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限局型小細胞肺癌
文献検索と採択
小細胞肺癌StageⅠ
本文中に用いた略語および用語の解説
CBDCA カルボプラチン
CDDP シスプラチン
CPT-11 塩酸イリノテカン
ETP エトポシド
IFM イホスファミド
プラチナ製剤 CDDPとCBDCAの総称
 
BSC best supportive care 緩和療法
LD limited disease 限局型
OS overall survival 全生存期間
PCI prophylactic cranial irradiation 予防的全脳照射
PFS progression free survival 無増悪生存期間
PS performance status 一般状態
QOL quality of life 生活の質
RR response rate 奏効率
SCLC small cell lung cancer 小細胞肺癌
TTP time to progression 無増悪期間

補足:小細胞肺癌の限局型(Limited Disease;LD)および進展型(Extensive disease;ED)の定義について

 肺癌取扱い規約第7版(日本肺癌学会編)では小細胞肺癌について,「limited disease」(限局型)と「extensive disease」(進展型)の分類には意見の一致が得られておらず,「limited」と「extensive」の定義が確立していない現状では,TNMの記載は重要であるとしている。
 しかし,小細胞肺癌の治療選択の面からは,限局型と進展型の区分は重要と考えられるため,本ガイドラインでは多くの第Ⅲ相臨床試験で採用されている定義,すなわち病変が同側胸郭内に加え,対側縦隔,対側鎖骨上窩リンパ節までに限られており悪性胸水,心嚢水を有さないものを限局型小細胞肺癌と定義付けた。
樹形図
限局型小細胞肺癌の1次治療

ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group) Performance Status

PS
0 無症状で社会活動ができ,制限を受けることなく発病前と同等に振る舞える。
1 軽度の症状があり,肉体労働は制限を受けるが,歩行,軽労働や座業はできる。例えば軽い家事,事務など。
2 歩行や身の回りのことはできるが,時に少し介助がいることもある。軽労働はできないが,日中の50%以上は起居している。
3 身の回りのある程度のことはできるが,しばしば介助がいり,日中の50%以上は就床している。
4 身の回りのこともできず,常に介助がいり,終日就床を必要としている。
1-1.Ⅰ期手術可能症例
推 奨
a.臨床病期Ⅰ期の小細胞肺癌に対する治療法として,全身状態が良好であれば,外科切除を行うことが勧められる。(グレードB)
b.外科切除後に併用する治療法として,化学療法を行うことが勧められる。(グレードB)
エビデンス
  • a.限局型小細胞肺癌(LD)に対する標準治療は化学放射線療法とされているが,なかでも臨床病期Ⅰ期(特にcT1N0M0)については外科切除を含む治療法により治癒,長期生存が期待できる症例があることが報告されており1)2),外科切除単独あるいはこれに化学療法,放射線治療を加えることで,5年生存率は40〜70%に達することが報告されている3)〜6)。術式では,肺葉切除以上の術式が部分切除術と比較して,生存期間が良好であると報告されており7),また化学療法単独群や化学放射線療法群よりは外科切除に化学療法を加えた群での局所制御率と生存期間中央値が有意に良好であることが報告されている8)9)。しかしながら,外科切除の対象となる症例数は少ないため,外科切除を含む治療法とこれ以外の治療法の比較試験は存在せず,今後も施行の可能性は極めて乏しいことが予想される。臨床病期Ⅰ期小細胞肺癌に対する外科切除を含む治療は治癒が得られる可能性もあり,すでに実地臨床においてもこの方針が踏襲されつつあることから,エビデンスレベルの高い研究を列挙することは困難であるが,治療法の選択肢の1つとして推奨され得る治療法であるため推奨グレードをBとする。
     一方,リンパ節転移を認めるLDにおける外科切除の有用性は明らかでない。国際肺癌学会による肺癌患者12,620例のデータベースから,349例の小細胞肺癌症例が外科切除を施行されたことが報告されている。その結果,病理病期N0症例では生存期間中央値が51カ月(5年生存率49%)であったのに対し,N1症例では24カ月(5年生存率33%)と低下することが示されている10)
  • b.外科切除と併用される治療法として,どのタイミングでどの治療法を組み合わせるのが良いかということに関しては,推奨の根拠となる十分なエビデンスは存在しない。主として術前,術後の全身化学療法が併用された報告が多く5)6)11),術後の放射線治療については報告が少ない12)13)。本邦からはTsuchiyaらが外科的治療後にCDDP+ETPによる化学療法の有用性を検証する第Ⅱ相試験を報告している14)。臨床病期Ⅰ期の44症例では3年生存率が68%であり,病理病期ⅠAであった症例では5年生存率が73%,局所再発率が10%と良好な成績であった。
     外科切除の対象となるLDの症例数が極めて少ないことを考えると,外科切除に付加する併用療法の意義を検証する比較試験は今後も実現不可能と考えられる。そこで,本疾患の特性から,90%以上の症例で化学療法に感受性を有すること,術後の化学療法に対する第Ⅱ相臨床試験では良好な治療成績が報告されていること,さらに実地臨床においては切除して初めて小細胞肺癌と診断される症例数も存在することなどを考慮に入れると,外科切除後の全身化学療法は施行が勧められる治療法の選択であるといえるため推奨グレードをBとする。
1-2.Ⅰ期手術不能症例
推 奨
臨床病期Ⅰ期の手術不能小細胞肺癌に対する治療法として,可能であれば化学療法や放射線治療,化学放射線療法を行うよう勧められる。(グレードB)
エビデンス

