- 総 論
- 小細胞肺癌の治療方針
小細胞肺癌は肺癌全体の約10~15%を占める癌であり,増殖速度が速く早期にリンパ節転移や遠隔転移を認める悪性度の高い腫瘍であるが,放射線治療や薬物療法に対する感受性が高いことが特徴である。
小細胞肺癌においても外科切除の適応にあたってはUICC-TNM分類が重要視されているが,内科治療(化学放射線療法もしくは薬物療法)の選択の面からは,限局型(limited disease:LD)と進展型(extensive disease:ED)の分類が汎用されている。LDは定まった定義はないものの,多くの臨床試験において「病変が同側胸郭内に加え,対側縦隔,対側鎖骨上窩リンパ節までに限られており,悪性胸水,心嚢水を有さないもの」が採用されており,本ガイドラインでもこれに基づいた定義を行っている(小細胞肺癌の限局型および進展型の定義,参照)。
以下,小細胞肺癌の治療についてLD,ED,予防的全脳照射(PCI),再発に大別して治療法を述べる。
1)限局型小細胞肺癌(LD)
LDの治療の主体は薬物療法と放射線治療の併用療法であるが,臨床病期Ⅰ,ⅡA期(第8版)においては外科治療を含む治療により,5年生存率が40~70%の良好な成績が報告されており(CQ1),外科治療+術後薬物療法〔CDDP+ETP(PE)療法4コース〕が標準治療とされている(CQ2)。なお,医学的な理由で手術ができない臨床病期Ⅰ,ⅡA期症例に対しては,選択肢の1つとして定位照射が勧められる(CQ3)。
臨床病期Ⅰ,ⅡA期以外のLDの治療は,薬物療法と放射線治療の併用が複数の比較試験やメタアナリシスから標準治療と考えられている(CQ4)。薬物療法と併用する際の放射線治療のタイミングは早期同時併用療法が推奨され(CQ5),放射線の照射方法に関しては1日2回照射を行う加速過分割照射が推奨される(CQ6)。近年行われた加速過分割照射法45 Gyと通常照射法66 Gyの比較試験において,通常照射法の優越性は示せなかったがOSに差を認めなかったことから,加速過分割照射が困難な場合は通常照射法も選択肢となる。放射線治療と併用する薬物療法は,今までの比較試験の結果などからPE療法4コースが標準である(CQ7)。
2)進展型小細胞肺癌(ED)
EDにおける治療の主体は薬物療法であるが,今までの比較試験の結果から,PSや年齢で推奨されるレジメンが異なっている。PS 0-2,70歳以下においては,本邦で行われたPE療法とCDDP+CPT-11(PI)療法の比較試験の結果からPI療法が推奨される。海外にて行われたPE療法とPI療法の比較試験の追試では,本邦で行われた試験の結果を再現することはできなかったが,プラチナ製剤+ETPとプラチナ製剤+CPT-11の比較試験のメタアナリシスではCPT-11併用群で有意にOSを延長し,PFSやORRも改善する傾向にあることが示されている(CQ9)。なお,本邦で行われた比較試験は70歳以下を対象としているため,71歳以上におけるPI療法のエビデンスは乏しく,PS 0-2の71歳以上75歳未満およびCPT-11の毒性(下痢や間質性肺炎の併存など)が懸念される症例にはPE療法が推奨される(CQ10)。また,PS 0-1のED症例にはCBDCA+ETP(CE)+アテゾリズマブ(PD-L1阻害剤)療法のCE療法に対する比較試験の結果から,CE+アテゾリズマブ療法も推奨される(CQ11)。PS 3および75歳以上に関しては,本邦で行われた比較試験の結果から分割PE療法とCE療法が標準治療とされている(CQ12)。一方で,PS 4では毒性の増強や治療関連死の危険性を十分考慮する必要があり,薬物療法の適応は困難と考えられる(CQ13)。
3)予防的全脳照射(PCI)
小細胞肺癌は初回治療の感受性が良好であり,一部では完全奏効が得られるものの,初再発として脳転移を呈することが多いため,PCIの有効性を検証するいくつかの比較試験が行われている。LDが大部分を占めるメタアナリシスにおいてPCI施行により脳転移再発の抑制とOSの有意な延長が示されており,LDで初回治療によりCRが得られた症例に対してはPCI(25 Gy/10回)は標準治療となっている(CQ14)。一方,EDにおいては,海外で行われたPCIの有効性を検証する比較試験でPCI施行群でOSの延長が示されたが,ランダム化時点で画像検査による脳転移の否定が必須でないなどの試験デザインの問題が指摘されていた。本邦においてプラチナ製剤併用療法に奏効し,脳転移のないEDに対するPCI施行群と非施行群の第Ⅲ相試験が行われ,PCI施行群で脳再発率は少なかったもののOSの延長は示されなかった。この結果から本邦においてED症例に対するPCIは推奨されない(CQ16)。
4)再発小細胞肺癌
