Ⅰ.診 断

2

診断方法

文献検索と採択

文献検索期間
  • 1990年1月1日から2017年12月31日
文献検索方法
  • キーワード:malignant pleural mesothelioma/diagnosis AND(biopsy OR cytology OR thoracocentesis OR thoracoscopy OR video assisted thoracoscopic surgery OR sensitivity and specificity)
  • 委員がPubMedを用いて検索し,各CQにおいて採用を検討した。
採択方法
  • 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,第Ⅱ相試験を中心に抽出した。なお,論文化されていない重要な学会報告は上記以外でも採用した。
  • これ以前の文献でも,今回の改訂に際し重要と考えられたものについては採用としている。

CQ3.

末梢血中のマーカーによる中皮腫の確定診断は勧められるか?

推 奨
末梢血中のマーカー測定をもって,中皮腫の確定診断を行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:100%〕

解 説

 血清の可溶性メソテリン関連ペプチド(SMRP)値について16研究から中皮腫1,026例および対照症例を含む4,491例のメタアナリシスで,2.0nmol/Lをカットオフ値とすると,感度は19~68%,特異度は88~100%であった。Ⅰ・Ⅱ期の中皮腫とハイリスク群でのROC解析では,AUC=0.77(95%CI:0.73-0.8)であった1)2)。中皮腫を疑う症例で高い特異度のレベルで血清メソテリンが陽性であった場合には,次の診断手順に進むことが強く推奨される。しかし,感度が低いことから,早期診断での有用性は限られる。SMRPとオステオポンチンを前方視的に解析した報告では,血清SMRPの変化と化学療法による腫瘍縮小には有意な関連が認められたが,オステオポンチンでは認められなかった2)~4)。血清,胸水中のバイオマーカーだけで中皮腫の診断を行うことは難しい。

 以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 0% 0% 0% 100%
(11/11)

CQ4.

胸水中の腫瘍マーカーやヒアルロン酸の測定は中皮腫の確定診断に勧められるか?

推 奨
胸水中の腫瘍マーカーやヒアルロン酸の測定をもって,中皮腫の確定診断を行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:100%〕

解 説

 中皮腫50例を含む334例の日本人で胸水ヒアルロン酸について行われた検討では,ROC解析のAUC=0.832(95%CI:0.765-0.898)で,100,000ng/mLをカットオフ値としたときの感度は44%,特異度は96.5%であった5)。感度が低いことから,早期診断での有用性は限られるが,中皮腫を疑う症例で高い特異度のレベルで胸水ヒアルロン酸が陽性であった場合には,次の診断手順に進むことが推奨される。

 胸水中のバイオマーカーだけで中皮腫の診断を行うことは難しい6)。中皮腫を疑う症例で高い特異度のレベルで胸水メソテリン,ヒアルロン酸が高値であった場合には,次の診断手順に進むことが推奨される。

 以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 0% 0% 0% 100%
(11/11)

CQ5.

中皮腫を診断するための検体は,どのような検査手技での胸膜の採取が勧められるか?

推 奨
  • a.
  • 可能なかぎり全身麻酔胸腔鏡下胸膜生検を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:91%〕

  • b.
  • PS不良例で腫瘤形成のある中皮腫症例においては,CTガイド下針生検も行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:D,合意率:64%〕

解 説

 胸膜中皮腫の確定診断のためには胸膜生検によって確実な組織診断を行い,組織亜型や病変の浸潤度まで診断をつけることが望ましい。

 胸膜生検の方法としては,経皮的針生検(盲目的生検,CTや超音波による画像ガイド下生検),内科的(局所麻酔下)胸腔鏡下生検,外科的(胸腔鏡下,開胸)生検などがある。生検のGold standardは胸腔鏡とされ,診断率は95%以上と報告されている7)8)

 生検方法の違いによる確定診断率を比較した報告9)では,Abrams針生検68%,胸腔鏡下生検87%,開胸生検91%であった。

 Abrams針生検とCTガイド下針生検のランダム化比較試験10)では,前者のsensitivity 47%,negative predictive value 44%に対して後者ではsensitivity 87%,negative predictive value 80%と後者が有意に良好な結果であった。

