第8章 悪性胸膜中皮腫
Q80
診断はどのように行われるのでしょうか

 悪性胸膜中皮腫は,初期は無症状であることが多いですが,進行すると胸の痛みや息苦しさ,せきなどの一般的な症状が出現します。このような一般的な胸の症状があるときにまず行われる検査は胸部X線です。自覚症状はなく検診の胸部X線で異常を指摘され悪性胸膜中皮腫が疑われることも多いです。自覚症状あるいはX線異常がある場合,まずアスベスト曝露歴ばくろれきの問診が行われます。

 胸部X線で異常を指摘された場合,続いて行われる検査は胸部CT検査です。CTで胸水貯留きょうすいちょりゅう胸膜肥厚きょうまくひこう胸膜腫瘍きょうまくしゅようを認め,悪性胸膜中皮腫が疑われた場合,診断をはっきりさせるための病理診断が行われます。病理診断とは病変の一部を採取し顕微鏡けんびきょうで細胞や組織を確認することです。

 悪性胸膜中皮腫は多くの場合で胸水きょうすいがたまっています。このような場合,まずは局所麻酔下に胸水を採取し,胸水中の細胞を調べます。これを「胸水細胞診きょうすいさいぼうしん」といいます。胸水検査によって悪性胸膜中皮腫以外の悪性疾患や胸膜の感染症の診断がなされます。

 胸水細胞診のみで診断が確定する場合もありますが,悪性胸膜中皮腫の診断は熟練した病理医でも難しいことがあり,また,良性疾患との鑑別が難しいこともあります。そのため,胸水細胞診で中皮腫が疑われた場合,胸膜の一部を採取する「胸膜生検きょうまくせいけん」が必要となることが多いです。胸膜生検とは太さが1cm程度の胸腔鏡きょうくうきょうと呼ばれる内視鏡を胸に入れて,病変部分を観察し,胸膜の一部を採取することで,局所麻酔または全身麻酔下で行われます。胸腔鏡以外の生検方法として,CTや超音波で病変を確認しながら皮膚から針を刺す経皮的針生検けいひてきはりせいけんがあります。

 採取された胸膜を顕微鏡で観察することにより,悪性胸膜中皮腫の確定診断を行い,さらにサブタイプ(悪性胸膜中皮腫の組織型)を決定します。サブタイプはWHO分類という国際的な規約に基づいて,顕微鏡でみた細胞の型や特徴により「上皮型じょうひがた」「肉腫型にくしゅがた」「二相型にそうがた(上皮型と肉腫型が混在)」の3つに分類されます。組織型により悪性の程度が大きく異なるため,その後の治療方針,治療方法,生存期間に影響します。

 このように,悪性胸膜中皮腫の診断には,患者さんの症状やアスベスト曝露歴の問診,検査,胸膜生検を行う臨床医(呼吸器内科医,呼吸器外科医),画像を読影する放射線科医,病理診断を行う病理医など,複数の専門医が携わっています。

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