胸膜中皮腫の原因はアスベスト(石綿)と考えられています。アスベストは耐熱性・絶縁性・断熱性・防音性に富み,かつ安価なため,さまざまな用途に使用されてきました。このため,気がつかないうちに日常生活でアスベストに暴露している可能性もあります。アスベストに曝露してから胸膜中皮腫が発症するまでに30~40年前後の長い潜伏期間があります。2012年にすべてのアスベストの使用が全面禁止となりましたが,わが国の胸膜中皮腫の患者数は今後も増え続け,2030~40年頃にピークを迎えるといわれています。
胸膜中皮腫の原因はアスベスト(石綿)と考えられています。アスベストと胸膜中皮腫の発生の因果関係は,実際にアスベスト曝露歴と病気の発生の関連を調査した研究から明らかです。アスベスト曝露によって起こる病気を「アスベスト関連疾患」と呼びます。アスベストの曝露量や曝露期間によって,アスベスト肺やびまん性胸膜肥厚などの良性疾患や,肺がんや胸膜中皮腫などの悪性疾患が発生します。とくに胸膜中皮腫では,初めてアスベストに曝露したときから実際に発症するまでに30~40年前後の長い潜伏期間があります。アスベスト肺,胸膜プラークなどの画像所見がある方は,のちに中皮腫が発生するリスクがあります。
アスベストとは,天然の繊維状鉱物で,クリソタイル(白石綿),クロシドライト(青石綿),アモサイト(茶石綿),アクチノライト,アンソフィライト,トレモライトの6種類が商業用に生産されてきました。アスベストは細長い繊維となって鼻や口から吸入され,気管支を通過して肺内の肺胞という小さな袋まで運ばれます。一度吸い込まれるといつまでも肺内にとどまり,一部は肺胞を貫いて胸膜に到達します。そして,長い年月をかけて生体内でがん化を引き起こすと考えられています。
アスベスト鉱山や製造工場に加え,造船所,車両製造,建築,水道工事などの職場における曝露もあります。さらに,アスベストが付着した作業着の家庭内での洗濯,石綿製品製造業の周辺住民においても微量ながらアスベストに曝露される可能性があります。
アスベストは耐熱性・絶縁性・断熱性・防音性に富み,かつ安価なため,戦後の経済発展とともに輸入量と使用量が年々増加しました。建築材料・断熱剤・吹き付け・ブレーキライニング・パッキンなどさまざまな用途に用いられるため,取り扱う業種も多岐に及びます。このため,仕事や生活環境でのアスベスト曝露がはっきりしなくても,知らないうちにアスベストを吸入している可能性は十分にあります。
アスベストの発がん性が明らかになり,欧米では製造と使用が禁止となりました。わが国でも1995年にとくに発がん性の強いアモサイト,クロシドライトが輸入・製造禁止となり,2006年に労働安全衛生法が改正され,2012年にようやくすべてのアスベストの使用が全面禁止となりました。禁止の措置がなされても,当面はこれまでのアスベスト曝露によって,わが国では胸膜中皮腫の患者数は今後も増え続け,2030~40年頃にピークを迎えるといわれています。