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切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌・肺尖部胸壁浸潤癌
文献検索と採択

(Ⅲ期非小細胞肺癌:切除不能例)

Ⅲ期非小細胞肺癌:切除不能例
本文中に用いた略語および用語の解説
CBDCA カルボプラチン
CDDP シスプラチン
CPT-11 塩酸イリノテカン
DTX ドセタキセル
EGFR-TKI 上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤
ETP エトポシド
MMC マイトマイシンC
PAC パクリタキセル
VBL ビンブラスチン
VDS ビンデシン
VNR ビノレルビン
 
プラチナ製剤 CDDPとCBDCAの総称
第3世代抗癌剤 CPT-11, DTX, GEM, PAC, VNRの総称
 
3D-CRT 3-dimentional conformal radiation therapy 3次元原体照射
ENI elective nodal irradiation 予防的リンパ節照射
IF involved field 病巣部(病巣関連)照射野:主として肉眼的腫瘍体積(画像上明らかな腫瘍病巣部)に限局した照射野を意味する
OS overall survival 全生存期間
PS performance status 一般状態
V20 20Gy以上照射される肺体積の全肺体積に対する割合

補足:根治照射可能症例の定義

 根治照射とは治癒を目指す放射線照射のことである。根治照射可能症例とは,病巣部(原発巣およびリンパ節転移)すべてに対して根治線量を照射可能で,かつ正常組織障害を最小限に抑えることができる症例のことである。Ⅲ期の中で,対側肺門リンパ節転移を有する症例は根治照射不能例となる。根治照射が可能か否かは,腫瘍の大きさや腫瘍の部位,肺機能や既存肺の状態などから放射線腫瘍医とともに総合的に判断する。
樹形図
非小細胞肺癌Ⅲ期の治療<臨床病期ⅢA期> 非小細胞肺癌Ⅲ期の治療<臨床病期ⅢB期>
4-1.化学放射線療法
推 奨
a.化学療法と根治的胸部放射線治療の併用療法が可能な局所進行非小細胞肺癌患者にはプラチナを含む化学放射線療法を行うよう勧められる。(グレードA)
b.全身状態が良好(PS 0-1)な患者に,化学放射線療法を行うよう勧められる。(グレードA)
c.高齢者でも全身状態が良好であれば,化学放射線療法は選択肢の1つとして勧められる。(グレードB)
d.化学療法と放射線療法の併用時期は同時併用を行うよう勧められる。(グレードA)
e.プラチナ製剤を含む化学療法との併用療法を行うよう勧められる。(グレードA)
f.化学放射線同時併用後に薬剤を変更し地固め化学療法を行うよう勧めるだけの根拠が明確でない。(グレードC2)
g.化学放射線療法後の維持療法としてEGFR-TKIの投与を行わないよう勧められる。(グレードD)
h.化学療法併用時の通常分割照射法(1日1回1.8〜2Gy週5回法)では,60Gyを最低合計線量とするよう勧められる。(グレードA)
i.74Gyの高線量照射は行わないよう勧められる。(グレードD)
j.化学放射線療法では,放射線治療の休止期間をおかないよう勧められる。(グレードC1)
エビデンス
〈化学放射線療法〉
  • a.切除不能局所進行非小細胞肺癌に対する放射線単独療法と化学放射線療法の臨床比較試験をまとめたメタアナリシスの結果,CDDPを含む化学療法と放射線療法の併用群の生存率が放射線単独群の生存率に比して有意に良好であった1)〜3)
     現在では,局所進行非小細胞肺癌の標準治療は化学放射線療法であるとして広く認知されており推奨レベルはグレードAとした。
〈対象〉
  • b.放射線単独療法と化学放射線療法を比較した複数の試験ではPSが良好な症例を対象にしている。化学療法により生存期間延長効果が得られる対象もPS 0-1である1)〜3)。このため化学放射線療法をPS 0-1に対して勧めるエビデンスは十分にあると判断,グレードAとした。しかし,化学放射線療法の有害事象発生頻度は,放射線単独療法のそれより高いため,十分な配慮が必要である。
