手術で取りきることのできないIV期の肺がんに対しては,薬物療法が最適の治療となります。薬物療法のみで完治することは困難ですが,薬物療法の進歩は著しく,長期に進行を抑えられる患者さんも増加しています。
Ⅳ期の肺がんとは,がんが肺から離れたほかの臓器にまで転移した状態です。がん細胞が血液中に流れ込み,全身を回ってたどりついた臓器で増殖することにより起こります。まだ目に見えるような大きさには増大していない,小さな転移も存在すると予想されます。また,肺や心臓の周りにがん細胞がひろがり,そのために水がたまっている場合もⅣ期に含まれます。肺の表面と胸の壁の内面全体をおおう膜(胸膜)もしくは心臓の周りの空間に,がん細胞が散らばった状態になったことを意味します。
このような状態で発見された患者さんでは,すべてのがん病変を手術で取り除くことは困難です。また放射線療法も,全身ないしは片肺全体に放射線をあてるわけにはいかないので選択できず,完全に肺がんを治すのはきわめて難しい状態といえます。Ⅳ期の患者さんの治療の目標は,がんの進行を抑えて,がんによって引き起こされるさまざまな症状を予防し,あるいはやわらげ,元気に過ごせる時間を長く確保することです。そのため,治療効果が全身にいきわたるよう,注射薬(点滴)やのみ薬を投与するがん治療薬を用いた治療(薬物療法)が最適の方法になります。分子標的治療薬(Q43参照)や免疫チェックポイント阻害薬(Q45参照)の導入など,近年の薬剤の進化により,薬物療法のみで非常に長くがんの進行を抑えられる場合も増えてきました。最近では,少数個の転移のみ存在する状態(オリゴ転移と呼ばれます)の患者さんに対して,薬物療法を行った後,残存した病変に手術や放射線治療を追加して,積極的に局所制御を行う治療戦略も注目されていますが,その意義はまだ十分検証されてはいませんので,担当医とよく相談してください。
がん病変をコントロールするためのがん治療薬や,症状そのものに対処する緩和ケアによって,これまでどおりの日常生活が一日でも長く続くよう,希望をもって治療に臨んでいただければと思います。