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Ⅳ.転移など各病態に対する治療

骨転移・脳転移・胸部照射

樹形図

進行期非小細胞肺癌の初回治療 Ⅳ期非小細胞肺癌の1次治療 Ⅳ期非小細胞肺癌の2次治療以降 癌性胸膜炎の治療 癌性心膜炎・心嚢液貯留の治療 緩和的胸部放射線治療 脳転移 骨転移 副腎転移(特殊な局所的治療)

1-1.骨転移

文献検索と採択

骨転移

本文中に用いた略語および用語の解説

SRE skeletal related event 骨関連事象
1-1.骨転移
推 奨

a.骨転移の疼痛緩和の目的において,放射線治療は行うよう勧められる。(グレードB)

b.脊髄圧迫で症状を呈している場合には,速やかに放射線治療を行うよう勧められる。(グレードB)

c.病的骨折の危険性が高い場合や脊椎転移が脊髄圧迫を生じている場合には,症状がなくても放射線治療を行うよう勧められる。(グレードB)

d.骨転移を有する症例に対して骨関連事象の発現率を軽減し,発現までの時期を延長させるために,ビスフォスフォネート製剤(ゾレドロン酸)またはデノスマブを投与するよう勧められる。(グレードB)

エビデンス
a.
肺癌の骨転移は進行非小細胞肺癌では約30~40%に生じるとされ,生存期間の中央値は1年にも満たないとされる。本邦における259人の非小細胞肺癌でのレトロスペクティブな解析では,その経過で70人(30.4%)に骨転移が認められている。そのうち46人(65.7%)は初回Staging時で認められ,また35人(50%)は骨関連事象(skeletal related event;SRE)をその経過で認めた。特に疼痛は最も多い症状であり,肺癌の骨転移症例の約80%に認められるという報告もある1)
 未治療の骨転移合併非小細胞肺癌において可能なら全身治療としての化学療法を導入すべきであるが,骨転移に対する放射線治療の有効率(除痛効果)は50~80%と高く2),症状を有する骨転移合併例では症状緩和は重要と考えられる。したがって,症状緩和が高率に得られる放射線治療は行うよう勧められる。
 疼痛緩和効果をエンドポイントに8 Gy単回照射と総線量20~30 Gyの分割照射とを比較する臨床試験が行われており,それらのシステマティックレビューでは疼痛緩和効果は8 Gy単回照射と分割照射では同等であるものの単回照射では再照射率が高いことが示されており2),照射後の長期の経過を観察した研究でも,単回照射群で再照射率が高い結果が示されている3)。そのため骨転移に対する照射方法としては,緩和治療として20 Gy/5回,30 Gy/10回などの分割照射が推奨される。PS良好で原疾患が制御されている孤立性転移など長期予後が期待される患者に限れば高線量の放射線治療が考慮される4)。一方,8 Gy単回照射は期待生存期間3カ月以内,毎日の治療が困難,原腫瘍が増悪している患者で良い適応となる。
b.
脊椎転移が脊髄圧迫症状を呈する場合には,速やかに放射線治療を行うよう勧められる。除圧術や脊椎置換術などの外科的治療の併用については,少数例の検討ではあるが有用性を示す報告もあり,年齢,全身状態,予後などを考慮したうえで,症例毎に適応を検討する5)~7)
c.
過重骨で皮質の50%以上に破壊がみられるか溶骨病変が2.5 cm以上の場合には病的骨折のリスクが高く,固定と照射の適応がある8)。画像上,脊髄の圧迫があるものの症状が顕在化していない症例に放射線治療をすることにより,全例にその後の歩行能力が保持されていたとの報告もあり,重篤な神経症状を呈する前に照射することが勧められる9)
d.
乳癌および前立腺癌以外の肺癌を中心とした固形癌の骨転移患者(非小細胞肺癌:50%,小細胞肺癌:8%)を対象に,ビスフォスフォネート(BP)製剤であるゾレドロン酸とプラセボを,骨関連事象(SRE)の発症率および発症までの期間で比較したランダム化比較試験が行われた10)11)。87週目までのSRE発現割合は,ゾレドロン酸4 mg投与群が38.9%,プラセボ投与群が48.0%とゾレドロン酸投与群が有意に低かった(P=0.039)。また,発症時期を約3カ月延長させた(236日 vs 155日)。疼痛スコアや鎮痛剤の使用およびPSの変化に関しても,有意ではないものの増悪度に減弱傾向を認め,骨転移を有する症例ではゾレドロン酸の投与にて,SREの発現率を減少させることが証明された。
 乳癌,前立腺癌を除く,進行癌と多発性骨髄腫患者(非小細胞肺癌:40%)を対象に,デノスマブとゾレドロン酸を,SRE発症までの期間で比較したランダム化比較第Ⅲ相試験が行われた12)。初回SRE発症までの期間は,デノスマブ群で20.6カ月,ゾレドロン酸群で16.3カ月で,非劣性が証明されたが,優越性は証明されなかった(P=0.06)。一方で,疼痛スコアの増悪や骨病変に対する放射線治療のリスクは,デノスマブ群が有意に少ない結果であった13)。以上より,骨転移を有する肺癌の症例に対しては,SREの発現率の軽減とSRE発現までの期間を延長させるために,ゾレドロン酸またはデノスマブの投与が勧められる。
 BP製剤とデノスマブの重要な有害事象に顎骨壊死と腎機能障害が報告されている。顎骨壊死のリスク因子は,直近の歯科的処置やBP製剤の36カ月以上の長期投与が挙げられている14)。そのため,日常診療におけるBP製剤の長期使用では,顎骨壊死は十分に注意すべき有害事象と考えられる。デノスマブとゾレドロン酸の比較試験の統合解析においても,両薬剤で,顎骨壊死の頻度に有意差を認めず15),デノスマブも,BP製剤と同様な対応が必要である(参考資料:http://jsbmr.umin.jp/guide/pdf/bronjpositionpaper2012.pdf)。
 BP製剤の腎障害は,BP製剤を使用した症例の4%に報告されている16)。一方,デノスマブは,海外第Ⅲ相試験12)において,クレアチニンクリアランス値が30 ml/min未満の重度腎疾患患者および透析の必要な末期腎不全患者は対象から除外されており,慎重投与となっている。
 デノスマブで注意すべき有害事象は,低カルシウム(Ca)血症である。低Ca血症の頻度がBP製剤と比較して有意に多いという報告(ゾレドロン酸投与群5.8%,デノスマブ投与群10.8%)があり,予防のためにCa製剤,ビタミンD製剤の内服,定期的な血清Caの測定が推奨されている12)
引用文献