  • c.70歳以上の高齢者では,放射線治療に化学療法を併用することの利益を示した報告は少ない。RTOG,ECOG,SWOG共同のランダム化比較試験のサブセット解析分析では,70歳以上の高齢者では化学療法併用による生存率の向上は認められなかったと報告している4)
     一方,CALGB9130,NCCTG試験では,年齢による生存率に有意差は認められず,年齢は予後因子とはならないと結論している5)6)。また,本邦における 71歳以上の高齢者を対象としたJCOG0301のランダム化比較試験の結果でも,化学放射線療法群(低用量CBDCA 30mg/m2/日,週5回,計20日間投与+同時胸部放射線照射60Gy)は放射線単独療法群(胸部放射線照射60Gy)に比べて,主要評価項目である全生存期間を有意に延長することが示された(生存期間中央値22.4カ月 vs. 16.9カ月)7)。ただし,高齢者に対する放射線単独療法と化学放射線療法を比較した試験では,有害事象発生頻度が高かったため,試験が中止されたものもある。
     したがって,高齢者における化学放射線療法は,適応症例の選択および照射野設定や線量計算などの品質管理を適切に行うことを条件に治療選択肢の1つになり得るとして推奨グレードはBとした。
〈タイミング〉
  • d.化学療法と放射線療法の併用時期は同時のほうが併用効果は高い8)9)。同時併用では急性の有害事象の頻度が高く注意が必要であるが,慢性の有害事象は逐次併用と同等であることが示されている。
     同時併用の場合には,急性障害の軽減のために放射線治療を分離照射法としても不利益は少ないようである。最近の同時併用と逐次併用の臨床比較試験をまとめたメタアナリシスの結果,同時併用群の生存率が逐次併用群の生存率に比して有意に良好であった10)。現在では,局所進行非小細胞肺癌の標準治療は同時化学放射線療法であるとして広く認知されており,推奨レベルはグレードAとした。しかし,適応症例の選択には十分な配慮が必要である。
〈レジメン〉
  • e.放射線治療と同時併用するCDDPを含む化学療法レジメンで,逐次療法より優れていると報告された薬剤はVDS,MMC,ETP,およびVBLなどで,いわゆる一世代前の薬剤のみ8)〜10)である。しかし,プラチナ製剤と第3世代の薬剤との併用療法も従来のCDDPとの2剤または3剤併用療法と同等の治療成績を示しており,プラチナ製剤を含む化学療法との同時併用療法を推奨レベルはグレードAとした。
     現在までに日本においてMVP療法に対するCBDCA+CPT-11併用療法,CBDCA+PAC併用(CP)療法,CDDP+DTX併用療法(CD療法)が比較検討され,OSではMVPに対するCP療法の非劣性やCD療法の優越性は証明されなかった。しかし,CP療法の生存曲線は密に重なっており,有害事象が軽微であることからCP併用療法が標準治療の1つと結論された11)。CD療法は主評価項目である2年生存率でMVP療法に対する優越性は証明された(CD療法60.3%,MVP療法48.1%)が,生存期間(OS)での優越性は証明できなかった12)
     したがって,放射線治療に同時併用する第3世代抗癌剤を含む化学療法のレジメンの1つとしてCP療法あるいはCD療法が勧められる。
〈その他〉
  • f.CDDP/ETPと胸部放射線同時併用療法後にDTXによる地固め化学療法の意義を検証する第Ⅲ相比較試験が行われた。DTXによる地固め化学療法による生存期間延長効果は得られず,有害事象および治療関連死亡が増加した13)。化学放射線同時併用療法後の地固め化学療法を行うよう勧めるだけの根拠は明確でなく,推奨レベルをグレードC2とした。
  • g.CDDP/ETPと胸部放射線同時併用療法後のDTXによる地固め化学療法後,ゲフィチニブによる維持療法の意義を検証する第Ⅲ相試験が行われた。その結果,ゲフィチニブ群の予後はプラセボ群より優位に不良であった14)。したがって,化学放射線同時併用後のEGFR-TKIによる維持療法は行わないよう勧められ,推奨レベルのグレードをDとした。
