少なく,症状が比較的軽ければ,そのまま薬物療法を行う場合もあります。ある程度の量がたまっていて,薬物療法の妨げになる場合には,薬物療法前に一時的に注射針などを用いて体の外へ胸水を排出させます。量が多く,症状が強い場合は,胸腔ドレナージ(下記1)といって,胸腔にくだを入れ,胸水を排出する治療を行います。胸水の治療後ただちに薬物療法を行うこともありますが,管を抜き去る前に,今後胸水がたまらないようにする胸膜きょうまく癒着術ゆちゃくじゅつが行われることもあります。

1.胸腔ドレナージ

 入院して行う治療です。胸水を体の外へ排出するための管を局所麻酔下で挿入し,排液専用容器(ドレーンバッグ)へ接続して,持続的に排出する処置です。管を留置している期間は胸水の量や排液の状況によりますが,おおむね数日から数週間程度です。管を入れて数日間は挿入部の痛みがあり,鎮痛剤が必要になることがありますが,時間が経過すると落ち着き,トイレに行ったり,病院内を歩いたりすることができます。管を入れている期間は入浴できませんが,手伝ってもらって髪の毛を洗うことができます。体は拭くことで清潔を保つことができます。胸水がなくなり肺がひろがった後に管を抜きますが,その前に胸膜癒着術(下記2)を行うことがあります。

 胸腔ドレナージを行っても,肺が十分にひろがらない場合があります。頻回に胸水を抜くと,体力を消耗するだけではなく,細菌が胸の中に入る危険性も高くなります。この場合,チューブを体内に埋め込み,胸水をお腹などに逃がす方法がとられることもあります。

2.胸膜癒着術

 胸水が再び貯留しないように,胸腔ドレナージを行っている管から薬剤を直接胸腔内に注入して行うのが胸膜癒着術です。薬剤を用いると壁側胸膜と臓側胸膜に人工的な炎症が生じます。その結果,胸膜同士が癒着し,胸水がたまる隙間をなくす治療です。薬剤には,以前はOKオーケー-432という細菌を無毒化したものや,抗生物質のひとつである塩酸ミノサイクリンが広く使われてきました。最近は,タルクがこれに代わってきています。薬剤を入れた後に痛みや熱が出ることがありますが,解熱剤や鎮痛剤で症状が改善します。癒着がうまくいかない場合は,再度,治療が必要になることもあります。

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