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Ⅳ期非小細胞肺癌の1次治療
文献検索と採択
Ⅳ期非小細胞肺癌の1次治療
本文中に用いた略語および用語の解説
CBDCA カルボプラチン
CDDP シスプラチン
CPT-11 イリノテカン
DTX ドセタキセル
GEM ゲムシタビン
nab-PTX ナブパクリタキセル
PEM ペメトレキセド
PTX パクリタキセル
VNR ビノレルビン
 
プラチナ製剤 CDDPとCBDCAの総称
EGFR-TKI ゲフィチニブ・エルロチニブ・アファチニブの総称
 
ALK anaplastic lymphoma kinase 未分化リンパ腫キナーゼ
ECOG eastern cooperative oncology group 米国東海岸癌臨床試験グループ
EGFR epidermal growth factor receptor 上皮成長因子受容体
ORR objective response rate 客観的奏効率
OS overall survival 全生存期間
PFS progression free survival 無増悪生存期間
PS performance status 一般状態
QOL quality of life 生活の質
TKI tyrosine kinase inhibitor チロシンキナーゼ阻害剤

ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group) Performance Status

PS  
0 無症状で社会活動ができ,制限を受けることなく発病前と同等に振る舞える。
1 軽度の症状があり,肉体労働は制限を受けるが,歩行,軽労働や座業はできる。例えば軽い家事,事務など
2 歩行や身の回りのことはできるが,時に少し介助がいることもある。軽労働はできないが,日中の50%以上は起居している。
3 身の回りのある程度のことはできるが,しばしば介助がいり,日中の50%以上は就床している。
4 身の回りのこともできず,常に介助がいり,終日就床を必要としている。
樹形図
Ⅳ期非小細胞肺癌の治療 Ⅳ期非小細胞肺癌の1次治療:非扁平上皮癌EGFR 遺伝子変異陽性 Ⅳ期非小細胞肺癌の1次治療:非扁平上皮癌ALK 遺伝子転座陽性 Ⅳ期非小細胞肺癌の1次治療:非扁平上皮癌EGFR 遺伝子変異,ALK 遺伝子転座陰性もしくは不明 Ⅳ期非小細胞肺癌の1次治療:扁平上皮癌

補足:高齢者の定義

 日本における高齢者の定義は70〜75歳以上とされており,2010年度版の肺癌診療ガイドラインでは70歳以上を高齢者と定義していた。
 しかしながら,日本の臨床試験においては75歳以上の患者が除外されていることが多く,75歳以上の高齢者のデータは少ない。また,近年の70歳以上の高齢者を対象とした第3世代抗癌剤単剤とプラチナ製剤併用療法を比較した2編の第Ⅲ相試験において両試験とも登録された患者の多くが75歳以上であった。
 以上より,本ガイドラインでは「75歳以上」を高齢者と定義する。

補足:維持療法(Maintenance)の定義

  • Switch maintenance:プラチナ併用化学療法による導入療法後,導入療法で使用した薬剤とは別の薬剤に切り替えて投与する方法。
  • Continuation maintenance:プラチナ併用化学療法による導入療法後,プラチナ製剤と併用した薬剤を継続して投与する方法。
5-1.Ⅳ期非小細胞肺癌の1次化学療法
推 奨
ECOG PS 0-2で全身状態良好なⅣ期非小細胞肺癌患者に対する化学療法は生存期間を延長し,QOLも改善することから,行うよう勧められる。(グレードA)
エビデンス

 メタアナリシスによって化学療法が緩和治療に対して有意に生存に寄与していることが示されている1)。これは1年生存率にして9%(20%から29%)の改善,もしくは約1.5カ月のOS延長に値する。また,Baggstromらは第3世代抗癌剤を用いたレジメンの検討を行い,第3世代単剤治療でも緩和治療に比して1年生存率で約7%の改善を示していることを示した2)
 一方で重大な毒性については,別のメタアナリシスで進行非小細胞肺癌における化学療法の治療関連死が1.26%であったと報告されており,その内訳は発熱性好中球減少,虚血や血栓などの心血管系の毒性,肺炎や間質性肺障害などの肺毒性であった3)
 QOLに関しては,第3世代抗癌剤単剤と緩和治療との比較において前者でのQOL改善が報告されている4)。また,SederholmらはGEMとCBDCA+GEMの第Ⅲ相試験において,後者がOS・PFS延長を示すと同時にQOLは同等であったとしている5)。ゲフィチニブ単剤はEGFR遺伝子変異陽性患者を対象としたCBDCA+PTXとの第Ⅲ相試験においてQOL指標の一部が有意に優れていたことが示されている6)
 以上より,ECOG PS 0-2で全身状態良好なⅣ期非小細胞肺癌患者に対する化学療法は,治療関連死を含む毒性のリスクはあるが生存期間を延長しQOLを改善することより行うよう勧められる。

5-2.非扁平上皮癌,EGFR遺伝子変異陽性:PS 0-1, 75歳未満
推 奨
a.EGFR-TKI単剤を行うよう勧められる。(グレードA)
b.1次治療で推奨される細胞障害性抗癌剤を行うよう勧められる。(グレードB)

*細胞障害性抗癌剤のレジメンについては非扁平上皮癌(EGFR遺伝子変異,ALK遺伝子転座陰性もしくは不明)の項におけるPS 0-1, 75歳未満の項目を参照すること。

