第4章 治療の概要 4-3.薬物療法
Q44
免疫療法,免疫チェックポイント阻害薬とはどのような治療ですか
1. 免疫療法

 免疫療法には,民間や一部の医療機関で勧められているものがありますが,多くの場合,健康食品を利用するものや,免疫力を担い,がん細胞を攻撃することのできる白血球や抗体を増やしてからだの中に入れる方法となります。これらは臨床試験で効果と安全性を検証されてはおらず,医学的に有用性が証明されたものではありません。したがって,その実態はさまざまであり,なかには無治療と等しいものも存在します。また,自由診療では数十万〜数百万円になる場合もあります。これらは総じて科学的根拠が十分に検証された治療法ではないといえます。これまでに,非特異的免疫賦活療法ひとくいてきめんえきふかつりょうほう養子免疫療法ようしめんえきりょうほうや,種々のがん由来タンパクやペプチドを利用したワクチン療法などが臨床で検討されてきました。しかし,今までのところ有効性の確立したものはありません。

2. 免疫チェックポイント阻害薬

 一方,PD-1ピーディーワン抗体やPD-L1ピーディーエルワン抗体のような免疫チェックポイント阻害薬は,抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)よりも有効性が高いことが臨床試験で科学的に証明されました。2015年末にニボルマブがわが国ではじめて承認され,その後,2016年にペムブロリズマブ,2017年にアテゾリズマブ,デュルバルマブが承認されました。免疫チェックポイント阻害薬は,がん細胞がリンパ球などの免疫細胞の攻撃を逃れる仕組みを解除する薬剤です。PD-L1というタンパク質ががん細胞にたくさん認められる患者さんでPD-1抗体やPD-L1抗体の有効性が高いと報告されており,がん細胞の組織標本を用いてPD-L1免疫染色という検査が行われます。

 ペムブロリズマブ単独の治療は1%以上のがん細胞にPD-L1が認められる非小細胞肺がんに対して承認されています。プラチナ製剤とそのほかの抗がん剤を組み合わせる併用化学療法後に進行した場合の二次治療として,ニボルマブやペムブロリズマブ,アテゾリズマブが用いられます。ただし,非小細胞肺がんで1%以上(とくに50%以上)のがん細胞にPD-L1が認められた場合には,初回の薬物療法としてペムブロリズマブ単独の治療が適応となります。

 2018年までは免疫チェックポイント阻害薬単独での治療しか行われてきませんでしたが,2018年の年末にペムブロリズマブやアテゾリズマブとプラチナ製剤とそのほかの抗がん剤を組み合わせて使う治療が初回治療として承認されました。プラチナ製剤を含む併用化学療法と比較して高い有効性が示されたためです。ただし,体力が低下している場合や合併症によっては適応とならない場合もあります。

 手術が適応とならないⅢ期の非小細胞肺がんでは,プラチナ製剤を含む化学放射線療法が行われますが,化学放射線療法に続けて1年間デュルバルマブによる治療が行われます(Q63参照)。

 免疫学の急速な進歩により,免疫チェックポイント阻害薬を用いた免疫療法はがんに対する有力な治療法となりました。その一方で,抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)や分子標的治療薬と同様,すべての患者さんに有効な治療ではなく,急激にがんが進行する場合もあります。また,免疫に関連した副作用(間質性肺炎かんしつせいはいえん甲状腺こうじょうせん下垂体かすいたいなどの機能低下症,大腸炎,皮膚炎,肝炎,脳脊髄炎のうせきずいえんなど)を起こすことがあり,注意が必要です(Q45参照)。

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