第9章 胸腺腫瘍(胸腺腫・胸腺がん)
Q83
胸腺腫,胸腺がんとはどのような病気ですか

 右と左の肺の間で食道や心臓などが収まっているスペースを縦隔じゅうかくと呼び,縦隔に発生する腫瘍を「縦隔腫瘍じゅうかくしゅよう」と呼びます。図のように縦隔の前方には胸骨があり,その裏側の部分を前縦隔と呼びます。前縦隔には免疫に重要な働きをする「胸腺きょうせん」という臓器があります。胸腺は20歳代以降加齢とともに小さくなっていきますが,この胸腺を構成する胸腺上皮から発生する腫瘍を「胸腺上皮性腫瘍きょうせんじょうひせいしゅよう」と呼びます。

 胸腺上皮性腫瘍は,その病理組織の特徴から胸腺腫きょうせんしゅ胸腺きょうせんがん,胸腺神経内分泌腫瘍きょうせんしんけいないぶんぴしゅようの3つに分類されます。

 「胸腺腫」は,細胞は分裂・増加しますが悪性腫瘍(がん)に分類されません。しかし,進行すれば周囲にひろがり(浸潤しんじゅん),胸膜・心膜に散らばる(播種はしゅ)ことがあり,がんのようなふるまいをする場合があります。

 「胸腺がん」は,細胞に異型が認められる悪性腫瘍であり,組織型としては扁平上皮へんぺいじょうひがんが多く,進行すれば周囲への浸潤やリンパ節や他臓器へ転移します。

 胸腺腫・胸腺がんは30歳以上に発生することが多く,男女差を認めません。胸腺腫の罹患率りかんりつ(かかる人の割合)は人口10万人あたり0.44〜0.68人とまれな腫瘍で,胸腺がんは胸腺腫よりさらに罹患率が低く「希少きしょうがん」に相当します。胸腺腫・胸腺がんは前縦隔に存在する腫瘍なので,正面のX線写真では見つかりにくく,大きな腫瘍になって初めて見つかることが多く,そのきっかけはあお向けで寝た場合の息苦しさや,検診での胸の異常な影などです。胸腺腫には,まぶたが開きにくくなったり手や足の力が入らなくなる重症筋無力症じゅうしょうきんむりょくしょう(16〜24%)や貧血の一種である赤芽球癆せきがきゅうろう(1.5〜2.4%)という自己免疫疾患が合併することが知られており,これらの病気がきっかけで胸腺腫が見つかることもあります。

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