Ⅱ.非小細胞肺癌(NSCLC)

1

外科治療

総 論
肺癌に対する外科治療
解 説

 臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対する標準治療は外科切除である。肺癌に対する外科治療の意義はランダム化比較試験で確認されたものではないが,過去の膨大な予後および合併症の情報から確認されるものである(CQ2)。術前には呼吸機能検査および循環器に関する機能評価は必須であり,手術に対する安全性を評価する(CQ1)。大規模な多施設共同前向き試験の結果から,臨床病期ⅠA1-2期の非小細胞肺癌で外科切除可能な患者に対して,今回の改訂で初めて縮小手術を推奨の一部とした(CQ3)。充実成分最大径/腫瘍最大径比≦0.25の肺野末梢非小細胞肺癌に対しては,縮小手術(区域切除,楔状切除)を推奨する(CQ3-a)。充実成分最大径/腫瘍最大径比>0.5の肺野末梢非小細胞肺癌に対しては,区域切除または肺葉切除を推奨する(CQ3-b)。大規模臨床試験の結果は区域切除を推奨するものであるが,局所再発が区域切除群で多かったこと,区域切除群のうち22例が肺葉切除に術式を変更していることなどを鑑み,肺葉切除も推奨とした。臨床病期ⅠA3-Ⅱ期非小細胞肺癌で外科切除可能な患者に対してはこれまでどおり肺葉以上の切除と肺門・縦隔のリンパ節郭清を推奨する(CQ4)。肺葉以上の切除が不可能な患者に対する縮小切除に関しては,昨今の放射線治療の進歩があるものの,比較試験に支持されたものではないが,依然として有効性が高いと考えられ,弱く推奨する(CQ5)。

 臨床病期Ⅲ期非小細胞肺癌の治療方針は,呼吸器外科医,内科医,放射線治療医を含めた集学的治療グループで検討すべきであり,これを推奨する(CQ6)。臨床病期ⅢA期の治療方針は組織学的に縦隔リンパ節転移を確認することを推奨する(CQ7)。

 肺癌の外科治療におけるリンパ節郭清の意義は,系統的リンパ節郭清と系統的リンパ節サンプリングをランダムに比較した試験の結果から予後の改善にはつながらないものの,正確な病期診断に資すると解釈されている。一方で致命的合併症は稀である。よって行うことを推奨する(CQ9)。T3肺癌に対する胸壁または心膜合併切除の必要性に関しては行うことを推奨する(CQ1011)。T4N0-1肺癌に対する外科治療は,T4臓器によりその意義は異なるものがあるが,弱く推奨する(CQ8)。気管支・肺動脈形成術は肺全摘術と比較して,局所制御,術後合併症発生率,術後死亡率,そして予後の観点から良好であり,肺全摘術を避けるために行うことを推奨する(CQ12)。同一肺葉内結節で肺転移または多発肺癌を疑う場合は臨床病期N0であれば予後の観点から手術を行うことを推奨する(CQ13)。他肺葉内結節で,多発原発性肺癌を疑う患者に対して手術を行うことを提案する(CQ14)。他肺葉内結節で,肺内転移を疑う患者に対して手術を行わないことを提案する(CQ15)。異時性多発肺癌に対しては,耐術能があれば手術を行うことを推奨する(CQ16)。臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して胸腔鏡補助下肺葉切除を行うことは大規模な臨床試験に基づくエビデンスは十分ではないものの,日常臨床に十二分に普及しているためにこれを提案する(CQ17)。また,ロボット手術に関しても,近年胸腔鏡手術と同等の成績が示されており,低侵襲手術の1つとして行うことを提案する(CQ18)。術後経過観察を外科切除後に行うことの意義に関しては十分なエビデンスがあるとは言い難いが,日常臨床に浸透しており行うことを推奨する(CQ19)。術後の患者は禁煙するべきである(CQ20)。低悪性度肺腫瘍,つまりカルチノイド,粘表皮癌,腺様嚢胞癌などに対する外科切除は非小細胞肺癌に準じた外科治療を行うよう推奨する(CQ21)。

本文中に用いた略語および用語の解説

BPF bronchopleural fistula 気管支瘻
CTR consolidation tumor ratio 充実成分最大径/腫瘍最大径比
DFS disease free survival 無病生存期間
NCDB National Cancer Database
OS overall survival 全生存期間
PS performance status 全身状態
SBRT stereotactic body radiotherapy 体幹部定位放射線治療
RATS robot-assisted thoracoscopic surgery ロボット支援胸腔鏡手術
VATS video-assisted thoracic surgery 胸腔鏡補助下手術
 
ACOSOG American College of Surgeons Oncology Group
ASCO American Society of Clinical Oncology
ESMO European Society for Medical Oncology
IASLC International Association for the Study of Lung Cancer
JCOG Japan Clinical Oncology Group
SEER Surveillance Epidemiology and End Results
1-1
手術適応

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2004年12月1日から2021年11月30日(術前呼吸機能・循環機能評価)
  • 1994年12月1日から2021年11月30日(臨床病期Ⅰ-Ⅱ期,臨床病期ⅢA期)
  • 2004年12月1日から2021年11月30日(臨床病期ⅢA期T4N0-1)
文献検索方法
  • キーワード:術前呼吸機能・循環機能評価(lung cancer, surgery, function, complication, morbidity or mortality, age, pulmonary function, preoperative care, cardiovascular function),臨床病期Ⅰ-Ⅱ期(lung cancer, surgery, stage Ⅰ, stage Ⅱ, sleeve, clinical stage Ⅰ or Ⅱ, Pneumonectomy),臨床病期ⅢA期(lung cancer, surgery, ⅢA, N2, clinical stage ⅢA, Pneumonectomy),臨床病期ⅢA期T4N0-1(lung cancer, carcinoma, non-small cell carcinoma, surgical procedures, resection, stage Ⅲ, stage ⅢA, T4, T4N0, T4N1)
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,さらに今回,下記の検索式で2020年版以降の検索を行った。
検索式(検索日:2022年1月16日)
 術前呼吸機能・循環機能評価
#1 lung cancer OR surgery OR function OR complication OR morbidity or mortality OR age OR pulmonary function OR preoperative care OR cardiovascular function
 臨床病期Ⅰ-Ⅱ期
#1 lung cancer OR surgery OR stage I OR stage II OR sleeve OR clinical stage I or II OR Pneumonectomy/methods("[majr] OR" lung neoplasms/surgery"[majr]")
#2 "Neoplasm Staging"
#3 #1 AND #2
 臨床病期ⅢA期
#1 lung cancer OR surgery OR IIIA OR N2 OR clinical stage IIIA OR Pneumonectomy/methods("[majr] OR" lung neoplasms/surgery"[majr]")
#2 "Neoplasm Staging"
#3 #1 AND #2
 臨床病期ⅢA期T4N0-1(検索日:2022年1月16日)
#1 "Carcinoma, Non-Small-Cell Lung/surgery"
#2 "Carcinoma, Non-Small-Cell Lung/therapy" AND "Surgical Procedures, Operative"
#3 "stage III" OR "stage IIIA" OR "stage 3" OR "stage 3A" OR "stage I-III" OR "stage II-III" OR "stage 1-3" OR "stage 2-3" OR ("Neoplasm Staging" AND (IIIA OR 3A)) AND (T4 OR T4N0 OR T4N1)
#4 (#1 OR #2) AND #3
#5 ("Non-Small-Cell Lung Carcinoma" OR "Nonsmall-Cell Lung Carcinoma" OR "Non-Small Cell Lung Cancer" OR "Nonsmall Cell Lung Cancer" OR NSCLC AND (surgery OR surgical OR operati OR pneumonectom OR resect AND ("stage III" OR "stage IIIA" OR "stage 3" OR "stage 3A" OR "stage I-III" OR "stage II-III" OR "stage 1-3" OR "stage 2-3" OR (stag AND (IIIA OR 3A)) AND (T4 OR T4N0 OR T4N1)
採択方法
  • メタアナリシス,第Ⅲ相試験,ランダム化比較第Ⅱ相試験を抽出し,review articleは除外した。なお,治療リスクに関する重要な文献は,上記条件以外でも採用した。
  • 臨床病期ⅢA期T4N0-1では臨床試験による文献はなく,後方視的観察研究の文献を採用した。施設の報告については,症例数を考慮した。
  • 上記条件以外のもので,今回の改訂でも必要と判断したものは採用した。

1-1-1.手術適応(術前呼吸機能・循環機能評価)

CQ1.

手術適応決定には,呼吸機能評価(spirometry)や循環機能評価(安静時心電図)をはじめ,血液・生化学所見や年齢などを総合的に評価・検討することが必要か?

推 奨
術前呼吸機能・循環機能をはじめ総合的に評価・検討を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

解 説

 呼吸機能検査のspirometryは,拘束性障害や閉塞性障害を評価する方法として確立されている。術前肺機能評価と肺切除後のmortality,morbidityの関連については,1986年に海外からの報告があり1),その他にも術前肺機能評価との関連は検討されている2)が,単一の普遍的な指標はない。術後呼吸機能の評価として,術前呼吸機能評価(spirometry)と肺血流シンチグラフィや肺区域数を用いての予測術後肺機能は,術後実測値と良い相関を示したとの報告があり,術後予測1秒量(predicted postoperative FEV1.0;ppoFEV1.0)≧800mLなどの指標が参考値として用いられている3)4)。さらに,ppo%FEV1.0およびppo%DLcoと術後の長期予後の強い相関を示した報告もある5)。リスク評価としては,①pre%FEV1.0,pre%DLco,②ppo%FEV1.0,ppo%DLco,③運動負荷試験を指標にアルゴリズムを示した報告がある6)。術前の呼吸訓練は呼吸機能やQOLを有意に改善させ,肺癌手術後の在院日数,合併症を有意に減少させる7)8)。特に,最近のランダム化比較試験論文で術前呼吸訓練の有用性が示されている9)10)

 術前検査としての循環器機能検査,特に安静時心電図については,基本的な機能評価として一般的に行われており,症例に応じて種々の負荷試験や超音波検査(心,血管など)などが行われている。これを推奨する根拠となる臨床試験はないものの,肺癌合同登録委員会の2004年手術例の調査では,併存疾患として負荷心電図陽性の虚血性心疾患を2.8%に認め,術後合併症として不整脈を3.3%に認めている11)

 血液・生化学所見や年齢などの総合的評価は全身状態の把握のために大切であり,明確な臨床試験はないが,手術適応の決定に必須であることは,議論の余地がない。

 このように,呼吸機能検査と循環機能評価(安静時心電図)をはじめ,血液・生化学所見や年齢などを総合的に評価・検討することは,手術適応の決定において不可欠である。

 以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では術前呼吸機能・循環機能をはじめ総合的に評価・検討は行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%

1-1-2.手術適応(臨床病期Ⅰ-Ⅱ期)

CQ2.

臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌で標準手術可能な患者には,外科切除が勧められるか?

推 奨
臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌で標準手術可能な患者には,外科切除を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

解 説

 早期肺癌に対するランダム化比較試験は症例集積が難しく外科治療と化学療法との比較試験の報告はない。Ⅰ期肺癌に対しては外科治療と定位放射線治療のランダム化比較試験が行われたものの(RTOG1021試験,ROSEL試験,STARS試験,SABRTooth試験),いずれも症例集積不良のため中止となった。

 定位放射線治療の単群前方視的試験(Revised STARS試験)では,診断が確定した非小細胞肺癌に対する定位放射線治療80例の3年生存率が91%であり,傾向スコア・マッチングを用いて抽出した手術症例の全生存と有意差がないことが示されたが1),早期肺癌に対する定位放射線治療と手術の比較試験のメタアナリシスでは,全生存,癌特異的生存率,無再発生存ともに手術のほうが良好であることが示されている2)

 肺癌外科切除18,973例の報告によれば,全体の5年生存率は74.7%であり,臨床病期0,ⅠA1,ⅠA2,ⅠA3,ⅠB,ⅡA,ⅡB期ではそれぞれ97.0%,91.6%,81.4%,74.8%,71.5%,60.2%,58.1%であった3)

 以上より,十分な症例数のランダム比較試験がなく,メタアナリシスの結果により手術の有効性が示されていることから,臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌で肺葉切除可能な患者には外科切除を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%

CQ3.

臨床病期ⅠA1-2期非小細胞肺癌で外科切除可能な患者に対する適切な術式は何か?

推 奨
  • a.
  • 臨床病期ⅠA1-2期,充実成分最大径/腫瘍最大径比≦0.25の肺野末梢非小細胞肺癌に対して,縮小手術(区域切除または楔状切除)を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:B,合意率:100%〕

  • b.
  • 臨床病期ⅠA1-2期,充実成分最大径/腫瘍最大径比>0.5の肺野末梢非小細胞肺癌に対して,区域切除または肺葉切除を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:B,合意率:78%〕

解 説
  • a.腫瘍最大径2cm以下の非小細胞肺癌のうち,胸部CTで広範囲にすりガラス濃度を呈する肺癌は病理学的に非浸潤癌であることが報告されている(JCOG0201試験)4)。この報告に基づき,充実成分最大径/腫瘍最大径比(CTR)≦0.25の末梢型非小細胞肺癌に対して縮小手術を行う単群前方視的試験が遂行された(JCOG0804/WJOG4507L試験)5)。333例が登録されたこの研究では,切除縁が不十分と判断された11例は肺葉切除に術式を変更し,切除縁が確保された314例に縮小手術(うち楔状切除258例)が行われた。肉眼的に評価された腫瘍と切除断端の距離の中央値は15mm(四分位範囲10~20mm)であった。縮小手術の5年無再発生存率は99.7%であり,十分に切除縁を確保した縮小手術は良好な成績が示された。

     ただし,すりガラス濃度を呈する肺癌に対する縮小手術は,術後5年以降に再発をきたした症例も報告されており6),十分な切除縁確保と術後経過観察を要する。

     以上より,臨床病期ⅠA1-2期,充実成分最大径/腫瘍最大径比≦0.25の肺野末梢非小細胞肺癌に対して,縮小手術(区域切除または楔状切除)を行うよう推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%
  • b.臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対する標準術式は肺葉切除であったが,縮小切除の有用性の研究が多数報告されてきた。2015年以降の主要なメタアナリシスは2つ存在するが,報告の対象が多様であることに言及し,患者背景の調整7)8)や,2cm以下,すりガラス成分の存在などの条件8)により縮小手術も肺葉切除と同等の成績を得られる可能性があると結論付けている。

     腫瘍最大径2cm以下の末梢型非小細胞肺癌に対して,肺葉切除と縮小切除を比較する第Ⅲ相試験が本邦と米国で遂行された。いずれの試験も,肺野末梢(腫瘍中心が外套1/3に存在)のN0肺癌に対して行われたが,本邦の試験(JCOG0802/WJOG4607L試験)はPS 0-1,20歳以上85歳以下の患者を対象としており,米国を中心とした試験(CALGB140503試験)はPS 0-2,18歳以上の患者を対象としている。またJCOG0802/WJOG4607L試験の縮小手術は区域切除であるが,CALGB140503試験の縮小手術は術者の判断で区域切除または楔状切除が選択された。

     手術の安全性に関してはいずれの術式も良好な成績であることが示された。JCOG0802/WJOG4607L試験に参加した1,106例(うち区域切除552例)の術後死亡率は0%9),CALGB140503試験に参加した697例(うち区域切除129例,楔状切除200例)の90日死亡率は肺葉切除1.7%,縮小切除1.2%であった10)

