第4章 治療の概要 4-3.薬物療法
Q43
分子標的治療薬の副作用や注意したほうがよいことにはどのようなものがあるでしょうか

 分子標的治療薬ぶんしひょうてきちりょうやくでは,従来の抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)ではみられない特有の副作用が生じることがあります。ゲフィチニブ,エルロチニブ,アファチニブ,ダコミチニブ,オシメルチニブといったEGFRイージーエフアール阻害薬では,かゆみを伴うにきび,肌の乾燥,爪や鼻粘膜の炎症,口内炎,下痢,肝臓の機能の低下などの副作用がみられることがあります。しかし,多くの場合は軽症で,薬剤を一時的に中止することや対症的な治療で改善します。ただし,なかには重症の場合もあり,治療継続を断念せざるを得ないこともあります。爪の周りの炎症(爪囲炎そういえん)に対して軟膏なんこうや抗菌薬の内服で改善しなければ,皮膚科での処置が必要になる場合があります。重い副作用として間質性肺炎かんしつせいはいえんがあります。これは,薬剤によって肺の弾力性が失われ,呼吸をすることが困難になる病気です。ゲフィチニブでは,間質性肺炎が起こる頻度は3〜6%,副作用による死亡率は1〜3%と報告されています。わが国で行われた調査研究によると,男性の喫煙者がゲフィチニブによる間質性肺炎になりやすいことがわかりました。逆に,女性の非喫煙者では,間質性肺炎の副作用は少ない傾向にあります。また,もともと間質性肺炎を合併している患者さんでは間質性肺炎が悪化する危険性が高くなります。ゲフィチニブやエルロチニブの治療で間質性肺炎が起こらなかった患者さんでも,オシメルチニブの治療で間質性肺炎が起こることもあり,注意が必要です。定期的な画像検査(胸部X線やCT)を受け,呼吸が苦しくなった場合は,早めに担当医へ連絡することが重要です。

 クリゾチニブの副作用には,視覚障害(明るさの変化でのちらつきなど),悪心おしん(吐き気),下痢,味覚障害,浮腫ふしゅなどがあります。重い副作用として間質性肺炎が起こることがあり,重い肝機能障害や不整脈も少ないですが認められていますので,定期的な経過観察が必要です。アレクチニブに関しては,肝機能障害や味覚障害,骨髄抑制こつずいよくせい(白血球数,血小板数などの減少)などが報告されています。セリチニブの副作用には,悪心(吐き気),下痢,肝機能障害などがあります。ロルラチニブでは,高脂血症こうしけつしょう(血液中のコレステロールや中性脂肪の値が増加)や物忘れ,気分の落ち込みなどの神経症状が起こることがあります。

 ダブラフェニブ+トラメチニブの併用療法では,発熱が起こりやすく,解熱剤による対症療法が必要となります。

 ベバシズマブやラムシルマブでは,従来の抗がん剤とは異なる特徴的な副作用として,高血圧,タンパク尿,鼻出血などが認められます。自宅で定期的に血圧を測定し,担当医に知らせましょう。また,頻度は高くありませんが,喀血かっけつ(肺出血)や消化管出血・穿孔せんこうといった副作用もあります。たんに血が混じる,急激な腹痛があった場合には,直ちに担当医に連絡するなど,そのときの対処の仕方を確かめておく必要があります。

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