Ⅱ.治 療

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再発腫瘍の治療

文献検索と採択

文献検索期間
  • 1980年1月1日から2017年12月31日
文献検索方法
  • キーワード:胸腺腫,胸腺癌,再発,治療,予後
  • 医学図書館協会の協力を得て詳細な検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
採択方法
  • 胸腺上皮性腫瘍の再発腫瘍に対する治療に関する文献に限り,症例報告は除外した。
  • 上記条件以外のもので,必要と判断したものは採用した。

CQ24.

切除可能な再発胸腺上皮性腫瘍に対して,外科切除を含めた集学的治療は勧められるか?

推 奨
外科切除を含めた集学的治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:94%〕

解 説

 胸腺上皮性腫瘍再発に対して外科治療を受けた患者に対する集学的治療に関する比較対象試験は存在しない。48例の再発胸腺腫に対し25例の外科切除を行い単変量解析の結果,化学療法の追加が外科治療後の生存率を改善することができた(多変量解析では,この効果は消失した)が,無増悪生存期間は改善しなかったとの報告がある1)。胸腺癌に関しては,手術のみでは生存率は改善せず,化学療法が(P=0.0295)再発後の無増悪生存期間延長に寄与した1)。胸膜再発胸腺上皮性腫瘍に対して,外科治療兼胸腔内温熱化学療法の報告2)3)がある。前者では14例の90日死亡率は2.5%,周術期合併症は24%に発症した。5年,10年,15年生存率はそれぞれ67%,56%,28%であり,後者では周術期死亡はなく,合併症は26%(化学療法関連合併症16%)に発症し,生存期間の中央値は63カ月であった。症例数は少ないが勧められる治療法と考える。

 以上より,切除可能な再発巣に対しては,外科切除を含めた集学的治療を行うことを勧める。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう推奨できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸腺腫瘍小委員会/実施年度:2018年
行うことを推奨 行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを推奨
94%
(15/16)
6%
(1/16)
0% 0% 0%

CQ25.

切除可能な再発胸腺上皮性腫瘍に対して,外科切除は勧められるか?

推 奨
外科切除は行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C,合意率:75%〕

解 説

 再発胸腺上皮性腫瘍の治療に関する国内外のデータベース研究は行われているが,前向き研究は存在しない。1990年代の国内データベースにおいて胸腺上皮性腫瘍完全切除後の病期別再発率はⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ期でそれぞれ0.9%,4.1%,28.4%,34.3%であった4)。ITMIGのデータベースにおいて,WHO分類別再発率はtype A,AB,B1,B2,B3でそれぞれ4%,2%,8%,13%,14%と報告されている5)。JARTのデータベースでは胸腺上皮性腫瘍の術後無再発期間は2.7±2.3年,術後再発部位・頻度は胸膜,肺,局所,遠隔転移(脳,骨,肝臓)がそれぞれ54.1%,21%,17.3%,11.3%であった6)。一方,胸腺癌は同じくJARTデータベースでは完全切除後の再発率は39.1%であり,再発部位・頻度は局所再発,肺転移がそれぞれ41%,33%であった7)

 術後再発治療は外科治療と非外科治療に大別される。胸腺上皮性腫瘍術後再発に対し外科的治療は40%に施行されている6)ものの,JARTデータベース研究やメタアナリシスによる外科治療・非外科治療に対する後ろ向き比較研究が存在し外科治療の優位性が報告されているが,対象症例の背景はそれぞれ異なる6)8)。外科治療成績は,5年および10年生存率がそれぞれ58.0~82.7%,56.0~68.2%であり,非外科治療成績は43.5~68.2%,23.4~37.0%であった。後ろ向き研究では外科治療の全生存率に対する有効性が示唆される1)6)8)9)。また,非手術治療に対する手術治療の生存率に関するハザード比は,5年/10年で0.34(0.21-0.48),0.47(0.24-0.71)であり,手術群が良好であった8)。再発胸腺上皮性腫瘍に対する治療法による長期予後の比較研究では,外科治療のみが再発胸腺上皮性腫瘍における生存期間と無再発生存期間1),完全切除のみが10)生存期間に寄与した。Ⅳa期症例を含め再発胸腺上皮性腫瘍(胸膜・心膜播種症例)に対し,胸膜肺全摘術が良好な長期生存を提供する可能性があるとの報告もあるが,再発症例は8例と少なく今後の検討が待たれる11)。一方,再発胸腺上皮性腫瘍に対する完全切除が生命予後を改善したとの報告12)13)はみられるが,不完全切除(debulking surgery)と非外科治療を直接比較した報告はみられない。

 以上より,切除可能な再発巣に対する外科切除は行うよう提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸腺腫瘍小委員会/実施年度:2018年
行うことを推奨 行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを推奨
25%
(4/16)
75%
(12/16)
0% 0% 0%
引用文献
1)
Hamaji M, Allen MS, Cassivi SD, et al. The role of surgical management in recurrent thymic tumors. Ann Thorac Surg. 2012; 94(1): 247-54.
2)
Yellin A, Simansky DA, Ben-Avi R, et al. Resection and heated pleural chemoperfusion in patients with thymic epithelial malignant disease and pleural spread: a single-institution experience. J Thorac Cardiovasc Surg. 2013; 145(1): 83-7.
3)
Maury JM, Girard N, Tabutin M, et al. Intra-Thoracic Chemo-Hyperthermia for pleural recurrence of thymoma. Lung Cancer. 2017; 108: 1-6.
4)
Kondo K, Monden Y. Therapy for thymic epithelial tumors: a clinical study of 1,320 patients from Japan. Ann Thorac Surg. 2003; 76(3): 878-84.
5)
Weis CA, Yao X, Deng Y, et al; Contributors to the ITMIG Retrospective Database. The impact of thymoma histotype on prognosis in a worldwide database. J Thorac Oncol. 2015; 10(2): 367-72.
6)
Mizuno T, Okumura M, Asamura H, et al; Japanese Association for Research on Thymus. Surgical management of recurrent thymic epithelial tumors: a retrospective analysis based on the Japanese nationwide database. J Thorac Oncol. 2015; 10(1): 199-205.
7)
Hishida T, Nomura S, Yano M, et al; Japanese Association for Research on the Thymus(JART). Long-term outcome and prognostic factors of surgically treated thymic carcinoma: results of 306 cases from a Japanese nationwide database study. Eur J Cardiothorac Surg. 2016; 49(3): 835-41.
8)
Hamaji M, Ali SO, Burt BM. A meta-analysis of surgical versus nonsurgical management of recurrent thymoma. Ann Thorac Surg. 2014; 98(2): 748-55.
9)
Bott MJ, Wang H, Travis W, et al. Management and outcomes of relapse after treatment for thymoma and thymic carcinoma. Ann Thorac Surg. 2011; 92(6): 1984-91.
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Fiorelli A, D’Andrilli A, Vanni C, et al. Iterative surgical treatment for repeated recurrences after complete resection of thymic tumors. Ann Thorac Surg. 2017; 103(2): 422-31.
11)
Fabre D, Fadel E, Mussot S, et al. Long-term outcome of pleuropneumonectomy for Masaoka stageⅣa thymoma. Eur J Cardiothorac Surg. 2011; 39(5): e133-8.
12)
Marulli G, Margaritora S, Lucchi M, et al. Surgical treatment of recurrent thymoma: is it worthwhile? Eur J Cardiothorac Surg. 2016; 49(1): 327-32.
13)
Bae MK, Byun CS, Lee CY, et al. Clinical outcomes and prognosis of recurrent thymoma management. J Thorac Oncol. 2012; 7(8): 1304-14.
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