     JCOG0802/WJOG4607L試験は全生存に関する最終結果も開示され11),中央観察期間7.3年の解析で区域切除の全生存が肺葉切除を上回る結果が示された(5年生存率:肺葉切除91.1%,区域切除94.3%)。全生存における区域切除のハザード比は0.663であった。副次評価項目である無再発生存率(5年無再発生存率:肺葉切除87.9%,区域切除88.0%)に関しては有意差は認められなかった。死亡症例は肺葉切除/区域切除で83例/58例で,その内訳は癌死28例/26例,他癌死31例/12例,非癌死21例/15例であった。術後有害事象(Grade 2以上の術後合併症:肺葉切除26%,区域切除27%)に関しては両群に有意差は認められなかったが,術後気漏,胸腔ドレーン再挿入は区域切除群で多かった(気漏:肺葉切除3.8%,区域切除6.5%,ドレーン再挿入:肺葉切除1.4%,区域切除3.8%)。手術時間,出血量に関しては,区域切除群で手術時間が長く,出血量が多かった(手術時間:肺葉切除174分,区域切除201分,出血量:肺葉切除45mL,区域切除50mL)。術後呼吸機能の変化割合に関しては,努力性一秒量の変化割合は区域切除群が少なかったものの,呼吸機能低下の軽減の目安としていた群間差10%には到達せず,術後1年で群間差3.5%であった。局所再発は区域切除群で多く(肺葉切除5.4%,区域切除10.5%),切除縁再発をきたしたのは区域切除のみであり,11例(6.8%)であった。

     CALGB140503試験の最終結果は論文発表されていないが,2022年世界肺癌学会で,全生存,無再発生存ともに縮小手術の非劣性が示された(5年生存率:縮小手術80.3%,肺葉切除78.9%,5年無再発生存率:縮小手術63.6%,肺葉切除64.1%)12)

     JCOG0802/WJOG4607L試験において主要評価項目である全生存で区域切除が上回ったことから,これらの対象に対し区域切除を推奨に加えた。ただし,術後呼吸機能の変化割合が試験前に軽減の目安として設定していた群間差10%に達しなかったこと,局所再発が区域切除群で多かったこと,区域切除群のうち22例(うち,リンパ節転移16例,マージン不十分4例)が肺葉切除に術式を変更していることを鑑み,慎重な症例選択と十分な切除縁の確保が重要であると考えられる。術中のリンパ節診断や切除縁評価方法が未確立であること,JCOG0802/WJOG4607L試験およびCALGB140503試験に関しては今後も詳細な解析が必要であることを考慮し,リンパ節転移を有する可能性がある症例や切除縁確保困難な症例においては従来どおり肺葉切除を行うよう推奨する。

     また,本CQには0.25<充実成分最大径/腫瘍最大径比≦0.5の肺野末梢非小細胞肺癌,肺野末梢以外の局在の非小細胞肺癌に関する推奨術式の記載がないが,本集団が含まれる区域切除に関する単群前方視的試験(JCOG1211試験)の結果が開示されていないことから,現時点ではこれらの対象に対して区域切除を推奨する根拠は乏しい。

     以上より,臨床病期ⅠA1-2期,充実成分最大径/腫瘍最大径比>0.5の肺野末梢非小細胞肺癌に対して,区域切除または肺葉切除を行うよう推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
78%
(7/9)
22%
(2/9)
0% 0% 0%

CQ4.

臨床病期ⅠA3-Ⅱ期非小細胞肺癌で外科切除可能な患者に対する適切な術式は何か?

推 奨
臨床病期ⅠA3-Ⅱ期非小細胞肺癌で外科切除可能な患者に対して,肺葉以上の切除を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:B,合意率:100%〕

解 説
修正 #1

 米国Lung Cancer Study Groupによって腫瘍最大径3cm以下のリンパ節転移を伴わない肺癌に対する肺葉切除と縮小切除を比較したランダム化比較試験が1995年に報告された13)。この研究によると肺葉切除に比べて縮小切除は局所再発が3倍となり,予後不良の傾向が認められた。人工呼吸器を要する呼吸不全などの重症合併症は肺葉切除に多かったものの,結論としては至適術式は肺葉切除であるとされた。

 以上より,臨床病期ⅠA3-Ⅱ期非小細胞肺癌で外科切除可能な患者に対して,肺葉以上の切除を行うことを推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%

CQ5.

臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌で外科治療が可能であるが,肺葉以上の切除が不可能な患者に,縮小手術(区域切除または楔状切除)を行ってもよいか?

推 奨
臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌で外科治療が可能であるが,肺葉以上の切除が不可能な患者に,縮小手術(区域切除または楔状切除)を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C,合意率:66%〕

解 説
修正 #2

 肺葉切除不能例95例に対する縮小手術または放射線治療の研究によると,3年生存率は縮小手術65%,放射線治療60%であり,肺葉切除不能例においても,肺癌に対する治療介入が有効である可能性が示された14)

 また,米国のNational Cancer Databaseを使用して解析された縮小手術30,451例と定位放射線治療22,134例,Ablation 1,388例の比較で縮小手術のOSが良いことが示された15)。同databaseを用いた楔状切除10,032例と定位放射線治療4,296例の予後の比較では,切除断端陽性の部分切除と定位放射線治療の生存率が同等であること,完全切除の場合は定位放射線治療に比し死亡リスクが低いことが示された16)

 以上より,臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌で外科治療が可能であるが,肺葉以上の切除が不可能な患者に,縮小手術(区域切除または楔状切除)を行うことを提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
34%
(3/9)
66%
(6/9)
0% 0% 0%

1-1-3.手術適応(臨床病期Ⅲ期)

CQ6.

臨床病期ⅢA期非小細胞肺癌の治療方針は,呼吸器外科医,内科医,放射線治療医を含めた集学的治療グループで検討すべきか?

推 奨
臨床病期ⅢA期非小細胞肺癌の治療方針は,呼吸器外科医,内科医,放射線治療医を含めた集学的治療グループでの検討を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

解 説

 臨床病期ⅢA期は様々な集団に予後の観点から分けることができる母集団であり,その治療方針決定のためには呼吸器外科医を含む集学的治療グループによる治療方針の決定が勧められる1)

 以上より,臨床病期ⅢA期非小細胞肺癌の治療方針は,呼吸器外科医を含めた集学的治療グループでの検討を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%

CQ7.

臨床病期ⅢA期N2非小細胞肺癌のN2診断は,組織学的に確認すべきか?

推 奨
臨床病期ⅢA期N2非小細胞肺癌のN2診断は,組織学的に確認を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

解 説

 N2症例の治療方法は多様化しており,SEER databaseを用いたN2症例17,954例の解析では単独治療よりも複合治療の成績が良好であることが示されている2)

 しかし,N2の臨床的診断は難しく,肺癌切除例11,663例の後方視的研究で臨床病期ⅢA期N2と診断された800例は病理学的にはN0:271例,N1:75例,N2:436例,N3:18例であり,43%が過大診断であったことが示された3)

 臨床的N2診断が可能なMultiple station N2,Bulky N2を除き,N2の組織学的診断は病期診断と治療方針の検討のために重要である1)4)

 以上より,臨床病期ⅢA期N2非小細胞肺癌のN2診断は,組織学的に確認を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%

CQ8.

臨床病期ⅢA期T4N0-1非小細胞肺癌に対して,外科切除を行うよう勧められるか?

推 奨
臨床病期ⅢA期T4N0-1非小細胞肺癌に対して,外科切除を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:D,合意率:89%〕

解 説

 これまで臨床病期ⅢA期T4N0-1非小細胞肺癌の切除意義に関する報告については,ランダム化比較試験はなく,症例集積や少数例での症例対照研究しか存在しない。その中で,下記に示すとおり,症例をよく選択した手術結果においては,PS良好で,N0-1のケースにおいては,予後と手術の安全性の観点からは手術は選択肢として許容される範疇にあると考えられる。また,1,000例以上の臨床病期T4N0-1M0非小細胞肺癌を大規模なデータベースから解析したコホート研究では,手術先行群と導入治療(導入化学療法,もしくは導入化学放射線治療)を行った群とで比較すると,導入治療を行った群では,有意に切除断端陽性が少なく(9.3% vs 33.1%,P<0.001),全生存割合においても,有意に良好であった(65.9カ月vs 27.5カ月,P<0.001)との報告がある5)。浸潤臓器別の治療成績について具体的な報告を示す。

 T4N0-1M0症例の中で,各浸潤臓器別に切除成績をみると,大動脈合併切除では,致命的合併症発生率は0~12%であり,5年生存率は37~48%と報告されている6)~9)。なかでも,特にN0-1では長期予後が期待でき,良い適応とされている。

 左房合併切除は,単施設から30例以上の報告もあり10)~12),T4肺癌の中では比較的多く行われている術式である。致命的合併症発生率は0~10%,5年生存率が16~46%と比較的良好な治療成績が報告されている6)11)~14)。左房においても同様にN0は予後良好因子である11)12)14)

 上大静脈合併切除においては単施設から40例以上の比較的まとまった症例数での報告が複数ある11)15)16)。致命的合併症発生率は4~10%,5年生存率は24~31%であり,やはりN2は予後不良因子である11)15)~17)

 分岐部合併切除の致死的合併症は約3~20%であり,最近の64例の報告では,5年生存率は病理病期により,pN0で70%,pN1で35%,pN2で9%と報告されている18)~22)

 横隔膜合併切除では,致死的合併症発生率は1.6~4.4%23)24),5年生存率は19~42.6%23)25)26)と報告されている。JCOG肺がん外科グループの報告では,完全切除例の5年生存率は22.6%であったのに対し,非完全切除例では0%,病理病期ではpN0の5年生存率は28%であったのに対し,pN1で20%,pN2で0%であった23)

 最近の本邦における肺癌登録合同委員会報告では,浸潤するT4臓器により5年生存率に有意差はなく,T4N0で70歳未満であれば,5年生存率は50%を超えると報告されている27)

 以上より,臨床病期ⅢA期T4N0-1非小細胞肺癌に対しては外科治療を行うよう提案する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
10%
(1/9)
89%
(8/9)
0% 0% 0%
引用文献

術前呼吸機能・循環機能評価

1)
Gass GD, Olsen GN. Preoperative pulmonary function testing to predict postoperative morbidity and mortality. Chest. 1986;89(1):127-35.
2)
Puri V, Crabtree TD, Bell JM, et al. National cooperative group trials of “high-risk” patients with lung cancer:are they truly “high-risk”? Ann Thorac Surg. 2014;97(5):1678-83;discussion 1683-5.
3)
Olsen GN, Block AJ, Tobias JA. Prediction of postpneumonectomy pulmonary function using quantitative macroaggregate lung scanning. Chest. 1974;66(1):13-6.
4)
Wernly JA, DeMeester TR, Kirchner PT, et al. Clinical value of quantitative ventilation-perfusion lung scans in the surgical management of bronchogenic carcinoma. J Thorac Cardiovasc Surg. 1980;80(4):535-43.
5)
Ferguson MK, Watson S, Johnson E, et al. Predicted postoperative lung function is associated with all-cause long-term mortality after major lung resection for cancer. Eur J Cardiothorac Surg. 2014;45(4):660-4.
6)
Sawabata N, Nagayasu T, Kadota Y, et al. Risk assessment of lung resection for lung cancer according to pulmonary function:republication of systematic review and proposals by guideline committee of the Japanese association for chest surgery 2014. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2015;63(1):14-21.
7)
Sebio Garcia R, Yáñez Brage MI, Giménez Moolhuyzen E, et al. Functional and postoperative outcomes after preoperative exercise training in patients with lung cancer:a systematic review and meta-analysis. Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2016;23(3):486-97.
8)
Pu CY, Batarseh H, Zafron ML, et al. Effects of preoperative breathing exercise on postoperative outcomes for patients with lung cancer undergoing curative intent lung resection:a meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2021;102(12):2416-27.e4.
9)
Lai Y, Su J, Qiu P, et al. Systematic short-term pulmonary rehabilitation before lung cancer lobectomy:a randomized trial. Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2017;25(3):476-83.
10)
Liu J, Wang Y, Du J, et al. Effects of respiratory rehabilitation nursing on improving postoperative respiratory function and quality of life of patients with lung cancer surgery. Int J Clin Exp Med. 2020;13(10):7920-7.
11)
Sawabata N, Fujii Y, Asamura H, et al. Lung cancer in Japan:Analysis of lung cancer registry cases resected in 2004. Nihon Kokyuki Gakkai Zasshi. 2011;49(4):327-42.

臨床病期Ⅰ-Ⅱ期

1)
Chang JY, Mehran RJ, Feng L, et al;STARS Lung Cancer Trials Group. Stereotactic ablative radiotherapy for operable stage I non-small-cell lung cancer(revised STARS):long-term results of a single-arm, prospective trial with prespecified comparison to surgery. Lancet Oncol. 2021;22(10):1448-57.
2)
Cao C, Wang D, Chung C, et al. A systematic review and meta-analysis of stereotactic body radiation therapy versus surgery for patients with non-small cell lung cancer. J Thorac Cardiovasc Surg. 2019;157(1):362-73.e8.
3)
Okami J, Shintani Y, Okumura M, et al. Demographics, Safety and Quality, and Prognostic Information in Both the Seventh and Eighth Editions of the TNM Classification in 18,973 Surgical Cases of the Japanese Joint Committee of Lung Cancer Registry Database in 2010. J Thorac Oncol. 2019;14(2):212-22.
4)
Suzuki K, Koike T, Asakawa T, et al;Japan Lung Cancer Surgical Study Group(JCOG LCSSG). A prospective radiological study of thin-section computed tomography to predict pathological noninvasiveness in peripheral clinical IA lung cancer(Japan Clinical Oncology Group 0201). J Thorac Oncol. 2011;6(4):751-6.
5)
Suzuki K, Watanabe SI, Wakabayashi M, et al;West Japan Oncology Group and Japan Clinical Oncology Group. A single-arm study of sublobar resection for ground-glass opacity dominant peripheral lung cancer. J Thorac Cardiovasc Surg. 2022;163(1):289-301.e2.
6)
Yoshida J, Ishii G, Yokose T, et al. Possible delayed cut-end recurrence after limited resection for ground-glass opacity adenocarcinoma, intraoperatively diagnosed as Noguchi type B, in three patients. J Thorac Oncol. 2010;5(4):546-50.
7)
Taioli E, Yip R, Olkin I, et al. Survival after sublobar resection for early-stage lung cancer:methodological obstacles in comparing the efficacy to lobectomy. J Thorac Oncol. 2016;11(3):400-6.
8)
Cao C, Chandrakumar D, Gupta S, et al. Could less be more?-A systematic review and meta-analysis of sublobar resections versus lobectomy for non-small cell lung cancer according to patient selection. Lung Cancer. 2015;89(2):121-32.
9)
Suzuki K, Saji H, Aokage K, et al;West Japan Oncology Group;Japan Clinical Oncology Group. Comparison of pulmonary segmentectomy and lobectomy:Safety results of a randomized trial. J Thorac Cardiovasc Surg. 2019;158(3):895-907.
10)
Altorki NK, Wang X, Wigle D, et al. Perioperative mortality and morbidity after sublobar versus lobar resection for early-stage non-small-cell lung cancer:post-hoc analysis of an international, randomised, phase 3 trial(CALGB/Alliance 140503). Lancet Respir Med. 2018;6(12):915-24.
11)
Saji H, Okada M, Tsuboi M, et al;West Japan Oncology Group and Japan Clinical Oncology Group. Segmentectomy versus lobectomy in small-sized peripheral non-small-cell lung cancer(JCOG0802/WJOG4607L):a multicentre, open-label, phase 3, randomised, controlled, non-inferiority trial. Lancet. 2022;399(10335):1607-17.
12)
Altorki NK, Wang X, Kozono D, et al. Lobar or sub-lobar resection for peripheral clinical stage IA=2 cm non-small cell lung cancer(NSCLC):results from an international randomized phase III trial(CALGB 140503[Alliance]). WCLC 2022. Abstract PL03.06.
13)
Ginsberg RJ, Rubinstein LV. Randomized trial of lobectomy versus limited resection for T1 N0 non-small cell lung cancer. Lung Cancer Study Group. Ann Thorac Surg. 1995;60(3):615-22;discussion 622-3.
14)
Hsie M, Morbidini-Gaffney S, Kohman LJ, et al. Definitive treatment of poor-risk patients with stage I lung cancer:a single institution experience. J Thorac Oncol. 2009;4(1):69-73.
15)
Wu J, Bai HX, Chan L, et al. Sublobar resection compared with stereotactic body radiation therapy and ablation for early stage non-small cell lung cancer:A National Cancer Database study. J Thorac Cardiovasc Surg. 2020;160(5):1350-7.e11.
16)
Ajmani GS, Wang CH, Kim KW, et al. Surgical quality of wedge resection affects overall survival in patients with early stage non-small cell lung cancer. J Thorac Cardiovasc Surg. 2018;156(1):380-91.e2.