〈化学療法併用時放射線治療〉
  • h.化学療法に放射線療法を併用する場合の放射線の推奨照射線量は,化学療法と放射線を併用するタイミングを検討する試験,化学放射線同時併用療法における化学療法の比較や地固め療法を比較した試験に用いられた放射線療法の分割照射法・投与線量がすべて1回1.8〜2Gyで週5回,計59.4〜66Gyであった。RTOG9410でCDDP+VBL同時併用放射線療法,遂時放射照射,CDDP+ETPと同時過分割照射(計69.6Gy)を比較した試験でも,過分割照射の有用性は証明されていない9)。また,本邦で行われた化学放射線療法に関する比較第Ⅲ相試験は1回2Gy週5回,計28〜30回,56〜60Gyである8)11)12)。化学療法に放射線照射を併用する場合においても,放射線単独療法と同じ最低推奨照射線量は安全性の観点から同時に照射が可能であり,60Gy/30回/6週を推奨線量として妥当であるためグレードAとした。
  • i.局所進行非小細胞肺癌に対する最適な照射野は明らかになっておらず,長い間,慣例的に用いられてきた照射野は,予防的リンパ領域を含む照射野である。現在の標準的照射線量である60Gyでは局所制御が不十分であるが,従来の予防的リンパ節領域を含む照射体積では毒性の点から総線量を増やすのは困難であった。近年のCT治療計画による3D-CRTの普及により,ENIを省くIFを用いた高線量照射が試みられるようになった。Yuanらの1回2Gyの通常分割照射によるIF照射(総線量68〜74Gy)とENI(総線量60〜64Gy)による比較試験の結果によると,局所再発率は同等で,肺臓炎の発症割合はENI群で有意に高く,両者の3年生存率は27.3%,19.2%で,IF照射群のほうが有意に予後良好であったと報告されている15)。また,IF照射群の照射野外の所属リンパ節領域の再発はわずか7%であった.RTOGは3D-CRTを用いた化学療法を同時併用しない第Ⅰ/Ⅱ相線量増加試験(RTOG9311)を行った。本試験では,放射線肺臓炎の予測因子である肺のV20によって層別化を行い,V20<25%では83.8Gy/39Frまで,V20が25%から36%の場合は77.4Gy/36Frまで安全に線量増加が可能であると報告した。
     これに基づき,同時化学放射線療法におけるいくつかの線量増加試験が行われたが,2013年に標準線量60Gyと高線量74Gyの生存延長効果を比較したRTOG 0617第Ⅲ相試験の結果が報告された16)。高線量74Gyによる同時化学放射線療法は,標準線量60Gyの場合よりも局所再発リスクと死亡リスクをそれぞれ37%と56%有意に上昇させた。したがって,現時点では化学放射線療法においてENIを省くIFを用いた74Gyの高線量照射は行わないよう勧められるため,推奨レベルはグレードDとした。
  • j.治療に抵抗性の腫瘍細胞の治療期間中にみられる再増殖を防ぐためには,放射線治療期間中に休止期間をおかないことが望ましいとされているが,放射線療法と化学療法が同時併用の場合には1週間程度の分離照射法(split-course irradiation)でも良好な治療成績が報告されている8)。しかし,RTOGの3つの臨床試験をまとめた分析では,放射線治療の中断は生存率を低下させる可能性を示しており17),グレードC1とした。
引用文献
4-2.放射線単独療法
推 奨
a.化学放射線療法の適応とならないⅢ期非小細胞肺癌には,無症状であっても根治的放射線単独療法の適応があり,行うよう勧められる。(グレードB)
b.放射線治療単独で治療する場合,Ⅲ期非小細胞肺癌には通常線量分割で少なくとも60Gy/30回/6週を行うよう勧められる。(グレードA)
c.放射線治療単独で治療する場合,休止期間をおかないよう勧められる。(グレードB)
d.照射期間を短縮する加速(過分割)照射は,標準治療として行うよう勧めるだけの根拠は明確でない。(グレードC2)
エビデンス
