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Ⅰ.肺癌の診断

危険因子と臨床症状,検出方法

1-1.危険因子と臨床症状

文献検索と採択

危険因子と臨床症状
1-1.危険因子と臨床症状
推 奨
危険因子例・有症状例に対しては肺癌検出のための検査を行うよう勧められる。(グレードA)

a.危険因子:喫煙の他に慢性閉塞性肺疾患,アスベスト症などの吸入性肺疾患,肺癌の既往歴や家族歴,年齢,肺結核など

b.肺癌にみられる症状:咳嗽,喀痰,血痰,発熱,呼吸困難,胸痛といった呼吸器症状および転移病巣による症状

エビデンス
a.
肺癌の発生率は50歳以上で急激に増加する。日本人が生涯のうちに肺癌になる割合は男で7.4%,女で3.1%である1)。非喫煙者に比べて,喫煙者が肺癌になるリスクは男で4.4倍,女で2.8倍と高い2)。喫煙開始年齢が若いほど喫煙量が多いほど肺癌リスクは高い3)4)。喫煙者が禁煙すると,喫煙を継続した場合に比較して肺癌リスクが低下し,禁煙年齢が低いほど,その効果が大きい5)。受動喫煙の曝露を受けた者はそうでない者に比べて肺癌リスクは約1.3倍に増加する3)6)。喫煙以外に,慢性閉塞性肺疾患(肺気腫,慢性気管支炎),職業的曝露(アスベスト,ラドン,ヒ素,クロロメチルエーテル,クロム酸,ニッケル),大気汚染(特に粒径2.5ミクロン以下の微小浮遊粒子),肺癌の既往歴や家族歴,年齢なども肺癌リスクを高めると報告されている7)~10)。また,肺結核の診断後2年以内の肺癌リスクは約5.0倍に増加し,その後も約1.5倍から3.3倍の肺癌リスクが持続するとの報告もある11)~13)
b.
肺癌に特徴的な臨床症状はないが,多くの患者は,咳嗽,喀痰,血痰,発熱,呼吸困難,胸痛といった呼吸器症状をきっかけに発見される。症状発見の肺癌は,検診発見の肺癌と比較すると,進行肺癌の頻度が高く,予後が悪いと報告されている14)~17)
 臨床検査所見も非特異的であるが,腫瘍に随伴する異常所見や転移に伴う異常所見を検出するために,血球数,電解質,カルシウム,アルカリホスファターゼ,肝酵素を含む生化学検査が必要である18)
引用文献

1-2.検出方法

文献検索と採択

検出方法
1-2.検出方法
推 奨
危険因子例・有症状例に対して肺癌を疑う場合の検出方法には,胸部X線写真,胸部CT,喀痰細胞診などがあり,組み合わせて用いることが勧められる。(グレードA)

a.胸部X線写真は,肺癌検出を目的として,最初に行うよう勧められる。(グレードA)

b.胸部CTは,肺癌検出を目的として,あるいは胸部X線写真で異常がある場合に,行うよう勧められる。(グレードA)

c.喀痰細胞診は,中心型早期肺癌の検出を目的として,行うよう勧められる。(グレードA)

d.腫瘍マーカーおよびPET/CTは,肺癌検出の目的として,最初に行うことは勧められない。(グレードD)

エビデンス
a.
胸部X線写真は,簡便で広く普及した検査法である。胸部X線写真による肺癌の検出感度は,60~80%程度と報告されている1)2)。胸部X線写真による肺結節の検出率は2.1~6.2%で,高齢者,男性,呼吸器疾患合併,喫煙者などに多い傾向がある2)3)
b.
胸部CTは,肺癌を検出する形態診断法として,現時点で最も有力な検査である2)4)5)。CT検診の検出率は3.7~5.5%である6)。低線量CTは,肺癌の検出感度93.3~94.4%,特異度72.6~73.4%であり,胸部X線写真(検出感度59.6~73.5%,特異度91.3~94.1%)よりも有用との報告もある。特に,早期肺癌においてはその検出率の向上がみられる2)5)。しかし,過剰診断には注意を要する7)
c.
喀痰細胞診は,非侵襲的で簡便に行える中心型早期肺癌の唯一のスクリーニング法である。肺癌症例における喀痰細胞診の検出感度は約40%にすぎない8)が,喀痰細胞診で発見されたX線陰性肺癌は長期生存例の割合が高いことも報告されている9)。また,喀痰細胞診を胸部X線写真に追加するスクリーニング法の有効性を検討したランダム化比較試験であるJohns Hopkins Study10)とMemorial Sloan-Kettering Study11)では,喀痰細胞診を追加するグループにおいて早期癌の割合,切除率,5年生存率が上昇することが示された。肺癌死亡率の減少効果に関しても,両studyを長期追跡した混合解析の結果,有意差はないものの死亡率を12%低下させる傾向が認められた12)
d.
腫瘍マーカーは,偽陰性や偽陽性になることもあり,腫瘍マーカーのみでは肺癌検出率の向上は得られない13)。非小細胞癌症例に対する検出感度はCYFRA21-1が41~65%であり,CEA,SLX,CA19-9,CA125,SCC,TPAの感度はCYFRA21-1よりも低いが,組織型や病期によっても異なる14)~16)。また小細胞癌症例に対する検出感度はNSEが47%,ProGRPが45%17)程度である。CEA,CYFRA21-1,ProGRP,NSEなどの腫瘍マーカーの変動は腫瘍の病期あるいは治療効果と良好に相関することが報告されている18)~21)。したがって,腫瘍マーカーは肺癌検出の目的ではなく,肺癌の質的診断の補助,治療効果のモニタリング,再発診断の補助として行うよう勧められる。
 肺癌のPET/CTによる検出感度は約83~96%,特異度78~91%である22)23)が,StageⅠではその検出感度は低下する24)。腫瘍径10 mm未満の小病変や組織学的に低悪性度の病変に対して,PET/CTは偽陰性を呈しやすい。また,PET/CTは非腫瘍性疾患でも偽陽性を呈することが広く知られている24)。一方,肺結節の良悪性鑑別に対するPET/CTの正診率は,メタアナリシスの結果,有意差はないものの,PET/CTが胸部X線CTよりも優れる傾向が認められた25)26)。したがって,PET/CTは肺癌検出の目的ではなく,肺結節の質的診断や病期診断の補助として行うよう勧められる。本邦においても,FDG-PETおよびPET/CTは広く診断の補助として行われるようになり,PETよりPET/CTのほうが,より有用性が高いことが示された27)
引用文献
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