エビデンス
  • a・b.EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌を対象にしたEGFR-TKI単剤(ゲフィチニブ,エルロチニブ,アファチニブ)とプラチナ製剤併用療法の比較第Ⅲ相試験が行われ,すべての試験において一貫してEGFR-TKI単剤のプラチナ製剤併用療法に対するPFSの有意な延長が報告され7)〜12),QOL指標の一部が改善することも示されている6)。以上より,PS 0-1, 75歳未満に対しては,EGFR-TKI単剤を推奨グレードAとし,1次治療で推奨される細胞障害性抗癌剤を推奨グレードBとした。
     一方で,上述の試験においてEGFR-TKI単剤のプラチナ製剤併用療法に対するOSの差は示されていない13)〜15)。Rosellらは大規模研究において,1次から3次治療のエルロチニブ単剤のPFSに有意差を認めないことを報告している16)
     EGFR遺伝子変異陽性患者において,全治療期間におけるEGFR-TKI単剤と細胞障害性抗癌剤の投与順序に関しては,現時点で明確な結論はないが,EGFR遺伝子変異陽性患者に対してはEGFR-TKI単剤による治療を逸しないことが推奨される。
     EGFR-TKIの主な毒性は,下痢,皮疹,爪囲炎,肝機能障害などであり,各々の薬剤で毒性の頻度や重症度が異なることが報告されているが,休薬や減量を行うことで長期間の服用が可能であることが示されている7)〜12)
5-3.非扁平上皮癌,EGFR遺伝子変異陽性:PS 0-1, 75歳以上
推 奨
a.ゲフィチニブ単剤またはエルロチニブ単剤を行うよう勧められる。(グレードA)
b.1次治療で推奨される細胞障害性抗癌剤を行うよう勧められる。(グレードB)

*細胞障害性抗癌剤のレジメンについては非扁平上皮癌(EGFR遺伝子変異,ALK遺伝子転座 陰性 もしくは不明)の項におけるPS 0-1, 75歳以上の項目を参照すること。

エビデンス
  • a・b.75歳以上のEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌を対象とした国内でのゲフィチニブ単剤の第Ⅱ相試験において,ORR 74%,PFS 12.3カ月と若年者と同等の有効性と安全性が報告されている17)。エルロチニブ単剤については国内での第Ⅱ相試験において,75歳超と75歳以下で同等の有効性が示されている18)。アファチニブ単剤に関しては第Ⅲ相試験におけるサブグループ解析において,65歳以上は65歳未満と同等の有効性が報告されているが, 75歳以上の高齢者における安全性の検討は十分ではない11)12)。以上より,PS 0-1, 75歳以上の高齢者に対しては,ゲフィチニブ単剤またはエルロチニブ単剤を推奨グレードAとし,1次治療で推奨される細胞障害性抗癌剤を推奨グレードBとした。
     EGFR-TKIの主な毒性は,下痢,皮疹,爪囲炎,肝機能障害などであり,各々の薬剤で毒性の頻度や重症度が異なることが報告されているが,休薬や減量を行うことで長期間の服用が可能であることが示されている7)〜12)。一方,高齢は間質性肺炎発症の危険因子であることが報告されており注意が必要である19)
5-4.非扁平上皮癌,EGFR遺伝子変異陽性:PS 2
推 奨
a.ゲフィチニブ単剤またはエルロチニブ単剤を行うよう勧められる。(グレードA)
b.1次治療で推奨される細胞障害性抗癌剤を行うよう勧められる。(グレードB)

*細胞障害性抗癌剤のレジメンについては非扁平上皮癌(EGFR遺伝子変異,ALK遺伝子転座陰性もしくは不明)の項におけるPS 2の項目を参照すること。

エビデンス
  • a・b.EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌を対象としたエルロチニブ単剤とプラチナ製剤併用療法の2つの第Ⅲ相試験において,PS 2は各々7%,14%含まれておりPS 0-1と同等の有効性が示されている9)10)。また,ゲフィチニブ単剤はPS不良例に対する有効性が報告されている17)20)。アファチニブ単剤に関しては,PS 2に対する安全性・有効性の検討は十分ではない11)12)。以上より,PS 2に対しては,ゲフィチニブ単剤またはエルロチニブ単剤を推奨グレードAとし,1次治療で推奨される細胞障害性抗癌剤を推奨グレードBとした。
     EGFR-TKIの主な毒性は,下痢,皮疹,爪囲炎,肝機能障害などであり,各々の薬剤で毒性の頻度や重症度が異なることが報告されているが,休薬や減量を行うことで長期間の服用が可能であることが示されている7)〜12)。一方,PS 2以上は間質性肺炎発症の危険因子であることが報告されており注意が必要である19)21)
5-5.非扁平上皮癌,EGFR遺伝子変異陽性:PS 3-4
推 奨
ゲフィチニブ単剤を行うよう考慮してもよい。(グレードC1)
エビデンス

 PS 3-4に対しては細胞障害性抗癌剤の適応はない。
 InoueらはEGFR遺伝子変異陽性でPS 3-4が大多数を占める予後不良群を対象としてゲフィチニブ単剤の投与を行い,80%近くでPSが改善し,ORR 66%,OS 17.8カ月,PFS 6.5カ月と極めて良好な治療効果が得られたとしている20)。一方でPS不良,男性,喫煙歴,既存の間質性肺炎,正常肺領域が少ないもの,心疾患を合併したものなどで間質性肺障害発症のリスクが高いことが報告されており19)21),慎重な検討も必要である。よって,PS 3-4に対してはゲフィチニブ単剤を推奨グレードC1とした。

5-6.非扁平上皮癌,ALK遺伝子転座陽性:PS 0-1, 75歳未満/PS 0-1, 75歳以上/PS 2
推 奨
a.クリゾチニブ単剤を行うよう勧められる。(グレードA)
b.1次治療で用いられる細胞障害性抗癌剤を行うよう勧められる。(グレードB)

*細胞障害性抗癌剤のレジメンについては非扁平上皮癌(EGFR遺伝子変異,ALK遺伝子転座陰性もしくは不明)の項におけるPS 0-1, 75歳未満,PS 0-1, 75歳以上,PS 2の項目を参照すること。