臨床病期Ⅲ期

1)
Tan WL, Chua KLM, Lin CC, et al. Asian Thoracic Oncology Research Group Expert Consensus Statement on Optimal Management of Stage III NSCLC. J Thorac Oncol. 2020;15(3):324-43.
2)
Cheng YF, Hung WH, Chen HC, et al. Comparison of Treatment Strategies for Patients With Clinical Stage T1-3/N2 Lung Cancer. J Natl Compr Canc Netw. 2020;18(2):143-50.
3)
Yoshino I, Yoshida S, Miyaoka E, et al;Japanese Joint Committee of Lung Cancer Registration. Surgical outcome of stage IIIA- cN2/pN2 non-small-cell lung cancer patients in Japanese lung cancer registry study in 2004. J Thorac Oncol. 2012;7(5):850-5.
4)
Leiro-Fernández V, Fernández-Villar A. Mediastinal staging for non-small cell lung cancer. Transl Lung Cancer Res. 2021;10(1):496-505.
5)
Towe CW, Worrell SG, Bachman K, et al. Neoadjuvant treatment is associated with superior outcomes in T4 lung cancers with local extension. Ann Thorac Surg. 2021;111(2):448-55.
6)
Muralidaran A, Detterbeck FC, Boffa DJ, et al. Long-term survival after lung resection for non-small cell lung cancer with circulatory bypass:a systematic review. J Thorac Cardiovasc Surg. 2011;142(5):1137-42.
7)
Ohta M, Hirabayasi H, Shiono H, et al. Surgical resection for lung cancer with infiltration of the thoracic aorta. J Thorac Cardiovasc Surg. 2005;129(4):804-8.
8)
Wex P, Graeter T, Zaraca F, et al. Surgical resection and survival of patients with unsuspected single node positive lung cancer(NSCLC)invading the descending aorta. Thorac Surg Sci. 2009;6:Doc02.
9)
Marulli G, Rendina EA, Klepetko W, et al. Surgery for T4 lung cancer invading the thoracic aorta:Do we push the limits? J Surg Oncol. 2017;116(8):1141-9.
10)
Kuehnl A, Lindner M, Hornung HM, et al. Atrial resection for lung cancer:morbidity, mortality, and long-term follow-up. World J Surg. 2010;34(9):2233-9.
11)
Spaggiari L, Tessitore A, Casiraghi M, et al. Survival after extended resection for mediastinal advanced lung cancer:lessons learned on 167 consecutive cases. Ann Thorac Surg. 2013;95(5):1717-25.
12)
Stella F, Dell'Amore A, Caroli G, et al. Surgical results and long-term follow-up of T4(4)-non-small-cell lung cancer invading the left atrium or the intrapericardial base of the pulmonary veins. Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2012;14(4):415-9.
13)
Galvaing G, Tardy MM, Cassagnes L, et al. Left atrial resection for T4 lung cancer without cardiopulmonary bypass:technical aspects and outcomes. Ann Thorac Surg. 2014;97(5):1708-13.
14)
Tsukioka T, Takahama M, Nakajima R, et al. Surgical outcome of patients with lung cancer involving the left atrium. Int J Clin Oncol. 2016;21(6):1046-50.
15)
Spaggiari L, Leo F, Veronesi G, et al. Superior vena cava resection for lung and mediastinal malignancies:a single-center experience with 70 cases. Ann Thorac Surg. 2007;83(1):223-9.
16)
Suzuki K, Asamura H, Watanabe S, et al. Combined resection of superior vena cava for lung carcinoma:prognostic significance of patterns of superior vena cava invasion. Ann Thorac Surg. 2004;73(4):1184-9.
17)
Yildizeli B, Dartevelle PG, Fadel E, et al. Results of primary surgery with T4 non-small cell lung cancer during a 25-year period in a single center:the benefit is worth the risk. Ann Thorac Surg. 2008;86(4):1065-75.
18)
Mitchell JD, Mathisen DJ, Wright CD, et al. Resection for bronchogenic carcinoma involving the carina:long-term results and effect of nodal status on outcome. J Thorac Cardiovasc Surg. 2001;121(3):465-71.
19)
Rea F, Marulli G, Schiavon M, et al. Tracheal sleeve pneumonectomy for non small cell lung cancer(NSCLC):short and long-term results in a single institution. Lung Cancer. 2008;61(2):202-8.
20)
Regnard JF, Perrotin C, Giovannetti R, et al. Resection for tumors with carinal involvement:technical aspects, results, and prognostic factors. Ann Thorac Surg. 2005;80(5):1841-6.
21)
Raviaro G, Varoli F, Romanelli A, et al. Complications of tracheal sleeve pneumonectomy:personal experience and overview of the literature. J Thorac Cardiovasc Surg. 2001;121(2):234-40.
22)
Macchiarini P, Altmayer M, Go T, et al. Technical innovations of carinal resection for nonsmall-cell lung cancer. Ann Thorac Surg. 2006;82(6):1989-97.
23)
Yokoi K, Tsuchiya R, Mori T, et al. Results of surgical treatment of lung cancer involving the diaphragm. J Thorac Cardiovasc Surg. 2000;120(4):799-805.
24)
Riquet M, Porte H, Chapelier A, et al. Resection of lung cancer invading the diaphragm. J Thorac Cardiovasc Surg. 2000;120(2):417-8.
25)
Kawaguchi K, Miyaoka E, Asamura H, et al. Modern surgical results of lung cancer involving neighboring structures:a retrospective analysis of 531 pT3 cases in a Japanese Lung Cancer Registry Study. J Thorac Cardiovasc Surg. 2012;144(2):431-7.
26)
Sakakura N, Mori S, Ishiguro F, et al. Subcategorization of resectable non-small cell lung cancer involving neighboring structures. Ann Thorac Surg. 2008;86(4):1076-83.
27)
Watanabe S, Asamura H, Miyaoka E, et al. Results of T4 surgical cases in the Japanese Lung Cancer Registry Study:should mediastinal fat tissue invasion really be included in the T4 category? J Thorac Oncol. 2013;8(6):759-65.
1-2
リンパ節郭清

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2004年12月1日から2021年11月30日
文献検索方法
  • キーワード:lung cancer, carcinoma, non-small cell lung carcinoma, lymph node dissection, lymphadenectomy, lymph node excision
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,日本医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,さらに今回,下記の検索式で2020年版以降の検索を行った。
検索式(検索日:2022年1月16日)
#1 "Carcinoma, Non-Small-Cell Lung/therapy"
#2 "Lymph Node Excision"
#3 #1 AND #2
#4 ("Non-Small-Cell Lung Carcinoma" OR "Nonsmall-Cell Lung Carcinoma" OR "Non-Small Cell Lung Cancer" OR "Nonsmall Cell Lung Cancer" OR NSCLC AND (surgery OR surgical OR operati OR pneumonectom OR resect) AND ("Lymph Node Excision" OR Lymphadenectom OR "Lymph Node Dissection")
採択方法
  • メタアナリシス,第Ⅲ相試験,ランダム化比較第Ⅱ相試験を抽出し,review articleは除外した。なお,治療リスクに関する重要な文献は,上記条件以外でも採用した。
  • 上記条件以外のもので,今回の改訂でも必要と判断したものは採用した。

CQ9.

切除可能な非小細胞肺癌に対して,肺門・縦隔リンパ節郭清を行い,病理学的評価を行うべきか?

推 奨
肺門・縦隔リンパ節郭清を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:B,合意率:100%〕

解 説

 まずはじめに,リンパ節の評価には,リンパ節を周囲脂肪組織とともに一塊として摘出する系統的リンパ節郭清,原発部位により郭清範囲を省略する選択的リンパ節郭清,任意のリンパ節のみ摘出するサンプリングなどが挙げられるが,本邦での明確な定義はない。

 これまでに行われた最大規模のランダム化比較試験であるAmerican College of Surgery Oncology Group(ACOSOG)Z0030試験1)では,T1-2N0-1(肺門部リンパ節を除く)症例を対象に系統的リンパ節郭清群とサンプリング群の治療成績が比較検討され,系統的リンパ節郭清群と系統的サンプリング群の生存期間中央値,ならびに5年無再発生存率はそれぞれ,8.5年と8.1年(P=0.25),68%と69%(P=0.92)で,系統的リンパ節郭清による有意な治療成績の改善は認められなかった1)。また系統的リンパ節郭清の手術時間はサンプリングに比べ,15分程度長いにすぎず,術後の合併症発生率や手術関連死亡率にも差がなかった2)

 その他にも肺門縦隔リンパ節郭清が予後に与える影響について検証した,リンパ節郭清とサンプリングとのランダム化比較試験はこれまでに複数の報告があり,予後を改善するという結果3)と予後に影響を与えないとする結果4)5)の双方が存在する。また,これらのランダム化比較試験を含むメタアナリシス6)~9)も複数報告されているが,同様に結果の一貫性が認められない。

 したがって,系統的郭清が予後に与える影響を検証する複数のランダム化比較試験とメタアナリシスはあるもの,結果の一貫性がないこと,また,各ランダム化比較試験における対象病期や対照・試験アームの手技が異なるなど,試験デザインが異なっており,種々のバイアスが含まれるため,リンパ節郭清の予後に与える影響については科学的根拠が明確であるとはいえない。一方,ACOSOGのランダム化比較試験にてサンプリングではN2の4%が見落とされており1),正確な病理病期の決定のためにはリンパ節郭清を行うように勧められる。

 近年,より効果的なリンパ節郭清を行うことを目的に,lobe-specific mediastinal lymph node dissection(選択的縦隔リンパ節郭清)が特に日本において広く行われている10)。選択的リンパ節郭清と系統的リンパ節郭清の比較に関する報告については,これまで複数のコホート研究や小規模な前向きあるいは後ろ向きの非ランダム化比較試験10)~15)の他,1つのランダム化比較試験16),さらにこれらの研究結果をもとに解析した2つのメタアナリシス17)18)が報告されている。唯一行われたランダム化比較試験では症例数が少なく小規模であるうえ,割り付けの方法が不明など,試験デザインに複数のバイアスが含まれており,試験の質が高いとはいえない。2つのメタアナリシス17)18)もこのランダム化比較試験1件と5~8件のコホート研究や非ランダム化比較試験をもとに解析されている。各試験によって対象病期が異なっていること,郭清法の選択バイアスが大きいこと,選択的郭清の方法や範囲に統一性がないこと,患者背景や結果に不均一性や非一貫性があることなど,多くのバイアスが含まれていることを考慮すると,メタアナリシスといっても,けっして質の高いエビデンスとはいえない。一方では選択的郭清においては,その適応や方法などによっては再発が多くなるという報告もある13)14)。したがって,現段階では十分な検証がされているとはいえず,評価困難である。現在,本邦では日本臨床腫瘍グループ(JCOG)が臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌を対象として,選択的リンパ節郭清と系統的リンパ節郭清を比較する大規模ランダム化比較試験(JCOG1413試験)19)を行っている。すでに登録が終了し,観察期間となっており,試験結果が待たれる。

 以上より,切除可能な非小細胞肺癌に対して,肺門縦隔リンパ節郭清を行うことは,少なくとも正確な病理診断のためには推奨されると考えられる。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%
引用文献
1)
Darling GE, Allen MS, Decker PA, et al. Randomized trial of mediastinal lymph node sampling versus complete lymphadenectomy during pulmonary resection in the patient with N0 or N1(less than hilar)non-small cell carcinoma:results of the American College of Surgery Oncology Group Z0030 Trial. J Thorac Cardiovasc Surg. 2011;141(3):662-70.
2)
Allen MS, Darling GE, Pechet TT, et al. Morbidity and mortality of major pulmonary resections in patients with early-stage lung cancer:initial results of the randomized, prospective ACOSOG Z0030 trial. Ann Thorac Surg. 2006;81(3):1013-9.
3)
Wu Yl, Huang ZF, Wang SY, et al. A randomized trial of systematic nodal dissection in resectable non-small cell lung cancer. Lung Cancer. 2002;36(1):1-6.
4)
Izbicki JR, Passlick B, Pantel K, et al. Effectiveness of radical systematic mediastinal lymphadenectomy in patients with resectable non-small cell lung cancer:results of a prospective randomized trial. Ann Surg. 1998;227(1):138-44.
5)
Sugi K, Nawata K, Fujita N, et al. Systematic lymph node dissection for clinically diagnosed peripheral non-small-cell lung cancer less than 2cm in diameter. World J Surg. 1998;22(3):290-4.
6)
Wright G, Manser RL, Byrnes G, et al. Surgery for non-small cell lung cancer:systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. Thorax. 2006;61(7):597-603.
7)
Huang X, Wang J, Chen Q, et al. Mediastinal lymph node dissection versus mediastinal lymph node sampling for early stage non-small cell lung cancer:a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2014;9(10):e109979.
8)
Meng D, Zhou Z, Wang Y, et al. Lymphadenectomy for clinical early-stage non-small-cell lung cancer:a systematic review and meta-analysis. Eur J Cardiothorac Surg. 2016;50(4):597-604.
9)
Mokhles S, Macbeth F, Treasure T, et al. Systematic lymphadenectomy versus sampling of ipsilateral mediastinal lymph-nodes during lobectomy for non-small-cell lung cancer:a systematic review of randomized trials and a meta-analysis. Eur J Cardiothorac Surg. 2017;51(6):1149-56.
10)
Hishida T, Miyaoka E, Yokoi K, et al. Lobe-specific nodal dissection for clinical stage I and II NSCLC:Japanese Multi-Institutional Retrospective Study using a propensity score analysis. J Thorac Oncol. 2016;11(9):1529-37.
11)
Okada M, Sakamoto T, Yuki T, et al. Selective mediastinal lymphadenectomy for clinico-surgical stage I non-small cell lung cancer. Ann Thorac Surg. 2006;81(3):1028-32.
12)
Ishiguro F, Matsuo K, Fukui T, et al. Effect of selective lymph node dissection based on patterns of lobe-specific lymph node metastases on patient outcome in patients with resectable non-small cell lung cancer:a large-scale retrospective cohort study applying a propensity score. J Thorac Cardiovasc Surg. 2010;139(4):1001-6.
13)
Maniwa T, Okumura T, Isaka M, et al. Recurrence of mediastinal node cancer after lobe-specific systematic nodal dissection for non-small-cell lung cancer. Eur J Cardiothorac Surg. 2013;44(1):e59-e64.
14)
Guerrera F, Lococo F, Evangelista A, et al. Risk of recurrence in stage I adenocarcinoma of the lung:a multi-institutional study on synergism between type of surgery and type of nodal staging. J Thorac Dis. 2019;11(2):564-72.
15)
Zhao Y, Mao Y, He J, et al. Lobe-specific Lymph Node Dissection in Clinical Stage IA Solid-dominant Non-small-cell Lung Cancer:A Propensity Score Matching Study. Clin Lung Cancer. 2021;22(2):e201-10.
16)
Ma W, Zhang ZJ, Li Y, et al. Comparison of lobe-specific mediastinal lymphadenectomy versus systematic mediastinal lymphadenectomy for clinical stage T1a N0 M0 non-small cell lung cancer. J Cancer Res Ther. 2013;9 Suppl 2:S101-5.
17)
Wang Z, Qi Z, Cheng D, et al. Lobe-specific node dissection can be a suitable alternative to systematic lymph node dissection in highly selective early-stage non-small-cell lung cancer patients:a meta-analysis. Ann Thorac Cardiovasc Surg. 2021;27(3):143-50.
18)
Luo J, Yang S, Dong S. Selective mediastinal lymphadenectomy or complete mediastinal lymphadenectomy for clinical stage i non-small cell lung cancer:a meta-analysis. Adv Ther. 2021;38(12):5671-83.
19)
Hishida T, Saji H, Watanabe SI, et al;Lung cancer surgical study group of the japan clinical oncology group(JCOG-LCSSG). A randomized Phase III trial of lobe-specific vs. systematic nodal dissection for clinical Stage I-II non-small cell lung cancer(JCOG1413). Jpn J Clin Oncol. 2018;48(2):190-4.
1-3
T3臓器合併切除(肺尖部胸壁浸潤癌以外)

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2004年12月1日から2021年11月30日
文献検索方法
  • キーワード:lung cancer, surgery, chest wall or pericardium, NSCLC
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,さらに今回,国際医学情報センターの協力により,下記の検索式で2020年版以降の検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2022年1月16日)
#1 "lung cancer" OR "NSCLC"
#2 "chest wall" OR "pericardium"
#3 "surgery"
#4 #1 AND #2 AND #3
採択方法
  • 臨床試験による文献は1件で,それ以外は後方視的観察研究の文献を採用した。
  • 施設の報告については症例数を考慮した。
  • 治療リスクに関する重要な文献は,上記条件以外でも採用した。
  • 上記条件以外のもので,今回の改訂でも必要と判断したものは採用した。

CQ10.