 病理亜型の診断において,内科的胸腔鏡下生検を行った胸膜中皮腫95例の報告11)では,上皮型の診断でsensitivity 94%,specificity 20%,positive predictive value 86%,negative predictive value 37%であり,二相型ではsensitivity 20%,specificity 98%,positive predictive value 75%,negative predictive value 87%であった。このため,内科的胸腔鏡下生検は胸膜中皮腫の診断には有用であるが,亜型までは診断できないとされた。

 以上より,治療可能な症例においては組織亜型情報は必須であるため,全身麻酔可能症例においては全身麻酔下胸腔鏡生検が推奨される。エビデンスの強さはD,総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。また,推奨bについてはエビデンスの強さはD,総合的評価では弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
a 91%
(10/11)
9%
(1/11)
0% 0% 0%
b 36%
(4/11)
64%
(7/11)
0% 0% 0%

CQ6.

どのような画像所見のときに中皮腫を疑うのか?

推 奨
胸水貯留と胸膜肥厚が中皮腫を疑う画像所見である。
解 説

 胸膜中皮腫において胸水貯留と胸膜肥厚が高頻度に認められる所見である12)13)。早期の中皮腫では,胸水貯留のみか,胸膜肥厚はあっても軽微であり,縦隔側や葉間の胸膜不整像に注目する必要がある14)。典型例では,①肺を取り囲む全周性の胸膜肥厚(pleural rind)がみられる。さらに,②結節状の胸膜肥厚,③厚さが1cmを越える胸膜肥厚,④縦隔胸膜の肥厚を加えた4つの所見が胸膜病変の良悪性の鑑別に重要であり,感度はそれぞれ41%,51%,36%,56%であり,特異度はそれぞれ100%,94%,94%,88%と報告されている15)。また,これらの1つないし複数の所見がある場合,悪性病変である可能性が極めて高い16)17)。しかし,胸膜中皮腫と転移性胸膜腫瘍の画像所見にはオーバーラップがみられ,鑑別は困難である。中皮腫は,単発や多発の胸膜腫瘤,縦隔腫瘍や胸壁腫瘍類似の所見を呈することもある。

CQ7.

中皮腫を疑って胸腔鏡下で生検を行う場合の注意点は何か?

推 奨
  • a.
  • One portでの胸腔鏡を推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:100%〕

  • b.
  • 切除可能症例では後日の皮膚切開線上にポートを設定することを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:100%〕

  • c.
  • 十分な大きさの胸膜を採取することを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:100%〕

  • d.
  • 明らかな腫瘤を形成していない場合は胸膜全層の採取を推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:100%〕

解 説

 播種の発生率は,画像ガイド下針生検4%,外科的生検22%であり,外科的生検による播種発生率の高さが指摘された18)。このため,外科的生検を行う場合は,その必要性を十分に検討し,小切開で行うことが望ましい。

 採取組織径10mm以上では診断率が75%であったが,10mm未満では8%であり,生検標本の大きさは確定診断には重要な要素であるとされた19)

 以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
a 100%
(11/11)
0% 0% 0% 0%
b 100%
(11/11)
0% 0% 0% 0%
c 100%
(11/11)
0% 0% 0% 0%
d 100%
(11/11)
0% 0% 0% 0%
引用文献
1)
Hollevoet K, Reitsma JB, Creaney J, et al. Serum mesothelin for diagnosing malignant pleural mesothelioma: an individual patient data meta-analysis. J Clin Oncol. 2012; 30(13): 1541-9.
2)
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3)
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4)
Pass HI, Lott D, Lonardo F, et al. Asbestos exposure, pleural mesothelioma, and serum osteopontin levels. N Engl J Med. 2005; 353(15): 1564-73.
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Fujimoto N, Gemba K, Asano M, et al. Hyaluronic acid in the pleural fluid of patients with malignant pleural mesothelioma. Respir Investig. 2013; 51(2): 92-7.
6)
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