エビデンス
  • a・b.ALK遺伝子転座陽性に対するクリゾチニブ単剤はPS 0-2が大部分を占める第Ⅰ/Ⅱ相試験にてORR 61%,PFS 10カ月と良好な結果を示し22)23),第Ⅲ相試験においてプラチナ製剤併用療法に比して有意なPFSの延長を示した24)。またレトロスペクティブ解析の結果から,ALK遺伝子転座陽性例ではクリゾチニブ単剤投与の有無によってOSが大きく異なることが示唆されている25)
     以上より,ALK遺伝子転座陽性例におけるクリゾチニブ単剤の推奨グレードはAとした。
5-7.非扁平上皮癌,ALK遺伝子転座陽性:PS 3-4
推 奨
クリゾチニブ単剤は行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。(グレードC2)
エビデンス

 PS 3-4に対する細胞障害性抗癌剤の適応はない。
 EGFR遺伝子変異陽性・PS不良例においてゲフィチニブ単剤の有効性が示されたように,ALK遺伝子転座陽性・PS不良例においてもクリゾチニブ単剤の有効性が期待できる可能性はあるが,PS不良例に関してはこれまでの臨床試験で数例の参加が確認されるのみで有効性・安全性に関するデータは乏しい。クリゾチニブ単剤による死亡例(間質性肺障害・肝機能障害)も報告されており,PS不良例における安全性については慎重に検討していく必要がある。
 以上より,ALK遺伝子転座陽性・PS 3-4に対するクリゾチニブ単剤は現時点では行うよう勧めるだけの根拠が明確ではなく,推奨グレードはC2とした。

5-8.非扁平上皮癌(EGFR遺伝子変異,ALK遺伝子転座陰性,もしくは不明)
推 奨
a.1次治療で用いられる細胞障害性抗癌剤を行うよう勧められる。(グレードA)

*レジメンについてはPS 0-1, 75歳未満,PS 0-1, 75歳以上,PS 2の項目を参照すること。

b.EGFR遺伝子変異不明の場合,EGFR-TKI単剤を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。(グレードC2)
エビデンス
  • a.非/軽喫煙者の進行肺腺癌を対象にしたゲフィチニブ単剤とCBDCA+PTXの第Ⅲ相試験(IPASS試験)においてEGFR遺伝子変異陽性と陰性でゲフィチニブ単剤のORRに著明な差が見られ(72% vs 1%),PFSにおいても同様の傾向が確認された(9.5カ月 vs 1.5カ月)26)27)。よってEGFR遺伝子変異陰性例に対するEGFR-TKI単剤は推奨されない。
     ALK遺伝子転座陰性例に対するクリゾチニブ単剤の有効性は確認されておらず,推奨されない。
     以上より,EGFR遺伝子変異陰性例・ALK遺伝子転座陰性例に対しては細胞障害性抗癌剤が推奨される。
  • b.IPASS試験のサブセット解析で,EGFR遺伝子変異不明例における6カ月以降のPFSはゲフィチニブ単剤がCBDCA+PTXより優れていたが,両群のPFS曲線が交差しており,この結果からゲフィチニブ単剤の優位性を判断することは困難である。また背景因子による選択のみでは約40%でEGFR遺伝子変異陰性であったことも留意する必要がある。
     以上より,EGFR遺伝子変異不明例に対してはEGFR遺伝子変異陰性例と同様に細胞障害性抗癌剤を第一選択とすることを推奨し,EGFR-TKI単剤は行うよう勧められるだけの根拠が明確ではないため推奨グレードはC2とした。
5-9.非扁平上皮癌(EGFR遺伝子変異,ALK遺伝子転座陰性,もしくは不明):PS 0-1, 75歳未満
推 奨
<レジメン>

a.プラチナ製剤と第3世代以降の抗癌剤併用を行うよう勧められる。(グレードA)

b.第3世代抗癌剤併用(ノンプラチナレジメン)も選択肢として勧められる。(グレードB)

c.ベバシズマブはリスクを考慮し,適応と考えられる非扁平上皮癌ではプラチナ製剤併用療法に追加するよう勧められる。(グレードB)

<投与期間>

d.プラチナ製剤併用療法の投与期間は6コース以下とするよう勧められる。(グレードA)

<維持療法>

e.PS 0-1に対するプラチナ製剤併用療法4コース後,病勢増悪を認めず毒性も忍容可能なものに対してPEMあるいはエルロチニブによるswitch maintenanceを考慮してもよい。(グレードC1)

f.PS 0-1に対するCDDP+PEM併用療法4コース後,病勢増悪を認めず毒性も忍容可能なものに対してPEMによるcontinuation maintenanceを行うよう勧められる。(グレードB)

