肺がんの種類(非小細胞肺がん,小細胞肺がん),進行度,患者さんの年齢や健康状態などによって肺がんの治療薬は異なります。肺がんの治療薬には「抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)」,「分子標的治療薬」,「免疫チェックポイント阻害薬」の3つがあります(薬剤一覧参照)。
抗がん剤は,従来から用いられている治療薬であり,がん細胞を直接攻撃する薬剤です。非小細胞肺がんでは,シスプラチン,カルボプラチンなどのプラチナ(白金)製剤,パクリタキセル,ドセタキセル,ゲムシタビン,ビノレルビン,イリノテカン,ペメトレキセド,アルブミン懸濁型パクリタキセルといった注射薬,S-1という経口薬があります。小細胞肺がんでは,上記のプラチナ製剤のほか,エトポシド,イリノテカン,アムルビシン,ノギテカンといった注射薬が用いられます。抗がん剤での治療についてはQ40を参照してください。
抗がん剤は,プラチナ製剤とそのほかの抗がん剤を組み合わせる併用化学療法のほか,プラチナ製剤以外の1種類のみの抗がん剤(パクリタキセル,ドセタキセル,ゲムシタビン,ビノレルビン,イリノテカン,S-1,ペメトレキセドなど)を使用した治療や,これらの薬剤のうちの2剤を組み合わせた治療が検討されます。
分子標的治療薬は,ドライバー遺伝子変異といわれる遺伝子変異や融合遺伝子を有する非小細胞肺がんに対して用いられます。がん細胞にドライバー遺伝子変異がある場合,ドライバー変異の部分を阻害することで,がん細胞の増殖を効率的に抑えることができます。EGFR遺伝子変異が陽性であれば,オシメルチニブ,ゲフィチニブ,エルロチニブ,アファチニブ,ダコミチニブ,ALK融合遺伝子が陽性であれば,アレクチニブ,クリゾチニブ,セリチニブ(これらの薬が無効であればロルラチニブ),ROS1融合遺伝子が陽性であれば,クリゾチニブ,BRAF遺伝子V600E変異が陽性であれば,ダブラフェニブ+トラメチニブの併用療法,NTRK融合遺伝子が陽性であれば,エヌトレクチニブが用いられます(Q42参照)。
がんが進行する際には,栄養や酸素が必須であり,がん自体が新たな血管を次々と作りながら栄養の確保を行っています。この働きを「血管新生」といいますが,この働きを抑えることによって,がんを兵糧攻めにし,進行を抑えられると考えられます。ベバシズマブやラムシルマブという薬剤は,血管新生を阻害し,がん細胞の増殖を抑えます。ベバシズマブはプラチナ製剤とそのほかの抗がん剤の2剤併用療法と同時に用いられ,治療が有効であればベバシズマブ単独,またはプラチナ製剤以外の抗がん剤とベバシズマブを併用して,維持療法として治療が継続されます。ラムシルマブはドセタキセルと併用して,化学療法後の再燃に対して用いられます。
もともとがん細胞には,リンパ球などの免疫細胞の攻撃を逃れる仕組みがありますが,免疫チェックポイント阻害薬はその仕組みを解除する治療薬です。現在,非小細胞肺がんの治療薬としてPD-1抗体とPD-L1抗体が用いられています。PD-1抗体にはニボルマブとペムブロリズマブ,PD-L1抗体にはアテゾリズマブとデュルバルマブがあります(Q44参照)。
ペムブロリズマブやアテゾリズマブはプラチナ製剤とそのほかの抗がん剤と組み合わせて使われることもあります。