  • a.Reinfussらは,無症状のⅢ期非小細胞肺癌240人を対象に,A群:通常照射(50Gy/25回/5週),B群:小分割照射(40Gy/10回/5週,3週間の休止期間を含む),C群:症状が出るまで無治療で,症状が出たら姑息照射を行う3群のランダム化比較試験を行い,2年生存率は,A群18%,B群6%,C群0%と通常照射群の生存率が有意に良好であった1)。根治照射を行った75歳以上のⅠ〜Ⅲ期非小細胞肺癌患者97人の治療成績をretrospectiveに解析したHayakawaらの報告では2),75〜79歳の5年生存率は13%,80歳以上の5年生存率は4%であり,これらはいずれも74歳未満の患者の生存率と比較して有意差がなかった。Tyldesleyら3)のEBMに基づくガイドラインのシステマティックレビューでも,「Ⅲ期非小細胞肺癌の非手術症例で全身状態の不良な患者には初回治療として放射線療法の適応がある」と記載されているガイドラインが検索9件中7件あった。通常これらの症例に化学放射線療法は行えないので,放射線療法単独治療の適応となる。Ⅲ期非小細胞肺癌に対する放射線単独治療の生存率は良好とはいえないが,無治療で症状が出てから照射するのは,さらに不良となるので,化学放射線療法の適応とはならないⅢ期非小細胞肺癌に対しては,速やかに根治的放射線単独療法を行うよう勧められる。
  • b.Ⅲ期非小細胞肺癌を対象に,40Gy,50Gy,60Gyをランダム化比較したRTOG73-01では4),生存率曲線には有意差がないものの,3年生存率が,60Gyで15%,50Gyで10%,40Gyで6%であった。照射野内再発率は,40Gy,50Gy,60Gyと線量が増加するにつれて再発率が下がり,線量依存性は有意であった。Singerらは,放射線単独で線量分割をランダム化比較した英国の4つの臨床試験と,米国のRTOG73-01を比較し5),放射線単独治療では通常分割法に換算して60Gy以下の領域では,線量が正常組織反応および局所制御率と相関することを明らかにした。以上,少なくとも60Gy以下では治療成績が合計線量に依存することが示されている。通常照射法60Gyと約70Gyに線量を増加させる過分割照射を比較した3つのランダム化比較試験のメタアナリシスでは6),過分割照射により死亡のオッズ比が0.69(0.51-0.95)と有意に下がった。ただし,このメタアナリシスにも含まれている臨床試験であるが,通常照射法(60Gy/30回/6週)と過分割照射(69.6Gy/1.2Gy bid/6週)を比較したSauseらの大規模ランダム化比較試験では7),両群に生存率の有意差はみられていない。
     線量が70Gyを超える領域に関して,CoxらはT1-3N2M0の予後の良い〔Karnofsky Performance Status(KPS)70-100,体重減少<5%〕Ⅲ期非小細胞肺癌を対象に,60Gyから79.2Gyまでの過分割照射のランダム化比較試験を行った8)。その結果,69.6Gy群が,それ以外の群よりも有意に生存率が高かった。74.4Gy,79.2Gyの2群で急性毒性や晩期障害が有意に増加したわけでないのに治療成績は69.6Gy群よりも悪かった。この理由は不明である。Maguireらは9),73.6〜80Gy/4.5〜5週の加速過分割照射によって急性障害,晩期障害の程度が高くなり,その生存期間中央値はⅢa期13カ月,Ⅲb期10カ月と報告している。
     これらのデータは2次元治療に基づいたものであり,標準的に使われている60Gyの理論的根拠となっている。近年,3次元的治療計画に基づいた線量増加が試みられるようになってきた。RTOGは3次元原体照射(3D-CRT)を用いた化学療法を同時併用しない第Ⅰ/Ⅱ相線量増加試験(RTOG9311)を行った。本試験では,放射線肺臓炎の予測因子である肺のV20(20Gy以上照射される正常肺の体積)によって層別化を行い,V20<25%では83.8Gy/39Frまで,V20が25%から36%の場合は77.4Gy/36Frまで安全に線量増加が可能であると報告した10)。これらは予防的所属リンパ節照射(elective nodal irradiation;ENI)を省くInvolved field(IF)を用いた線量増加試験であることに注意が必要であり,照射野と線量については推奨するエビデンスが未だ十分ではない。
