第8章 悪性胸膜中皮腫
Q78
悪性胸膜中皮腫とはどのような病気ですか

 人間の胸は,胸骨きょうこつ肋骨ろっこつ,筋肉などによってできた鳥かごのような固い胸壁きょうへきの中に左右の肺とその間にある縦隔じゅうかくによって構成されます。縦隔には心臓や大血管,気管,食道などの臓器がつまっています。肺は,肺門はいもんという場所で気管支および血管とつながっています。

 胸膜きょうまくは,肺の表面をおおう袋状の膜で,肺の表面をおおう部分を臓側胸膜ぞうそくきょうまく,縦隔・胸壁・横隔膜おうかくまくをおおう部分を壁側胸膜へきそくきょうまくと呼びます(肺の解剖参照)。悪性胸膜中皮腫あくせいきょうまくちゅうひしゅとはこの胸膜から発生する悪性腫瘍で,比較的まれな腫瘍です。正常の胸膜は食品用ラップ程度の厚さ(数十μmマイクロメートル)ですが,がん化すると数 mm以上に肥厚します。また,悪性胸膜中皮腫は「上皮型じょうひがた」,「肉腫型にくしゅがた」,その両方が混ざって存在する「二相型にそうがた」の3種類に分類されます。

 壁側胸膜から発生した悪性胸膜中皮腫は胸膜全体にひろがり,最初は袋状の胸膜の中で増殖します(ⅠA期)。次に,隣接する横隔膜,縦隔脂肪,心膜や限局性に胸壁に浸潤します(ⅠB期)。さらに同側の胸腔内きょうくうないリンパせつに転移します(Ⅱ期,ⅢA期)。やがて,広範囲に胸壁に浸潤,心臓・大血管・気管・食道や腹腔内に進展,また対側の胸腔内リンパ節に転移します(ⅢB期)。やがて遠隔臓器に転移します(Ⅳ期)。

 初期では症状はとくになく,検診などで胸水として指摘されることがほとんどです。進行すると胸膜の腫瘍が大きくなったり胸水が増えたりすることによる胸の痛みや息苦しさ,せきなどの症状が出現します。しかし,これらの症状は悪性胸膜中皮腫にかぎった症状ではなく,ほかの病気でもよくみられるため,診断に時間がかかることも少なくありません。さらに進行し,ほかの臓器に転移した場合は転移した先の臓器によってさまざまな症状が起こります。

 なお,悪性胸膜中皮腫はアスベスト(石綿せきめん)が原因である場合が多く,アスベスト曝露ばくろのある方は国の救済制度が適用されます。詳細はQ82を参照してください。

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