臨床病期T3N0-1M0の胸壁浸潤非小細胞肺癌には,胸壁合併切除を行うよう勧められるか?

推 奨
臨床病期T3N0-1M0の胸壁浸潤非小細胞肺癌には,胸壁合併切除を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

解 説

 胸壁合併切除術の手術死亡率は0~7.8%で1)~6),合併症発生率は19~44%と報告されている1)2)。胸壁合併切除術を施行した肺癌の予後因子として,完全切除,リンパ節転移,胸壁浸潤の程度が挙げられている。完全切除症例は不完全切除症例より予後が良好である3)~5)。胸壁浸潤肺癌334例の検討で,完全切除例(n=175)の5年生存率が32%であったのに対し,非完全切除例(n=94)では4%と報告されている4)。完全切除可能であれば壁側胸膜切除と骨性胸壁切除の差はないとする報告が多い3)4)6)7)。リンパ節転移に関しては,pN0症例の5年生存率は25~67%であるのに対し,pN1では症例数が少ないものの20~100%,pN2症例では6.2~20.5%と報告されている1)~7)。本邦における肺癌登録合同委員報告では胸壁浸潤407例の5年生存率はpN0:49.1%(n=299),pN1:36.5%(n=43),pN2:20.5%(n=65)で,pN2がpN0に比較して有意に予後不良であった7)。胸壁浸潤の程度に関しては,壁側胸膜のみの浸潤例が胸壁軟部組織や骨性胸郭浸潤例より良好であるという報告もあるが1)5),pN0症例では胸壁浸潤の程度は予後に影響しないと報告されている7)。一方,最近の胸壁合併切除例521例の傾向スコア解析による検討では,肋骨浸潤が壁側胸膜浸潤や胸壁あるいは軟部組織浸潤に比して予後が悪いと報告されている8)。なお,上記文献はいずれも術後病理病期で記載されており,臨床病期で検討されている論文はない。本症を対象とした手術以外の治療法との直接の比較試験はないが,他の治療法との差異は明らかであるため臨床病期T3N0-1M0症例の胸壁合併切除術は推奨度1Cとした。ただし,縦隔リンパ節転移を有すると考えられる症例,特に術前病理検査にてN2と判明した症例については,その予後不良が予測されることより,手術単独療法は施行すべきではない。

 本邦でのcN0症例に対する導入化学放射線療法後の胸壁合併切除の前向き試験の報告では,3年と5年の全生存率はそれぞれ77%,63%であり,12例の病理学的完全奏効例の3年全生存率は91.7%と良好であった9)。一方,pN0症例に対する補助化学療法に関しては米国NCDBによる824例の後ろ向き観察研究で,補助化学療法はHR 0.74(95% CI:0.6-0.9)で生存を改善したとの報告がある10)。さらに,同じく米国NCDBによる2,326例の大規模な検討では,傾向スコア解析を行っても生存期間中央値において補助化学療施行群は68カ月,非施行群は39カ月(P<0.01)と補助化学療法施行群で有意に良好であった11)

 以上より,臨床病期T3N0-1M0の胸壁浸潤非小細胞肺癌に対しては,胸壁合併切除を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%

CQ11.

心膜に浸潤した臨床病期T3N0-1M0の非小細胞肺癌には,合併切除を行うよう勧められるか?

推 奨
心膜に浸潤した臨床病期T3N0-1M0非小細胞肺癌には合併切除を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

解 説

 心膜合併切除例の5年生存率は15.1~54.2%であり7)12)13),pT3に限れば比較的良好な報告もある。しかし91例の心膜浸潤症例の後方視的研究では,全体の5年生存率15.1%と予後不良であった13)。うち32例が心膜単独浸潤(T3)で59例は肺静脈,心房浸潤(T4)を伴っていたが,T3,T4間に予後の差を認めなかった。N0は12例(13.2%)N1は31例(34.1%),N2は48例(52.8%)と,心膜浸潤症例ではリンパ節転移の頻度が極めて高く,肺全摘の頻度も高かった。なお,上記文献はいずれも術後病理病期で記載されており,臨床病期で検討されている論文はない。臨床病期T3N0-1M0心膜浸潤肺癌切除例の予後は,最近の報告で改善はみられるものの依然不良であり,推奨度は1Cとした。ただし,縦隔リンパ節転移を有すると考えられる症例,特に術前病理検査にてN2と判明した症例については,その予後不良が予測されることより13),手術単独療法は施行すべきではない。

 以上より,心膜に浸潤した臨床病期T3N0-1M0非小細胞肺癌に対しては合併切除を行うことを推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%
引用文献
1)
Facciolo F, Cardillo G, Lopergolo M, et al. Chest wall invasion in non-small cell lung carcinoma:a rationale for en bloc resection. J Thorac Cardiovasc Surg. 2001;121(4):649-56.
2)
Burkhart HM, Allen MS, Nichols FC 3rd, et al. Results of en bloc resection for bronchogenic carcinoma with chest wall invasion. J Thorac Cardiovasc Surg. 2002;123(4):670-5.
3)
Matsuoka H, Nishio W, Okada M, et al. Resection of chest wall invasion in patients with non-small cell lung cancer. Eur J Cardiothorac Surg. 2004;26(6):1200-4.
4)
Downey RJ, Martini N, Rusch VW, et al. Extent of chest wall invasion and survival in patients with lung cancer. Ann Thorac Surg. 1999;68(1):188-93.
5)
Magdeleinat P, Alifano M, Benbrahem C, et al. Surgical treatment of lung cancer invading the chest wall:results and prognostic factors. Ann Thorac Surg. 2001;71(4):1094-9.
6)
Doddoli C, D'Journo B, Le Pimpec-Barthes F, et al. Lung cancer invading the chest wall:a plea for en-bloc resection but the need for new treatment strategies. Ann Thorac Surg. 2005;80(6):2032-40.
7)
Kawaguchi K, Miyaoka E, Asamura H, et al. Modern surgical results of lung cancer involving neighboring structures:a retrospective analysis of 531 pT3 cases in a Japanese Lung Cancer Registry Study. J Thorac Cardiovasc Surg. 2012;144(2):431-7.
8)
Zhao M, Wu J, Deng J, et al. Proposal for Rib invasion as an independent T descriptor for non-small cell lung cancer:a propensity-score matching analysis. Lung Cancer. 2021;159:27-33.
9)
Kawaguchi K, Yokoi K, Niwa H, et al. A prospective, multi-institutional phase II study of induction chemoradiotherapy followed by surgery in patients with non-small cell lung cancer involving the chest wall(CJLSG0801). Lung Cancer. 2017;104:79-84.
10)
Ahmad U, Crabtree TD, Patel AP, et al. Adjuvant chemotherapy is associated with improved survival in locally invasive node negative non-small cell lung cancer. Ann Thorac Surg. 2017;104(1):303-7.
11)
Drake JA, Sullivan JL, Weksler B. Adjuvant chemotherapy improves survival in patients with completely resected T3N0 non-small cell lung cancer invading the chest wall. J Thorac Cardiovasc Surg. 2018;155(4):1794-802.
12)
Sakakura N, Mori S, Ishiguro F, et al. Subcategorization of resectable non-small cell lung cancer involving neighboring structures. Ann Thorac Surg. 2008;86(4):1076-83.
13)
Riquet M, Grand B, Arame A, et al. Lung cancer invading the pericardium:quantum of lymph nodes. Ann Thorac Surg. 2010;90(6):1773-7.
1-4
気管支・肺動脈形成

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2000年12月1日から2021年11月30日
文献検索方法
  • キーワード:Lung Neoplasms, Lung Cancer, non small cell carcinoma of lung, Bronchoplasty, bronchoplastic, tracheobronchoplasty, arterioplasty
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,さらに今回,国際医学情報センターの協力により,下記の検索式で2020年版以降の検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2022年1月16日)
#1 LUNG NEOPLASMS+NT/CT OR (LUNG OR PULMONARY)(NEOPLASM OR ADENOCARCINOM OR CARCINOM OR CANCER OR TUMOR)
#2 BRONCHOPLAST OR TRACHEOBRONCHOPLAST OR ANGIOPLAST OR BRONCHOANGIOPLAST OR SLEEV LOBECTOM OR SEGMENTECTOM OR (LOBECTOM AND (SL OR ESL)) OR RECONSTRUC((LUNG OR PULMONARY)ARTER OR BRONCHI)
#3 #1 AND #2
#4 #3 AND HUMAN AND ENGLISH/LA AND (2020-2021)/PY AND (20200101-20211130)/UP NOT EPUB/FS
採択方法
  • 臨床試験による文献はなく,後方視的観察研究の文献を採用した。review articleは除外した。施設の報告については,症例数を考慮した。
  • なお,治療リスクに関する重要な文献は,上記条件以外でも採用した。
  • 上記条件以外のもので,今回の改訂でも必要と判断したものは採用した。

CQ12.

肺全摘を避けて,気管支・肺動脈形成を行うべきか?

推 奨
肺全摘を避けて,気管支・肺動脈形成を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

解 説

 ランダム化比較試験はないが,複数の後方視的比較研究および,2つの傾向スコアマッチによる比較研究,1つの後方視的研究のメタアナリシスが報告されている1)~5)。これらによると,中枢進展しているか,肺門リンパ節転移のために肺全摘または気管支・肺動脈形成術が可能な場合,気管支・肺動脈形成術後の局所コントロールは肺全摘と同等であり,予後は肺全摘術と同等か,それ以上と報告されている。

 気管支形成の手術死亡率は0.9~5.9%1)~4)6)~8)と報告されている。

 気管支楔状切除の局所再発率は8.9%,BPFは1.6%,術死は3.7%で管状切除と変わらないとの報告がある9)

 肺動脈形成は単独および気管支形成同時であっても,安全性・有効性が報告されている6)7)10)~12)

 肺全摘を避けるために行う複雑気管支形成術の有効性も報告されている13)14)

 Induction療法後の気管支形成に関しては,術前化学療法群と化学放射線療法群と通常の気管支形成群との比較で,術死亡,術後合併症,また吻合部合併症に差がない15)~17)という報告や,術前放射線治療が術死,吻合合併症に影響したという報告もある7)18)。また予後に関しては,Induction群で全摘症例やInductionのない症例より良好という報告と17)19),induction群で予後が不良であったとする報告もある20)

 以上より,肺全摘を避けて,気管支・肺動脈形成を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%
引用文献
1)
Deslauriers J, Grégoire J, Jacques LF, et al. Sleeve lobectomy versus pneumonectomy for lung cancer:a comparative analysis of survival and sites or recurrences. Ann Thorac Surg. 2004;77(4):1152-6.
2)
Ludwig C, Stoelben E, Olschewski M, et al. Comparison of morbidity, 30-day mortality, and long-term survival after pneumonectomy and sleeve lobectomy for non-small cell lung carcinoma. Ann Thorac Surg. 2005;79(3):968-73.
3)
Schiavon M, Comacchio GM, Mammana M, et al. Lobectomy with artery reconstruction and pneumonectomy for non-small cell lung cancer:a propensity score weighting study. Ann Thorac Surg. 2021;112(6):1805-13.
4)
Chen J, Soultanis KM, Sun F, et al. Outcomes of sleeve lobectomy versus pneumonectomy:a propensity score-matched study. J Thorac Cardiovasc Surg. 2021;162(6):1619-28.
5)
Ma Z, Dong A, Fan J, et al. Does sleeve lobectomy concomitant with or without pulmonary artery reconstruction(double sleeve)have favorable results for non-small cell lung cancer compared with pneumonectomy? A meta-analysis. Eur J Cardiothorac Surg. 2007;32(1):20-8.
6)
Zhao LL, Zhou FY, Dai CY, et al. Prognostic analysis of the bronchoplastic and broncho-arterioplastic lobectomy of non-small cell lung cancers-10-year experiences of 161 patients. J Thorac Dis. 2015;7(12):2288-99.
7)
Rea F, Marulli G, Schiavon M, et al. A quarter of a century experience with sleeve lobectomy for non-small cell lung cancer. Eur J Cardiothorac Surg. 2008;34(3):488-92.
8)
Yamamoto K, Miyamoto Y, Ohsumi A, et al. Sleeve lung resection for lung cancer:analysis according to the type of procedure. J Thorac Cardiovasc Surg. 2008;136(5):1349-56.
9)
Park SY, Lee HS, Jang HJ, et al. Wedge bronchoplastic lobectomy for non-small cell lung cancer as an alternative to sleeve lobectomy. J Thorac Cardiovasc Surg. 2012;143(4):825-31.
10)
Venuta F, Ciccone AM, Anile M, et al. Reconstruction of the pulmonary artery for lung cancer:long-term results. J Thorac Cardiovasc Surg. 2009;138(5):1185-91.
11)
Chen C, Bao F, Zheng H, et al. Local extension at the hilum region is associated with worse long-term survival in stage I non-small cell lung cancers. Ann Thorac Surg. 2012;93(2):389-96.
12)
Nagayasu T, Yamasaki N, Tsuchiya T, et al. The evolution of bronchoplasty and broncho-angioplasty as treatments for lung cancer:evaluation of 30 years of data from a single institution. Eur J Cardiothorac Surg. 2016;49(1):300-6.
13)
Okada M, Nishio W, Sakamoto T, et al. Sleeve segmentectomy for non-small cell lung carcinoma. J Thorac Cardiovasc Surg. 2004;128(3):420-4.
14)
Berthet JP, Paradela M, Jimenez MJ, et al. Extended sleeve lobectomy:one more step toward avoiding pneumonectomy in centrally located lung cancer. Ann Thorac Surg. 2013;96(6):1988-97.
15)
Gonzalez M, Litzistorf Y, Krueger T, et al. Impact of induction therapy on airway complications after sleeve lobectomy for lung cancer. Ann Thorac Surg. 2013;96(1):247-52.
16)
Ohta M, Sawabata N, Maeda H, et al. Efficacy and safety of tracheobronchoplasty after induction therapy for locally advanced lung cancer. J Thorac Cardiovasc Surg. 2003;125(1):96-100.
17)
Maurizi G, D'Andrilli A, Anile M, et al. Sleeve lobectomy compared with pneumonectomy after induction therapy for non-small-cell lung cancer. J Thorac Oncol. 2013;8(5):637-43.
18)
Rodriguez M, Dezube AR, Bravo-Iniguez CE, et al. Impact of neoadjuvant chemoradiation on adverse events after bronchial sleeve resection. Ann Thorac Surg. 2021;112(3):890-6.
19)
Bagan P, Berna P, Brian E, et al. Induction chemotherapy before sleeve lobectomy for lung cancer:immediate and long-term results. Ann Thorac Surg. 2009;88(6):1732-5.
20)
Chriqui LE, Forster C, Lovis A, et al. Is sleeve lobectomy safe after induction therapy?-a systematic review and meta-analysis. J Thorac Dis. 2021;13(10):5887-98.
1-5
同一肺葉内結節

