第4章 治療の概要 4-3.薬物療法
Q40
抗がん剤治療(化学療法)はどのような治療ですか

 抗がん剤(細胞障害性抗さいぼうしょうがいせいこうがんやく)での治療(化学療法)は,がん細胞を直接攻撃する薬剤を用いた治療です。手術や放射線療法が局所的な治療法であるのに対して,化学療法では,のみ薬や注射で投与された抗がん剤が血液の中に入り,血流に乗って全身をめぐり,全身にひろがったがん細胞に効果を発揮する全身治療です。「抗がん剤」とは,がん細胞の細胞増殖過程に働いて,がん細胞の増殖を妨げ,がん細胞の死滅を促す目的で作られた薬剤です。がんの進行度(ひろがりや転移の状態)や患者さんの健康状態を総合的に判断して化学療法を行います。手術や放射線療法が適応とならない場合には抗がん剤を含む薬物療法を行います。残念ながら現時点では化学療法だけで肺がんを完治させることはできませんが,肺がんを縮小させたり,進行を抑えたり,肺がんによって起こる症状をやわらげる効果,および延命効果が期待されます。また,がんの進行度〔臨床病期(ステージ),Q27参照〕によっては,手術や放射線療法と組み合わせて抗がん剤を用いることで治癒率を高めることがわかっています。

 抗がん剤だけを用いて治療するのは,肺がんのひろがりにより完治を目指した放射線療法ができない臨床病期(ステージ)Ⅲ期もしくはⅣ期で,全身状態が良く,また問題になるような合併症がない患者さんです。

 どのような薬剤を使って治療を行うのかは,肺がんの種類(せんがん,扁平上皮へんぺいじょうひがん,小細胞肺しょうさいぼうはいがんなどと分類される組織型),進行度,年齢や健康状態などを考慮して決定されます。より効果を高めるために作用の異なる抗がん剤を組み合わせて用いる併用療法も広く行われています。

 抗がん剤はがん細胞だけでなく,正常な細胞に対しても作用します。したがって,抗がん剤の投与量を増やすとがん細胞に対する効果は増強しますが,正常細胞への有害な反応(副作用)も強くなります。そのため,抗がん剤の投与量やスケジュールは,効果と副作用のバランスが最適になるよう臨床試験により厳密に検討されたうえで決定されています。治療間隔は1サイクルが3〜4週間で行われることが一般的ですが,治療効果と副作用には個人差があるので,慎重に評価を行いながら決める必要があります。また,どれくらいの期間や回数の化学療法を継続するのかは,治療効果と副作用だけでなく,肺がんの種類,抗がん剤の種類,治療の目的などによっても異なります。

抗がん剤の投与スケジュール例

 抗がん剤の投与スケジュールは,使用する抗がん剤の種類によって変わりますが,抗がん剤投与により起こる副作用のため,のみ薬の抗がん剤以外では毎日投与することはなく,投与後に休養(休薬)期間が設けられます。この投薬期間と休養期間を含めたワンセットを1サイクルと呼びます(1クール,1コースと呼ばれることもあります)。肺がんの治療の場合は,通常3〜4週を1サイクルとすることがほとんどですが,薬剤の種類によってさまざまなパターンがあります。

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