はじめに
使い方

 この本は,肺がん患者さんに適切な治療を受けていただくために,また患者さんと家族の皆さまのさまざまな疑問・質問や不安に答えるために企画され,構成されています。この目的のため,一般的な解説書や教科書の構成でなく,疑問・質問を内容別に取り上げ,それに専門家が答えるQ & A 形式をとっています。現時点での最新かつ根拠のある情報に基づいて,専門家が解説やアドバイスを行っていますが,内容によって,ぜひ受けるべき標準治療現時点で,治療効果が優れ,しかも副作用も耐えられるものであることが「臨床試験」( Q28 参照)ですでに証明されている治療法。医学の進歩により,逐次新しい治療が導入されているため,現在の標準治療も数年後には標準治療でなくなることもあります。が確立されている場合と,まだ研究段階で標準治療が確立されていない場合があります。そこで,本書では,日本肺癌学会が医師向けに作成している「肺癌診療ガイドライン」の最新版に基づいて解説しています。それぞれの治療が比較試験複数の治療法が考えられるとき,効果や副作用を調べてどの治療法が優れているかを証明する研究です。第Ⅲ相試験と呼ばれる比較研究では,各々の治療法を公平に評価するため,無作為化割付といって,治療を受ける患者さんが一方に偏らないように治療法が選ばれます。を含む臨床試験の結果からどの程度推奨されるのか,あるいはさらに詳しい治療指針をお知りになりたい方は,後述する医師向けの「肺癌診療ガイドライン」を参照してください。

 なお,医学は常に進歩しており,今後の研究によって評価が変更になることもありますのでご注意ください。本書も数年ごとに改訂版を発行する予定です。

本書を読んでいただきたい方

 この本は,肺がん患者さんやその家族に読んでいただくために企画・作成されています。全国各地で開催された市民公開講座や市民セミナーにおいて患者さん・家族・友人から寄せられた質問を,内容別に分類して94 の質問に整理しました。解説も医学知識や専門知識がなくてもある程度理解していただけるような平易な文章を心がけています。また内容は,がんと診断されてから治療を受け,もしも再発した場合や,がんに伴う症状,日常生活,医療費,仕事のことなど,がんとともに生きるために役立つ多くのことが記載されています。このため,できれば自分用に一冊購入しいつも手元に置いておかれることをお勧めします。日本肺癌学会では肺がんになられたすべての患者さんとその家族に読んでいただきたいと願っています。また肺がん患者さんを支援していただいている病院のがん相談支援センター相談員,看護師や技師などの医療従事者,ピアサポーターの皆さまにも参考になります。

 すでに,ご自身で肺がんの勉強をしていて予備知識のある方には,本書は物足りないと感じる方もおられるでしょう。この場合は,医師・医療従事者向けの「肺癌診療ガイドライン」をあわせてお読みいただくと,より理解が深まると思います。ガイドラインは,本書の出版社から発行されているほか,日本肺癌学会のホームページからもご覧いただけます。

構成について

 ご自身が疑問や興味をもっている質問内容を目次から直接探し,そのページを見ていただくと簡単に回答が得られるように構成されています。まずは本を手にとって自分が一番知りたい質問を目次から探して,一読してください。ひとつの質問に対して1〜2 ページ程度で解説されており,3 分ほどで読めるようにしました。

 次に時間があれば,質問の内容は系統的に並べられていますのでなるべく初めから順に読んでいただくことをお勧めします。「肺がんの診断」から「治療方針の決定」,「治療内容」,「再発した場合」,「症状をやわらげる治療」,「生活のアドバイス」までを理解しやすいように解説しています。

 本書は,患者さんや家族のためにできるだけわかりやすく解説するよう努めていますが,どうしても平易な言葉に直せない医学用語があります。このような用語には,解説をつけました。また,わかりにくい用語はキーワード検索窓から検索して,関連するQ&Aをお読みください。本書の解説で十分理解できない場合は,インターネットで用語を検索していただくか,本書を担当医や看護師に見せて教えてもらうのがよいでしょう。主要なウェブサイトを参考情報として掲載しましたので,リンクをご活用ください。

治療法の名称について

 同じ治療法であっても,国や地域,病院によっても呼び方が異なる場合があります。多くは,英語の治療名が日本に導入される場合に呼び方が変わったり,正式な医学用語をわかりやすい名称にかみくだいて表現している場合です。たとえば,多剤併用化学療法とは,「複数の抗がん剤を組み合わせた治療」を意味しますが,一般には「抗がん剤治療」と表現されます。本書では,できるだけわかりやすく表現するために,一般的な用語を用いるように配慮しています。しかし,解説の内容によっては,正式な名称を用いたほうが理解が深まる場合もあります。このような場合は,あえて専門用語を用いていますが,できるだけ用語解説をつけるようにしましたので参考にしてください。

治療薬の名称について

 治療薬についても,一般名と商品名があります。一般名は世界共通で用いられる薬の名称で,商品名は各々の製薬会社が発売時につけた名称です。したがって,ひとつの一般名に対し,複数の商品名が存在することがあります。本書は原則的に一般名を用いるようにしています。ただし,一般名が極端に長く複雑で,商品名が広く用いられている場合は,限定的に商品名を掲載していますのでご理解ください。商品名には名称の後ろにⓇマークをつけています。

個人個人で状況が異なること

 人の顔や体つきが人それぞれ異なるように,同じ肺がんであっても,個々に細胞の種類や,進行度,そして患者さんの年齢,臓器機能や元気さの程度が異なります。また,喫煙者は,肺の働きが非喫煙者より弱っていたり,薬剤によっては強い副作用が出る場合もあります。本書では,進行度(がんのひろがり,転移の有無)や肺がんの種類( 組織型)また遺伝子の状況などによって勧められる治療法を分類して述べていますが,年齢や合併症,体力により,本書で勧める治療ができない場合があります。担当医は,患者さんの治療に関して年齢や体力などの医学的理由も考慮して治療を選択しますので,本書で勧める治療どおりとならない場合があります。そのときは,担当医に相談したり,セカンドオピニオン(Q16参照)を活用してください。

特定非営利活動法人日本肺癌学会
ガイドライン検討委員会
患者向けガイドライン小委員会

委員長 澤 祥幸

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