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2000年12月1日から2021年11月30日
文献検索方法
  • キーワード:Lung Neoplasms, Lung Cancer, Pulmonary Neoplasms, intrapulmonary metastases, intrapulmonary metastasis, pulmonary metastases
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,さらに今回,国際医学情報センターの協力により,下記の検索式で2020年版以降の検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2022年1月16日)
#1 LUNG NEOPLASMS+NT/CT OR (LUNG OR PULMONARY)(NEOPLASM OR ADENOCARCINOM OR CARCINOM OR CANCER OR TUMOR)
#2 #1 AND (SU/CT OR SURGICAL PROCEDURES, OPERATIVE+NT/CT OR SURG OR OPERAT OR ECTOM OR RESECT?)
#3 (LUNG OR PULMONARY)(W)(METASTASIS OR METASTASES)
#4 #2 AND #3
#5 (PM1 OR CN0) AND #2
#6 #2 AND INTRAPULMONAR(METASTA OR INVASI OR INVAD OR INFILTRAT)
#7 #2 AND (IPSILATER? OR SAME)(LUNG OR PULMONARY ORNODE OR NODAL OR LOBE) AND (METASTA OR MULTIPL)
#8 #4 OR #5 OR #6 OR #7
#9 #8 AND HUMAN AND ENGLISH/LA AND (2020-2021)/PY AND (20200101-20211130)/UP NOT EPUB/FS
採択方法
  • 臨床試験による文献はなく,後方視的観察研究の文献を採用した。Review articleは除外した。施設の報告については,症例数を考慮した。
  • なお,治療リスクに関する重要な文献は,上記条件以外でも採用した。
  • 上記条件以外のもので,今回の改訂でも必要と判断したものは採用した。

CQ13.

同一肺葉内結節で転移(PM1)もしくは多発肺癌を疑うcN0症例において,手術を行うべきか?

推 奨
同一肺葉内結節で転移(PM1)もしくは多発肺癌を疑うcN0症例において,手術を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:100%〕

解 説

 転移を有する非小細胞肺癌に対する手術の有無についての比較臨床試験は行われていない。

 IASLCに登録された肺癌症例(1999~2010年)のうち,同一肺葉内転移(PM1),M0の臨床病期172例,病理病期960例について検討されている1)。組織別での差はなく,多くの症例は,手術時に発見されることが多かった。5年生存率は,cN0:59%(110例),cN-any:47%(172例),pN0:59%(468例),pN-any:42%(960例)であった。ただし,cN0,M0症例のうち,切除例68%に対し,非切除例は症例数が少ないが0%であった。またpN0M0切除例のうち,R0:59%に対し,R-any:42%であり,pN0M0R0であれば,良好な予後が得られている。これは,肺癌登録合同委員会で登録された1994年の肺癌手術症例の予後と同等か,それ以上であった。この報告でリンパ節転移の有無別に解析すると,N0,N1,N2症例での5年生存率は,45.8%,25.3%,11.1%であり,N0群とN1群(P=0.0176),N1群とN2群(P=0.0114)に有意差が認められた2)。同様に,100例以上の解析がなされた報告では,PM1の術後5年生存率は30~58%と報告され2)~8),特にリンパ節転移陰性症例では概ね50%以上であることが報告され6)~8),比較的予後が期待できる集団と考えられる。

 術前検査において同一肺葉内転移が疑われる症例において,手術の結果その結節が転移でない場合も認められ9),正確な診断のためにも手術が勧められる。また,多発癌との鑑別が困難なこともあり,リンパ節転移のない症例においては,手術を行うよう勧められる。なお,リンパ節転移を有すると考えられる症例,特に術前検査にて組織学的N2と判明した症例については,その予後不良が予測されることより,手術単独療法は施行すべきではない。

 以上より,同一肺葉内結節で転移(PM1)もしくは多発肺癌を疑うcN0症例においては,手術を行うよう推奨する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%
引用文献
1)
Detterbeck FC, Bolejack V, Arenberg DA, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project:Background Data and Proposals for the Classification of Lung Cancer with Separate Tumor Nodules in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification for Lung Cancer. J Thorac Oncol. 2016;11(5):681-92.
2)
Nagai K, Sohara Y, Tsuchiya R, et al. Prognosis of resected non-small cell lung cancer patients with intrapulmonary metastases. J Thorac Oncol. 2007;2(4):282-6.
3)
Okumura T, Asamura H, Suzuki K, et al. Intrapulmonary metastasis of non-small cell lung cancer:a prognostic assessment. J Thorac Cardiovasc Surg. 2001;122(1):24-8.
4)
Rami-Porta R, Ball D, Crowley J, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project:proposals for the revision of the T descriptors in the forthcoming(seventh)edition of the TNM classification for lung cancer. J Thorac Oncol. 2007;2(7):593-602.
5)
Ou SH, Zell JA. Validation study of the proposed IASLC staging revisions of the T4 and M non-small cell lung cancer descriptors using data from 23,583 patients in the California Cancer Registry. J Thorac Oncol. 2008;3(3):216-27.
6)
Zell JA, Ou SH, Ziogas A, et al. Survival improvements for advanced stage nonbronchioloalveolar carcinoma-type nonsmall cell lung cancer cases with ipsilateral intrapulmonary nodules. Cancer. 2008;112(1):136-43.
7)
William WN Jr, Lin HY, Lee JJ, et al. Revisiting stage IIIB and IV non-small cell lung cancer:analysis of the surveillance, epidemiology, and end results data. Chest. 2009;136(3):701-9.
8)
Okamoto T, Iwata T, Mizobuchi T, et al. Surgical treatment for non-small cell lung cancer with ipsilateral pulmonary metastases. Surg Today. 2013;43(10):1123-8.
9)
Detterbeck FC, Franklin WA, Nicholson AG, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project:Background Data and Proposed Criteria to Distinguish Separate Primary Lung Cancers from Metastatic Foci in Patients with Two Lung Tumors in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification for Lung Cancer. J Thorac Oncol. 2016;11(5):651-65.
1-6
他肺葉内結節

文献検索と採択

文献検索期間
  • 1990年1月1日から2021年11月30日
文献検索方法
  • キーワード:lung cancer, surgery, multiple primary, multiple cancers
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,さらに今回,国際医学情報センターの協力により,下記の検索式で2020年版以降の検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2022年1月16日)
#1 "lung cancer" AND "surgery"
#2 "pulmonary metastasis" OR "pulmonary metastases"
#3 "multiple primary" OR "multiple cancers"
#4 #1 AND (#2 OR #3)
採択方法
  • 臨床試験による文献はなく,後方視的観察研究の文献を採用し,施設の報告については,症例数を考慮した。なお,治療リスクに関する重要な文献は,上記条件以外でも採用した。
  • 上記条件以外のもので,今回の改訂でも必要と判断したものは採用した。

CQ14.

他肺葉内結節で,多発原発性肺癌を疑う症例において,手術を行うべきか?

推 奨
他肺葉内結節で,多発原発性肺癌を疑う症例においては,手術を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:D,合意率:56%〕

解 説

 多発原発性肺癌と肺内転移の鑑別診断基準には,多くの論文においてMartini and Melamedの基準が用いられている1)。複数の後方視的研究で,縦隔リンパ節転移のない多発原発性肺癌を疑う症例では,5年生存率が53~97.2%と外科治療が良好な成績を得たとの報告が多い2)~6)。なかでも,すりガラス影を伴った多発肺癌は,特に予後良好と報告されている5)6)。縦隔リンパ節転移がある場合ついては,予後不良のため,手術は推奨しないとの報告がある7)8)。術前診断において特に同じ組織型の場合には,多発原発性肺癌と肺内転移との鑑別は必ずしも容易ではない。臨床的鑑別診断に加え9)10),分子生物学的診断によるclonalityの評価がなされつつあるが,確立するには至っていない11)~14)

 以上より,他肺葉内結節で,多発原発性肺癌を疑う症例においては,手術を行うよう提案する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
44%
(4/9)
56%
(5/9)
0% 0% 0%

CQ15.

他肺葉内結節で,肺内転移(PM2,3)を疑う症例において,手術を行うべきか?

推 奨
肺内転移(PM2,3)を疑う症例においては,手術を
行わない
よう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:D,合意率:89%〕

解 説

 肺癌登録合同委員会で登録された1994年の非小細胞肺癌6,525例(ver. 6)のうち,他肺葉転移(PM2)128例の5年生存率は22.5%で,PM2を除いたM1症例の5年生存率は20.5%であり,PM2症例と有意差は認められなかった(P=0.434)15)。また,その他の報告においても,他肺葉の肺内転移(PM2,3)の症例に対する切除成績は,PM1に比較し予後不良である報告が多く16)~19),手術を勧める科学的根拠は明確でない。

 以上より,肺内転移(PM2,3)を疑う症例においては,手術を行わないよう提案する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行わないよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 0% 11%
(1/9)
89%
(8/9)
0%
引用文献
1)
Martini N, Melamed MR. Multiple primary lung cancers. J Thorac Cardiovasc Surg. 1975;70(4):606-12.
2)
Yu-YC, Hsu PK, Yeh YC, et al. Surgical results of synchronous multiple primary lung cancers:similar to the stage-matched solitary primary lung cancers? Ann Thorac Surg. 2013;96(6):1966-74.
3)
Jiang L, He J, Shi X, et al. Prognosis of synchronous and metachronous multiple primary lung cancers:systematic review and meta-analysis. Lung Cancer. 2015;87(3):303-10.
4)
Chen K, Chen W, Cai J, et al. Favorable prognosis and high discrepancy of genetic features in surgical patients with multiple primary lung cancers. J Thorac Cardiovasc Surg. 2018;155(1):371-79.e1.
5)
Hattori A, Takamochi K, Oh S, et al. Prognostic classification of multiple primary lung cancers based on a ground-glass opacity component. Ann Thorac Surg. 2020;109(2):420-7.
6)
Shintani Y, Okami J, Ito H, et al;Japanese Joint Committee of Lung Cancer Registry. Clinical features and outcomes of patients with stage I multiple primary lung cancers. Cancer Sci. 2021;112(5):1924-35.
7)
Riquet M, Cazes A, Pfeuty K, et al. Multiple lung cancers prognosis:what about histology? Ann Thorac Surg. 2008;86(3):921-6.
8)
Leventakos K, Peikert T, Midthun DE, et al. Management of Multifocal Lung Cancer:Results of a Survey. J Thorac Oncol. 2017;12(9):1398-402.
9)
Detterbeck FC, Nicholson AG, Franklin WA, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project:Summary of Proposals for Revisions of the Classification of Lung Cancers with Multiple Pulmonary Sites of Involvement in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification. J Thorac Oncol. 2016;11(5):639-50.
10)
Detterbeck FC, Marom EM, Arenberg DA, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project:Background Data and Proposals for the Application of TNM Staging Rules to Lung Cancer Presenting as Multiple Nodules with Ground Glass or Lepidic Features or a Pneumonic Type of Involvement in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification. J Thorac Oncol. 2016;11(5):666-80.
11)
Chang YL, Wu CT, Lin SC, et al. Clonality and prognostic implications of p53 and epidermal growth factor receptor somatic aberrations in multiple primary lung cancers. Clin Cancer Res. 2007;13(1):52-8.
12)
Girard N, Ostrovnaya I, Lau C, et al. Genomic and mutational profiling to assess clonal relationships between multiple non-small cell lung cancers. Clin Cancer Res. 2009;15(16):5184-90.
13)
Detterbeck FC, Franklin WA, Nicholson AG, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project:Background Data and Proposed Criteria to Distinguish Separate Primary Lung Cancers from Metastatic Foci in Patients with Two Lung Tumors in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification for Lung Cancer. J Thorac Oncol. 2016;11(5):651-65.
14)
Takahashi Y, Shien K, Tomida S, et al. Comparative mutational evaluation of multiple lung cancers by multiplex oncogene mutation analysis. Cancer Sci. 2018;109(11):3634-42.
15)
Nagai K, Sohara Y, Tsuchiya R, et al. Prognosis of resected non-small cell lung cancer patients with intrapulmonary metastases. J Thorac Oncol. 2007;2(4):282-6.
16)
Fukuse T, Hirata T, Tanaka F, et al. Prognosis of ipsilateral intrapulmonary metastases in resected nonsmall cell lung cancer. Eur J Cardiothorac Surg. 1997;12(2):218-23.
17)
Okumura T, Asamura H, Suzuki K, et al. Intrapulmonary metastasis of non-small cell lung cancer:a prognostic assessment. J Thorac Cardiovasc Surg. 2001;122(1):24-8.
18)
Zell JA, Ou SH, Ziogas A, et al. Survival improvements for advanced stage nonbronchioloalveolar carcinoma-type nonsmall cell lung cancer cases with ipsilateral intrapulmonary nodules. Cancer. 2008;112(1):136-43.
19)
Detterbeck FC, Bolejack V, Arenberg DA, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project:Background Data and Proposals for the Classification of Lung Cancer with Separate Tumor Nodules in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification for Lung Cancer. J Thorac Oncol. 2016;11(5):681-92.
1-7
異時性多発癌

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2000年1月1日から2021年11月30日
文献検索方法
  • キーワード:lung cancer, surgery, metachronous, heterochronic, second, multiple, redo, completion
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,さらに今回,国際医学情報センターの協力により,下記の検索式で2020年版以降の検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2022年1月16日)
#1 "lung cancer" AND "surgery"
#2 #1 AND "metachronous" OR "heterochronic" OR "second" OR "multiple"
#3 #1 AND "Redo" OR "completion"
#4 #2 AND #3
#5 #4 AND "metachronous" OR "heterochronic" OR "second" OR "multiple"限定
#6 #4 AND "Redo" OR "completion"限定
#7 #1 AND #2 AND #3 AND #4 AND #5 AND #6
採択方法
  • 臨床試験による文献はなく,後方視的観察研究の文献を採用し,施設の報告については,症例数を考慮した。なお,治療リスクに関する重要な文献は,上記条件以外でも採用した。
  • 上記条件以外のもので,今回の改訂でも必要と判断したものは採用した。

CQ16.

異時性多発肺癌に対して,耐術能があれば外科治療を行ってもよいか?