維持療法の定義に関する解説 ☞ p108

エビデンス
〈レジメン〉
  • a.Baggstromらはプラチナ製剤併用の薬剤を第2世代と第3世代抗癌剤で比較したメタアナリシスにおいて,後者がORRで12%,1年生存率で6%優ると報告した2)。日本人においては,Oheらが4種類の第3世代抗癌剤とプラチナ製剤併用の第Ⅲ相試験の結果を報告しており,いずれの効果も同等であった28)。また,OkamotoらはCBDCA+S-1のCBDCA+PTXに対する非劣性を報告し,KatakamiらはCDDP+S-1のCDDP+DTXに対する非劣性を報告している29)30)。ヒト血清アルブミンとPTXを結合させたナノ粒子製剤であるnab-PTXとCBDCAの併用療法はCBDCA+PTXとの比較第Ⅲ相試験において,有意にORRの上昇を認めた(33.0% vs 25.0%)31)。各レジメンに固有の毒性プロファイルが報告されており,これらも踏まえて選択するべきと考えられる。
  • b.Pujolらは第3世代抗癌剤併用(ノンプラチナレジメン)とプラチナ製剤併用とのメタアナリシスを行い,プラチナ製剤併用はORRで13%,1年生存率で12%優り,血液毒性・消化器症状は増加するが発熱性好中球減少症や治療関連死の発生には有意差を認めなかった32)。一方,D'Addarioらの検討では,プラチナ製剤併用がプラチナ製剤非使用に優るものの,第3世代抗癌剤併用レジメンに限って比較した場合,ORRのオッズ比が1.62から1.17に減少し1年生存率には有意差を認めず,前者で血液毒性・消化器毒性・腎毒性が増加するが発熱性好中球減少症や治療関連死の発生には有意差を認めなかった33)。BarlesiらはGEM+VNR,GEM+PTX,GEM+DTXをプラチナ製剤併用と比較した第Ⅲ相試験のメタアナリシスを行い,いずれもOSは劣る傾向にあったが有意差は認めず,毒性は軽減していた32)
  • c.SandlerらはCBDCA+PTXにベバシズマブを追加した第Ⅲ相試験を行い,併用群でORRの上昇,PFS(6.2カ月 vs 4.5カ月,HR 0.66, P<0.001)ならびにOS (12.3カ月 vs 10.3カ月,HR 0.79, P=0.003)の有意な延長を認めた35)。一方,CDDP+GEMにベバシズマブを追加した比較試験においては,PFSは有意に延長したがOSでは有意な延長を認めなかった36)37)
     本邦においてはCBDCA+PTXにベバシズマブを追加するランダム化第Ⅱ相試験(JO19907試験)が行われ,併用群においてORRの上昇(60.7% vs 31.0%,P=0.0013),PFSの延長(6.9カ月 vs 5.9カ月,HR 0.61,P=0.0090) を認め,新たな毒性は認めなかったがOSについては有意な延長を認めなかった(22.8カ月 vs 23.4カ月,P=0.9526)38)
     上記の試験を含むメタアナリシスでは,プラチナ併用療法にベバシズマブを追加することでORRの上昇,PFSの延長が示されており,OSについても延長が認められたとする報告がある29)〜41)。一方で,ベバシズマブの併用でGrade3以上の毒性(蛋白尿,高血圧,出血性イベント,好中球減少,発熱性好中球減少,治療関連死)の有意な増加が報告されている29)〜41)
     出血リスクに関しては,扁平上皮癌や空洞を有する症例,大血管への浸潤や隣接を認めるもの,その他喀血・コントロール不能な高血圧,重篤な大血管病変や消化管における活動性出血の既往があるものなどが高リスク群と考えられており,ベバシズマブの投与に際してはその適応を十分に検討する必要がある42)
     ベバシズマブの投与についてはその薬剤の特性からプラチナ製剤併用療法の終了後,病勢増悪もしくは毒性中止まで単剤投与を継続する方法が一般的である35)〜38)
〈投与期間〉
  • d.Plessenら,Parkらは第3世代抗癌剤とプラチナ製剤との併用について,3コースもしくは4コースを6コースと比較し,いずれにおいても1年生存率やOSは同等で毒性は前者が軽いと報告した43)44)。一方,非扁平上皮癌に対するCDDP+PEMの優越性が示されたCDDP+GEMとの第Ⅲ相試験において,CDDP+PEM群の投与中央値は5コースであった45)
〈維持療法〉
  • e.プラチナ製剤併用療法後のPEM,エルロチニブを用いたswitch maintenanceの第Ⅲ相試験(JMEN試験,SATURN試験)でPFS・OSの延長が示された46)47)。しかしながら,両試験ともプラセボ群に対する2次療法以降でのクロスオーバーが少ないこと,すなわち,プラセボ群において2次治療以降に有効とされているPEM,エルロチニブが投与されていないことが問題とされている。エルロチニブ維持療法を行ったもう1つの第Ⅲ相試験(IFCT-GFPC0502試験)ではプラセボ群の54%で2次治療にエルロチニブが用いられており,OSに有意差はみられなかった48)。こうした点は今後も議論されるべきだが,これらを含んだメタアナリシスではPFS・OSともに有意な延長が示されている49)。QOLに関しては,JMEN試験において維持療法群でQOLの低下は認められなかったと報告されているが50),化学療法に伴う毒性の若干の増強が報告されている。以上より,PEM・エルロチニブによるswitch maintenanceは選択肢の1つと考えられ,推奨グレードはC1とした。
  • f.CDDP+PEM併用療法後のPEMを用いたcontinuation maintenanceの第Ⅲ相試験(PARAMOUNT試験)で,PFSの延長(4.1カ月 vs 2.8カ月,HR 0.62,P<0.0001),OSの延長(13.9カ月 vs 11.0カ月,HR 0.78,P=0.0195)が示された51)52)。QOL の低下は認めず,維持療法群において毒性の増強はみられたものの許容範囲内であった。以上より,PEMのcontinuation maintenanceの推奨グレードはBとした。
     ベバシズマブの併用に関しては,CDDP+PEM+ベバシズマブ併用療法後にPEM+ベバシズマブ群とベバシズマブ単独群の第Ⅲ相試験(AVAPERL試験)が行われ53),前者でPFSの有意な延長(7.4カ月 vs 3.7カ月,HR 0.48,P<0.0001)を認めている。
5-10.非扁平上皮癌(EGFR遺伝子変異,ALK遺伝子転座陰性,もしくは不明):PS 0-1, 75歳以上
推 奨

a.暦年齢のみで化学療法の対象外とするべきではない。(グレードA)

<レジメン>

b.第3世代抗癌剤単剤を行うよう勧められる。(グレードA)

c.カルボプラチン併用療法を考慮してもよい。(グレードC1)

d.ベバシズマブ併用は行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。(グレードC2)