  • c.Coxらは,3つのランダム化比較試験(RTOG8311,8321,8403)に参加した切除不能非小細胞肺癌1,244人を対象に,照射期間の延長が治療成績に与える影響を分析した11)。通常照射法(60Gy)での治療期間の延長は2.7%にみられたのみであったが,多分割照射(64.8Gy,69.6Gy,74.4Gy,79.2Gy)では15%に5日以上の治療期間延長がみられた。過分割照射群では,治療期間延長のない症例では5年生存率10%であったのに対し,治療期間の延長群では3%と有意に不良であった。過分割照射では全放射線治療期間の延長が長期予後を下げる。
  • d.Continuous hyperfractionated accelerated radiotherapy(CHART)試験では12)CHART(1.5Gy/回,1日3回,合計54Gyを12日間連続照射)と通常照射(60Gy/30回/6週)をランダム化比較した。CHARTの2年生存率は29%,通常照射では20%であり有意差がみられ,CHARTによって死亡のハザード比が22%,局所再発のハザード比が21%有意に減少した。組織型によるサブセット解析によって,CHARTは扁平上皮癌にのみ生存率,局所制御率,無病生存率,および無遠隔転移生存率のすべてにおいて有意に成績を向上させた。しかしながら,それ以外の組織型に対するCHARTの有効性は示されなかった。
     Ballらは13),60Gy/30回/6週と60Gy/30回/3週をランダム化比較した。3週群では,1回2Gyを1日2回照射した。その結果,両群の生存率に有意差なく,一方3週群で食道炎が高率にみられ,かつ長期間持続した。60Gy/30回/3週の線量分割は推奨できない。Bonnerらは14),A群60Gy/30回/6週,B群60Gy/40回/6週(2週間休止)をランダム化比較した。照射期間の変わらない休止期間を有する過分割照射(B群)は,通常照射法(A群)と生存率に差がなかった。Nestleらは8),A群60Gy/30回/6週とB群32Gy/16回/10日をランダム化比較した。Ⅲ期症例に限っても生存率に有意差はなく,症状改善,食道炎,肺炎に関しても両群に有意差はなかった。Sealyらは15),40Gy/10回/5週と50Gy/25回/7週に生存率において有意差がないことを報告している。
     以上,Ⅲ期非小細胞肺癌を放射線治療単独で治療する場合の全照射期間が治療成績に与える影響をまとめると,照射休止による全照射期間の延長は治療成績を下げる。またCHARTによる照射期間短縮は生存率を向上させる。しかしながら,CHART以外の加速過分割照射による照射期間の短縮ではⅢ期非小細胞肺癌の治療成績の改善は得られない。本邦において土日も含めて1日3回照射するCHARTが実施可能とは考えにくいので,加速照射法による照射期間の短縮に関しては推奨グレードC2とした。
引用文献
切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌の同時併用レジメン
CP療法 胸部放射線治療 60Gy/30回(6週),day1〜
化学療法 CBDCA(AUC=2),day1, 8, 15, 22, 29, 36
PTX 40mg/m2, day1, 8, 15, 22, 29, 36
CBDCA(AUC=5), day1 2コース
PTX 200mg/m2, day1 2コース
CD療法 胸部放射線治療 60Gy/30回(6週),day1〜
化学療法 CDDP 40mg/m2, day1, 8, 29, 36
DTX 40mg/m2, day1, 8, 29, 36
高齢者
CBDCA療法
胸部放射線治療 60Gy/30回(6週),day1〜
化学療法 CBDCA 30mg/m2
合計20回の投与を40Gyまでの照射日に一致して照射前60分以内に投与
文献検索と採択