推 奨
異時性多発肺癌に対しては,耐術能があれば外科治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:100%〕

解 説

 異時性多発肺癌に対する治療では,外科治療で良好な成績を得たとの報告が多い1)~8)。5年生存率は一次癌から76~83.9%2)~4),二次癌から42~71.7%であり1)~7),手術関連死は1.4~7.0%であった2)~4)7)。肺切除法としては,肺機能が許せば肺葉切除が良好であったとの報告と2)6),縮小手術でも同等の成績を示したとの報告がある1)3)5)。肺全摘術に関しては,予後不良であったとの報告2)3)と,同等であったという報告とがある7)9)。再発肺内転移との鑑別診断に関しては,同一組織型であっても遺伝子分析にて可能であったとの報告もあり,今後さらに臨床応用されることが期待される10)~12)。耐術能がない異時性多発肺癌患者に対しては,体幹部定位放射線治療(SBRT)により,重篤な有害事象を発症することなく,5年生存率は二次癌から38~65.8%と良好な成績を得たとの報告もある13)14)

 以上より,異時性多発肺癌に対しては,耐術能があれば外科治療を行うよう推奨する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%
引用文献
1)
Lee BE, Port JL, Stiles BM, et al. TNM stage is the most important determinant of survival in metachronous lung cancer. Ann Thorac Surg. 2009;88(4):1100-5.
2)
Zuin A, Andriolo LG, Marulli G, et al. Is lobectomy really more effective than sublobar resection in the surgical treatment of second primary lung cancer? Eur J Cardiothorac Surg. 2013;44(2):e120-5.
3)
Yang J, Liu M, Fan J, et al. Surgical treatment of metachronous second primary lung cancer. Ann Thorac Surg. 2014;98(4):1192-8.
4)
Hamaji M, Ali SO, Burt BM. A meta-analysis of resected metachronous second non-small cell lung cancer. Ann Thorac Surg. 2015;99(4):1470-8.
5)
Hattori A, Suzuki K, Takamochi K, et al. Clinical features of multiple lung cancers based on thin-section computed tomography:what are the appropriate surgical strategies for second lung cancers? Surg Today. 2015;45(2):189-96.
6)
Yang X, Zhan C, Li M, et al. Lobectomy versus sublobectomy in metachronous second primary lung cancer:a propensity score study. Ann Thorac Surg. 2018;106(3):880-7.
7)
Hattori A, Matsunaga T, Watanabe Y, et al. Repeated anatomical pulmonary resection for metachronous ipsilateral second non-small cell lung cancer. J Thorac Cardiovasc Surg. 2021;162(5):1389-98.e2.
8)
Shintani Y, Okami J, Ito H, et al;Japanese Joint Committee of Lung Cancer Registry. Clinical features and outcomes of patients with stage I multiple primary lung cancers. Cancer Sci. 2021;112(5):1924-35.
9)
Riquet M, Cazes A, Pfeuty K, et al. Multiple lung cancers prognosis:what about histology? Ann Thorac Surg. 2008;86(3):921-6.
10)
Girard N, Ostrovnaya I, Lau C, et al. Genomic and mutational profiling to assess clonal relationships between multiple non-small cell lung cancers. Clin Cancer Res. 2009;15(16):5184-90.
11)
Wu CT, Lin MW, Hsieh MS, et al. New aspects of the clinicopathology and genetic profile of metachronous multiple lung cancers. Ann Surg. 2014;259(5):1018-24.
12)
Takahashi Y, Shien K, Tomida S, et al. Comparative mutational evaluation of multiple lung cancers by multiplex oncogene mutation analysis. Cancer Sci. 2018;109(11):3634-42.
13)
Nishiyama K, Kodama K, Teshima T, et al. Stereotactic body radiotherapy for second pulmonary nodules after operation for an initial lung cancer. Jpn J Clin Oncol. 2015;45(10):947-52.
14)
Miyazaki T, Yamazaki T, Sato S, et al. Surgery or stereotactic body radiotherapy for metachronous primary lung cancer? A propensity score matching analysis. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2020;68(11):1305-11.
1-8
臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対する胸腔鏡補助下肺葉切除,ロボット支援下肺葉切除

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2004年12月1日から2021年11月30日
文献検索方法
  • キーワード:lung cancer, VATS, video-assisted thoracic surgery, RATS, robot-assisted thoracic surgery, NSCLC
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,さらに今回,国際医学情報センターの協力により,下記の検索式で2020年版以降の検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2022年1月16日)
#1 "lung cancer OR NSCLC"
#2 "video-assisted OR robotic"
#3 VAT限定 OR RAT限定
#4 #1 AND #2 AND #3
採択方法
  • メタアナリシス,第Ⅲ相試験,ランダム化比較第Ⅱ相試験を抽出し,VATSではreview articleは除外し,RATSでは後方視的な検討では,胸腔鏡手術300例以上のものを抽出した。なお,治療リスクに関する重要な文献は,上記条件以外でも採用した。
  • 上記条件以外のもので,今回の改訂でも必要と判断したものは採用した。

CQ17.

臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して,胸腔鏡補助下肺葉切除を行ってもよいか?

推 奨
胸腔鏡補助下肺葉切除を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:B,合意率:67%〕

解 説

 胸腔鏡補助下手術(VATS)の定義には様々な解釈がある。本項ではアプローチ手技を問わず胸腔鏡を用い肺葉切除したものをVATS肺葉切除術として取り扱った。臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対するVATS肺葉切除術については,3つのランダム化比較試験が報告されている。1つは臨床病期Ⅰ期の非小細胞肺癌55例についてランダムに割り付けを行い,標準開胸肺葉切除(n=30),またはVATS肺葉切除(n=25)を比較したものであるが,手術時間,出血量,ドレーン留置期間,在院日数,術後疼痛に関しては両群間で有意差はなかった1)。2つ目は臨床病期ⅠA期非小細胞肺癌100例を標準開胸肺葉切除(n=52)とVATS肺葉切除(n=48)に分けて比較したところ,郭清リンパ節個数,リンパ節転移頻度,再発率,5年全生存率では両群間に差を認めなかったとの報告である2)。3つ目は,対象が臨床病期Ⅰ,Ⅱ期,周術期の解析ではあるが,多施設前向きランダム化非劣性比較試験である。VATS群215例と開胸群210例を比較し,手術時間と出血量においてVATS群のほうが有意に優れていた3)。前2つのランダム化比較試験を含むメタアナリシスの結果が報告され,VATSと開胸手術では手術時間,出血量,ドレーン留置期間,在院日数,肺瘻の遷延,不整脈,肺炎,手術死亡,局所再発の頻度に有意な差はなかった4)。しかしながら,VATS群のほうで有意に遠隔転移が少なく5年生存率も良好であったため,早期非小細胞肺癌患者に対してVATSによる肺葉切除術は適切な手技であると結論付けた。また別のメタアナリシスではⅠ期非小細胞肺癌の手術例においてはVATS群は開胸群と比較して5年生存率でより長い予後,少ない合併症であることが判明し,VATSは早期肺癌に対する治療として効果的で安全なアプローチであると結論された5)。一方で,長期予後に対してVATSは開胸手術と差がなかったというメタアナリシスの報告もある6)。さらに臨床病期Ⅰ期以外の病期も含んだ別のメタアナリシスでも同様に,術後合併症率やドレーン留置期間,入院期間,術中出血量においてVATS群は優れていたが,手術時間は長い傾向がみられていた7)。また同様の大規模メタアナリシスにおいては,33論文から合計61,633症例を含む解析を行い,周術期死亡ハザード比0.64(95%CI:0.56-0.73),長期生存ハザード比0.88(95%CI:0.81-0.96)と有意にVATS群で良好な成績が示されていた8)

 低肺機能の患者の肺葉切除における術後急性期の安全性について検討したメタアナリシスによると,術後30日死亡や術後合併症発症率は両群で同等であったが,VATS群で有意に肺合併症が少なかった9)。さらに周術期の血栓症イベント発生に関するメタアナリシスでは,周術期の心筋梗塞,深部静脈血栓症および肺塞栓症のリスクが有意に低下していた10)

 サンプル例は66例と少ないが,肺葉切除における系統的リンパ節郭清について開胸とVATSを比較したランダム化比較試験が報告されている11)。2008~11年に単一施設で臨床Ⅰ期非小細胞肺癌の系統的リンパ節郭清を行い,郭清個数は差がなかったが,手術時間はVATS 187分,開胸158分と手術時間はVATSで有意に長かった。これにより縦隔郭清は開胸と同じくVATSでも十分行うことができ,視野はむしろVATSのほうが良好である。術後疼痛とQOLに関してVATSと開胸を比較したランダム化比較試験がLancet Oncologyに報告されている12)。臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌における肺葉切除でVATS群(102例)は開胸群(99例)と比較して術後疼痛が少なく,QOLも良いことが示された。

 VATSにおける術中の重篤な合併症に関して報告がある。ヨーロッパの6つのセンターでの前方視的研究では3,076例のVATS肺切除症例を解析した13)。術死3例,在院死43例(1.4%)で,重篤な合併症は46例(1.5%)認め,気管支血管を誤って切離,消化管損傷,中枢気道損傷,追加の手術を要するような合併症,生命に危険が及ぶ合併症などであった。在院死の23%は術中の重篤な合併症に関連していた。VATSから開胸へのconversionは5.5%(170例)に認め,その理由としては腫瘍学的(22%),手技的(30%),合併症(49%)であった。血管損傷は2.9%(88例)あり,そのうち70例がconversionした。Washington大学からの報告では2004~12年の肺癌肺葉切除症例1,227例のうち,VATS完遂群517例(42%),VATSから開胸した群(conversion)87例(7%),開胸群623例(51%)となり,3群間で比較した14)。Conversionの原因は出血(25%),癒着/腫瘍(64%),リンパ節(9%)であった。また韓国からのVATS lobectomy施行中の予期せぬconversionを要した症例の検討では,conversionの原因はリンパ節の固着(28%),血管損傷(20%),腫瘍の浸潤(11%)であった15)。Conversionを要した69例とVATS例を1:3で割り付けし2群間を比較,術後合併症や在院死亡に差はなかったが,呼吸器合併症はconversion群で多く認めた。これらの報告からVATS中に腫瘍学的または手技的に困難であれば開胸へのconversionは躊躇せず,速やかに行うべきである。

 臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対するVATS肺葉切除術について混乱を生じているのは,VATSアプローチの定義自体が曖昧な点である。そのアプローチにはモニター視のみの完全鏡視下と,直視を併用するもの,いわゆるHybrid VATSがある16)。皮切最大長については8cm以下として呼吸器外科学会や胸腔鏡技術認定委員会でのコンセンサスが得られているものの,皮切の数,肋間開大(開胸器併用)の有無など様々な方法が施設毎に採用され,完全鏡視下であっても手術の質向上のために直視下触診を用いるものもある。その手術成績などについては,その区別なく論じられている場合がほとんどである。さらにVATSが開胸手術に比較して,予後,侵襲性,安全性に関して,同等ないし優れていると肯定的な研究は多いものの,これらの報告の多くは単施設の後方視的な解析に基づくものであり,十分な症例数を有したランダム化比較試験はなく,確定的な結論は出ていない。VATSアプローチの定義が難しいため,今後も大規模なランダム化比較試験の実施は困難であると予想される。2018年の日本胸部外科学会年次調査結果によれば,肺癌に対する31,365例の全肺葉切除術の約70%,22,880例にVATS肺葉切除術が施行されている17)

 このように臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対するVATS肺葉切除術は,実地医療の場ではランダム化比較試験を経ずに頻用されている。

 以上より,臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して胸腔鏡補助下肺葉切除を行うよう提案する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
33%
(3/9)
67%
(6/9)
0% 0% 0%

CQ18.

臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して,ロボット支援下肺葉切除を行ってもよいか?

推 奨
臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して,ロボット支援下肺葉切除は行うことを提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:B,合意率:100%〕

解 説

 肺癌に対するロボット支援手術(RATS)は2002年の報告に始まり,欧米を中心に広がってきた。本邦では2011年に最初の手術が報告された。胸腔鏡補助下手術(VATS)が本診療ガイドラインで推奨度2Bとなっている中で,RATSは3次元視野と精緻操作によりVATSの弱点を補う新技術として期待されている。多くの後方視的な研究がなされる中で,VATSと比較した大規模試験のメタアナリシスをまとめると,周術期成績,根治性,安全性,長期予後では差がなく,操作性,ラーニングカーブではRATSに優るが,利用できる器具が限られていること,手術時間が長いこと,コストがかかることがRATSの欠点とされる1)~9)。長期成績についても,症例数や観察期間が十分とはいえないが,開胸,VATS,RATSの3者の比較で,有意差のない予後が報告されている10)

 手術手技としては,肺葉切除のみならず,小型肺癌に対する区域切除11),肺門部肺癌に対する気管支形成12),進行肺癌に対する術前治療後の手術13)などの複雑な手技への応用も報告されている。RATSのメリットを考えた場合には,その優れた操作性からリンパ節郭清への有用性が期待されている。

 RATSとVATSを比較した前向きランダム化比較試験では,2021年にROMAN study14)とRVlob trial15)の結果が示された。その結果,RATSとVATSの周術期成績は同等で,リンパ節郭清ではRATSにおいて改善が認められた。また,cN2肺癌に対するRATSと開胸手術のランダム化比較試験では,周術期管理においてRATSの有意性が示され,予後は同等であった16)17)。2021年に報告されたシステマティックレビュー論文やメタアナリシス論文では,RATSとVATSは周術期成績,OS,DFSのすべてで同等であることが示された18)19)。したがって,RATSは臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して,VATSと同様に低侵襲手術のオプションの1つとして提案できる。しかしながら,本邦においては,まだ十分な症例解析ができていないことには留意する必要がある。

 一方で,安全性については,RATSでは術中の医原性合併症の発生率が高いことも報告されている20)21)。したがって,RATSのピットフォールやトラブルシュートをよく熟知し,緊急時の対処法を平時から麻酔科医を含めてチームで話し合っておくことが大切と考えられる。

 以上より,臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対してロボット支援下肺葉切除は胸腔鏡手術と同様に,低侵襲手術の1つとして行うことを弱く推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 100%
(9/9)
0% 0% 0%
引用文献

胸腔鏡補助下肺葉切除

1)
Kirby TJ, Mack MJ, Landreneau RJ, et al. Lobectomy——video-assisted thoracic surgery versus muscle-sparing thoracotomy. A randomized trial. J Thorac Cardiovasc Surg. 1995;109(5):997-1002.
2)
Sugi K, Kaneda Y, Esato K. Video-assisted thoracoscopic lobectomy achieves a satisfactory long-term prognosis in patients with clinical stage IA lung cancer. World J Surg. 2000;24(1):27-30.
3)
Long H, Tan Q, Luo Q, et al. Thoracoscopic surgery versus thoracotomy for lung cancer:short-term outcomes of a randomized trial. Ann Thorac Surg. 2018;105(2):386-92.
4)
Yan TD, Black D, Bannon PG, et al. Systematic review and meta-analysis of randomized and nonrandomized trials on safety and efficacy of video-assisted thoracic surgery lobectomy for early-stage non-small-cell lung cancer. J Clin Oncol. 2009;27(15):2553-62.
5)
Cai YX, Fu XN, Xu QZ, et al. Thoracoscopic lobectomy versus open lobectomy in stage I non-small cell lung cancer:a meta-analysis. PLoS One. 2013;8(12):e82366.
6)
Hamaji M, Lee HS, Kawaguchi A, et al. Overall survival following thoracoscopic vs open lobectomy for early-stage non-small cell lung cancer:a meta-analysis. Semin Thorac Cardiovasc Surg. 2017;29(1):104-12.
7)
Wang Z, Pang L, Tang J, et al. Video-assisted thoracoscopic surgery versus muscle-sparing thoracotomy for non-small cell lung cancer:a systematic review and meta-analysis. BMC Surg. 2019;19(1):144.
8)
Hernandez-Vaquero D, Vigil-Escalera C, Pérez-Méndez I, et al. Survival after thoracoscopic surgery or open lobectomy:systematic review and meta-analysis. Ann Thorac Surg. 2021;111(1):302-13.
9)
Zhang R, Ferguson MK. Video-assisted versus open lobectomy in patients with compromised lung function:a literature review and meta-analysis. PLoS One. 2015;10(7):e0124512.
10)
Spiezia L, Liew A, Campello E, et al. Thrombotic risk following video-assisted thoracoscopic surgery versus open thoracotomy:a systematic review and meta-analysis. Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2020;30(4):573-81.
11)
Palade E, Passlick B, Osei-Agyemang T, et al. Video-assisted vs open mediastinal lymphadenectomy for stage I non-small-cell lung cancer:results of a prospective randomized trial. Eur J Cardiothorac Surg. 2013;44(2):244-9.
12)
Bendixen M, Jorgensen OD, Kronborg C, et al. Postoperative pain and quality of life after lobectomy via video-assisted thoracoscopic surgery or anterolateral thoracotomy for early stage lung cancer:a randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2016;17(6):836-44.
13)
Decaluwe H, Petersen RH, Hansen H, et al;ESTS Minimally Invasive Thoracic Surgery Interest Group(MITIG). Major intraoperative complications during video-assisted thoracoscopic anatomical lung resections:an intention-to-treat analysis. Eur J Cardiothorac Surg. 2015;48(4):588-98.
14)
Puri V, Patel A, Majumder K, et al. Intraoperative conversion from video-assisted thoracoscopic surgery lobectomy to open thoracotomy:a study of causes and implications. J Thorac Cardiovasc Surg. 2015;149(1):55-61.
15)
Byun CS, Lee S, Kim DJ, et al. Analysis of unexpected conversion to thoracotomy during thoracoscopic lobectomy in lung cancer. Ann Thorac Surg. 2015;100(3):968-73.
16)
Okada M, Sakamoto T, Yuki T, et al. Hybrid surgical approach of video-assisted minithoracotomy for lung cancer:significance of direct visualization on quality of surgery. Chest. 2005;128(4):2696-701.
17)
Committee for Scientific Affairs, The Japanese Association for Thoracic Surgery, Shimizu H, et al. Thoracic and cardiovascular surgeries in Japan during 2018:Annual report by the Japanese Association for Thoracic Surgery. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2021;69(1):179-212.