エビデンス
  • a.化学療法1次治療の第Ⅲ相試験と術後補助療法を対象とした検討では,65歳以上と以下で治療効果の差は認めず,暦年齢よりも日常生活自立度が予後に関係していた54)。またHeskethらは80歳以上でもPS良好のものは80歳以下と比べて効果・毒性に明らかな差は認めなかったと報告している55)
〈レジメン〉
  • b.高齢者においては緩和治療と比較してVNRが有効であること,VNRと比較してGEMが同様の有効性を示すことが確認されている56)57)。その後本邦で行われた第Ⅲ相試験(WJTOG9904試験)においてDTXはVNRに対し有意差は認めなかったもののPFS 5.5カ月,OS 14.3カ月と良好な結果を示した58)。以上より,高齢者に対する標準治療はDTXをはじめとした第3世代抗癌剤単剤と考えられる。
  • c.高齢者に対するプラチナ製剤併用療法については第Ⅱ相試験や第Ⅲ相試験のサブセットから様々な報告がなされてきたが明確な結論には至っていない59)
     近年高齢者を対象とした第3世代抗癌剤単剤とプラチナ製剤併用療法を比較した第Ⅲ相試験が2編報告され,両試験とも登録された患者の多くが75歳以上であった。JCOG 0803/WJOG 4307L試験はweekly CDDP+DTXとDTXの比較であるが,この試験では中間解析において併用療法が単剤治療の成績を上回らないことが示され,試験中止となった60)。IFCT 0501試験はCBDCA+weekly PTXとGEMもしくはVNRの比較であり,PFS,OSにおける併用療法の優越性が示された(PFS;6.0カ月 vs 2.8カ月,P<0.0001,OS;10.3カ月 vs 6.2カ月,P<0.001)61)。しかしながらこの成績はbに述べた本邦での単剤治療の成績を大きく上回っているとはいえず,併用群における治療関連死が4.4%と高いなどの問題点が指摘されている。また投与量も本邦における標準的なものとは異なっており,データの解釈には注意を要する。
     以上より,PS 0-1の75歳以上に対してCBDCA併用療法は選択肢の1つと考えられ,推奨グレードはC1とした。
  • d.高齢者におけるプラチナ製剤併用療法+ベバシズマブについて,E4599試験におけるサブセット解析で70歳以上の高齢者では効果の上乗せは認められず,若年に比してGr 3以上の好中球減少・出血・蛋白尿が多かったとされている62)。米国における観察研究(ARIES)では70歳未満と70歳以上で効果は同等であったが,後者でGr 3以上の動脈血栓塞栓症が増える傾向にあり,80歳以上ではさらに高かった(70歳未満;1.2%,70歳以上;3.2%,80歳以上;4.1%)63)。一方,欧州を中心に施行された観察研究(SAiL)では,70歳未満と70歳以上で有効性は同等で毒性の増強は認めなかったと報告されている64)
     本邦においては75歳以上の高齢者におけるベバシズマブ併用療法の十分なデータはなく,有効性や安全性は確認されていない。以上より,現時点では高齢者に対するベバシズマブ併用を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではなく,推奨グレードはC2とした。
5-11.非扁平上皮癌(EGFR遺伝子変異,ALK遺伝子転座陰性,もしくは不明):PS 2 推 奨
推 奨
<レジメン>

a.第3世代抗癌剤単剤を行うよう勧められる。(グレードA)

b.プラチナ製剤併用療法を考慮してもよい。(グレードC1)

c.第3世代抗癌剤併用は行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。(グレードC2)

d.ベバシズマブは行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。(グレードC2)

エビデンス

 PS 2は多様な集団であり標準治療は定まっていない。
 しかし,化学療法と緩和治療を比較したメタアナリシスのサブセットにおいて,PSに関わらず化学療法による生存期間の延長が認められている〔PS 2以上の場合,化学療法によって1年生存率にして6%(8%から14%)の改善〕1)

〈レジメン〉
  • a.Baggstromらのメタアナリシスにおいて第3世代抗癌剤(DTX・PTX・VNR・GEM)単剤治療は緩和治療に比して1年生存率で約7%の改善を示しているが2),この中にPS 2以上は約30%含まれていた。また,この解析でも取り上げられた3つの試験においてPS 2のサブセットの治療成績が明らかになっており,いずれもOSが延長する傾向が確認されている65)
  • b.CALGB9730試験においてPS2患者のサブセット解析が報告されており,CBDCA+PTXはPTX単剤に対して1年生存率で有意に上回っていた(18% vs 10%,HR 0.60,P=0.016)66)。ECOG1599試験ではPS 2に対するCBDCA+PTXとCDDP+GEMの比較が行われ,OSはそれぞれ6.2,6.9カ月と良好であり,毒性に関しても忍容可能と考えられた67)。KosmidisらはCBDCA+GEMとGEM単剤の比較を行い,有意差は認めなかったものの併用群でOS(6.7カ月 vs 4.8カ月,P=0.49),PFS(4.1カ月 vs 3.0カ月,P=0.36)の延長傾向を示している68)。LilenbaumらはCBDCA+PEMと PEM単剤の第Ⅲ相試験を行い,併用群でPFS(5.9カ月 vs 3.0カ月,HR 0.46,P<0.001),OS(9.1カ月 vs 5.6カ月,HR 0.57,P=0.001)の有意な延長を認めた。毒性に関しては併用群で貧血や好中球減少の頻度が高く,3.9%の治療関連死が認められた69)
     以上より,毒性が耐用可能と思われるPS 2に対してはプラチナ製剤併用療法を考慮してもよいが,PS 2に関するエビデンスは少なく,その殆どがCBDCA併用レジメン,もしくは通常より減量した用量が用いられていることに注意が必要であり,推奨グレードはC1とした。
  • c.PS 2に対する第3世代抗癌剤併用のエビデンスは少ない。Hainsworthらはweekly DTXとDTX+GEMの比較第Ⅱ相試験を行ったが,約35%を占めたPS 2患者において併用によるOS延長は認めず(2.9カ月 vs 3.8カ月,P=0.62),毒性が増強していた70)。よって,行うよう勧めるだけの根拠が明確ではなく推奨グレードはC2とした。
  • d.ベバシズマブ併用の臨床試験ならびに観察研究においてその大半がPS 0-1であり,PS 2に対するベバシズマブの安全性や有効性に関してのデータは少ない35)〜38)65)。よって,PS 2に対するベバシズマブは行うよう勧めるだけの根拠が明確ではなく,推奨グレードはC2とした。
5-12.非扁平上皮癌(EGFR遺伝子変異,ALK遺伝子転座陰性,もしくは不明):PS 3-4
推 奨
化学療法は行わないよう勧められる。(グレードD)
エビデンス