1-2.脳転移

文献検索と採択

脳転移

本文中に用いた略語および用語の解説

QOL quality of life 生活の質
STI stereotactic irradiation 定位放射線照射
以下の2つに分けられる
SRS,stereotactic radiosurgery 定位手術的照射:1回照射
SRT,stereotactic radiotherapy 定位放射線治療:分割照射
1-2.脳転移
推 奨

a.症状を有する脳転移には放射線治療を行うよう勧められる。(グレードA)

b.頭蓋外に活動性病変がない単発性脳転移では,定位手術的照射(SRS)もしくは手術を行うよう勧められる。(グレードB)

c.多発性脳転移に対して全脳照射を行うよう勧められる。(グレードB)4個以下で腫瘍径3 cm程度までであればSRSも勧められる。(グレードB)

*定位放射線照射(STI)は,線量分割の違いにより,1回照射の場合を定位手術的照射(SRS),分割照射の場合を定位放射線治療(SRT)と定義されている。ガンマナイフはSRSに含まれる。脳幹など重要組織が近接している場合や大きい腫瘍にはSRTで治療を行うことがある。

エビデンス
a.
肺癌は脳転移の生じる頻度が高く,脳転移によって生じた様々な神経症状はQOLを低下させる。このため,QOL改善を目的に対症的な放射線治療が施行されてきた。その結果,症状の緩解は70~90%の患者に得られ,放射線治療は対症療法として有用である1)
 Ⅳ期非小細胞肺癌に対しては全身療法として化学療法の適応であるが,化学療法の脳転移に対する奏効率は20~40%と低い2)。したがって,症状を有する脳転移例では症状の緩解が高率に得られる放射線治療を行うよう勧められる。
b.
頭蓋外に活動性病変がない単発性脳転移に対する治療は,予後の改善を目的としていくつかの臨床試験が行われた。まず,大きさにかかわらず単発性脳転移の手術後に全脳照射を併用することで,脳内再発が有意に低下することがランダム化比較試験で示されたが,手術単独に比して生存期間には有意差がみられなかった3)
 また,1~3個(大きさ4 cm以下)の脳転移病変を有する固形癌患者を対象として,全脳照射+SRSと全脳照射とのランダム化比較第Ⅲ相試験が施行され4),単発性脳転移の症例に限れば全脳照射+SRSは全脳照射単独に比して全生存期間が有意に良好であった(4.9 vs 6.5カ月)。
 この試験を含むメタアナリシスでも脳転移が単発であれば,全脳照射単独と比較して全脳照射+SRS群で有意に予後が良好であった5)
 一方,単発性脳転移(3 cm以下)に対するSRS単独と手術+全脳照射を比較したランダム化比較試験では,手術+全脳照射では脳内再発率が有意に低下したが,両群に生存期間の差はみられなかった6)。それ故,単発性脳転移に対してはSRSまたは手術を行うよう勧められる。全脳照射の併用については,SRSまたは手術単独と比較して脳内再発率を低下させるが,生存への寄与は明確ではない。
c.
従来,多発性脳転移に対しては全脳照射が行われてきた。全脳照射の線量分割法の違いによる治療成績には明らかな差はなく,一般的には30 Gy/10回/2週や37.5 Gy/15回/3週の照射法が使われるが,期待生存期間が5~6週間と短い患者には1週間程度の短期照射も選択肢として挙げられる7)~11)。長期予後が期待できる患者には,遅発性有害反応軽減のために40 Gy/20回/4週も用いられる。
 また少数の脳転移症例に対しては,SRSの有用性が報告されている。多発性脳転移2~4個(大きさ2.5 cm以下)の患者に対する全脳照射のみと全脳照射+SRS併用とのランダム化比較試験では登録27例(全脳照射のみ14例,全脳+SRS 13例)の中間解析でSRS併用で脳内再発が有意に低下し,試験が中止されたが,生存期間には有意差はみられなかった12)