 臨床病期Ⅰ期で手術不能症例を対象とした臨床試験は存在しない。また限局型小細胞肺癌(LD)に対する標準治療は化学放射線療法とされており15)16),臨床病期Ⅰ期でも手術が困難であれば治療オプションの1つとなり得る。また,全身状態が不良であるため,手術不能である患者では化学放射線療法の施行も困難な可能性が考えられる。明確なエビデンスはないものの,小細胞肺癌の生物学的特性を鑑みると,臨床病期Ⅰ期であっても化学療法の施行は患者背景によっては選択肢として検討できる。また,臨床病期Ⅰ期の小細胞肺癌においても局所治療による治療効果も期待できる可能性がPS良好例で示されていることから,化学療法同様に患者背景によっては放射線治療に関しても選択肢となり得る。以上より,臨床病期Ⅰ期の中でも手術不能症例は症例数が極めて乏しく,明確なエビデンスも存在しないが,化学療法や放射線治療,化学放射線療法の施行により予後の改善が得られる可能性が高いと考えられるため,推奨グレードをBとする。

1-3.Ⅱ-Ⅲ期:PS 0-2
推 奨
a.臨床病期Ⅱ-Ⅲ期の限局型小細胞肺癌には,化学療法と胸部放射線治療の併用を行うよう勧められる。(グレードA)
b.PSが良好な症例には,化学療法と放射線治療の併用のタイミングとして早期同時併用を行うよう勧められる。(グレードA)
c.胸部照射の線量分割法として全照射期間を短縮する加速過分割照射法を行うよう勧められる。(グレードB)

ただし,加速過分割照射が不可能な場合は通常照射法を行うよう勧められる。(グレードB)

