第3章 肺がんと診断されたらまず知って欲しいこと
Q21
禁煙はしたほうがよいでしょうか

 あなたは,なぜタバコを吸っているのでしょうか?実は,喫煙きつえんという行為自体が,「ニコチン依存症いぞんしょう」という精神疾患(こころの病気)です。脳の中のニコチン受容体がニコチンを求めて喫煙をしています。ニコチン依存症は保険診療で治療が可能ですので,ご自身で禁煙が難しい場合は,「禁煙外来」を受診しましょう。

 タバコから発生する煙は,喫煙者が吸入する「主流煙しゅりゅうえん」,呼気こきとして吐き出される「呼出煙こしゅつえん」,タバコの先端から発生する「副流煙ふくりゅうえん」の3種類からなります。主流煙のごく一部は体内に入りますが,ほとんどが呼出煙として周囲の空気を汚染します。喫煙後45分くらいは喫煙者の呼気に有害物質が含まれます。タバコ煙の有害物質には,約250種類の有害化学物質,約70種類の発がん物質が含まれています。これら有害物質に安全な量(閾値いきち)はありません。世界保健機関(WHO)はタバコが原因で1年間に800万人以上が死亡すると報告しています。700万人は自身の喫煙で,120万人は受動喫煙じゅどうきつえんが原因で命を落としているのです。喫煙は自分自身のみならず,周りの人々を傷つけ,死にいたらせる行為であることをよく認識してください。

 肺がんの原因のほとんどが喫煙と受動喫煙です。1900年当時はがんで亡くなる方はわずか4%程度で,そのうち肺がんが占める割合も少なかったのです。1916年の米国の調査では,肺がんは全がんの0.5%未満でした。肺がんという病気は,100年前はきわめてまれだったことがわかります。20世紀前半からタバコの消費量が増えるにつれ,20〜30年遅れて肺がんで亡くなる方が増加してきました。フィルター付きのタバコが普及すると,受動喫煙でも発生する腺がんが増加したのです。タバコの消費が減ると,20〜30年遅れて肺がんが減ってきます。

 肺がんの治療においては,多くの呼吸器外科医はタバコをやめない患者さんの手術はしません。肺炎や心筋梗塞などの合併症が増えるからです。化学療法や免疫療法においても喫煙を続けた場合は効果が悪くなります。放射線療法を行う場合も喫煙患者さんは命に関わる肺障害の危険性が増えてきます。禁煙をしない患者さんは,再発やほかのがんの発生も増加してしまいます。

 喫煙の最大の問題は,人生を楽しめなくなることです。早期死亡や経済的な困窮のみならず,喫煙の刹那せつな的(一時的)快楽が人生の貴重な喜びを上回ってしまうのです。勇気を出して禁煙に踏み切りましょう。

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