ロボット支援下肺葉切除

1)
Ye X, Xie L, Chen G, et al. Robotic thoracic surgery versus video-assisted thoracic surgery for lung cancer:a meta-analysis. Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2015;21(4):409-14.
2)
Zhang L, Gao S. Robot-assisted thoracic surgery versus open thoracic surgery for lung cancer:a system review and meta-analysis. Int J Clin Exp Med. 2015;8(10):17804-10.
3)
Bao F, Zhang C, Yang Y, et al. Comparison of robotic and video-assisted thoracic surgery for lung cancer:a propensity-matched analysis. J Thorac Dis. 2016;8(7):1798-803.
4)
Louie BE, Wilson JL, Kim S, et al. Comparison of Video-Assisted Thoracoscopic Surgery and Robotic Approaches for Clinical Stage I and Stage II Non-Small Cell Lung Cancer Using The Society of Thoracic Surgeons Database. Ann Thorac Surg. 2016;102(3):917-24.
5)
Yang CF, Sun Z, Speicher PJ, et al. Use and outcomes of minimally invasive lobectomy for stage I non-small cell lung cancer in the National Cancer Data Base. Ann Thorac Surg. 2016;101(3):1037-42.
6)
Rajaram R, Mohanty S, Bentrem DJ, et al. Nationwide assessment of robotic lobectomy for non-small cell lung cancer. Ann Thorac Surg. 2017;103(4):1092-100.
7)
Yu Z, Xie Q, Guo L, et al. Perioperative outcomes of robotic surgery for the treatment of lung cancer compared to a conventional video-assisted thoracoscopic surgery(VATS)technique. Oncotarget. 2017;8(53):91076-84.
8)
Emmert A, Straube C, Buentzel J, et al. Robotic versus thoracoscopic lung resection:a systematic review and meta-analysis. Medicine(Baltimore). 2017;96(35):e7633.
9)
O'Sullivan KE, Kreaden US, Hebert AE, et al. A systematic review and meta-analysis of robotic versus open and video-assisted thoracoscopic surgery approaches for lobectomy. Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2019;28(4):526-34.
10)
Cerfolio RJ, Ghanim AF, Dylewski M, et al. The long-term survival of robotic lobectomy for non-small cell lung cancer:a multi-institutional study. J Thorac Cardiovasc Surg. 2018;155(2):778-86.
11)
Liang H, Liang W, Zhao L, et al. Robotic versus video-assisted lobectomy/segmentectomy for lung cancer:a meta-analysis. Ann Surg. 2018;268(2):254-9.
12)
Jiao W, Zhao Y, Qiu T, et al. Robotic bronchial sleeve lobectomy for central lung tumors:technique and outcome. Ann Thorac Surg. 2019;108(1):211-18.
13)
Veronesi G, Park B, Cerfolio R, et al. Robotic resection of stage III lung cancer:an international retrospective study. Eur J Cardiothorac Surg. 2018;54(5):912-9.
14)
Veronesi G, Abbas AE, Muriana P, et al. Perioperative outcome of robotic approach versus manual videothoracoscopic major resection in patients affected by early lung cancer:results of a randomized multicentric study(ROMAN Study). Front Oncol. 2021;11:726408.
15)
Jin R, Zheng Y, Yuan Y, et al. Robotic-assisted versus video-assisted thoracoscopic lobectomy:short-term results of a randomized clinical trial(RVlob Trial). Ann Surg. 2022;275(2):295-302.
16)
Huang J, Li C, Li H, et al. Robot-assisted thoracoscopic surgery versus thoracotomy for c-N2 stage NSCLC:short-term outcomes of a randomized trial. Transl Lung Cancer Res. 2019;8(6):951-8.
17)
Huang J, Tian Y, Li C, et al. Robotic-assisted thoracic surgery reduces perioperative complications and achieves a similar long-term survival profile as posterolateral thoracotomy in clinical N2 stage non-small cell lung cancer patients:a multicenter, randomized, controlled trial. Transl Lung Cancer Res. 2021;10(11):4281-92.
18)
Aiolfi A, Nosotti M, Micheletto G, et al. Pulmonary lobectomy for cancer:systematic review and network meta-analysis comparing open, video-assisted thoracic surgery, and robotic approach. Surgery. 2021;169(2):436-46.
19)
Wu H, Jin R, Yang S, et al. Long-term and short-term outcomes of robot- versus video-assisted anatomic lung resection in lung cancer:a systematic review and meta-analysis. Eur J Cardiothorac Surg. 2021;59(4):732-40.
20)
Wei S, Chen M, Chen N, et al. Feasibility and safety of robot-assisted thoracic surgery for lung lobectomy in patients with non-small cell lung cancer:a systematic review and meta-analysis. World J Surg Oncol. 2017;15(1):98.
21)
Cao C, Cerfolio RJ, Louie BE, et al. Incidence, management, and outcomes of intraoperative catastrophes during robotic pulmonary resection. Ann Thorac Surg. 2019;108(5):1498-504.
1-9
外科切除後の経過観察,術後患者の禁煙

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2004年12月1日から2021年11月30日
文献検索方法
  • キーワード:lung cancer, follow-up,(Postoperative), Surveillance, NSCLC, surgery, smoking cessation
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,さらに今回,国際医学情報センターの協力により,下記の検索式で2020年版以降の検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2022年1月16日)
#1 "lung cancer or NSCLC" AND "surgery"
#2 #1 AND "follow-up or survaillance" AND "postoperative"
#3 #1 AND "follow-up"限定 OR "surveillance"限定
#4 #1 AND "smoking cessation"
#5 #2 AND #3 AND #4 AND "follow up"限定 OR "smoking cessation"限定
#6 #1 AND #2 AND #3 AND #4 AND #5
採択方法
  • メタアナリシス,第Ⅲ相試験,ランダム化比較第Ⅱ相試験を抽出し,review articleは除外した。なお,治療リスクに関する重要な文献は,上記条件以外でも採用した。
  • 外科切除後の定期的な経過観察に関しては,臨床試験による論文はなく,後方視的観察研究の文献を採用した。
  • 上記条件以外のもので,今回の改訂でも必要と判断したものは採用した。

CQ19.

外科切除後の非小細胞肺癌に対しては,定期的な経過観察を行うべきか?

推 奨
外科切除後の非小細胞肺癌に対しては定期的な経過観察を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

解 説

 肺癌術後経過観察は科学的根拠に則り,経済的影響を十分に考慮しながら行う必要がある。しかし臨床研究の結果に乏しく科学的根拠に基づいた観察法は示されていない。

 肺癌術後の予後は経過観察法,すなわちintensiveに経過を追うかどうかによっては改善されないとの報告がなされている1)2)。McMurryらの2018年の論文では,大規模データベースをもとに,病理病期ⅠからⅢ期非小細胞肺癌切除例4,463例を3カ月毎,6カ月毎,1年毎の3群に分け,リスク調整後,後方視的に解析しているが,これら3群間で全生存率に有意差はみられなかった1)。また,Subramanianらの2019年の同様の論文では,病理病期Ⅰ期非小細胞肺癌切除例2,442例を,high intensity(3カ月),moderate intensity(6カ月),low intensity(1年)の3群に分けて,後方視的解析を行うも,その予後にはやはり有意差を認めなかった2)。一方でintensiveに経過観察した場合,生存率が改善するとの報告3)やintensiveな経過観察により他疾患の治療が容易になるとの報告もある。しかし無症状症例に積極的なスクリーニングを行うのは,費用対効果の面からも考える必要がある。早期の非小細胞肺癌に対する経過観察間隔に関してはESMOのガイドラインでは,前向きなエビデンスレベルの高い臨床試験はみられないとしながらも,2年までの半年毎の受診(問診・診察)と12カ月,24カ月時点での造影胸部CT撮影を推奨している。そして,局所再発が起こりやすい術後2年以内は6カ月毎,それ以降は年1回の受診を推奨している4)。またASCOのガイドラインでも,エビデンスレベルの高いものではないが,病理病期Ⅰ-Ⅲ期の根治的治療後の非小細胞肺癌患者の経過観察において,2年まで6カ月毎の副腎を含む造影胸部CT,以後1年毎の低線量胸部CT撮影を推奨している。定期的なFDG-PETや脳MRI,血液バイオマーカー検査は推奨していない。これらの検査は,全身状態を考慮し,治療希望がない患者へは省略可能としている5)

 明確に推奨する根拠はないものの術後経過観察は日常診療としてなされ,患者のニーズが明確に存在する。また受診による術後合併症の発見,患者の状態の把握,精神的支援などの側面もある。さらに異時多発癌は病理病期Ⅰ期においても1.99/100人年で発生し,切除例の予後は非切除例より良好であった(P=0.003)との報告6)があり,この点も考慮する必要がある。経過観察期間に関しては5年以降では再発は減少7)し,予後は良好8)との報告がある一方で,すりガラス陰影を呈する肺癌でも5年以降に再発したとの報告9)もあり,今後の検討を要する。

 CTについては海外の複数のガイドラインではCTを推奨しており4)10)11),経過観察には低線量らせんCTが有用との報告12)や,半年毎に胸部CTを行った群の予後が良好であったとの報告13)があるが,術後経過観察における術後CTの予後に対する影響は明らかではない。PETについても術後再発の検出に有用か否か検討が不十分であり14),また延命効果が示されていないことからESMOやASCOのガイドラインではむしろ推奨しないとされている1)4)5)

 以上より,外科切除後の非小細胞肺癌に対しては定期的な経過観察を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%

CQ20.

非小細胞肺癌術後の患者は,禁煙を行うべきか?

推 奨
非小細胞肺癌術後の患者に対しては,禁煙を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

解 説

 本ガイドラインの中で数少ない喫煙・禁煙と肺癌の関係を対象としたCQであるので,喫煙・禁煙に関係する一般的事項に考察を加えながら課題のCQに答えるようにする。

 胃癌とピロリ菌,肝臓癌と肝炎ウイルス,子宮頸癌とヒトパピローマウイルスなどと同様に肺癌も喫煙との因果関係が明らかになっている15)~17)が,あまりにも明らかであるがため逆にランダム化比較試験のようなエビデンスの質の高い報告はみられず,また今後もそのような報告が出てくる可能性もないと考えられる。

 肺癌を予防するためには,たばこを吸わないことが最も効果的である。たばこの煙の中には多環芳香族炭化水素類やニトロソアミン類をはじめとする約70種類の発癌物質が含まれており,これらの発癌物質はDNA損傷など癌発生メカニズムの様々な段階に関与する。厚生労働省の「喫煙の健康影響に関する検討会(2016年)」の報告18)では喫煙と疾患の因果関係を以下の4レベルに分類している。すなわち「レベル1:科学的証拠は因果関係を推定するのに十分である」,「レベル2:科学的証拠は因果関係を示唆しているが十分ではない」,「レベル3:科学的証拠は因果関係の有無を推定するのに不十分である」,「レベル4:科学的証拠は因果関係がないことを示唆している」である。肺癌は従来の疫学的・中毒学的データに加え,分子レベル・細胞レベルでの研究で機序面での基礎が揃ったことからレベル1に分類されている15)18)

 多くの疫学研究で一貫して喫煙は癌患者の全死因死亡リスクを上昇させると報告されており,米国Surgeon General Report16)は「科学的証拠は癌患者における喫煙と全死因死亡との因果関係を推定するのに十分である」と結論付けている。60歳以上を対象としたシステマティックレビューでは,非喫煙者に対する統合相対死亡リスクは,喫煙者で1.83(95%CI:1.65-2.03),過去喫煙者で1.34(95%CI:1.28-1.40)と算出された19)。本邦における評価も同様にレベル1である。

 喫煙と肺癌の各種治療効果・治療毒性との関係に関してはレベル2(科学的証拠は因果関係を示唆しているが十分ではない)とされている18)が,放射線治療・薬物療法や手術に際して喫煙継続群では禁煙群より有意に合併症が増加したとする報告20)21)22)や治療効果が低下したとする報告がみられる23)。またGemineらの2019年の論文では,非小細胞肺癌の診断時の喫煙状態と予後との相関について多施設前向きのコホート研究で1,124例を解析している。リスク調整後の解析で,診断後に禁煙を行った群と喫煙を継続した群では,有意差はみられなかったものの,死亡率の低下がみられており,禁煙は臨床的に重要だとしている24)。VATSの術後合併症に限定しても,前向き観察研究による多変量解析にて,喫煙が独立したリスク因子であることが示されている20)

 術後再発に関しても同様にレベル2に分類されている18)。喫煙と再発に有意な関係はなかったとする報告もあるが,肺癌術後の患者を喫煙群と禁煙群にランダムに分けることは倫理的にも実施困難であり,必然的にレベルの高い結果は得られていない。しかし,喫煙と二次癌の発生に関してはレベル1(科学的根拠は因果関係を推定するのに十分である)に分類されており18)25)26),喫煙が本人だけでなく周りの人にも伏流煙(フィルターを通しておらず主流煙よりも多くの有害物質を含んでいる)による健康被害を惹起する事実から,肺癌術後の禁煙は強く推奨されるべきものといえる。

