第1章 肺がんについて
Q4
肺がんが転移しやすい場所と症状について教えてください

 肺にがんができると,まず発生した場所で増殖します。その後,周囲の組織に浸潤したり,がん細胞が血液あるいはリンパの流れに乗ってほかの臓器にひろがります。肺はもともと全身から血液が集まる臓器です。二酸化炭素を放出し新たな酸素を受けとるガス交換を担っています。また,リンパ系という主に免疫機能を担うネットワークが張りめぐらされています。このため,がんがほかの臓器にひろがりやすいと考えられています。がん細胞がたどりついた臓器で定着することを転移といいます(Q1用語解説参照)。転移したがんが小さいうちは症状がまったくないことがほとんどです(無症候性転移むしょうこうせいてんい)。転移による症状は,肺がんが転移した場所と,その大きさによって変わってきます。

 血液を介した転移を血行性転移けっこうせいてんい,リンパの流れを介した転移をリンパ行性転移こうせいてんいといいます。これとは別に,もともと発生した場所でそのまま増大し,近隣の臓器に病変がひろがることがありますが,転移ではなく浸潤といいます。

 血行性転移の頻度が高いのは,反対側の肺,骨,脳,肝臓,副腎(腎臓の上に左右1つずつある)などです(図1)。リンパ行性転移では,肺がんは最初に近くのリンパ管に侵入し,リンパの流れに乗って,次のリンパ節に転移します。つまり病変の一番近いリンパ節,肺門リンパ節,縦隔リンパ節,反対側のリンパ節の順にひろがります(図2)。

 いずれの場合も転移した病変が小さいうちは症状がなく,画像検査で偶然見つかることもあります。転移したがんが大きくなっていて,症状として現れ診断されることもあります。

 骨に転移した場合,転移した場所に痛みが起こることがあります。背骨などに転移した場合,脊髄せきずいを圧迫し,手足の麻痺まひをきたすこともあります。

 脳に転移すると,頭痛や吐き気のほか,脳卒中のような症状や,けいれん発作を起こすことがあります。脳を包む膜にがんがひろがると,意識がぼんやりしたり,頭痛や吐き気といった髄膜炎ずいまくえんのような症状が出ることもあります。肝臓に転移した場合には黄疸おうだんが出ることもあります。

 肺を包む胸膜にがんがひろがると,胸に水がたまって息苦しさを感じるようになることがあります。また,心臓の周囲に水がたまると息苦しくてあお向けで寝ることができないというような症状が出る場合もあります。

 転移当初には無症状であることが多く,画像検査などによるチェックが必要になってきます。転移の検査は,がん治療と同時に行うことも,また治療の合間にも行うことが可能です。転移を調べる検査方法はQ11,転移したがんの治療法についてはQ49〜56を参考にしてください。

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