 さらに,ランダム化比較試験で1~3個(大きさ4 cm以下)の脳転移病変を有する固形癌患者に対し,全脳照射に対するSRSの追加効果の有用性が検討された4)。全生存期間では,SRSによる有意な改善は認められなかった。また,この試験やコホート解析を統合したメタアナリシスでも同様の結果であった5)
 本邦では,SRS単独とSRS+全脳照射のランダム化比較試験が,1~4個(大きさ3 cm以下)の脳転移に行われた13)。全脳照射を追加することで有意に脳内再発が低下したが,生存期間への寄与は明らかではなかった。
 以上から,3 cm以下で4個以下の病変に対しては,全脳照射にSRSを追加またはSRSに全脳照射を追加することで生存期間の改善は得られていない。
 10個以下の病変を有する1,197症例に対するSRS単独での成績を比較し,病変が2~4個の症例と5個以上の症例では生存率に差がなかったとする結果が本邦から報告されている14)。現在,海外で5個以上症例に対する全脳照射とSRSのランダム化比較試験が行われており,多発病変に対するSRSの適応選択については今後の検討課題である。
 脳腫瘍に対する放射線照射の有害事象として治療後のQOLの低下が問題となることがある。手術やSRSに全脳照射を追加することで,活動性の低下や認知機能障害が生じることを示す報告15)がある一方で,評価の方法や時期の違いの影響から差がなかったとする報告13)もある。一方,全脳照射を省くことで脳内再発によって認知機能の悪化がみられることがある。
 髄膜播種に対する放射線治療(全脳照射)の有用性を検討した前向き臨床試験は存在しない。後方視的研究では,髄膜播種症例での全脳照射の有用性は認めておらず16),現状では,髄膜播種に対する全脳照射の有用性は明らかでない。
引用文献

1-3.緩和的胸部放射線治療

文献検索と採択

緩和的胸部放射線治療
1-3.緩和的胸部放射線治療
推 奨
縦隔・肺門病変による気道狭窄,上大静脈狭窄など胸郭内の腫瘍増大に伴う症状の緩和を目的とした胸部放射線治療は,行うよう勧められる。(グレードB)
エビデンス
 肺癌治療においては根治治療が不能でも,症状の緩和や延命を目的とした胸部への放射線治療の役割は大きく,対症的に放射線治療を行うよう勧められる。照射線量に関するシステマティックレビューでは,総合的な症状緩和効果は高線量分割照射のほうが優れ,1年生存割合も良好であった1)。ただし,治療による食道炎の頻度は高線量分割照射のほうが高かった。一方,30 Gy/10回と同等あるいはそれ以上の高線量分割照射と,より少ない総線量での照射とを比較した5つの臨床試験のメタアナリシスでは,症状改善や1年および2年生存に差は認められなかった2)。また,切除不能で予後不良と判断される局所進行Ⅲ期非小細胞肺癌に対する緩和療法としての化学療法と化学放射線療法とを比較する多施設第Ⅲ相臨床試験では,PS良好例であれば,化学療法単独よりも化学放射線療法のほうが,有害事象の増加や入院期間の延長が認められるものの,有意に予後を延長し,QOLも良好であった3)4)。実地臨床においては予後や全身状態,照射効果などを考慮して線量を選択することが勧められる。

レジメン:骨転移・脳転移・胸部病変

転移性骨腫瘍

緩和的放射線治療 30 Gy/10回(2週),20 Gy/5回(1週),8 Gy/1回(1日)など
薬物療法 ゾレドロン酸4 mg 3~4週毎投与
デノスマブ120 mg 4週毎投与
 Ca製剤 500 mg/日 連日投与
 天然型ビタミンD 400 IU/日 連日投与
(デノスマブ使用においては,高Ca血症を認めないかぎり,低Ca血症予防のためCa製剤とビタミンD製剤の補充を推奨)

転移性脳腫瘍

緩和的放射線治療
(全脳照射)
30 Gy/10回(2週),37.5 Gy/15回(3週),40 Gy/20回(4週)など

胸部病変

緩和的放射線治療 30 Gy/10回(2週),37.5 Gy/15回(3週),40 Gy/20回(4週)など
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