第8章 悪性胸膜中皮腫
Q79
アスベストが原因なのでしょうか

 悪性胸膜中皮腫の原因はアスベスト(石綿せきめん)と考えられています。アスベストと悪性胸膜中皮腫の発生の因果関係は,実際にアスベスト曝露歴ばくろれきと病気の発生の関連を調査した研究から明らかです。アスベスト曝露によって起こる病気を「アスベスト関連疾患」と呼びます。アスベストの曝露量や曝露期間によって,アスベスト肺やびまん性胸膜肥厚せいきょうまくひこうなどの良性疾患や,肺がんや悪性胸膜中皮腫などの悪性疾患が発生します。とくに悪性胸膜中皮腫では,初めてアスベストに曝露したときから実際に発症するまでに30〜40年前後の長い期間があります。アスベスト肺,胸膜プラークなどの画像所見がある方は,のちに中皮腫が発生するリスクがあります。

 アスベストとは,天然の繊維状鉱物せんいじょうこうぶつで,クリソタイル(白石綿しろせきめん),クロシドライト(青石綿あおせきめん),アモサイト(茶石綿ちゃせきめん),アクチノライト,アンソフィライト,トレモライトの6種類が商業用に生産されてきました。アスベストは細長い繊維となって鼻や口から吸入され,気管支を通過して肺内の肺胞はいほうという小さな袋まで運ばれます。一度吸い込まれるといつまでも肺内にとどまり,一部は肺胞を貫いて胸膜に到達します。そして,長い年月をかけて生体内でがん化を引き起こすと考えられています。

 アスベスト鉱山や製造工場に加え,造船所,車両製造,建築,水道工事などの職場における曝露もあります。さらに,アスベストが付着した作業着の家庭内での洗濯,石綿製品製造業の周辺住民においても微量ながらアスベストに曝露される可能性があります。

 アスベストは耐熱性・絶縁性・断熱性・防音性に富み,かつ安価なため,戦後の経済発展とともに輸入と使用が年々増加しました。用途は,建築材料・断熱剤・吹き付け・ブレーキライニング・パッキンなどさまざまな業種に及びます。ですから,仕事や生活環境でアスベスト曝露がはっきりしなくても,知らないうちにアスベストを吸入している可能性は十分にあります。

 アスベストの発がん性が明らかになり,欧米では製造と使用が禁止となりました。わが国でも1995年にとくに発がん性の強いアモサイト,クロシドライトが輸入・製造禁止となり,2006年に労働安全衛生法が改正され,2012年にようやくすべてのアスベストが全面禁止となりました。禁止の措置がなされても,当面はこれまでのアスベスト曝露によって,わが国では悪性胸膜中皮腫は今後も増え続け,2030〜40年頃にピークを迎えるといわれています。

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