Ⅱ.治 療

6

偶発的に発見された小さな前縦隔病変への対応

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2011年1月1日から2019年12月31日
文献検索方法
  • 国際医学情報センターの協力を得て,詳細な検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2020年4月30日)
#1 Thymoma OR Thymic carcinoma OR Thymic cancer OR Thymic epithelial tumor OR Thymic epithelial neoplasm OR Thymic neuroendocrine tumor OR Thymic neuroendocrine carcinoma OR Thymic nodule OR Thymic tumor OR Anterior mediastinal tumor OR Thymic mass
#2 Small nodule OR Small tumor OR Small mass
#3 Asymptomatic OR No symptom OR Incidental OR Accidental OR Screening
#4 Natural history OR Follow up OR Observation OR Treatment OR Surgery OR Surgical treatment OR Resection
#5 #1 AND #2 AND #3 AND #4
採択方法
  • エビデンスレベルの高い前向き研究やランダム化臨床試験の報告はなく,比較的症例数の多い後ろ向き観察研究の報告を採用した。

CQ26.

偶発的に発見された小さな前縦隔病変に対して,外科的切除は勧められるか?

推 奨
  • a.
  • 充実性病変が疑われる場合,外科的切除を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:70%〕

  • b.
  • 嚢胞(胸腺嚢胞や心膜嚢胞など)が疑われる場合,外科的切除を行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:65%〕

解 説

 近年,肺癌CT検診や人間ドックの普及など,胸部CT検査の普及に併い,偶然に無症状の小さな前縦隔腫瘤が発見される機会が増えており,その頻度は0.7〜0.9%と報告されている1)〜3)。しかし,その後の診療方針についてまとまった報告はなく,これまではある程度医師の裁量で治療方針を決定していた経緯がある。今回推奨を作成するにあたり,エビデンスの質が高い報告がないことから,エキスパートのコンセンサスとして提案した。

  • a.Yanoらは3cm以下の前縦隔充実性病変28例に対して手術を行った結果,腫瘍性病変は胸腺腫24例,胸腺癌1例,MALTリンパ腫1例の計26例(92.9%)であったと報告している4)。多くが胸腺腫や胸腺癌であるが,サイズが小さいことからほとんどが早期のステージで完全切除がなされており,低侵襲手術の良い適応であるとしている。胸腺腫の割合が最も多く,胸腺腫は一般的に発育が遅いことを考えると,1cm程度の小病変で画像上浸潤傾向がなく,高齢の患者や手術リスクのある患者では,経過観察を考慮してもよい。しかし,その場合でも胸腺癌の可能性も考慮した注意深い観察が必要である。

投票者の所属委員会:胸腺腫瘍小委員会/実施年度:2020年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
70%
(12/17)
24%
(4/17)
6%
(1/17)
0% 0%
解 説
  • b.嚢胞(胸腺嚢胞や心膜嚢胞など)は治療の必要がないことはコンセンサスが得られている。病変内部のCT値が液体成分を示し分葉や壁肥厚のない場合は,胸腺嚢胞や心膜嚢胞の可能性が高い。ただし,Yoonらは偶発的に発見された前縦隔病変413例中,内部濃度がCT値20HU以下の嚢胞を疑わせる病変は20%で,残りの80%は腫瘍との鑑別が困難であったと報告している3)。また,切除などで確定診断がついた51例中39例(76.5%)は良性病変であったことからも,正確な診断が困難な症例が多いことを示している。嚢胞の正確な診断には造影CTやMRIを施行するのが望ましい。Yanoらは3cm以下の壁肥厚や分葉を呈する嚢胞や増大傾向のある嚢胞性病変15例に対して手術を行った結果,胸腺嚢胞などの嚢胞が11例(73%),腫瘍性病変が4例(胸腺腫3例,奇形腫1例)と報告している4)。画像的に壁在結節や壁肥厚を伴う場合や分葉不整な形状の嚢胞は,腫瘍性病変の可能性があり,外科的切除を考慮してもよい。また,嚢胞の経過観察において,サイズが増大あるいは縮小することがあり注意が必要である1)3)

投票者の所属委員会:胸腺腫瘍小委員会/実施年度:2020年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 0% 0% 35%
(6/17)
65%
(11/17)
引用文献
1)
Henschke CI, Lee IJ, Wu N, et al. CT screening for lung cancer: prevalence and incidence of mediastinal masses. Radiology. 2006; 239(2): 586-90.
2)
Araki T, Nishino M, Gao W, et al. Anterior mediastinal masses in the framingham heart study: prevalence and CT image characteristics. Eur J Radiol Open. 2015; 2: 26-31.
3)
Yoon SH, Choi SH, Kang CH, et al. Incidental anterior mediastinal nodular lesions on chest CT in asymptomatic subjects. J Thorac Oncol. 2018; 13(3): 359-66.
4)
Yano M, Sasaki H, Moriyama S, et al. Clinicopathological analysis of small-sized anterior mediastinal tumors. Surg Today. 2014; 44(10): 1817-22.
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