 以上より,非小細胞肺癌術後の患者に対しては,禁煙を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%
引用文献
1)
McMurry TL, Stukenborg GJ, Kessler LG, et al. More frequent surveillance following lung cancer resection is not associated with improved survival:a nationally representative cohort study. Ann Surg. 2018;268(4):632-39.
2)
Subramanian M, Liu J, Greenberg C, et al. Imaging surveillance for surgically resected stage I non-small cell lung cancer:is more always better?. J Thorac Cardiovasc Surg. 2019;157(3):1205-17.e2.
3)
Westeel V, Choma D, Clément F, et al. Relevance of an intensive postoperative follow-up after surgery for non-small cell lung cancer. Ann Thorac Surg. 2000;70(4):1185-90.
4)
Postmus PE, Kerr KM, Oudkerk M, et al. Early and locally advanced non-small-cell lung cancer(NSCLC):ESMO Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol. 2017;28(suppl_4):iv1-iv21.
5)
Schneider BJ, Ismaila N, Aerts J, et al. Lung cancer surveillance after definitive curative-intent therapy:ASCO guideline. J Clin Oncol. 2020;38(7):753-66.
6)
Rice D, Kim HW, Sabichi A, et al. The risk of second primary tumors after resection of stage I nonsmall cell lung cancer. Ann Thorac Surg. 2003;76(4):1001-7.
7)
Okada M, Nishio W, Sakamoto T, et al. Long-term survival and prognostic factors of five-year survivors with complete resection of non-small cell lung carcinoma. J Thorac Cardiovasc Surg. 2003;126:558-62.
8)
Martini N, Rusch VW, Bains MS, et al. Factors influencing ten-year survival in resected stages I to IIIa non-small cell lung cancer. J Thorac Cardiovasc Surg. 1999;117(1):32-8.
9)
Yoshida J, Ishii G, Yokose T, et al. Possible delayed cut-end recurrence after limited resection for ground-glass opacity adenocarcinoma, intraoperatively diagnosed as Noguchi type B, in three patients. J Thorac Oncol. 2010;5(4):546-50.
10)
Crinò L, Weder W, van Meerbeeck J, et al. Early stage and locally advanced(non-metastatic)non-small-cell lung cancer:ESMO Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol. 2010;21 Suppl 5:v103-15.
11)
Colt HG, Murgu SD, Korst RJ, et al. Follow-up and surveillance of the patient with lung cancer after curative-intent therapy:Diagnosis and management of lung cancer, 3rd ed:American College of Chest Physicians evidence-based clinical practice guidelines. Chest. 2013;143:(5 Suppl):e437S-e454S.
12)
Chiu CH, Chern MS, Wu MH, et al. Usefulness of low-dose spiral CT of the chest in regular follow-up of postoperative non-small cell lung cancer patients:preliminary report. J Thorac Cardiovasc Surg. 2003;125(6):1300-5.
13)
Nakamura R, Kurishima K, Kobayashi N, et al. Postoperative follow-up for patients with non-small cell lung cancer. Onkologie. 2010;33(1-2):14-8.
14)
Cho S, Lee EB. A follow-up of integrated positron emission tomography/computed tomography after curative resection of non-small-cell lung cancer in asymptomatic patients. J Thorac Cardiovasc Surg. 2010;139(6):1447-51.
15)
IARC. IARC monographs on the evaluation of carcinogenic risks to humans, vol 100E, personal habits and indoor combustions. Lyon, France:International Agency for Research on Cancer, 2012.
16)
The Health Consequences of Smoking-50 Years of Progress A Report of the Surgeon General. Atlanta, GA:U. S. Department of Health and Human Services, Centers for Disease Control and Prevention, Coordinating Center for Health Promotion, National Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion, Office on Smoking and Health, 2014.
17)
Wakai K, Inoue M, Mizoue T, et al. Tobacco smoking and lung cancer risk:an evaluation based on a systematic review of epidemiological evidence among the Japanese population. Jpn J Clin Oncol. 2006;36(5):309-24.
18)
厚生労働省.喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書.https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000172687.pdf
19)
Gellert C, Schöttker B, Brenner H. Smoking and all-cause mortality in older people:systematic review and meta-analysis. Arch Intern Med. 2012;172(11):837-44.
20)
Agostini PJ, Lugg ST, Adams K, et al. Risk factors and short-term outcomes of postoperative pulmonary complications after VATS lobectomy. J Cardiothorac Surg. 2018;13(1):28.
21)
Al Natour RH, He C, Clark MJ, et al. The influence of tobacco load versus smoking status on outcomes following lobectomy for lung cancer in a statewide quality collaborative. J Thorac Cardiovasc Surg. 2021;162(5):1375-85.e1.
22)
Song Y, Liu J, Lei M, et al. An external-validated algorithm to predict postoperative pneumonia among elderly patients with lung cancer after video-assisted thoracoscopic surgery. Front Oncol. 2021;11:777564.
23)
Nakagawa K, Kudoh S, Ohe Y, et al. Postmarketing surveillance study of erlotinib in Japanese patients with non-small-cell lung cancer(NSCLC):an interim analysis of 3488 patients(POLARSTAR). J Thorac Oncol. 2012;7(8):1296-303.
24)
Gemine RE, Ghosal R, Collier G, et al. Longitudinal study to assess impact of smoking at diagnosis and quitting on 1-year survival for people with non-small cell lung cancer. Lung Cancer. 2019;129:1-7.
25)
Tabuchi T, Ito Y, Ioka A, et al. Tobacco smoking and the risk of subsequent primary cancer among cancer survivors:a retrospective cohort study. Ann Oncol. 2013;24(10):2699-704.
26)
Kawahara M, Ushijima S, Kamimori T, et al. Second primary tumours in more than 2-year disease-free survivors of small-cell lung cancer in Japan:the role of smoking cessation. Br J Cancer. 1998;78(3):409-12.
1-10
低悪性度腫瘍

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2004年12月1日から2021年11月30日
文献検索方法
  • キーワード:lung cancer, surgery, carcinoid, mucoepidermoid, adenoid cystic
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,さらに今回,国際医学情報センターの協力により,下記の検索式で2020年版以降の検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2022年1月16日)
#1 "lung cancer or NSCLC" AND "surgery"
#2 #1 AND "low-grade malignancy"
#3 #1 AND #2
採択方法
  • メタアナリシス,第Ⅲ相試験,ランダム化比較第Ⅱ相試験を抽出し,review articleは除外した。なお,治療リスクに関する重要な文献は,上記条件以外でも採用した。
  • 上記条件以外のもので,今回の改訂でも必要と判断したものは採用した。

CQ21.

切除可能な低悪性度腫瘍(カルチノイド,粘表皮癌,腺様嚢胞癌)は,非小細胞肺癌に準じた外科治療を行うべきか?

推 奨
切除可能な低悪性度腫瘍(カルチノイド,粘表皮癌,腺様嚢胞癌)に対しては,非小細胞肺癌に準じた外科治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

解 説

 カルチノイドについてはIASLCのデータベースから集積した4,645例の手術症例で,定型カルチノイド10年生存率で病理病期ⅠA1/97.7%,ⅠA2/97.1%,ⅠA3/96.1%,ⅠB/94.1%,ⅡA/84.7%,ⅡB/85.7%,ⅢA/85.3%,ⅢB+C/48.8%,Ⅳ/58.8%,非定型カルチノイド10年生存率でⅠA1/81.0%,ⅠA2/84.7%,ⅠA3/84.7%,ⅠB/65.5%,ⅡA/87.5%,ⅡB/73.0%,ⅢA/57.7%,ⅢB+C/24.0%,Ⅳ/18.5%でカルチノイドに比し非定型カルチノイドの予後は不良であった1)

 術式については,カルチノイドにおける縮小手術の有用性を示すランダム化比較試験はない。3,478例の後方視的研究でのpropensity score matchingを用いた解析やリンパ節評価を行ったうえで,3cm以下の定型的カルチノイドであれば縮小手術も許容できるとの報告もある2)。また2000~7年までの3,270例の解析によれば,定型的カルチノイド3,084例,非定型カルチノイド186例に対し肺葉切除1,669例,縮小手術784例が行われ,多変量解析で疾患特異的生存において縮小手術は肺葉切除に対して非劣性が示された3)。またSEERデータベースを解析した腫瘍関連死亡に関する多変量解析では,定型カルチノイドでは,部分切除や全摘でも有意な生存延長がみられた一方,非定型カルチノイドでは,葉切除のみが有意な生存延長因子であった4)

 Filossoらによると,1期定型カルチノイド切除例876例の後方視的観察研究にて,5年生存率94.3%,Propensitcy score matching後の比較では,葉切除群は,楔状切除群よりも予後良好であった(HR 2.01,P=0.024)5)

 非定型カルチノイドのみを集積した検討では,浸潤性が高いため標準切除とリンパ節郭清が重要とする報告や6)~8),335例の手術で3年生存率までは肺葉切除と縮小手術との差がないとする報告や,507例の手術の多変量解析にて,部分切除や全摘術は,予後不良因子であることが示された9)一方で,放射線照射は死亡率が高いとする報告もあり10),手術が一般的に推奨されている。

 最近の2010~15年に診断された定型カルチノイド5,688例および非定型カルチノイド816例を含むNCDデータベースからの解析では,5年生存率が定型カルチノイドでStage 1/2/3/4が93/93/89/87%,非定型カルチノイドで84/74/52/51%であった11)。SEERデータベースでは,生検でカルチノイドとされたN0症例4,110例において,全5年生存率が肺葉切除で93%,縮小手術で92%,非切除で69%,疾患特異的生存率は肺葉切除で97%,縮小手術で98%,非切除で88%であった。非切除群の疾患特異的生存率も良かったため,高リスク患者では,無症状例の経過観察や,中枢発生有症状例の気管支鏡処置は考慮してよいと報告されている12)。気管支カルチノイドでは112例の初回経気管支鏡的処置例(全例観察期間5年以上)において,42%の患者が再発を認めず手術を回避し得たとの報告がある13)

 粘表皮癌は肺癌全体の0.1~0.2%を占める稀な腫瘍である。組織学的に低悪性度腫瘍,高悪性度腫瘍に分類される14)。一般的に低悪性度のものは予後良好で,高悪性度のものは予後不良とされている。Qiuらは,1975~2016年のSEERデータベースをもとに,粘表皮癌のみ585例のうち,外科的切除を受けた症例について多変量解析を行い,葉切除/二葉切除をreferenceとして,腫瘍関連死亡に対するハザード比は,全摘で2.37(95%CI:1.20-4.67),部分切除/区域切除で1.61(95%CI:0.58-4.62),局所腫瘍切除では17.87(8.13-39.31)と報告しており,局所切除は推奨されないと報告している15)

 Qinらは,1988~2013年のSEERデータベースから315例の粘表皮癌,139例の腺様嚢胞癌を含む462例の唾液腺様原発性肺癌について5年生存率は63.4%,病期別には,Ⅰ期87.5%,Ⅱ期66.6%,Ⅲ期52.5%,Ⅳ期7.3%と示されている。手術は非手術例よりも成績が良好であったが,放射線治療では差がみられなかったと報告している16)。Resioらは,2004~14年のSEERデータベースから699例の粘表皮癌,424例の腺様嚢胞癌を解析し,5年生存率は,粘表皮癌が88.2%,腺様嚢胞癌が89.9%と報告している。切除例の多変量解析により,粘表皮癌では,高悪性度,4cm以上の腫瘍サイズ,楔状切除が,腺様嚢胞癌では,不完全切除,遠隔転移が独立した予後悪化因子と報告されている17)

 腺様嚢胞癌は完全切除での5年生存率が73~91%と報告され18)~20),後方視的研究ではあるが手術例は非切除例よりも良好な成績で報告されている。

 Wangらは,163例の手術例を含む191例の腺様嚢胞癌症例において,切除例の5年生存率が85.0%に対して非切除例では63.7%であった。多変量解析において,完全切除,断端陽性例に対する術後照射,術後再発に対する局所療法が良好な予後と関連する20)

 以上より,切除可能な低悪性度腫瘍(カルチノイド,粘表皮癌,腺様嚢胞癌)に対しては,非小細胞肺癌に準じた外科治療を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(9/9)
0% 0% 0% 0%
引用文献
1)
Yoon JY, Sigel K, Martin J, et al. Evaluation of the prognostic significance of TNM staging guidelines in lung carcinoid tumors. J Thorac Oncol. 2019;14(2):184-92.
2)
Xu S, Li X, Ren F, et al. Sublobar resection versus lobectomy for early-stage pulmonary carcinoid tumors≤3cm in Size:a SEER Population-Based Study. Ann Surg. 2020.[Epub ahead of print]
3)
Fox M, Van Berkel V, Bousamra M 2nd, et al. Surgical management of pulmonary carcinoid tumors:sublobar resection versus lobectomy. Am J Surg. 2013;205(2):200-8.
4)
He Y, Zhao F, Han Q, et al. Prognostic nomogram for predicting long-term cancer-specific survival in patients with lung carcinoid tumors. BMC Cancer. 2021;21(1):141.
5)
Filosso PL, Guerrera F, Falco NR, et al. Anatomical resections are superior to wedge resections for overall survival in patients with Stage 1 typical carcinoids. Eur J Cardiothorac Surg. 2019;55(2):273-9.
6)
Cañizares MA, Matilla JM, Cueto A, et al;EMETNE-SEPAR Members. Atypical carcinoid tumours of the lung:prognostic factors and patterns of recurrence. Thorax. 2014;69(7):648-53.
7)
Caplin ME, Baudin E, Ferolla P, et al;ENETS consensus conference participants. Pulmonary neuroendocrine(carcinoid)tumors:European Neuroendocrine Tumor Society expert consensus and recommendations for best practice for typical and atypical pulmonary carcinoids. Ann Oncol. 2015;26(8):1604-20.
8)
Filosso PL, Rena O, Guerrera F, et al;ESTS NETs-WG Steering Committee. Clinical management of atypical carcinoid and large-cell neuroendocrine carcinoma:a multicentre study on behalf of the European Association of Thoracic Surgeons(ESTS)Neuroendocrine Tumours of the Lung Working Group. Eur J Cardiothorac Surg. 2015;48(1):55-64.
9)
Chen X, Pang Z, Wang Y, et al. The role of surgery for atypical bronchopulmonary carcinoid tumor:Development and validation of a model based on Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)database. Lung Cancer. 2020;139:94-102.
10)
Steuer CE, Behera M, Kim S, et al. Atypical carcinoid tumor of the lung:a surveillance, epidemiology, and end results database analysis. J Thorac Oncol. 2015;10(3):479-85.
11)
Walters SL, Canavan ME, Salazar MC, et al. A national study of surgically managed atypical pulmonary carcinoid tumors. Ann Thorac Surg. 2021;112(3):921-7.
12)
Raz DJ, Nelson RA, Grannis FW, et al. Natural history of typical pulmonary carcinoid tumors:a comparison of nonsurgical and surgical treatment. Chest. 2015;147(4):1111-7.
13)
Brokx HA, Paul MA, Postmus PE, et al. Long-term follow-up after first-line bronchoscopic therapy in patients with bronchial carcinoids. Thorax. 2015;70(5):468-72.
14)
Yousem SA, Hochholzer L. Mucoepidermoid tumors of the lung. Cancer. 1987;60(6):1346-52.
15)
Qiu L, Song P, Chen P, et al. Clinical characteristics and prognosis of patients with pulmonary mucoepidermoid carcinoma:a SEER-based analysis. Front Oncol. 2021 5;11:601185.
16)
Qin BD, Jiao XD, Liu K, et al. Clinical, pathological and treatment factors associated with the survival of patients with primary pulmonary salivary gland-type tumors. Lung Cancer. 2018;126:174-81.
17)
Resio BJ, Chiu AS, Hoag J, et al. Primary salivary type lung cancers in the National Cancer Database. Ann Thorac Surg. 2018;105(6):1633-9.
18)
Regnard JF, Fourquier P, Levasseur P. Results and prognostic factors in resections of primary tracheal tumors:a multicenter retrospective study. The French Society of Cardiovascular Surgery. J Thorac Cardiovasc Surg. 1996;111(4):808-13.
19)
Maziak DE, Todd TR, Keshavjee SH, et al. Adenoid cystic carcinoma of the airway:thirty-two-year experience. J Thorac Cardiovasc Surg. 1996;112(6):1522-31.
20)
Wang Y, Cai S, Gao S, et al. Tracheobronchial adenoid cystic carcinoma:50-year experience at the National Cancer Center, China. Ann Thorac Surg. 2019;108(3):873-82.
このページの先頭へ