 PS 3-4に対する細胞障害性抗癌剤の適応はない。
 PS不良や合併症のため化学療法の適応とならない進行非小細胞肺癌に対してエルロチニブ単剤と緩和治療の第Ⅲ相試験(TOPICAL試験)が行われた71)。患者背景として年齢中央値77歳,PS 3が30%を占め,EGFR遺伝子変異については陰性,不明がそれぞれ52%,46%であった。この試験においてOSの延長がみられなかったことから,EGFR遺伝子変異陰性もしくは不明のPS 3-4についてEGFR-TKI単剤は推奨されない。
 ALK遺伝子転座陰性例に対するクリゾチニブ単剤の有効性は確認されておらず,推奨されない。
 以上より,EGFR遺伝子変異,ALK遺伝子転座陰性,もしくは不明の非扁平上皮癌でPS 3-4については化学療法は勧められない。

5-13.扁平上皮癌:PS 0-1, 75歳未満
推 奨
<レジメン>

a.プラチナ製剤と第3世代以降の抗癌剤併用を行うよう勧められる。(グレードA)

b.第3世代抗癌剤併用(ノンプラチナレジメン)も選択肢として勧められる。(グレードB)

c.PEMは行わないよう勧められる。(グレードD)

d.ベバシズマブは行わないよう勧められる。(グレードD)

<投与期間>

e.プラチナ製剤併用療法の投与期間は基本的に6コース以下とすることが勧められる。(グレードA)

<維持療法>

f.PS 0-1に対するプラチナ製剤併用療法4コース後,病勢増悪を認めず毒性も忍容可能なものに対してswitch maintenance, continuation maintenanceともに行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。(グレードC2)

エビデンス
〈レジメン〉
  • a.Baggstromらはプラチナ製剤併用の薬剤を第2世代と第3世代抗癌剤で比較したメタアナリシスにおいて,後者がORRで12%,1年生存率で6%優ると報告した2)。日本人においては,Oheらが4種類の第3世代抗癌剤とプラチナ製剤併用の第Ⅲ相試験の結果を報告しており,いずれの効果も同等であった28)。またOkamotoらはCBDCA+S-1のCBDCA+PTXに対する非劣性を報告し,KatakamiらはCDDP+S-1のCDDP+DTXに対する非劣性を報告している29)30)。ヒト血清アルブミンとPTXを結合させたナノ粒子製剤であるnab-PTXとCBDCAの併用療法は,CBDCA+PTXとの比較第Ⅲ相試験において,有意にORRの上昇を認めた(33.0% vs 25.0%)31)。各レジメンに固有の毒性プロファイルが報告されており,これらも踏まえて選択するべきと考えられる。
  • b.Pujolらは第3世代抗癌剤併用(ノンプラチナレジメン)とプラチナ製剤併用とのメタアナリシスを行い,プラチナ製剤併用はORRで13%,1年生存率で12%優り,血液毒性・消化器症状は増加するが発熱性好中球減少症や治療関連死の発生には有意差を認めなかった32)。一方,D'Addarioらの検討では,プラチナ製剤併用がプラチナ製剤非使用に優るものの,第3世代抗癌剤併用レジメンに限って比較した場合,ORRのオッズ比が1.62から1.17に減少し1年生存率には有意差を認めず,前者で血液毒性・消化器毒性・腎毒性が増加するが発熱性好中球減少症や治療関連死の発生には有意差を認めなかった33)。BarlesiらはGEM+VNR,GEM+PTX,GEM+DTXをプラチナ製剤併用と比較した第Ⅲ相試験のメタアナリシスを行い,いずれもOSは劣る傾向にあったが有意差は認めず,毒性は軽減していた34)
  • c.ScagliottiらはCDDP+PEMとCDDP+GEMの第Ⅲ相試験を行い,全体では同等の効果であったが組織型による差が認められた。非扁平上皮癌においてはCDDP+PEM群でOS延長(11.8カ月 vs 10.4カ月,HR 0.81,P=0.005)を認めたが,扁平上皮癌では,逆にCDDP+PEM群でPFS(4.4カ月 vs 5.5カ月,HR 1.36,P=0.002),OS(9.4カ月 vs 10.8カ月,HR 1.23,P=0.05)ともに劣っていた45)。組織型によるPEMの効果の違いについてはPEM単剤を用いた第Ⅲ相試験も併せて解析され,上記同様の傾向が確認されている72)。以上より,PEMは扁平上皮癌に対して行わないよう勧められる。
  • d.ベバシズマブの第Ⅱ相試験においてGrade 3以上の肺胞出血が9.1%に認められ,出血リスクに関する検討が行われた。現在のところ,扁平上皮癌や空洞を有する症例,大血管への浸潤や隣接を認めるもの,その他喀血・コントロール不能な高血圧,重篤な大血管病変や消化管における活動性出血の既往があるものなどが高リスク群と考えられており42),ベバシズマブは扁平上皮癌に対して行わないよう勧められる。
〈投与期間〉
  • e.Plessenら,Parkらは第3世代抗癌剤とプラチナ製剤との併用について,3コースもしくは4コースを6コースと比較し,いずれにおいても1年生存率やOSは同等で毒性は前者が軽いと報告した43)44)。一方,非扁平上皮癌に対するCDDP+PEMの優越性が示された,CDDP+GEMとの第Ⅲ相試験においてCDDP+PEM群の投与中央値は5コースであった45)
〈維持療法〉
  • f.プラチナ製剤併用療法後のPEM,エルロチニブを用いたswitch maintenanceの第Ⅲ相試験(JMEN試験,SATURN試験)でPFS,OSの延長が示されたが,扁平上皮癌のサブセットにおいてはOSにおける有意差が消失していた46)47)。エルロチニブの維持療法を行ったもう1つの第Ⅲ相試験(IFCT-GFPC0502試験)では,非腺癌のサブセットでPFSの延長が示されなかった48)
     これらはいずれもサブセット解析ではあるものの,メタアナリシスで維持療法による毒性増強が確認されていることも踏まえると49),扁平上皮癌に対するswitch maintenanceは推奨するだけの根拠に乏しく,推奨グレードはC2とした。
     continuation maintenanceについても扁平上皮癌に対する有効性は示されておらず,推奨グレードはC2とした。
5-14.扁平上皮癌:PS 0-1, 75歳以上
推 奨

a.暦年齢のみで化学療法の対象外とするべきではない。(グレードA)