(放射線治療基本的事項)

(放射線治療基本的事項)
本文中に用いた略語および用語の解説
DVH dose-volume histogram 線量体積ヒストグラム
MLD mean lung dos 平均肺線量
V20 20Gy以上照射される肺体積の全肺体積に対する割合
V30 30Gy以上照射される肺体積の全肺体積に対する割合
4-3.放射線治療装置・治療計画法
推 奨
a.肺癌に対する胸部放射線治療には直線加速器による6〜10MV X線を用いるよう勧められる。(グレードA)
b.放射線治療計画には,CTシミュレーションによる3次元治療計画を行うよう勧められる。(グレードA)
c.肺癌の放射線治療では,できる限り実測値に近い計算アルゴリズムを用いた不均質肺補正を行い,3次元的な線量分布を常に検討することを行うよう勧められる。(グレードB)
エビデンス
  • a.肺癌の胸部放射線治療では直線加速器による高エネルギーX線が用いられるが,エネルギーが低いと照射範囲内の線量不均一性が高度となり,逆にエネルギーが高すぎても標的辺縁ではビルドアップ効果により線量の低下を招く1)〜4)。このようにX線の物理的特性から至適エネルギーとして6〜10MV X線の使用が推奨され,推奨レベルはグレードAとした。ただし,定位放射線照射の場合には4〜6MV X線が望ましい。
  • b.3次元治療計画により,ターゲットの線量を低下させることなく正常肺と心臓の平均線量を有意に減少できることが示されている5)〜7)。生存率での向上や,晩期障害の軽減などの臨床成績での有用性は示されておらず,エビデンスレベルは低いが,CTシミュレーションによる3次元治療計画の有用性は自明であるので,推奨レベルはグレードAとした。
     Grahamらは放射線治療単独例に対し,肺のDVHと放射線肺臓炎の関係について検討し,Grade 2(RTOGの基準)以上の放射線肺臓炎の発症リスクを低下させるには,V20が40%を超えないようにすることが重要であると報告している5)。また,Tsujinoらは化学療法併用の際には,V20が25%を超えないように治療計画することを推奨している9)。さらに,全肺のV20だけではなくV30やMLDなどのパラメーターと放射線肺臓炎の発生との相関についても報告されている10)〜12)。放射線食道炎の発症と食道のDVH解析についても検討されているが,現時点では臨床的に有意義なパラメーターは特定されていない13)
  • c.ファントムを用いた線量測定実験で,肺内孤立性腫瘍を10MV X線で照射した場合,肺補正なしでは,線量は10〜20%の過線量となる。一方,肺補正を行うと線量計算アルゴリズムによって8〜18%の線量不足となる14)。臨床の肺癌症例での検討では,肺補正を行わないと5〜28%の過線量となると報告されている14)〜16)。また,Kleinらは肺野型腫瘍に対してはエネルギーの低いX線を用いたほうが良好な線量分布を得られると報告した17)。正しい線量分布を得るには不均質肺補正を行う必要があるのは明らかだが,現在のところ肺補正の最適な計算アルゴリズムが示されておらず,過去に行われた肺補正なしの臨床成績との比較が困難となるなどの問題点もあるため,肺補正の使用に関する推奨はグレードBとした。
4-4.放射線療法の品質管理
推 奨
放射線療法では,照射野設定,線量計算などの品質管理を適切に行うよう勧められる。(グレードA)
エビデンス