エビデンス
  • a.限局型小細胞肺癌(LD)に対して化学療法と胸部放射線治療の併用は化学療法単独に比べて生存を改善することが2つのメタアナリシスにより明らかにされた。Pignonらは,13の比較試験のメタアナリシスにより化学療法に胸部放射線治療を併用すると,死亡の絶対リスクが14%減少し,3年生存率が5.4±1.4%改善すると報告した15)。Wardeらは,11の比較試験のメタアナリシスにより化学療法に胸部放射線治療を併用すると,2年生存率が5.4%,局所制御率が25.3%改善すると報告した16)。しかし,この報告では化学療法と胸部放射線治療の併用により,治療関連死が1.2%増加しており,併用する場合には有害事象の発生について十分に注意する必要がある。複数のメタアナリシスにて放射線治療の化学療法の併用の有用性が示されていることから,推奨グレードはAとした。
  • b.化学療法に胸部放射線治療を併用する場合のタイミングとして①早期・後期同時併用,②逐次併用が主に挙げられる。
     Takadaらは過分割照射を用いた同時併用と逐次併用の比較を行い,前者において良好な生存期間中央値が得られ(27.2カ月vs 19.7カ月,P=0.097),毒性も認容可能であった17)
     同時併用における放射線治療の時期については通常照射法を用いた第Ⅲ相試験が4つ18)~22),過分割照射法を用いた第Ⅲ相試験が1つ23)あり,うち3つで,早期同時併用することにより生存が改善することが示されている。
     Friedらは7つの比較試験のメタアナリシスにより早期の施行が後期の施行に比べて3年生存率では有意ではないものの(RR 1.13,P=0.23),2年生存率で有意な改善(RR 1.17,P=0.03)を認めることを報告している24)。とりわけ過分割照射を利用したサブグループにおいては,2年生存率(RR 1.44,P=0.001),3年生存率(RR 1.39,P=0.04)ともに早期放射線治療施行群において有意な改善が得られている。またプラチナ製剤を含む化学療法を使用したサブグループにおいても2年生存率(RR 1.30,P=0.002),3年生存率(RR 1.35,P=0.01)ともに早期放射線治療施行群で有意な改善が得られている。
     他のメタアナリシスでもプラチナ併用療法を用いたサブグループで早期同時併用による生存率の有意な改善が認められており,とりわけ,過分割照射を主体とした30日以内の短期照射を施行した群ではこの傾向が明確であった25)。また,別のメタアナリシスで治療開始(放射線治療もしくは化学療法)から放射線治療の終了日までの期間による生存期間について解析しているが26),この期間が30日以内であれば,局所制御率には差は認められないものの5年生存率の有意な改善(RR 0.62,P=0.0003)を認めるとしている。この3つのメタアナリシスは早期の放射線治療の施行,照射期間の短縮が独立した因子あるいは相互的に影響して予後を改善する可能性を支持している。
     以上より,全身状態が良好なLDにおいては放射線治療と化学療法の早期同時併用を推奨する(推奨グレードA)。
  • c.化学療法と胸部放射線治療を併用する場合,過分割照射法と通常照射法のどちらが優れているかが2つのランダム化比較試験で検討された。このうち通常照射法45Gy/25回/5週と加速過分割照射法45Gy/30回/3週を比較した臨床試験では,加速過分割照射法のほうが通常照射法に比べて有意に生存を改善した27)。これに対して通常照射法50.4Gy/28回/6週と2.5週間の休止期間を含む過分割照射48Gy/32回/6週を比較した試験では全生存期間,局所制御率,無再発生存期間について両群間で差が認められず,長期経過報告でも同様の結果が報告された28)。上記2試験が異なる結果となった理由の1つとして全照射期間の違いが考えられる。全照射期間の延長は腫瘍の照射中の加速再増殖を促す可能性があり,その結果,放射線治療成績に影響することはよく知られており,小細胞肺癌においても加速過分割照射による全照射期間の短縮が治療成績の向上につながることを意味している。もう1つの理由としては,通常分割照射法での照射線量の違いが考えられる。照射線量の増加は局所制御を向上することもよく知られた事実である。Turrisiらが用いた通常照射法45Gy/25回/5週と加速過分割照射法45Gy/30回/3週では,総線量は同じであるものの,生物学的な効果を示す線量としては加速分割照射法が高い線量となる。これに対して,Bonnerらの使用した通常分割照射法の線量は50.4Gy/28回/6週であり,Turrisiらの試験と比較してより高い線量を使用している。
     化学療法と放射線治療を同時に併用する治療において,放射線治療の照射方法を一定にして,化学療法レジメンを比較検討した臨床試験は認められなかった。化学療法と過分割照射による胸部放射線治療の同時併用の比較試験ではJeremicら23)の試験を除きCDDP+ETP併用療法が用いられている。進展型を含んだランダム化比較試験で,ETP併用化学療法でCBDCAとCDDPを比較する試験が1件行われ,生存期間に差がないと報告されているが,積極的にCDDPの代わりにCBDCAを用いる根拠にはなり得なかった。
