第2章 肺がんの診断に必要な検査
Q6
肺がんかどうかを調べるための検査について教えてください

 肺がんの見つかり方は人それぞれ異なります。何らかの症状があり,胸部X線を撮って肺に異常な影が見つかる場合もありますが,ほかの病気で医療機関にかかっていて,たまたま胸部X線やCTを撮って見つかる場合もあります。また,検診のときに撮影したX線写真で異常を指摘されることもあります。PETを含めて胸部X線やCTなどの画像検査で,肺に異常な影が見つかっただけでは,まだ肺がんが疑われている段階であり,診断は確定していません。診断を確定させるには,肺の異常な場所(病変)から組織の一部をとり出して(これを生検せいけんといいます),採取した細胞を顕微鏡で観察し,がんであることを確認すること(これを病理診断といいます)が必要です。

 細胞を採取するのは,肺から行うことが多いですが,肺の外にたまった水(これを胸水きょうすいといいます)が肺の病気の影響でたまっていると考えられる場合には,胸水を採取することもあります。また,からだの表面近くに肺がんの転移と考えられる病変がある場合には,その部分から採取することもあります。たんが出せれば,痰の中にがん細胞が混じっていて,診断がつくこともあります。こうしたからだの負担が少ない方法で細胞を採取するのが基本ですが,必要に応じて手術を行って細胞を確認することもあります。現在は肺がんと診断がつくと,さまざまな遺伝子の検査を行い治療する「個別化医療」を行うことがありますが,こうした検査には少し多めのがん細胞が必要です。また頻度は低いですが,血液の中にがん細胞から漏れ出た遺伝子を調べることで肺がんの性質を診断できる場合もあります(これをリキッドバイオプシーといいます)。

 組織や細胞を採取するために行う検査として,気管支鏡きかんしきょう検査,経皮的針生検けいひてきはりせいけん胸腔鏡きょうくうきょう検査などがあります。肺がんが疑われている段階で,組織や細胞を採取するために最も多く行われているのは気管支鏡検査です。

 気管支鏡は上部消化管内視鏡(胃カメラ)を細くしたような内視鏡で,口や鼻から気管・気管支へと挿入します。通常はのどや気道にスプレーのような道具で粘膜の麻酔をかけて(これを局所麻酔といいます)から気管支鏡を挿入します。細胞の採取を行うなど検査時間が長くなる場合には,このほかに痛みを抑える薬や眠たくなる薬を注射で使うことがあります(鎮静や静脈麻酔といいます)。検査中の記憶がなくなることもあり苦痛を軽減しますが,検査後に直ちに車の運転はできません。気管支鏡検査は外来で行うこともありますが,入院で行う場合もあります。主な合併症は,出血,気胸(肺に穴があいてしぼんでしまう状態のこと),発熱などがあります。出血は生検を行うと少なからず起こりますが,数mLの出血に収まることが多いです。ただ,普段から脳血管や心臓の病気に対して血液がサラサラになる薬(抗血小板薬,抗凝固薬,抗血栓薬)を服用している方は,そのまま生検をすると大きな出血になる可能性があり大変危険です。生検を行う場合には,これらの薬は通常中止としてもらいます。中止している期間は血栓ができる危険性が高くなりますので,これらの薬を処方している医師に,薬剤の中止が可能か確認する必要があります。気胸は発生しても安静のみで改善する可能性がある一方,空気の漏れが多い場合には,からだの表面からチューブを入れて,漏れ出た空気をからだの外に出さなければならないこともあります。

 経皮的針生検は,超音波,X線透視やCTを用いながら,針をからだの表面の外から刺し込み,病変から細胞や小さい組織を採取する方法です。一般的にからだの表面に近い病変に対して行います。内視鏡をのみ込む際の苦痛はありませんが,合併症として,気胸の発生する頻度が気管支鏡よりも高いです。また出血が気道のほうに流れ込むと喀血かっけつ(肺出血)が起こることがあります。頻度は低いですが,肺と胸壁との間のスペース(これを胸腔きょうくうといいます)にがん細胞がひろがってしまうこと(これを播種はしゅといいます)が報告されています。さらに頻度はとても低いですが,針の穴から空気が血管の中に入り,血管をつまらせてしまう空気塞栓という状態も起こり得ることが知られています。

 一般に,生検を行ってから病理診断の結果が出るまでには数日から2週間の時間を要しますので,検査後直ちに診断が確定するわけではありません。

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