 小細胞肺癌を対象にしたSWOGのランダム化比較試験においてプロトコール違反症例の生存率は有意に不良であった18)。非小細胞肺癌を対象としたEORTCによる化学放射線療法のランダム化比較試験ではプロトコール違反が20%程度起きており,品質管理モニターの必要性が示されている19)。同様の報告がRTOGからもなされ20),多施設臨床試験では,試験の質を上げるために照射野,線量などの定期的なレビューが必要である。
 これらのエビデンスは多施設ランダム化比較試験を基にした後ろ向き分析あるいは分析疫学的研究であるが,放射線療法の品質管理の有無はランダム化比較試験が行える性質のものではなく,その重要性は明白と考えられるので推奨グレードはAとした。

引用文献
文献検索と採択

(肺尖部胸壁浸潤癌)

肺尖部胸壁浸潤癌
本文中に用いた略語および用語の解説
CDDP シスプラチン
CPT-11 塩酸イリノテカン
DTX ドセタキセル
ETP エトポシド
GEM ゲムシタビン
MVP療法 マイトマイシン,ビンデシン,シスプラチン併用療法
PAC パクリタキセル
VNR ビノレルビン
第3世代抗癌剤 CPT-11, DTX, GEM, PAC, VNRの総称
 
CRT Chemoradiotherapy 化学放射線療法
OS Overall survival 全生存期間
RR Response rate 奏効率
SST Superior sulcus tumor 肺尖部胸壁浸潤癌
樹形図
肺尖部胸壁浸潤癌
4-5.肺尖部胸壁浸潤癌の治療:T3-4 N0-1切除可能例
推 奨
切除可能な臨床病期T3-4N0-1症例に対しては術前化学放射線療法を施行後外科治療を行うよう勧められる。(グレードB)
エビデンス

 肺尖部胸壁浸潤癌(SST)では外科治療を基本とした治療が行われ,術後30日以内の死亡率は4〜8.9%である1)〜3)。Paulsonの報告以来,放射線療法あるいはCRTを外科治療に組み合わせた集学的治療が行われてきた1)〜8)
 SSTは稀な疾患であり,大規模な術前CRTに関するランダム化比較試験やメタアナリシスは報告されていない。そのためSSTに対して術前にCRTを施行することのエビデンスは明確ではないが,SWOG9416/INT0160では9)10),術前治療のRRは86%,完全切除割合が75%であり,長期経過観察による生存期間の中央値は36カ月で5年OSは44%であった。また,KunitohらはSSTに対する術前CRT+手術治療の第Ⅱ相試験を行い(JCOG9806),術前治療のRRは61%で完全切除割合は68%,全例の5年OSが56%であったと報告した11)。放射線治療についてはいずれの試験においても,原発巣および同側の鎖骨上窩に限局した照射野で行われ総線量は45Gy/25回であった。N1症例でも肺門リンパ節は照射野に含めていない。併用した化学療法はCDDP+ETP(SWOG9416/INT0160),MVP療法(JCOG9806)であり,第3世代の抗癌剤は用いられていない。
 以上より,2つの第Ⅱ相試験の結果は従来の治療成績(5年OS:23〜36%1)3)6)〜8))をはるかに上回るものであり,切除可能な臨床病期T3-4N0-1症例に対しては術前化学放射線療法を施行後に外科治療を行うよう勧められるとし,推奨グレードをBとした。
 一方,SSTでは術後CRTに関してもランダム化比較試験やメタアナリシスは報告されていない。唯一,GomezらはSSTに対する手術治療+術後CRTの第Ⅱ相試験を行い,完全切除割合は72%,術後治療のRRは68%で全例の5年OSが50%であったと報告した12)。しかしながら,本試験では,エントリー時の手術の可否基準が不明確であることに加え,登録期間が1994年から2007年までと長く,症例数も少なかった。したがって本研究の質に問題がある点は否めないことから,SSTに対する手術治療+術後CRTの有効性は推奨するだけの根拠に乏しいと考え得る。

引用文献
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