第4章 治療の概要 4-3.薬物療法
Q41
抗がん剤治療(化学療法)はつらいと聞きましたが副作用について教えてください。また,何を注意しておけばよいのでしょうか

 現在のところ,がん細胞だけに作用し,正常細胞には作用しないという抗がん剤(細胞障害性抗さいぼうしょうがいせいこうがんやく)はまだ開発されていません。抗がん剤は正常な細胞にも作用してしまうため,副作用が生じます。抗がん剤は細胞の分裂・増殖を阻害することで効果を発揮するので,一般的に分裂と増殖が盛んな細胞(骨髄こつずい細胞,消化管粘膜,毛根など)が影響を強く受けます。

 これらの抗がん剤の主な副作用とその出現時期をに示します。

 これらの副作用は用いる抗がん剤の種類によって異なり,発現頻度・程度にも個人差があります。軽い副作用であれば,自然に軽快することがほとんどであり,悪心おしん(吐き気)・嘔吐おうとには吐き気止め(制吐剤せいとざい),下痢には下痢止め(止痢剤しりざい)というような対症療法を行いながら回復を待ちます。白血球(とくに好中球こうちゅうきゅう)の減少時には,その程度と感染症の危険性などを考慮してG-CSFジーシーエスエフ製剤という白血球を増加させる製剤を用いることもあります。うがいや手洗いをして感染を予防しましょう。好中球減少時の発熱時には抗菌薬での治療が必要となります。

 抗がん剤の種類によっては,アレルギー反応,悪心・嘔吐などが高い頻度で出現することがわかっていますので,予想される副作用を予防する薬剤などを併用しながら治療を行います。抗がん剤によって引き起こされる悪心や嘔吐に対しては専用の制吐剤が新規に開発され,広く用いられています。

 肺がんで用いることの多いプラチナ製剤の中でも,とくにシスプラチンでは腎機能障害が比較的高い頻度で起こるので,予防のために尿量を確保する必要があり,点滴量が多くなります。最近では点滴の代わりに経口補液けいこうほえきも用いられます。

 予防や対症療法を行っても重篤な副作用が出てしまった場合には,抗がん剤の投与量を減らすか,ほかの抗がん剤に変更することなどを検討する必要があります。

 パクリタキセルは末梢神経障害をきたし,手足のしびれが起こることがあります。しびれに対する有効な薬剤がないため,しびれによって日常生活に影響が出る前にパクリタキセルを減量するか中止するかの検討が必要となります。しびれの程度を担当医に伝え,その後の治療について相談してください。

 市販薬,漢方薬,健康食品などの中には,化学療法に悪影響を与えるものもあるので注意が必要です。

 化学療法で効果を得るためには,副作用をうまく乗り切って治療を継続していくことが重要ですが,抗がん剤の効果と副作用の程度は患者さんによって個人差がありますので,担当医と相談しながら最善の方法を選択していく必要があります。そのためには,患者さん自身が自分の病状,治療の必要性,副作用などをよく理解したうえで治療を受けることが大切です。予想される副作用を理解し,対策を立てておくことで,気持ちに余裕をもって治療を受けることができます。気になる症状があれば,担当医,看護師に伝え,早期発見・早期治療につなげましょう。

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