<レジメン>

b.第3世代抗癌剤単剤を行うよう勧められる。(グレードA)

c.カルボプラチン併用療法を考慮してもよい。(グレードC1)

d.PEMは行わないよう勧められる。(グレードD)

e.ベバシズマブは行わないよう勧められる。(グレードD)

エビデンス
  • a.化学療法1次治療の第Ⅲ相試験と術後補助療法を対象とした検討では,65歳以上と以下で治療効果の差は認めず,暦年齢よりも日常生活自立度が予後に関係していた54)。またHeskethらは80歳以上でもPS良好のものは80歳以下と比べて効果・毒性に明らかな差は認めなかったと報告している55)
〈レジメン〉
  • b.高齢者においては緩和治療と比較してVNRが有効であること,VNRと比較してGEMが同様の有効性を示すことが確認されている56)57)。その後本邦で行われた第Ⅲ相試験(WJTOG9904試験)においてDTXはVNRに対し有意差は認めなかったもののPFS 5.5カ月,OS 14.3カ月と良好な結果を示した58)。以上より,高齢者に対する標準治療はDTXをはじめとした第3世代抗癌剤単剤と考えられる。
  • c.高齢者に対するプラチナ製剤併用療法については第Ⅱ相試験や第Ⅲ相試験のサブセットから様々な報告がなされてきたが明確な結論には至っていない59)
     近年高齢者を対象とした第3世代抗癌剤単剤とプラチナ製剤併用療法を比較した第Ⅲ相試験が2編報告され,両試験とも登録された患者の多くが75歳以上であった。JCOG 0803/WJOG 4307L試験はweekly CDDP+DTXとDTXの比較であるが,この試験では中間解析において併用療法が単剤治療の成績を上回らないことが示され,試験中止となった60)。IFCT 0501試験はCBDCA+weekly PTXとGEMもしくはVNRの比較であり,PFS・OSにおける併用療法の優越性が示された(PFS;6.0カ月 vs 2.8カ月,P<0.0001,OS;10.3カ月 vs 6.2カ月,P<0.001)61)。しかしながらこの成績はbに述べた本邦での単剤治療の成績を大きく上回っているとはいえず,併用群における治療関連死が4.4%と高いなどの問題点が指摘されている。また投与量も本邦における標準的なものとは異なっており,データの解釈には注意を要する。
     以上より,PS 0-1,75歳以上に対してCBDCA併用療法は選択肢の1つと考えられ,推奨グレードはC1とした。
  • d.ScagliottiらはCDDP+PEMとCDDP+GEMの第Ⅲ相試験を行い,全体では同等の効果であったが組織型による差が認められた。非扁平上皮癌においてはCDDP+PEM群でOS延長(11.8カ月 vs 10.4カ月,HR 0.81,P=0.005)を認めたが,扁平上皮癌では,逆にCDDP+PEM群でPFS(4.4カ月 vs 5.5カ月,HR 1.36,P=0.002),OS(9.4カ月 vs 10.8カ月,HR 1.23,P=0.05)ともに劣っていた45)。組織型によるPEMの効果の違いについてはPEM単剤を用いた第Ⅲ相試験も併せて解析され,上記同様の傾向が確認されている72)。以上より,PEMは扁平上皮癌に対して行わないよう勧められる。
  • e.ベバシズマブの第Ⅱ相試験においてGrade 3以上の肺胞出血が9.1%に認められ,出血リスクに関する検討が行われた。現在のところ,扁平上皮癌や空洞を有する症例,大血管への浸潤や隣接を認めるもの,その他喀血・コントロール不能な高血圧,重篤な大血管病変や消化管における活動性出血の既往があるものなどが高リスク群と考えられており42),ベバシズマブは扁平上皮癌に対して行わないよう勧められる。
5-15.扁平上皮癌:PS 2
推 奨
<レジメン>

a.第3世代抗癌剤単剤を行うよう勧められる。(グレードA)

b.プラチナ製剤併用療法を考慮してもよい。(グレードC1)

c.第3世代抗癌剤併用は行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。(グレードC2)

d.PEMは行わないよう勧められる。(グレードD)

e.ベバシズマブは行わないよう勧められる。(グレードD)

エビデンス

 PS 2は多様な集団であり標準治療は定まっていない。
 しかし化学療法と緩和治療を比較したメタアナリシスのサブセットにおいて,PSにかかわらず化学療法による生存期間の延長が認められている〔PS 2以上の場合,化学療法によって1年生存率にして6%(8%から14%)の改善〕1)