     本邦では,CDDP+ETP(EP)(1サイクル)と多分割照射同時併用療法後に,進展型小細胞肺癌の標準治療であるCDDP+CPT-11(IP)へ変更する群(3サイクル)とCDDP+ETPを継続する群(3サイクル)を比較した第Ⅲ相試験が行われたが,IP群は,生存期間延長効果を認めず29),化学療法と放射線治療を同時併用する場合の化学療法のレジメンとしては,CDDP+ETPが推奨される。
     また,70歳もしくは75歳以上の高齢者に限定した第Ⅲ相臨床試験は存在しない。LDに対する化学放射線療法を評価する多くの臨床試験では,対象は75歳以下の患者に限定されているが,一部の臨床試験では年齢制限を設けておらず実際に少数ではあるが75歳以上の患者も登録されている。サブグループ解析で70歳以上と70歳以下の患者の治療成績が比較検討されているが,毒性は有意に増すものの生存期間などの治療成績は同等と報告されている30)31)。LDの治療目標は治癒であることから,暦年齢が高齢であることのみを理由に治療強度を減弱させるのは好ましくないが,同時併用の化学放射線療法(CDDP,ETP併用療法を使用)はその毒性を鑑みると慎重に行う必要がある。全身状態や臓器機能など総合的に判断したうえで,PS不良例に準じた治療も選択肢として検討され得る。
     合計線量に関して,これまでのところ通常照射法での至適合計線量に関するエビデンスはほとんどない。最大耐容線量に関しては,化学療法との同時併用放射線治療では,加速過分割照射では45Gy/30回/3週,通常分割では70Gy/35回/7週まで安全に照射が可能であるという第Ⅰ相試験がある32)。しかしながら,高線量照射および過分割照射に化学療法を併用した場合には急性障害としての食道炎が特に増強される懸念があり,線量-容積ヒストグラムを用いた慎重な照射野・照射線量の設定が必要と考えられる33)。1つのランダム化比較試験において加速過分割照射の有効性が認められており,複数のランダム化比較試験が加速過分割照射,45Gy/30回/3週を採用しているため,推奨グレードをBとした。しかし,加速過分割照射による急性障害の増強の懸念や,通常照射でも線量増加により同程度の治療効果が得られる報告も存在することから,加速過分割照射が困難であれば通常照射での治療も選択肢となる。
1-4.Ⅱ-Ⅲ期:PS 3-4
推 奨
a.PS不良の限局型小細胞肺癌に対する治療法として,少なくとも化学療法を行うよう勧められる。(グレードB)
b.化学療法の施行にてPSが改善すれば放射線治療の追加併用を行うよう勧められる。(グレードB)
エビデンス
  • a・b.限局型小細胞肺癌(LD)に対する化学放射線療法の通常の臨床試験は,PS 0-2の患者を対象に行われており,PS 3-4の患者に対しての化学放射線療法の意義は明確ではない。しかし,進展型小細胞肺癌では,PS不良例に対しても至適な化学療法を検討する臨床試験が行われており34)35),PSの悪化の原因が小細胞肺癌によるものであり,小細胞肺癌に対する治療効果によってPSの改善が得られる可能性があれば化学療法単独治療の対象になり得る。また,化学療法中もしくは化学療法後にPSが0-2に改善した場合,LDに対して化学療法と胸部放射線治療の併用が化学療法単独に比べて生存を改善することが2つのメタアナリシスにより明らかにされていることから15)16),たとえ同時併用でなくとも胸部放射線治療を追加することで生存期間が延長する可能性があることから,化学療法の施行でPSが改善が得られれば放射線治療の追加も勧められる。以上から,この患者群に対する臨床試験は存在しないものの,LDのメタアナリシスはPS不良例においても化学療法や可能となれば放射線治療の有用性を示唆しており勧められる(推奨グレードB)。
1-5.予防的全脳照射(PCI)
推 奨
限局型小細胞肺癌(LD)で,初期治療でCRが得られた症例では,PCIを標準治療として行うよう勧められる。(グレードA)
引用文献
1-1.Ⅰ期手術可能症例
1-2.Ⅰ期手術不能症例/1-3.Ⅱ-Ⅲ期:PS 0-2/1-4.Ⅱ-Ⅲ期:PS 3-4
レジメン:限局型小細胞肺癌
胸部放射線治療 加速過分割照射法 1日2回,45Gy/30回(3週)
化学療法 CDDP 80mg/m2, on day1
ETP 100mg/m2, on day1, 2, 3 3-4週毎(放射線治療施行中は4週毎)
※1. 放射線治療は化学療法1コース目の第2日目から開始(早期併用)
※2. 化学療法は放射線治療完遂後も合計4コースまで継続
※3. 加速過分割照射法が困難であれば,通常分割照射法50~60Gy/25~30回(5~6週)を推奨
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