第5章 症状がある場合,転移がある場合の治療
Q55
脳に転移しているといわれましたが,どのような治療が行われるのでしょうか~脳転移~

 脳転移に対する治療には,定位放射線治療,全脳照射,手術があります。どの治療が適しているかは,転移の個数や大きさ,症状や肺の病状などから判断されます。

A

 脳に1 個だけがんが再発した場合,以前は外科治療(手術)も検討されてきましたが,最近はていほうしゃせんりょう(ピンポイント照射,Q38参照)が飛躍的に進歩したため,早急に症状をとる必要性がある場合を除いては放射線療法が行われます。

 脳に2個以上がんが再発した場合には放射線療法が有効です。放射線療法には脳全体に対する治療(全脳ぜんのう照射しょうしゃ)と,てんそうに対してのみ行う定位放射線治療(ピンポイント照射)があります。全脳照射は通常の放射線療法が可能な施設ではどこでも施行が可能ですが,ピンポイント照射は特別な設備が必要で,どの施設でもできるというわけではありません。どちらの治療を行うかは患者さんの状態(脳だけの転移なのか,転移の個数や大きさがどの程度なのか,症状があるのかどうか,肺の病状はどうなのかなど)によって決まります。

 ピンポイント照射はがんの進行を抑える可能性が非常に高い(80~90%)ですが,個数が5~6個以上になると正常な脳組織への照射が増加してしまいますし,病変以外の目に見えないごく小さい転移には効果がありません。そのため治療後,新たな転移が別の場所に出てくることもあります。一方,全脳照射はがんの進行を完全に抑えることは困難ですが,ピンポイント照射では対処できないほど多数ある場合や潜在的に目に見えない転移が予想される場合には有効です。前述のように,たいていの放射線療法の施設で施行が可能です。全脳照射とピンポイント照射をどのように選択し,組み合わせるかについては担当医とよく相談してください。

 麻痺まひやめまい,吐き気,頭痛などの症状で脳転移が見つかった場合,転移巣が1個だけならば先に手術を行い,早期に症状改善をはかる場合があります。症状の多くは腫瘍のために脳がれることが原因です。また,放射線療法によっても一時的に脳が腫れることがあります。これに対しては,ステロイドの内服や点滴,グリセリン・とう配合はいごう製剤せいざいやマンニトール製剤などで治療が行われます。

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