〈レジメン〉
  • a.Baggstromらのメタアナリシスにおいて第3世代抗癌剤(DTX・PTX・VNR・GEM)単剤治療は緩和治療に比して1年生存率で約7%の改善を示しているが2),この中にPS 2以上は約30%含まれていた。また,この解析でも取り上げられた3つの試験においてPS 2のサブセットの治療成績が明らかになっており,いずれもOSが延長する傾向が確認されている65)
  • b.CALGB9730試験においてPS 2患者のサブセット解析が報告されており,CBDCA+PTXはPTX単剤に対して1年生存率で有意に上回っていた(18% vs 10%,HR 0.60,P=0.016)66)。ECOG1599試験ではPS 2に対するCBDCA+PTXとCDDP+GEMの比較が行われ,OSはそれぞれ6.2,6.9カ月と良好であり,毒性に関しても忍容可能と考えられた67)。KosmidisらはCBDCA+GEMとGEM単剤の比較を行い,有意差は認めなかったものの併用群でOS(6.7カ月 vs 4.8カ月,P=0.49),PFS(4.1カ月 vs 3.0カ月,P=0.36)の延長傾向を示している68)
     以上より,毒性が耐用可能と思われるPS 2に対してはプラチナ製剤併用療法を考慮してもよい。しかしながらPS 2に関するエビデンスはいずれも第Ⅲ相試験のサブセットあるいは第Ⅱ相試験といった少数のデータであり,その殆どがCBDCA併用レジメン,もしくは通常より減量した用量が用いられていることに注意が必要であり,推奨グレードはC1とした。
  • c.PS 2に対する第3世代抗癌剤併用のエビデンスは少ない。Hainsworthらはweekly DTXとDTX+GEMの比較第Ⅱ相試験を行ったが,約35%を占めたPS 2患者において併用によるOS延長は認めず(2.9カ月 vs 3.8カ月,P=0.62),毒性が増強していた70)。よって,行うよう勧めるだけの根拠が明確ではなく推奨グレードはC2とした。
  • d.ScagliottiらはCDDP+PEMとCDDP+GEMの第Ⅲ相試験を行い,全体では同等の効果であったが組織型による差が認められた。非扁平上皮癌においてはCDDP+PEM群でOS延長(11.8カ月 vs 10.4カ月,HR 0.81,P=0.005)を認めたが,扁平上皮癌では,逆にCDDP+PEM群でPFS(4.4カ月 vs 5.5カ月,HR 1.36,P=0.002),OS(9.4カ月 vs 10.8カ月,HR 1.23,P=0.05)ともに劣っていた45)。組織型によるPEMの効果の違いについてはPEM単剤を用いた第Ⅲ相試験も併せて解析され,上記同様の傾向が確認されている72)。以上より,PEMは扁平上皮癌に対して行わないよう勧められる。
  • e.ベバシズマブの第Ⅱ相試験においてGrade 3以上の肺胞出血が9.1%に認められ,出血リスクに関する検討が行われた。現在のところ,扁平上皮癌や空洞を有する症例,大血管への浸潤や隣接を認めるもの,その他喀血・コントロール不能な高血圧,重篤な大血管病変や消化管における活動性出血の既往があるものなどが高リスク群と考えられており42),ベバシズマブは扁平上皮癌に対して行わないよう勧められる。
5-16.扁平上皮癌:PS 3-4
推 奨
化学療法は行わないよう勧められる。(グレードD)

エビデンス

 PS 3-4に対する細胞障害性抗癌剤の適応はない。
 PS不良や合併症のため化学療法の適応とならない進行非小細胞肺癌に対して,エルロチニブ単剤と緩和治療の第Ⅲ相試験(TOPICAL試験)が行われた72)。患者背景として扁平上皮癌が40%,PS 3が30%を占めており,この試験においてOSの延長はみられなかった。
 以上より扁平上皮癌,PS 3-4については化学療法は勧められない。

引用文献
Ⅳ期非小細胞肺癌の1次治療のレジメン
CDDPレジメン
CDDP 75mg/m2, day1 q3w
PEM 500mg/m2, day1
投与の7日以上前より葉酸,VB12の投与を行う。
CDDP 80mg/m2, day1 q3w
DTX 60mg/m2, day1
CDDP 80mg/m2, day1 q3w
GEM 1000mg/m2, day1, 8
CDDP 80mg/m2, day1 q3w
VNR 25mg/m2, day1, 8
CDDP 80mg/m2, day1 q4w
CPT-11 60mg/m2, day1, 8, 15
CDDP 60mg/m2, day8 q4-5w
S-1 40mg/m2 bid, day1-21
CBDCAレジメン
CBDCA (AUC=6), day1 q3w
PTX 200mg/m2, day1
PTX投与30分前までにデキサメサゾン,H1,H2 blockerの前投薬を行う。
CBDCA (AUC=5), day1 q3w
GEM 1000mg/m2, day1, 8
CBDCA (AUC=5), day1 q3w
S-1 40mg/m2 bid, day1-14
CBDCA (AUC=6), day1 q3w
nab-PTX 100mg/m2, day1, 8, 15
  • 増悪しなければ上記を6コース以内で繰り返す。
  • 維持療法を行う場合はプラチナ製剤併用を4コースで終了し,病勢増悪を認めず,毒性が忍容可能な場合に(プラチナ製剤を含まない)単剤化学療法に移行する。
Bevacizumab併用レジメン
CBDCA (AUC=6) ,day1 q3w
PTX 200mg/m2, day1
Bevacizumab 15mg/kg, day1
PTX投与30分前までにデキサメサゾン,H1,H2 blockerの前投薬を行う。
  • 増悪しなければ上記を6コース以内で繰り返す。
  • ベバシズマブについてはプラチナ製剤併用療法の終了後,病勢増悪もしくは毒性中止まで単剤投与を継続する。
維持療法レジメン
Continuation maintenance
・PEM 500mg/m2, day1 q3w
・Bevacizumab 15mg/kg, day1 q3w
内服療法レジメン
Gefitinib(250mg)1錠 1日1回 経口投与
Erlotinib(150mg)1錠 1日1回 経口投与
Afatinib(40mg)1錠 1日1回 経口投与
Crizotinib(250mg)1回1cap 1日2回 経口投与
単剤療法レジメン
DTX 60mg/m2, day1 q3w
GEM 1000mg/m2, day1, 8, 15 q4w
VNR 25mg/m2, day1, 8 q3w
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