小細胞肺癌は,初回治療にいったん奏効しても大部分で再発,増悪をきたす。再発小細胞肺癌は,初回治療が奏効し初回治療終了から再発までが60~90日以上のsensitive relapseとそれ以外のrefractory relapseに分類され,sensitive relapseでは薬物療法の効果が期待できる(再発小細胞肺癌におけるsensitive relapseとrefractory relapseの分類,参照)。Sensitive relapseに対しては,いくつかの比較試験の結果からノギテカン(NGT)単剤,PEI(CDDP+ETP+CPT-11)療法が標準治療となっている。PEI療法に関しては比較試験においてNGT療法と比較し有意なOSの延長が示されたが,予防的G-CSF投与下においても発熱性好中球減少症を約30%に認めており,毒性の面などからその適応に関しては検討する必要がある。アムルビシン塩酸塩(AMR)はNGTの比較試験において,OSの優越性を示すことができなかったものの,サブセット解析でsensitive relapseにおいて同等のOSが示され,9つの試験のシステマティックレビューからも良好な成績が示されており,治療の選択肢と考えられる(CQ17)。Refractory relapseに対しては,海外で行われたAMRとNGTの比較試験のサブセット解析でrefractory relapseにおいてAMRによるOSの有意な延長が示され,本邦で行われたrefractory relapseに対するAMRの単群第Ⅱ相試験においてもORR 32.9%,OS中央値8.9カ月と良好な治療成績が示されており,AMR単剤が推奨される(CQ18)。
5)高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する小細胞肺癌
がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌を対象として,ペムブロリズマブの有効性,安全性を評価する第Ⅱ相試験が行われ,ORRは37%,PFS中央値5.4カ月であった。その結果,MSI-Highを有する固形癌に対してペムブロリズマブが承認されている。本試験に登録された患者の癌腫としては,大腸癌(36%),子宮内膜癌(15%),小腸癌(8%),膵癌(8%)の順に多く,小細胞肺癌も少数例であるが含まれていた(2%)1)。
6)神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumors)
肺腫瘍の組織型分類に関する国際的な規約「WHO分類」が,2015年に第4版へ改訂されたことを受け,WHO分類に準拠した肺癌取扱い規約第8版による組織分類(日本肺癌学会編)が公表されている。これによると,それまで大細胞癌の亜型に含まれていた大細胞神経内分泌癌(Large cell neuroendocrine carcinoma,LCNEC)は,小細胞癌,カルチノイド腫瘍とともに,独立したカテゴリーである神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumors)として集約された。LCNECに対して,小細胞癌と同様に治療を行っていくべきかの結論は明らかになっていないが,小細胞癌に準じて治療選択がなされることも多い。
なお,肺あるいは消化管原発の再発低悪性度神経内分泌腫瘍(いわゆるカルチノイド腫瘍)を対象とした第Ⅲ相試験が行われた。その結果,エベロリムスがプラセボに比較してPFSの延長効果を示し,肺神経内分泌腫瘍に対してエベロリムスが承認されている2)。
- 1)
- Diaz L, Marabelle A, Kim TW, et al. Efficacy of pembrolizumab in phase 2 KEYNOTE-164 and KEYNOTE-158 studies of microsatellite instability high cancers. Ann Oncol. 2017; 28(suppl_5): v122-41.
- 2)
- Yao JC, Fazio N, Singh S, et al. Everolimus for the treatment of advanced, non-functional neuroendocrine tumours of the lung or gastrointestinal tract(RADIANT-4): a randomised, placebo-controlled, phase 3 study. Lancet. 2016;387(10022):968-77.
本文中に用いた略語および用語の解説
AMR | アムルビシン | |
---|---|---|
CBDCA | カルボプラチン | |
CDDP | シスプラチン | |
CPT-11 | イリノテカン | |
ETP | エトポシド | |
NGT | ノギテカン | |
CR | complete remission | 完全寛解 |
ED | extensive disease | 進展型(小細胞肺癌の) |
LD | limited disease | 限局型(小細胞肺癌の) |
ORR | objective response rate | 客観的奏効率 |
OS | overall survival | 全生存期間 |
PCI | prophylactic cranial irradiation | 予防的全脳照射 |
PFS | progression free survival | 無増悪生存期間 |
PS | performance status | 一般状態 |
肺癌取扱い規約第8版(日本肺癌学会編)では小細胞肺癌について,「limited disease」(限局型)と「extensive disease」(進展型)の分類には意見の一致が得られておらず,「limited」と「extensive」の定義が確立していない現状では,TNMの記載は重要であるとしている。
しかし,小細胞肺癌の治療選択の面からは,限局型と進展型の区分は重要と考えられるため,本ガイドラインでは多くの第Ⅲ相臨床試験で採用されている定義,すなわち病変が同側胸郭内に加え,対側縦隔,対側鎖骨上窩リンパ節までに限られており悪性胸水,心嚢水を有さないものを限局型小細胞肺癌と定義付けた。