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肺癌取扱い規約 細胞診判定基準改訂委員会からのお知らせ

腺癌・扁平上皮癌の細胞診断の標準化
(細胞診で腺癌と扁平上皮癌を鑑別するための構造所見の定義と細胞所見)


肺癌学会会員の皆様

  腺癌と扁平上皮癌の細胞診断の標準化に向けて、細胞診で腺癌と扁平上皮癌を鑑別するための構造所見の定義、細胞像や細胞所見を含めたアトラスを作成致しましたので、お知らせいたします。

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 日常業務における肺癌の細胞診断では、気管支鏡検査時の擦過、気管支肺胞洗浄液、CTガイド下の穿刺吸引、EBUS-TBNA、胸水などが一般的である。特に、切除不能な進行性肺癌では組織採取が不可能で、細胞材料のみの場合もあり、細胞診で小細胞癌か、非小細胞癌かの鑑別は大切である。

 2009年5月に認可された葉酸代謝拮抗剤であるペメトレキセド(アリムタⓇ)は、切除不能なⅢB期やⅣ期、あるいは術後再発した扁平上皮癌以外の非小細胞癌に適応される。また、2009年11月に認可された血管新生阻害剤であるベバシズマブ(アバスチンⓇ)は、同様に切除不能なⅢB期やⅣ期、あるいは術後再発した扁平上皮癌以外の非小細胞癌に使用される。いずれの薬剤とも細胞診断で扁平上皮癌の除外が必須となっている。

 さらに、肺癌診療ガイドライン2020年版では、進行・再発非扁平上皮非小細胞肺癌では、手術不能なⅣ期非小細胞肺癌の診断時には、悪性であれば組織型の推定だけでなく、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異、MET遺伝子、PD-L1(22C3)などのバイオマーカーの検査を実施しなければならない。PD-L1(22C3)検査は、生検や手術組織で免疫染色を行う必要があるため、細胞診断は推奨されていない。他の5つの遺伝子変異は腺癌でみられるが、扁平上皮癌ではまれである。そのため、細胞診材料で扁平上皮癌と診断された場合は遺伝子変異検査が行われないことがあるため、腺癌と扁平上皮癌の鑑別は細胞診断でも極めて重要である。

 一般的に腺癌と扁平上皮癌の細胞学的な鑑別は、角化異型細胞や粘液細胞があれば容易な場合もあるが、気管支擦過だけでなく、EBUS-GSやEBUS-TBNAおよびクライオバイオプシーなど気管支鏡技術による採取法の進歩により、新鮮な細胞材料の割合が高くなったこと、末梢発生の扁平上皮癌の頻度が増加していることなどから、組織診断と同様に、細胞診断でも構造所見を重視して判定する必要が生じている。そのため、2017年1月に発刊した肺癌取扱い規約第8版の記載では、喀痰などの変性材料を中心とする細胞所見に加え、新鮮材料で腺癌と扁平上皮癌を鑑別する上で新たに構造所見に着目し、定義や定型的な写真を掲載した。しかし、この新しく定義した構造所見に関して、細胞診断者間の一致率が高くないことが指摘されている。

 そこで2020年、腺癌と扁平上皮癌における細胞診断の標準化を進めるため、日本肺癌学会では細胞診判定基準改訂委員会内に、構造異型を加味した細胞判定ワーキンググループを立ち上げた。実際には、肺癌を専門とする病理医、細胞検査士の10人(全国8施設)の委員から構成され、計510枚の細胞写真を集積し、全員で再評価や検討を行い、腺癌と扁平上皮癌を鑑別する上で重要な15項目の構造所見に関する定義を作成した。また、今回、腺癌と扁平上皮癌を鑑別する上で重要な構造所見の標準化を図るため、実際の細胞像をアトラスとして提示し、解説を加えた。下記には構造所見の概要とともに腺癌と扁平上皮癌を鑑別する上で重要な構造所見の15項目の定義と概説、定型例や非定型例の写真と解説をあげている。最後に、1つの構造所見のみで腺癌と扁平上皮を鑑別することはできないが、日常業務の細胞診断では、細胞所見とともに、下記に列記した複数の構造所見を参考にし、鑑別していただきたいと考える。

*下記URLよりダウンロードをお願いいたします。

 

構造所見概要

1.孤立性
2.シート状
3.不規則重積性
4.乳頭状
5.微小乳頭状
6.腺腔様
7.柵状配列
8.細胞集塊辺縁の核の突出
9.蜂巣状/亀甲状
10.流れ様配列
11 層状配列
12.細胞集塊辺縁の扁平化
13.細胞集塊辺縁の細胞質の突出
14.細胞相互封入
15.細胞間の空隙

 

最後に
一般的に上記1~9は腺癌で出現しやすい構造所見である、10~15は扁平上皮癌に出現しやすい構造所見である。しかし、いずれの構造所見も1つの所見があれば腺癌と扁平上皮癌を鑑別できるわけではない。実際の細胞診断では、今回の構造所見に加え、細胞所見を考慮しながら細胞診標本を総合的に判定することが重要である。

参考文献
1)日本肺癌学会,肺癌診療ガイドライン2020年版.金原出版.2021
2)日本肺癌学会,臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版.金原出版.2017



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